ブラジルの移転価格税制法、2024年1月1日施行へ

  • ブラジルの新移転価格税制法が成立した。同法は2023年から早期適用が認められ、2024年から強制適用される。
  • ブラジル連邦歳入庁は近日中にこの新法に関するパブリックコメントを募集すると思われる。
  • 納税者は新ルールの適用に向けた準備が必要になる。

概略

2023年6月15日、ブラジル連邦官報において、経済協力開発機構(OECD)が定めるガイドラインに沿ったブラジルの移転価格税制の枠組みを規定する新しい法律が公布されました。

この2023年6月14日法律第14,596号(法律14,596/23号)の新移転価格税制は、ブラジルをグローバルなバリューチェーンに統合すること、および二重課税と二重非課税の両方のシナリオを排除することを目指すものです。さらにこの新移転価格税制によって、ブラジルが関与するクロスボーダー取引において支払われた/源泉徴収された(法人)所得税から生じる米国での税額控除(すなわち、外国税額控除)の認識に関して、主要な障害の1つが取り除かれることになると思われます。

承認プロセス

ブラジルの新たな移転価格税制の枠組みを導入する取組みの一環として、2022年12月28日、暫定措置第1,152/22号(PM1,152/22号)が公表されました。PM1,152/22号は連邦議会下院および上院の双方で承認された上で、2023年5月25日に最終承認のためブラジル大統領に送付されました。

2023年6月14日、ブラジル大統領の署名により、PM1,152/22号は法律14,596/23号として成立しました。ブラジル連邦議会で承認された条文に対し、重要な修正は加えられていません。

今後のステップ

ブラジルの納税者は、OECDのガイドラインに沿ったこの新たな移転価格税制を今年から適用する選択を認められます。かかる選択を行う場合、納税者は2023年9月1日から9月30日までの間にブラジル連邦歳入庁(RFB)に通知しなければなりません1。2024年1月1日より、新移転価格税制はすべての納税者に強制適用されます。

ブラジル連邦歳入庁(RFB)は、新移転価格税制について議論を交わすためのパブリックコンサルテーションを今後数週間以内に実施する見込みです。RFBはこのパブリックコンサルテーションに基づいて、従うべき指針を提供し要件を定義する一連の標準措置(Normative Instruction)を公表すると思われます。このパブリックコンサルテーションは、ブラジルの納税者にとって、新たな移転価格環境を作り出すプロセスに実質的に参加する機会であるといえます。

法律14,596/23号の公布はブラジルにとって大きな節目であり、同国の国際的な活動が新たな章に入ったことを意味します。この移転価格税制の枠組みが新規の海外直接投資を呼び込み、ブラジルのグローバルなバリューチェーンへの統合を促すことが期待されます。この変化は税制の問題を超え、ブラジルに進出している多国籍企業の経営モデルに影響を及ぼすものです。

多国籍グループにとって、この変化への十分な備えは不可欠です。特に、自社のブラジル国内外の事業に対する潜在的な影響(例えば、早期適用、(法人)所得税や関税評価への影響、米国における外国税額控除等)のマッピングを行うことが重要です。

新移転価格税制の主な技術的側面の概要

法律14,596/23号が持つ重要な側面には以下が含まれます。

  • 2024年1月1日に発効するが、2023年1月1日より早期適用を認める。
  • 独立企業原則を導入するとともに、関連当事者の概念を拡大する。
  • すべてのクロスボーダーの関連当事者間取引(すなわち、無形資産、費用分担契約、および事業再編を含む)に新移転価格税制を適用する。
  • 関連当事者間取引の分析について、OECDの基準に従ったすべての移転価格算定方法(CUP法2、RP法3、CP法4、TNMM5、PS法6)およびベストメソッドルールを導入する。
  • 新たな移転価格文書化ルールの適用について、機能分析(機能、資産およびリスク)ならびに経済分析を導入する。
  • クロスボーダーのコモディティ取引において、信頼できる比較対象取引が入手できる場合、最も適切な算定方法として独立価格比準法(CUP法)を適用する。ただし、納税者は適切な事実および状況に基づいてその他の算定方法を適用することも可能。
  • 最も信頼できるデータおよびベストメソッドルールに基づいて検証対象企業を選定する。
  • すべてのクロスボーダーの金融取引(関連当事者間融資、保証、一元的財務機能、保険取引等)を含める。
  • 現行のブラジル税制の枠組みにおいて実施されているロイヤルティの控除制限を廃止し、ロイヤルティ取引を新移転価格税制の適用範囲に含める。
  • 利益水準指標を考慮した比較対象範囲(レンジ)(四分位範囲または全範囲)を導入する。
  • 自発的調整、補償調整、および第一次調整を導入する。
  • 簡素化措置ならびに税の確実性の手段(相互協議および事前確認)を導入する。



巻末の注意事項

1. RFBが提供するデジタルポータル「Portal do Centro Virtual de Atendimento (Portal e-CAC)」を通じて通知を行う

2. 独立価格比較準法(PIC — 独立価格の比較

3. 再販売価格基準法(PRL — Preco de revenda menos lucro

4. 原価基準法(MCL — Custo mais lucro

5. 取引単位営業利益法(MLT — Margem líquida da transação

6.利益分割法(MDL —利益分配


お問い合わせ先

アーンスト・アンド・ヤング税理士法人、ラテンアメリカ税務課、日本およびアジア太平洋地域


ラウル・モレノ パートナー&デスクリーダー

ルイス・コロナド パートナー

ヘクター・ロサノ マネージャー

パトリシオ・ベラスコ マネージャー

アーンスト・アンド・ヤングLLP(米国)、ラテンアメリカビジネスセンター

森本 孝シニアマネージャー 

APAC税務デスクリーダー-米国税務デスクリーダー

ジェレミー・リットン パートナー


※所属・役職は記事公開当時のものです