IBOR改革:IASBの提案

重要ポイント

  • IASBは2月の会合にて、IBORからRFRへ移行されたとしてもヘッジ会計を継続して適用することを容認する救済措置を定めるためIAS第39号及びIFRS第9号を改訂することを暫定決定した。

  • IASBは、2019年4月もしくは5月に公開草案を公表する予定である。

  • 最終改訂基準は、2019年11月もしくは12月に公表される予定である。
     

はじめに

2018年12月に、国際会計基準審議会(以下、IASB又は審議会)は、銀行間調達金利指標(IBOR)改革が財務報告に与える影響を評価するためのプロジェクトを追加した。本プロジェクトは2段階に分けて実施される。第1段階では、IBOR改革までに生じる論点が焦点となる。IASBは、4月もしくは5月には公開草案を公表する予定であり、コメント募集期間を短縮した上で、改訂後の最終基準の公表は2019年末までに実施する予定である。第2段階では、ヘッジ指定を修正した場合の影響など、IBOR改革の完了後に生じる問題点が焦点となる。
 

IASBの決定

IASBは2019年2月8日の会合で、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」及びIFRS第9号「金融商品」に関して、以下の改訂を行うことを暫定的に決定した。

  • IBOR改革によって生じる不確実性のみに対して、ヘッジ会計の「可能性が非常に高い」という要件に救済措置を設ける。すなわちIBOR改革によってヘッジ対象が修正される可能性があったとしても、予定取引の可能性が非常に高いかどうかを評価するにあたり、当該修正は考慮に入れない。
    当該救済措置は、IBOR改革以外の要因によって既に中止され、キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金が残っているキャッシュ・フロー・ヘッジ関係においても、キャッシュ・フローが依然として生じると見込まれるかどうかを判断する際に適用される。

1 IASBの会合のため作成されたスタッフ・ペーパーは、IBOR改革により生じる不確実性は、変動金利負債のIBORリスク要素のみをヘッジ対象に指定するか、もしくは負債性金融商品全体をヘッジ対象に指定するかに関係なく、「可能性が非常に高い」の要件に影響を与える可能性があると説明している。

  • IAS第39号に救済措置を定め、既存のヘッジ手段とヘッジ対象の契約条件のみをキャッシュ・フロー・ヘッジ又は公正価値ヘッジの有効性が高いことを示すために考慮することを企業に要求する。同様に、IFRS第9号においても、ヘッジ手段とヘッジ対象の間の経済的関係を評価する際に既存の契約条件のみを考慮することを企業に要求する。

  • 審議会メンバーは、救済措置が意図したように確実に狭義となるよう、特定の要件を改訂において定める必要性を強調した。例えば、「既存の契約条件」は明確にされるべきであり、当該救済措置がIBORに関する市場の混乱に対処するための既存の一般的な代替案として用いられることを回避する必要がある。

  • 審議会は、救済措置は、IAS第39号及びIFRS第9号におけるヘッジ会計の要件を従前に満たしていたヘッジ関係にのみ適用されることで合意した。それ以外については、IASBは、ヘッジ指定された構成要素は、特定の市場構造の状況の評価に基づいて、独立に識別可能でなければならないとするIFRS第9号の規定に救済措置を設ける必要はないとした。スタッフ・ペーパーはまた、リスク・フリー・レート(RFR)がヘッジ対象の契約上特定されておらず、市場構造の状況の評価に基づいて、独立に識別可能でない場合、リスク・フリー・レートのリスク要素をヘッジ指定するための救済措置を定める必要はないとした。

  • IBOR改革に関する不確実性が解消された時点で、救済措置は適用可能でなくなる。また、救済措置が具体的にどの時点で終了されるかは今後の会合で話し合われる。

  • さらに、救済措置を任意とするのか、もしくは強制とするかについても今後話し合われる。

  • 審議会は、救済措置の適用がヘッジ会計に及ぼす影響について特定の開示を要求することで合意した。

  • 審議会は、適用日を2020年1月1日以降開始する事業年度とし、早期適用を認めることで合意した。

     

背景

金融安定化理事会は、金融危機後改革を命じ、規制当局は、IBORを廃止して新しい基準金利であるRFRへの移行を進めている。例えば、英国において、新しい公式の基準金利は英ポンド・オーバーナイト金利(SONIA)であり、銀行は2021年末以降LIBORを提示することを要求されない。IBORの廃止の状況、入替えのタイミング及び新しいRFRの具体的な内容は国や地域によって異なる。今後民間部門主導でIBORがどの程度維持されるかは不透明であり、すべての変動金利の金融商品がRFRに移行しない可能性もある。さらに、変動金利の金融商品がオーバーナイトRFR(SONIAなど)とタームRFR(例:3ヵ月物SONIA)のどちらに移行することになるのか、またどの範囲で移行することになるのかも明確でない。タームRFRであれば、借手は次回の利払い日のキャッシュ・フローを確実に知ることができる。しかし、タームRFRをどのように算出すべきかは明確でない。

