2024年英国の会計・監査・税務ガイド

本ガイドブックには、英国の会計・監査・税務に関する最新の基礎的概要を掲載しています。すでに英国へ投資されている企業、および今後投資を検討している企業の皆さまの基本的な理解にお役立ていただけますことを願っております。

2024年英国の会計・監査・税務ガイド

はじめに

英国の会計監査制度は、会社法(Companies Act 2006)において詳細が定められており、原則としてすべての企業に法定監査が求められています。さらに、英国内のすべての企業は行政機関である企業登記局(Companies House)へ年次決算書(Annual accounts)を提出する義務があり、提出された年次決算書は公開企業・非公開企業を問わず、すべて公衆の縦覧に供されます。

また、英国において準拠すべき会計基準には国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)および英国会計基準(Financial Reporting Standards:FRS)があり、FRSのなかでもFRS101やFRS102等に細分化されています。IFRSとFRSでは、開示内容が簡略化されている場合や、会計処理の方法に差がある場合があり、財務諸表の利用にあたっては両者の相違点に注意が求められます。

英国の税制は、多様な税目と税率によって構成されています。そのなかでも主要な税目として、法人税、個人所得税、付加価値税(VAT)、関税などがあります。近年の英国では、経済成長の促進と納税者の負担軽減を目的としたさまざまな税制改正が行われています。さらに、英国の税務当局である歳入関税庁(HM Revenue & Customs:HMRC)は税務手続のデジタル化(Making Tax Digital:MTD)を推進し、納税者がオンラインによる効率的な税務申告を実施することを可能にし、法令を遵守した申告手続の浸透を実現することで、納税者の負担軽減と公正かつ透明な納税システムの構築を目指しています。

 

英国の会計・監査制度(概略)

項目

英国

非上場企業(日本企業の子会社)のIFRS適用の可否*

IFRSと現地会計基準の主な差異

主要な英国会計基準(FRS)

  • FRS101
    IFRS(認識・測定)と同様の基準。IFRSに比べ開示が限定されている

    IFRSにおける変更が直ちに反映される

  •  FRS102: 英国独自の会計基準
    定期的(おおむね5年に1度)に更新されるがIFRSの変更反映に時間を要する

決算期の変更

決算期末の選定(暦年以外の採用可否)

会社法で作成が求められる財務諸表

  • 財政状態計算書(貸借対照表)
  • 損益計算書および包括利益計算書
  • キャッシュ・フロー計算書*
  • 株主持分変動計算書
  • 財務諸表の注記

* FRSで作成する場合、省略可能

提出する財務諸表

同上

保存期間

会社法上:作成日から3年ないし6年

税務上:決算日以後、6年

機能通貨適用の可否

法定監査

すべての企業で必要(例外や免除規定有)

非公開企業のIFRS適用可否については、以下の基準で記載しています。
否:税務申告時または規制当局に提出(添付)する財務諸表が自国の会計基準で提出しなければならない場合
可:税務申告時または現地当局に提出(添付)する財務諸表が自国の会計基準以外にIFRS基準であっても良い場合

本記事は2023年12月末時点の情報に基づいて記載しています。将来の変更や更新がある可能性がありますので最新の情報をご確認ください。

 

英国の会計・監査制度

非公開企業のIFRS適用の可否

英国で事業を行う非上場企業は、IFRSまたはFRSのいずれかを適用することで連結財務諸表、個別財務諸表を作成することが可能です。但し、英国内で連結財務諸表を作成している企業グループ内の1つの子会社でIFRSを適用した場合、合理的な理由がない限り他の子会社もIFRSを適用することが求められます。

 

現地会計基準とIFRSの主な差異

主要な現地会計基準としてFRS101とFRS102が存在します。FRS101はIFRSと同様の基準であり、IFRSに比べ開示が限定されたものとなっています。一方、FRS102は英国独自の会計基準としての性格を有しています。定期的にIFRSの改訂などを反映する更新はなされますが、更新の頻度は5年に1度程度となっており、IFRSの変更反映に時間を要しています。英国子会社が連結レポーティング・パッケージをIFRSに基づいて作成する場合、FRS102で現地財務諸表を作成している場合は修正仕訳および組替が必要となる可能性があります。

