EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2023年第2次財政法(以下、「同法」)には、経済協力開発機構(OECD)の税源浸食と利益移転(BEPS)第2の柱の所得合算ルール(IIR)を英国において実施するための法律が盛り込まれています。この法律の2大構成要素である多国籍トップアップ税(MTUT)と国内トップアップ税(DTT)は、いずれも大規模な多国籍企業の2023年12月31日以降に開始する会計期間に適用されます。
MTUTは適格多国籍グループの「責任あるメンバー(responsible member)」に適用されます。適格多国籍グループとは、そのメンバーのうち少なくとも1社が他のメンバーと異なる国・地域に所在し、かつ過去4会計期間のうち2期間以上におけるグループの全世界年間売上高が7億5,000万ユーロを超える連結グループです。
また英国は、OECDで合意されたアプローチに従い、「適格国内ミニマムトップアップ税」(QDMTT)を導入します。英国においてQDMTTは国内トップアップ税(DTT)と呼ばれる予定です。この税は、多国籍企業グループの英国メンバー、英国企業グループのメンバー、および単体の英国企業の2023年12月31日以降に開始する会計期間に適用されます。DTTが適用される「適格事業体」とは、英国に所在する事業体のうち、過去4会計期間のうち2期間以上における売上高が7億5,000万ユーロを超える事業体、または過去4会計期間のうち2期間以上における売上高が7億5,000万ユーロを超えるグループに属する事業体と定義されます。
この法律から生じる重要なポイントのいくつかについて以下に解説します。
適格多国籍グループのメンバーは、グループの他のメンバーに対する責任を負う「責任あるメンバー」に該当する場合、MTUTを課されます。責任あるメンバーであるかどうかは、さまざまな条件に基づき、グループ構造内での立場に応じて判定されます。
責任あるメンバーに課されるMTUTの金額は、当該メンバーの包含率(inclusion ratio)を参照して計算されます。包含率は、連結財務諸表を作成する場合において、当該責任あるメンバーに割り当てられる利益の割合に基づいて決定されます。
DTTは英国のメンバーに対して直接的に課されます。
2026年12月31日以前に開始し2028年6月30日以前に終了する会計期間について、国別報告書(CbCR)ルールに基づく移行期セーフハーバーを適用する選択が同法に盛り込まれています。
グループのメンバーいずれか1社が、MTUTおよびDTTの税額を英国歳入関税庁(HMRC)に申告します。当該メンバーはグループの最終親事業体とすることが基本ですが、代わりのメンバーをグループが指定してこれらの責任を履行させることもできます。また、グループはGloBE情報申告書を提出する必要があります。
英国政府は、新たなMTUTおよびDTTに関する指針草案(部分)をコンサルテーションのために公表しています。この指針草案は、多国籍トップアップ税および国内トップアップ税の適用範囲および運用に関するルールを導入し、詳細を提供しており、これらの税に関するHMRCの指針マニュアルにおける3つの章を構成するものとなる予定です。この指針草案では特に、除外される事業体、売上高基準値テスト、移行期CbCRセーフハーバー、および当該ルールの目的における所有の判定方法について説明しています。また、この英国の法律とOECDモデルルールの該当部分との対応関係を示した項目が設けられています。この指針草案に関するコンサルテーションは、2023年9月12日まで実施されます。
同法の議会審議のなかで、第2の柱(多国籍トップアップ税および国内トップアップ税)の英国における導入時期に関し、国際的な実施と歩調を合わせるために柔軟な対応を取ることの必要性をめぐる懸念が複数の議員から提起されました。この柔軟な対応は採用されなかったものの、英国政府は次回の2023年秋季英国予算案、および必要に応じて2024年春季予算案において、第2の柱の実施に関する更新を提供することを確約しました。
これにあたり英国政府は、より広範な第2の柱ルールとの一貫性を確保する目的において必要と考えた場合、(新たな財政法における法律を通過させるのではなく)同法の規定を修正する規則を導入することができます。ただし、同法から生じるこの規制上の権限を行使できるのは2026年12月31日までです。
