世界の新規上場動向 - 2022年1月~6月

EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター クロスボーダー上場支援オフィス
公認会計士 山本 竜大

1. IPO市場の概況

IPOの勢いは第1四半期から第2四半期にかけて減速を続け、件数、調達額ともに大幅に減少しました。地政学的緊張やマクロ経済要因によるボラティリティの高まり、バリュエーションの低下、IPO後の株価パフォーマンスの低下により、当四半期は多くのIPOが延期となりました。記録的な年であった2021年から一転、主要市場の大半で2022年上半期のIPO活動は大幅に減速しました。

2022年第2四半期の世界のIPO市場では、件数は305件、調達額は406億米ドルで、それぞれ前年比54%減、65%減となりました。2022年上半期では、件数は630件、調達額は954億米ドルとなり、それぞれ前年比46%減、58%減となりました。

IPOの上位10件の調達額は400億米ドルでした。上位4件のうち3件がエネルギーセクターで、テクノロジーセクターに代わり、IPOによる資金調達額でセクター首位に立ちました。IPO件数ではテクノロジーセクターが引き続き首位でしたが、平均調達額は2億9,300万米ドルから1億3,700万米ドルに減少しました。一方エネルギーセクターの平均調達額は前年比1億9,100万米ドルから6億8,000万米ドルに増加し、調達額でセクター首位に躍り出ました。

SPAC(特別目的買収会社)によるIPOは、新たな市場参入にもかかわらず、従来のIPO活動とともに大幅に減少しました。今年のSPAC市場は、より広範な市場環境、規制の不確実性および償還の増加により、難局を迎えています。過去最多の既存SPACが積極的に投資先を探しており、その大半は来年に期限切れを迎えようとしています。しかし、市場パフォーマンスと規制の明確化が今後のディールフローを牽引すると思われます。

世界のIPO活動の急激な減少に伴い、地政学的圧力や政府による海外上場政策の影響を受け、クロスボーダー活動も大幅に減少しました。

表1 2013年~2022年上半期の全世界のIPO市場

表1 2013年~2022年上半期の全世界のIPO市場
※2013年から2021年は通年のデータです。 (出典: Dealogic、EY)

表2 IPO実績比較

表2 IPO実績比較
(出典: EY、Dealogic)

表3 2022年1月から2022年6月における全世界のIPOセクター別実績

表3 2022年1月から2022年6月における全世界のIPOセクター別実績
(出典: Dealogic、EY)

2. 南北アメリカエリア

Americasの2022年第2四半期の全体的なIPO活動は、前年比で(全エリアの中で)最も急激な減少となり、件数は73%減(41件)、調達額は95%減(25億米ドル)でした。しかし、2022年第1四半期と比較すると、件数、調達額ともに増加しています(それぞれ14%増、6%増)。

米国では、2021年のIPOの大多数が公募価格を下回り、平均パフォーマンスは市場全体の下落を下回っており、投資家の新規取引への参加意欲に影響を及ぼしています。しかし、2022年上半期の世界のクロスボーダーIPO活動は大幅に減少したものの、米国は依然としてクロスボーダーの投資先としては首位の座を守っています。

カナダでは、過去最高となった2021年に続き、2022年5月にTSX(トロント証券取引所)で1件の上場があり、IPO活動の低迷を免れました。市場の混乱と不確実性により、2022年のTSXの主要市場の上場は停止していましたが、市場が再開されればそのチャンスを活かそうとする企業が待機しています。

ブラジルのIPO市場は、2022年初頭、数十社の企業がディールを中止または延期したため、鈍化しました。ブラジルで上半期のIPO件数が少なかったのは、2016年以来です。高インフレが続き、金利が2桁に上昇する中、市場のボラティリティは今後も続くと予想されます。

表4 2022年1月から2022年6月における南北アメリカエリアのIPO企業別実績(2022年6月21日現在)

表4 2022年1月から2022年6月における南北アメリカエリアのIPO企業別実績(2022年6月21日現在)
※単位:100万米ドル

3. アジア太平洋エリア

Asia-Pacificの当第2四半期は、前年比で調達額は42%減、件数では37%減となりました。しかし、上半期ではAsia-Pacific市場における2件の大型グローバルIPOの恩恵により、相対的に良好なパフォーマンスとなりました。当第2四半期の件数は181件、調達額は233億米ドルとなり、2022年上半期の件数は367件、調達額が660億米ドルとなりました。上半期のセクター活動別では、素材が78件で首位、次いで製造業の77件となりました。上半期、深圳証券取引所の件数は最多の82件で、世界のIPOの13%を占めました。一方、調達額では上海証券取引所が最高額の328億米ドルで、上半期の世界のIPOの34%を占めました。