金融危機以前は、IBORとオーバーナイト金利はほぼ整合していた。例えば、3か月物英ポンドLIBORとオーバーナイト金利のスプレッドは歴史的に10bp(0.1%)の状態であった。しかし、金融危機を境に、スプレッドのボラティリティは増大して大きくなり、リーマン・ブラザーズが破産宣告をした時点でスプレッドは最大300bpに達した。英ポンド・ベーシスは、それ以降リーマンショック以前の水準に戻ることはほとんどなく、スプレッドは2012/2013年のユーロ圏危機時点で50bpを超え、英国のEU離脱国民投票後は30bpを超えた。IBORとオーバーナイト金利のスプレッドのボラティリティの増加は、IBORが適切な基準金利ではないことを説明している。また、当該ボラティリティの増加は、IBORとRFRの乖離が大きいことを示唆しており、IBORとRFRの変動が十分に同等といえるのか、又はヘッジ会計の継続にリスクをもたらさないかという疑問が生じる。

それにも関わらず、将来的なキャッシュ・フローがIBORベースのキャッシュ・フローではないとしても、変動キャッシュ・フローは依然として存在する。また、IAS第39号とIFRS第9号の双方にて、金融商品の契約条項がIBORを全く参照していなくても、負債性金融商品の基準金利(例:IBOR)部分を指定することは可能である。IFRS第9号では、リスク要素がヘッジ対象のキャッシュ・フローの公正価値に内在し、「市場構造の状況の評価に基づいて」独立に識別可能で測定可能な場合、当該リスク要素をヘッジ対象に指定することを認めている。

負債性金融商品は、IBORを参照して価格が決定され、もしくはIBORを指標としており、IBORの入替期日を大幅に超える満期をもつIBORベースの金利スワップには流動性のある市場が存在しているため、我々は、IBORは市場構造の状況の評価に内在するリスク要素であると考えている。また、長期金融商品は、その実績から短期市場に比べてRFRとIBORのスプレッドのボラティリティが大幅に少ないと考えられる。従って、移行日後のRFRに基づくキャッシュ・フローは、現在のIBORに基づくキャッシュ・フローと同等であると考えることができる。さらに、価値の移転が急激に生じることを避けるため、主要市場はIBORからRFRへの移行を管理していくと想定される。よって、我々は、IBORが主要通貨に関する金利市場における主要な金利でなくなるまで、IBORを長期金利のヘッジ対象となるリスク要素に指定することは可能で、指定したヘッジ対象は依然として可能性が非常に高いといえると考えている。また、ヘッジの有効性も信頼性をもって測定できると考えている。

一方、RFRベースの金融商品の利用が進むと、IBORが金利市場における主要金利でなくなる時点が到来し、移行が近づくにつれてIBORとRFRのスプレッドの短期変動性が高まり、ヘッジの非有効性の大きな要因になることが懸念される。従って、IBORはヘッジ会計上適格なリスク要素でなくなり、指定したヘッジ対象の可能性が非常に高くならなくなることが懸念される。

こういった要因により、以下の会計処理上の問題点が生じる。

  • 予定されるIBORに基づくキャッシュ・フロー又はキャッシュ・フローのIBOR要素の可能性が非常に高いとは言えなくなる場合、キャッシュ・フロー・ヘッジ会計を中止しなければならない。

  • IBORに基づくキャッシュ・フロー又はキャッシュ・フローのIBOR要素の可能性が高くなくなる場合、従前にキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金に計上していた金額を、即座に純損益に組替調整しなければならない。

  • IAS第39号のヘッジ関係が非常に有効かどうか評価できなくなった時点でヘッジ会計を中止しなければならない。

     

弊社のコメント

我々は、IASBが当該プロジェクトに着手し、上述のような救済措置を提案したことを喜ばしく思う。IASBメンバーが指摘したように、適用範囲が意図したように狭義かつ明確になるよう、改訂文言を慎重に検討しなければならないと考えられる。

我々は、今回の経済的関係の有無の評価に関するIFRS第9号改訂によって、評価の仕方に関するガイダンスが提供される可能性があると考えている。しかしながら、IFRS第9号は、経済的関係の有無を検討する際のハードルが現在非常に高いか否かという点において明確でないため、IBOR改革から生じる不確実性があるにもかかわらず、IBORと将来の変動金利の間に経済的関係が存在すると断言するのが困難であると考えられる。


「IFRS Developments 第144号 2019年2月」をダウンロード



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