EU VAT委員会、非代替性トークン(NFTs)に関するワーキングペーパーを公表

  • EUのVAT委員会は、非代替性トークン(NFTs)に関する初期的な考察を取り纏めたワーキングペーパーを公表。
  • 本ワーキングペーパーでは、最近のNFT関連の疑問や問題に対処するための背景として、NFTの環境について取り上げている。
  • 明確な結論は出ていないが、NFTの提供は必ずしも電子的手段による役務の提供にはあたらないことが強調されている。
     

エグゼクティブサマリー

2023年3月21日、欧州連合のVAT委員会(VAT委員会)は、非代替性トークン(NFTs)に関するVATの初期的な考察についてワーキングペーパーを公表しました。この文書の目的は、NFTに関連する事項の付加価値税(VAT)の影響を取り上げ、VAT委員会内で有意義な議論を行い、共通の見解に達することです。本ワーキングペーパーにおいて、VAT委員会は何ら見解を示すことはありません。

要約すると、本ワーキングペーパーには、NFTsの作成および供給に関するVATの取り扱いに関連して、以下の点が盛り込まれています:

  • 本ワーキングペーパーでは、特定の商品に交換することができるNFTsを除き、原則としてNFTsは、(商品ではなく)役務の提供にあたるものと見なしています。NFTsを法的契約として理解するのであれば、本ワーキングペーパーでは、例えば物理的な商品の財産所有権のように、NFTの譲渡は当該商品の供給として適格であるとしています。
  • 本ワーキングペーパーは、NFTsの性質は勿論のこと、NFTsの作成、取引、および販売の方法について、NFTsを財産所有権、バウチャー、複合供給、および電子的に供給されるサービスと比較することにより概説しています。また、特定の支払い(例えば、ガス代)がVATの観点から供給の対価として認められるかどうか、そして課税対象額の決定方法についても取り上げています。
  • また、同ペーパーでは、加盟国および欧州経済領域におけるNFTsの供給に繋がるVATの取り扱いに関連する利用可能な指針の概要についても取り上げています。
     

詳細な議論

NFTsの話題は、欧州委員会によりEU付加価値税委員会での議論で紹介されました。その結果については拘束力を持ちませんが、全会一致で合意された指針は、EU加盟国の税務当局が当該指針の対象となるテーマをどのように解釈するかを示す有力な指標になり得ます。当該委員会の事務局は、議論を促進するためにNFTsに関するワーキングペーパーを作成しました。これはVAT委員会の見解を反映するものではありません。VAT委員会は、VAT指令により設立された諮問委員会であり、加盟国および欧州委員会の代表者で構成されています。

概略

本ワーキングペーパーでは、資産であるNFTが表すメタデータ(すなわち、その他のデータに関する基礎情報を提供するデータ)に焦点を当てます。このメタデータには、NFTの名称、NFTの説明、および必要に応じてURLなど、多くの要素が含まれる可能性があります。本ワーキングペーパーでは、デジタル肖像画のNFTが例示されており、メタデータには、画像のURLと描かれた人物の識別、髪や目の色、服の種類といった絵画の希少性を示す特徴が含まれる可能性があります。同文書では、NFTsはメタデータを通じて、関連する資産のデジタル表現であることに言及しています。

NFTsの特徴

本ワーキングペーパーが取り上げる最初の疑問は、VATの観点からNFTsを、商品または役務のいずれかに分類することが適切であるかという点です。この目的のために、デジタルトークン(NFT)と(NFTによって表される)原資産のいずれかがトランザクションの対象であるかという点に着目しています。本ワーキングペーパーではNFTsを、財産所有権およびバウチャー、複合供給および電子的に供給されるサービス(ESSs)と比較しています。

財産所有権とは、取得した所有権を証明するものであるが、取得そのものを証明するわけではないと解されています。NFTは来歴のデジタル記録であり、財産所有権と同様に、資産の所有権を証明するものです。それゆえ、本ワーキングペーパーでは、NFTsは財産所有権と比較される可能性があります。これは、NFTsのVATの取り扱いを対象となる商品/役務に応じて換算したものになります。したがって、NFTsを財産所有権として取り扱う場合、VATの取り扱いは原資産(すなわち、デジタル写真またはビデオ、もしくは物理的な絵画または有形固定資産)に従うことになります。

また、本ワーキングペーパーでは、特定のNFTsがVAT目的上の「バウチャー」の定義に合致するとしています。同ペーパーによれば、特にNFTを購入した際に、保有者が特定の商品または役務と交換できる場合(すなわち、NFTが永久に流通しなくなる場合(いわゆる「焼却」))には、その可能性があるとされています。このような場合、NFTsのVATの取り扱いはバウチャーの場合と同一であるべきとしています。また、単一目的バウチャー(SPV)と多目的バウチャー(MPV)との区別をする必要があります。本ペーパーでは、この両者の相違により、バウチャーの販売時に課税するか、またはバウチャーを償還する際に課税するかのいずれかになるとしています。

本ワーキングペーパーでは、EU VAT指令において複合供給に関する具体的な規定がなされていないため、NFTsと複合供給との比較は欧州連合司法裁判所(CJEU)1 の判例に基づくと述べています。また、複合供給に関する既存の原則は、NFTsにも適用されます。NFTの供給は、デジタルトークン、および主たる要素と補助的要素または密接に関連する2つの要素を有する関連資産からなる複合供給と見なすことができます。本ワーキングペーパーは、NFTsが複合供給として取り扱われる場合は通常、資産の購入が複合供給の主要な要素とみなされる可能性が高いという見解を示しています。また、同ペーパーによれば、NFTおよび原資産の供給は、分割が困難な不可分の経済的供給となり得るとしています。このような場合、複合供給は、独自の明確なVATの取り扱いを行うことになります。