2022年12月にFRCより公表されたFRS102更新の見直し案(一例)は以下のとおりです。なお、2023年12月末日時点で最終化に向けて検討中であり、2026年1月1日より前での適用は見込まれていません。

項目

FRS102

IFRS

無形資産

(改定なし)開発費は要件を満たした場合、無形資産計上と費用処理のいずれかを選択適用可能。無形資産の耐用年数は10年を超えてはならない

開発費は要件を満たせば無形資産として計上。耐用年数を確定できるか否かを判断し、耐用年数を確定できないと判断した無形資産は償却しない

のれん

(改定なし)耐用年数で毎期償却。耐用年数は5年を超えてはならない

減損の兆候があった場合には減損テストが必要

毎年減損テストを実施

リース

(改定前)所有権移転外リース取引は費用処理

(改定案)短期、少額リースを除き、使用権資産、リース債務を認識。ただし、簡素化規定あり

短期、少額リースを除き、使用権資産、リース債務を認識

投資不動産

(改定なし)公正価値が信頼性をもって算定可能な場合は「公正価値モデル」を適用

事後測定は「公正価値モデル」か「原価モデル」の選択適用

借入コスト

(改定なし)資産計上、費用処理のいずれかを選択適用

借入コストのうち、適格資産の取得、建設または生産に直接起因するコストについては、資産計上

収益認識

(改定前)重要なリスクと経済価値が買い手に移転した際に収益を認識する

(改定案)約束した財またはサービスの顧客への移転を、それらと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益を認識する

約束した財またはサービスの顧客への移転を、それらと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益を認識する


決算期の変更および決算期末の選定

英国では暦年以外を会計年度とすることは可能であり、合理的な理由がある場合には決算期を変更することが可能です。
 

会社法で作成が求められる財務諸表

企業は以下の財務諸表を作成する必要があります。

  • 財政状態計算書(貸借対照表)
  • 損益計算書および包括利益計算書
  • キャッシュ・フロー計算書
  • 株主持分変動計算書
  • 財務諸表の注記

キャッシュ・フロー計算書については、現地財務諸表をFRSで作成する場合、省略が可能です。
 

保存期間

会計帳簿は、英国の会社法によれば、作成日から3年ないし6年間保管することになります。ただし、税法上では決算日から6年間保管することが求められているため、他の法律・規則でより長い期間が定められている場合にはその期間に従うことになります。
 

機能通貨について

IFRSの概念に従い、機能通貨としてはポンド(GBP)または外貨(EURなど)から選択適用します。
 

法定監査

英国では、会社法により原則としてすべての企業に法定監査が求められています。例外としては小規模会社や休眠会社等が挙げられます。小規模会社の要件は、以下3つの条件のうち、2つ以上に該当しないことが求められますが、当該要件の充足については、日本の親会社等を含めたグループ全体で判断されることに注意が必要です。

  • 年間売上高が1,020万ポンド以上
  • 総資産が510万ポンド以上
  • 年間平均従業員数が50人以上

なお、非公開企業の法定監査期限は決算日より9カ月以内とされています。延長制度は設けられていますが、被監査会社に管理不能な事象が生じた場合など、延長が認められる条件は厳しいものとなっています。
 

会計・監査上の留意点

会計上は、FRS102により現地財務諸表が作成されている場合、親会社の適用する会計基準と異なる会計処理方法が適用されている可能性があるため、連結財務諸表の作成にあたり、適用される会計基準の違いによる影響を適切に把握することが求められます。

監査上は、前述のとおり非公開企業の場合、法定監査の期限は決算日から9カ月となり、日本の制度と大きな乖離があります。仮に日本と同様に決算日から3カ月以内に法定監査を完了させることを現地子会社へ求める場合、現地子会社におけるリソース確保やスケジュール調整など、監査人を含めた関係者との事前調整に留意が必要です。

 

英国の法人税(概要)

法人税率(%)

 

25(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)

キャピタルゲイン税率(%)

 25(h)

源泉徴収税率(%)

配当0

 
利息20(i)(j)

 
ロイヤルティー20(i)

 
支店送金税0

欠損金(使用期限)(年)

繰戻1(k)

 
繰越無期限(l)

