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第11回2022年9月26日 評価困難な無形資産取引に係る価格調整措置
令和元年度の税制改正で「評価困難な無形資産取引に係る価格調整措置」として、無形資産の移転価格について、事後的に推定証拠により、価格調整を可能とする制度が導入されました。今回のメルマガでは、この制度導入の背景や内容について解説したいと思います。
1 導入の経緯
本制度は、OECD移転価格ガイドラインで採用された(Hard to Value Intangible)を導入したもので、わが国独自の制度としてDCF法による調整を基本としています。これは、米国内国歳入法482条の1986年改正により導入された所得相応性基準のように、無形資産の移転後、大きく価値が増加したことによる超過利益に対して、国外関連者に利益比準法(CPM)を適用して、残余利益を超過(スーパー)ロイヤリティとして回収することを一般的に認めるものではありません。
2 超過利益の帰属
では、超過利益をどの関連者に帰属させるのでしょうか。
例えば、CUT法により国外関連者から回収するロイヤリティ料率を固定すれば、超過利益は国外関連者に残余利益として帰属し、CPM・TNMMで国外関連者の利益水準を固定すれば、超過利益は親会社に超過ロイヤリティの回収として帰属することになります。
某米国系飲料水メーカーに対する最近の移転価格課税では、納税者がCUT法により国外関連者から回収するロイヤリティ料率を固定し超過利益を外国子会社に帰属させていたのに対して、米国内国歳入庁(IRS)は国外関連者にCPMを適用して利益水準を固定し、超過利益を超過ロイヤリティにより回収し、親会社へ帰属させた課税を行っています。
所得相応性基準の適用では、CUT法やCPM・TNMMのように、超過利益を一方の関連者に帰属させたり、残余利益分割法のように、双方の関連者へ超過利益を帰属させることが考えられます。
3 わが国での超過利益の帰属
評価困難な無形資産に係る価格調整措置の適用は、これまでのところDCF法に基づく課税処分は行われていないと考えられますが、超過利益の親会社への回収は、TNMMにより国外関連者の利益水準を固定し、超過利益を超過ロイヤリティにより回収する課税処分により一般的に行われている状況にあります。
国外関連者の利益水準が大幅に増加している場合、TNMMにより国外関連者の利益水準を固定すれば、超過利益は全て超過ロイヤリティにより回収できるメカニズムとなっています。しかし、こうした執行が、所得相応性基準に基づくものであるのか、あるいは従来の独立企業間価格の算定方法の延長で適用可能なのかは議論のあるところです。
DCF法は、TNMMにより国外関連者の利益水準を固定し超過ロイヤリティを間接的に算定する方法や、残余利益分割法により超過利益の帰属を研究開発費や広告宣伝費等の貢献度により分割して超過ロイヤリティを間接的に算定する方法と異なり、無形資産自体の価値を推定し、超過利益を直接的に算定して関連者に帰属させる方法が考えられます。
OECD移転価格ガイドラインでは、パラグラフ6.142において、無形資産の開発費用に基づいて無形資産価値の推定を行う移転価格算定方法を使用することは、一般的に推奨されないとしています。これは、無形資産開発費用と開発後の無形資産の価値や移転価格の間に関連性はほとんどないとして、無形資産の過小評価により超過利益を子会社へ帰属させることに警戒をしているように考えられます。
そのため、コストベースでなく、プロフィットベースにより超過利益の算定を行う方法として、パラグラフ6.153では、所得をベースとした評価テクニックの使用、とりわけ評価中の無形資産の使用から得られると予測される将来的な所得の動向またはキャッシュフローの割引現在価値の計算を前提とした評価テクニックを推奨しています。
こうした評価テクニックは、CUP法、RP法、CP法、TNMMおよびPS法の5つのOECD移転価格算定方法のいずれかの一形態として、または独立企業間価格の算定に使用される手段として使用される場合があるとしています。
DCF法において、超過利益をどのように算定し関連者に帰属させるかは、評価パラグラフメーターをどのように設定するかにかかっています。OECD移転価格ガイドラインでは、財務予測の正確性、成長率に関する前提、割引率、無形資産の耐用年数および最終価値、税に関する前提および支払形態の検証を求めています。また、事務運営指針4-13(ディスカウント・キャッシュ・フロー法の取扱い)では、予測利益の金額、割引率および予測期間の検証により、無形資産を評価し、超過利益を算定した上で、関連者間で最適な配分を求めています。
例えば、予測利益の金額については、信頼性が確保された事業計画等の情報に基づいて計算されたものかどうかを検討し、予測の根拠および目的、予測期間の長短ならびに予測の基礎となる過去の収益実績との整合性等を勘案するとしています。しかし、仮に国外関連者へ超過利益を帰属させたいとする納税者の立場からは、予測利益の金額について、可能な限り過小評価を選好する可能性がありますが、親会社へ超過利益を帰属させたいとする税務当局の立場からは、可能な限り過大評価を選好する可能性があると考えられます。
同様に、成長率に関する前提、割引率、無形資産の耐用年数および最終価値、税に関する前提および支払形態の検証についても、仮に国外関連者へ超過利益を帰属させたいと考える納税者の立場からは、可能な限り成長率を低く見積もったり、リスクが大きいとして割引率を高く設定したり、耐用年数や最終価値の評価も過小評価する可能性があります。他方、親会社へ超過利益を帰属させたいと考える税務当局の立場からは、可能な限り逆の見積もりや設定、評価を行っていく可能性があると考えられます。
所得相応性基準の適用においては、超過利益の配分を巡り納税者と親会社所在地の税務当局の間には、対立する立場となる可能性があり、DCFの適用において、超過利益の帰属をどのように配分していくかについて戦略的に検討していくことも必要ではないかと考えられます。
※文中、意見にわたる部分は執筆者の私見であり、EY税理士法人の見解ではない旨、申し添えます。
EY Tax controversy team
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