本ワーキングペーパーでは、ESSsに該当するNFTsに関連するトランザクションについて詳述しています。また、本ワーキングペーパーでは、何がESSを構成するのかに関して、多くの場合に不明確であることを示唆しています。NFTsという新しい技術との組み合わせには、2つの課題があります。本ワーキングペーパーでは、デジタル台帳に関連する技術であるNFTsは、インターネット上で最小限の人的介入によって移転可能であると言及しています。NFTの資産が本質的にデジタルであれば、その供給により受取人は、当該デジタル資産へのアクセスおよびその権利を得ることができます。この場合、本ワーキングペーパーでは、NFTが電子サービスの定義に該当することを示唆しています。

本ワーキングペーパーでは、NFTsに関するトランザクションをESSsとして認定することは一般化できるものではないとの見解を示しています。VATの観点から、NFTの供給が商品または役務に関するトランザクションであるかどうか、そして当該供給が役務と認定された場合、どのような種類の役務が提供されたかを判断するためには、都度評価が必要となります。

ガス代 — 考察

NFTsをブロックチェーンに格納すること(ミンティング)は、トランザクションコストを誘発します。本ワーキングペーパーでは、(イーサリアムのブロックチェーンを参考に)ガス代をチップとVAT目的の基本手数料に細分化しています。基本手数料(イーサリアムの場合)がトランザクション完了後にプロトコルによって破棄されるのに対し、チップはネットワークのバリデーター(検証者)に支払われます。その名称が意味するものとは逆に、チップは自発的なものではありません。

ミンティングサービス(チップで報酬を得る)は、ほとんど人手を介さないため、本ワーキングペーパーでは、ESSとして考慮する必要があるとの見解を示しています。しかしながら、トランザクションがVATに該当するためには、VAT指令は、当該トランザクションが対価と引き換えに行われることを要求しています。そのためには、供給者と購入者との間に直接的な法的関係が必要であり、その結果、相互に履行されることになります。

CJEUの判例2 を参照し、本ワーキングペーパーでは、基本手数料は、合意された役務を見返りとして提供する特定可能な当事者に支払われるものにあたらないため、当該基本手数料に受益者が帰属することはないことを示唆しています。したがって、かかる手数料の該当部分に関しては、VATの範囲外であると見なされるべきです。ネットワークの検証者に支払われるトランザクションの必須要素であるチップについては、異なる結論が当てはまります。本ペーパーでは、検証者の匿名性がもたらす難しさに言及しており、関連当事者の身元が開示されるまで、このことは課題として残るだろうとしています。

NFTsに関連するトランザクションに関与する当事者の課税ステータス

VATの目的上、サービス提供者として独立して行動し、経済活動を行うことができると見なされる場合、その活動の目的や結果に関係なく、課税対象者と見なされます。この点に関して、本ワーキングペーパーでは、ネットワークの検証者(「ミンティング」サービスを行う)をVAT目的上の課税対象者として自動的に想定することはできないとしています。

マイニング活動とは対照的に、ミンティング活動では特別なハードウェアは必要とされません。ミンティング活動では、一定額のトークンを担保にする必要があるだけで、基本的にどのコンピュータでも実施することが可能です。トランザクションを検証する力は、ハードウェアからではなく、その他の参加者によって検証のためにブロックされたステークの量からのみもたらされます。一方で、検証者/ミンターは、トランザクションを検証するプログラムを実行し、その結果として、ガス代の支払いを誘発します。本ワーキングペーパーの見解としては、ミンターは課税対象者として認定されるべきとしています。この場合、VAT指令に該当することになり、このような者がNFTsを販売するマーケットプレイスにも影響を与える可能性があります。

本ワーキングペーパーでは、NFTのミンティングがNFTが販売されるまで延期される場合(「レイジーミンティング」)、異なる適用があることが示唆されています。レイジーミンティングの場合、対価を伴わないことが多く、当該活動はVATには該当しません。

NFTに連動する供給のVATの取り扱い概要

本ワーキングペーパーでは、NFTに関連するトランザクションのVATの取り扱いに関して、異なる国・地域からの3つの意見に言及しています。これら3つの国・地域の付加価値税の取り扱いは、上記文書の考察と比較・評価されていません。具体的な3つの意見は、以下のとおりです:

  • NFTsの買い手に写真(コンピュータプログラムによる編集)の利用権を付与するNFTに関するスペインの拘束力のある判決で、スペイン税務総局によりESSsに分類。
  • ベルギー財務省の議会質問に対する回答で、NFTsを「デジタルコレクション」または「デジタルアートのオブジェクト」と見なし、NFTsを含むトランザクションはVATの対象となることを示唆。
  • ミンティングサービスがVATの対象外とされる、NFTアートワークを含むトランザクションをESSsとみなすノルウェー税務当局の声明文。

今後の影響

本ワーキングペーパーは、NFTに関連する取引のVAT処理に関する初期的な考え方を示しています。しかし、VAT委員会はいかなる確定的な見解も示していません。本ワーキングペーパーは、VAT委員会における議論を促し、共通の見解に達することを目的としています。

本ワーキングペーパーは、あくまでも出発点として捉えることができます。本ワーキングペーパーで提起された疑問は基本的な内容ですが、NFTsを取り扱う者にとっては極めて重要なものです。興味のある方は、この領域のさらなる進展に注目してください。
 

巻末注

1 CJEU 1999年2月25日判決C-349/96 Card Protection Plan (EU:C:1999:93)
2 CJEU 1994年5月5日判決C-38/93 H. J. Glawe Spiel (EU:C:1994:188)

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