中華圏の2022年上半期のIPOは、件数は191件(前年比36%減)、調達額は512億米ドル(前年比16%減)となりました。さまざまな要因(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)規制、地政学的不安、株式市場の低迷、経済の不確実性、金利上昇)が重なり、香港のIPO活動への影響はマイナスとなりました。上海と北京の新型コロナウイルス感染症規制が解除され、国務院の33件の安定化政策・措置により、2022年第3四半期の中国経済は大きく回復し、投資家心理が高まると予想されています。

日本では、37 件のIPOにより調達額は5億米ドルとなり、上半期のIPOは前年比で調達額が84%減、件数が31%減となりました。投資家心理の悪化は、主に地政学的対立、エネルギー価格の上昇および円安に起因しています。東京証券取引所(TSE)は、投資家心理の向上とグローバルマーケットシェアの獲得のため、プライム、スタンダードおよびグロースの3つの新しい市場セグメントに再編成しました。

オーストラリアとニュージーランドの上半期のIPO活動は、前年比で件数が小幅減少となりました(3%減)。しかし、調達額の減少幅が大きく、76%減となりました。この減少は、数件の大型IPOが2022年第3四半期/第4四半期に延期されたことに起因していると考えられます。投資家心理の悪化により資金調達の動きは鈍化していますが、カーブアウトによる会社分割やIPO取引など、M&Aの動きも見られます。

表5 2022年1月から2022年6月におけるアジア太平洋エリアのIPO企業別実績(2022年6月21日現在)

表5 2022年1月から2022年6月におけるアジア太平洋エリアのIPO企業別実績(2022年6月21日現在)
※単位:100万米ドル

4. 欧州・中東・インド・アフリカエリア

EMEIAの第2四半期のIPO件数は83件(前年比62%減)、調達額は148億米ドル(前年比44%減)となり、Asia-Pacificに次ぐ規模のIPO市場となっています。上半期では、件数は186件、調達額は244億米ドルでした。

2022年第2四半期、欧州における件数は43件、調達額は15億米ドルでした。2022年上半期における世界のIPOに占める欧州の割合は、件数が15%、調達額が4%となりました。調達額では欧州の2取引所が、件数ではそのうちの1取引所が上位12取引所に入っています。

インドは、件数が18%増、調達額が19%増と、ともに前年比で増加した唯一のエリアであり、2022年第2四半期には27億米ドルを調達したインド史上最大のIPOを含む32件のIPOがありました。

MENA(Middle East&North Africa)のIPO活動は、不確実性が世界のIPOの見通しに影響を及ぼしているにもかかわらず、今年の好調なスタート以降も引き続き有望視されています。第2四半期のIPO件数は7件と減少(54%)しましたが、2022年上半期では、このエリアでの複数のメガIPO(調達額10億米ドル以上の大型案件)を含む31件のIPOにより、145億米ドルの調達額(前年比382%増)となりました。上半期の世界のIPO上位10件のうち、4件がこのエリアで実行されました。

英国では、2021年第4四半期からの投資家心理の落ち込みが2022年にも持ち越され、IPO活動のペースが鈍化しました。2022年上半期のIPOは13件(第2四半期は4件)、調達額は1億4,900万米ドルで、前年比で件数は71%減、調達額は99%減となりました。 しかし、英国の市場規制当局は、米国やEUとの競争が激化する中、より多くの急成長中のスタートアップを呼び込むため、ロンドン証券取引所(LSE)への上場を簡素化する計画を打ち出しています。

表6 2022年1月から2022年6月におけるEMEIAエリアのIPO企業別実績(2022年6月21日現在)

表6 2022年1月から2022年6月におけるEMEIAエリアのIPO企業別実績(2022年6月21日現在)
※単位:100万米ドル

5. 今後の見通し

2022年上半期に多くのメガIPOが延期されましたが、これは現在の不確実性とボラティリティが落ち着けば、市場に出る可能性のある案件が堅実に準備を進めていることを示しています。しかし、現在の不確実性や市場のボラティリティによる強い逆風は、今後も継続すると思われます。その中には、地政学的緊張、マクロ経済要因、資本市場の低迷、長引くパンデミックによる世界的な旅行関連セクターへの影響などが含まれます。

テクノロジーセクターは、市場に出るIPO案件の数では引き続き主要なセクターとなりそうです。しかし、原油価格の高騰を背景に、再生可能エネルギーへの注目が高まっていることから、エネルギーセクターも依然として大型案件の調達額でリードすることが予想されます。

投資家やIPO候補企業にとって、ESGは今後もセクターを問わず重要なテーマとなるでしょう。世界的な気候変動とエネルギー供給の制約が激化する中、ESGを中核的なビジネスバリューとオペレーションに組み込んでいる企業は、投資家をさらに引き寄せ、高いバリュエーションを得ることができるでしょう。

表7 2022年1月から2022年6月における全世界のIPO企業別実績(2022年6月21日現在)

表7 2022年1月から2022年6月における全世界のIPO企業別実績(2022年6月21日現在)
※単位:100万米ドル