MTUTおよびDTTの導入に加えて、同法には法人税に関する以下の措置が盛り込まれています。
特定の設備および機械に係る新たな全額費用化(即時100%償却):この制度は、2023年3月31日に終了した130%のスーパー控除の後継となるものです。この償却プールには、特別償却率プールまたは単一資産プールへの分類が必要とされるクラス(例えば、「短期性」資産として取り扱われているとの理由による)に属する品目を除く、すべての「設備および機械」が含まれます。また同法では、特別償却率の支出について、スーパー控除と同様に2023年3月31日に終了が予定されていた50%の初年度償却を延長することを規定しています。
研究開発(R&D)費控除の改正:同法において導入される研究開発費控除の改正により、(i)申告者は申告の事前通知の提出を義務付けられ、(ii)適格支出のカテゴリーが拡大されてデータライセンスおよびクラウドコンピューティングのコストが含められ、(iii)申告の裏付けとなる追加的な情報の提供が義務付けられます。これらの改正は2023年4月1日以降に開始する会計期間について効力を生じますが、申告における追加的な情報の提供の要件は2023年8月1日以降に行われる申告について効力を生じます。すでに公表されている、外部により提供された労働者に対する海外での支出の制限案は、2023年4月1日に発効が予定されていましたが、2024年4月1日に延期されています。適格な「研究開発集約的」中小企業の追加的な控除(2023年4月1日から適用)に係る法律は同法に盛り込まれておらず、かかる控除は今後の財政法案で法制化される予定です。
新たな発電事業者課税(EGL):EGLは原子力エネルギー、再生可能エネルギー、バイオマスエネルギー、および廃棄物由来エネルギーによる電力の卸売において実現した「超過収入(exceptional receipts)」に対して一時的な45%の税を課すものであり、2023年1月1日から2028年3月31日の期間について効力を生じます。EGLは該当する年間発電量が50GWhを上回る企業または企業グループに限定され、かつ年間1,000万ポンドを超過した収入にのみ適用されます。この新たなEGLの制定時期は、EGLおよび四半期分割納税(QIP)ルールの適用範囲に含まれる大規模企業にとって重要です。これらの企業は、この措置の正式な制定後の最初のQIP(早ければ2023年7月14日に到来)を計算するにあたり、EGLの税額(かかる制定前に発生した税額を含む)を考慮する必要があります。
投資控除率の引上げ:同法では、石油およびガスの生産の脱炭素化にあたり2023年1月1日以降に発生した支出について、エネルギー(石油およびガス)利得税(EPL)における投資控除率の引上げを導入しています。標準控除率が29%であるのに対し、適格支出は80%の控除を受けることができます。適格支出には、石油およびガスの生産施設における非化石燃料由来の電力の使用にあたっての資本的支出、ならびに温室効果ガスのフレアおよびベントの削減または廃止が含まれます。
移転価格文書化要件の改正:同法では、英国で事業を営む大規模な多国籍企業に適用される移転価格文書化要件の改正を実施しています。この改正は2023年4月1日以降に開始する会計期間に適用されます。
テクニカルな改正:利子控除制限(CIR)、適格資産保有企業(QAHC)、および不動産投資信託(REIT)のルールについて、ならびにGDO(genuine diversity of ownership)の条件について、特定のテクニカルな改正が行われています。
英国政府は2024年財政法案に盛り込まれる法律草案を2023年7月18日に公表しました。事前に発表された政策変更をほぼ網羅すると思われる条文草案が、説明注記、租税情報および影響注記、コンサルテーションへの回答、ならびにその他の裏付け文書とともに公表されています。
アーンスト・アンド・ヤング税理士法人(日本)、英国税務課、東京
Richard Johnston アソシエートパートナー
Rebecca McKavanagh シニアマネージャー
アーンスト・アンド・ヤングLLP(英国)、ロンドン
Jo Stobbs パートナー
小林 仁紀 シニアマネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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