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2018年2月、国際会計基準審議会(以下、「IASB」又は「審議会」)は、制度改訂、縮小又は清算が報告期間中に生じる場合の会計処理を定める、IAS第19号「従業員給付」の改訂を公表した。
本改訂により、企業は、制度改訂、縮小又は清算後の報告期間の末日までの期間における当期勤務費用及び利息純額を更新後の数理計算上の仮定を基に算定しなければならない。
また、本改訂は、制度改訂、縮小又は清算の会計処理に関する規定が、資産上限額の規定に対して、どのように影響するかを明確化している。
本改訂は、制度改訂、縮小又は清算を伴わない「重要な市場変動」の会計処理については触れていない。
本改訂は、2019年1月1日以降に生じる制度改訂、縮小又は清算に対して適用され、早期適用も認められる。
従前、審議会は、制度改訂、縮小又は清算が生じた場合に確定給付負債(資産)の純額を再測定する場合でも、IAS第19号は期間中の当期勤務費用及び利息純額の計算に係る仮定を変更してはならないと示唆していることに留意した。すなわち、この計算は、事業年度の期首時点の仮定を基に行われる。
しかし、IASBは、残りの事業年度における当期勤務費用及び利息純額を算定する際に、更新後の仮定を度外視するのは不適切であると結論付けた。IASBは、当該状況においては更新後の仮定を用いることで、財務諸表の利用者により有用な情報が提供され、財務諸表の理解可能性が向上すると考えている。
IAS第19号において確定給付制度を会計処理する場合、通常、事業年度の期首時点で算定された数理計算上の仮定を用いて当期勤務費用を測定しなければならない。同様に、利息純額も通常、事業年度の期首時点で算定された確定給付負債(資産)の純額に同時点の割引率を乗じて計算される。
しかし、事業年度中に制度改訂、縮小又は清算が生じる場合、IAS第19号の本改訂は以下のように定めている。
(制度資産の公正価値が確定給付債務の現在価値を上回ることから)確定給付制度に積立超過が存在する場合、企業は積立超過額と資産上限額のいずれか低い方で確定給付資産を測定する。
制度改訂、縮小又は清算の会計処理により、積立超過が減額する、もしくは解消される可能性があり、その場合、資産上限額の影響も変わる可能性がある。
IAS第19号の本改訂では、企業はまず、過去勤務費用及び清算損益を資産上限額の影響を考慮せずに算定しなければならないと定めている。当該金額は純損益で認識される。企業は次に、制度改訂、縮小又は清算後の資産上限額の影響を算定する。利息純額に含まれている金額を除外した当該影響の変動額は、その他の包括利益で認識される。
これらが明確化されたことで、従前は資産上限額の規定により認識されていなかった積立超過額を、当該超過額を減少させる事象に関する過去勤務費用又は清算損益の金額の一部として認識しなければならない可能性がある。すなわち、資産上限額の影響の変動額は、過去勤務費用又は清算損益と相殺してはならない。
制度改訂、縮小又は清算は通常、経営者の決定により生じるため、「重要な市場変動」とは異なる。重要な市場変動は、IAS第34号「期中財務報告」に記載されており、それは経営者の決定とは無関係に生じる。割引率の算定に用いる優良社債の市場利回りの著しい上昇などがその例に挙げられる。
IAS第19号の本改訂は、制度改訂、縮小又は清算後の期間における当期勤務費用及び利息純額の測定のみを取り扱っている。IASBは、(これらの事象を伴わない)「重要な市場変動」の会計処理は、本改訂の適用範囲外としている。
IAS第19号の本改訂は、2019年1月1日以降に開始する最初の事業年度の期首以降に生じる制度改訂、縮小又は清算に対して適用される。したがって、それ以前の期間に生じた制度改訂、縮小又は清算を改めて検討する必要はない。早期適用は認められるが、その場合にはその旨を開示する必要がある。
初度適用企業には、本改訂の遡及適用を免除する類似の措置が与えられていないことに留意が必要である。初度適用企業は、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」に従って、IAS第19号のすべての規定を遡及して適用しなければならない。
本改訂は、最初の適用日以降に生じる制度改訂、縮小又は清算に対して将来に向かって適用されることになるため、大半の企業が移行時に本改訂の影響を受けることはないと思われる。しかし、本改訂適用後に制度改訂、縮小又は清算を行うことを検討している企業は影響を受ける可能性があり、そうした企業は適時に会計方針を更新する必要があろう。
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