(a) 1年当たりの所得が25万ポンドを超える企業については、2023年4月1日からの法人税率は25%です(以前までは19%)。1年当たりの所得が5万ポンド未満の企業には、19%の少額所得税率が適用されます。所得がこの2つの基準の間にある企業についてはマージナルレリーフ(marginal relief:少額所得税率の適用を受けられない企業にそのまま基本税率を適用するのではなく、所得に応じて税率を25%まで逓増させる措置)が受けられ、25%から19%の間の率で課税されます。関連会社が存在する場合、これらよりも低い閾値が適用されます。

(b) リングフェンス所得(すなわち、英国および英国大陸棚における石油採掘および採油権による所得)に対する基本法人税率は30%です(少額利益税率は19%)。課税所得が5万ポンドを下回るときは、リングフェンス所得に関する19%の少額利益税率が適用されます。5万ポンドから25万ポンドの課税所得については、この軽減税率は逓増します。また、リングフェンス所得に所定の調整を加えた額に10%の追加税(supplementary charge)も課税されます。

(c) 英国または英国大陸棚にて石油やガスを生産している企業のリングフェンス所得には、エネルギー(石油・ガス)利益税が課せられます。2022年5月26日から2022年12月31日までは、同課税の率は25%でした。2023年1月1日から2028年3月31日までは、同課税の率は35%です。

(d) 2023年1月1日から2028年3月31日まで、卸電力の生産により生成された超過収益に対して発電事業者税が45%の率で課税されます(2023年夏季に法案が可決される見通し)。発電事業者税を納付する義務のある企業には、同企業に課される法人税額と同様に課税がなされます。

(e) 2023年4月1日から、2,500万ポンドを超える銀行の所得(繰越欠損金による相殺前)に対して3%の付加税が課税されています。以前までこの付加税率は8%でした。

(f) 2022年4月1日から、居住用不動産開発税が、居住用不動産開発事業による事業所得に対して通常の法人税に加えて課税されています。2,500万ポンドの年間基礎控除額を超える居住用不動産開発所得に対して4%の率で課税されます。

(g) 2023年12月31日より後に開始する会計年度について、15%のグローバル・国内ミニマム課税を大規模な多国籍企業に適用するという法案の可決が見込まれています。フルバージョン「法人所得と各種利得に対する税金」を参照してください。

(h) キャピタルゲインは通常の法人税率で課税されます。非居住者の稼得したキャピタルゲインの課税に関する詳細はフルバージョン「法人所得と各種利得に対する税金」をご覧ください。

(i) この税は、非居住者と非法人居住者への支払いに適用されます。

(j) 所定の条件が満たされるときは、英国の税務当局から受け取った複利に45%の率が適用されます。

(k) (最大200万ポンドの)欠損金を通常よりも長い3年間繰り戻せるという一時的な措置が、2020年4月1日から2022年3月31日の間に終了する会計年度について利用可能でした。

(l) 欠損金の繰越により控除できる年間所得額は、グループ当たり500万ポンドを超える部分については2017年4月1日から50%までと上限が定められています。

 

英国の付加価値税(VAT)(概要)

税の名称

 

付加価値税(Value-added tax:VAT)

導入日

 1973年4月1日

所管行政機関

 歳入関税庁(HM Revenue & Customs)
(www.gov.uk/government/organisations/hm-revenue-customs)

VATの税率

標準税率20%

 
軽減税率5%

 
その他ゼロ税率(0%)および非課税 

VAT番号表示形式

 GB 999 9999 99
XI 999 9999 99(北アイルランド議定書(Northern Ireland Protocol)のもと営業している企業)

VAT申告期間

毎四半期原則

 
毎月定期的に還付を受ける企業が要求するとき

 
毎年小規模企業(VATを除く年間売上高が135万ポンド未満)が要求するとき

登録要否の基準

英国内拠点あり85,000ポンド

 
英国内拠点なしなし

 
登録解除83,000ポンド

遠隔販売

 EU全域(北アイルランドを含む)に適用される基準は1万ユーロ(グレートブリテン(GB)では適用なし)

EU域内取得

 85,000ポンド(北アイルランドのみ、GBでは適用なし)

非居住企業によるVATの控除・還付

 


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