減価償却資産に係る圧縮記帳の会計・税務処理 ~減価償却と圧縮積立金の取崩との関係~

公認会計士 太田 達也
 

圧縮記帳制度の趣旨

圧縮記帳制度は、税務上の課税の特例です。一定の要件を満たす場合に、課税の繰延が認められます。なぜこのような制度が置かれているのか、その趣旨をまず理解することが必要です。

国庫補助金等の交付を受けたときの受贈益、保険金の交付を受けたときの保険差益、固定資産の交換に伴う交換差益、収用等によって生じた譲渡益などは、本来、資本等取引以外の取引によって生じたものであり、税務上、益金の額に算入されますので、課税所得を構成します。しかし、これらのものを原則どおり課税しますと、さまざまな弊害が生じ得ます。例えば、国庫補助金等の交付を受けたときに、その受贈益に対して課税すれば、予定していた資産の取得が場合によってはできなくなり、補助効果が減殺されてしまうという問題が生じます。保険差益も、法人の意思に反して実現したものであり、これに直ちに課税しますと災害の復旧を妨げる要因となります。収用等が行われて生じた譲渡益についても、強制力が働いて生じた実現益であり、これに課税すると公共事業の促進を阻害するという問題が生じ得ます。

 圧縮記帳という制度は、政策的理由から、国庫補助金等に係る受贈益、保険差益、収用等により実現した譲渡益等について、一定の要件を満たしていることを条件として、その利益を原資として取得した資産の取得価額を減額することにより、課税の繰延を行うことを目的としています。資産の取得価額の減額分について損金算入が生じますが、国庫補助金等に係る受贈益、保険差益または収用等により実現した譲渡益等の益金と相殺関係になるため、課税が繰り延べられることになります。

取得価額が減額されることによって、減価償却の計算の基礎となる金額、または譲渡原価・除却損失がそれだけ少額となり、翌期以降の課税所得が多くなります。要するに、圧縮記帳は課税の繰延(延期)であって、将来において税金の取戻しが行われる制度であり、免税制度ではありません。

 

減価償却資産に係る圧縮記帳の会計・税務処理

減価償却資産を圧縮記帳したときの処理について、設例により解説します。積立金方式(剰余金の処分により圧縮積立金を積み立てる処理方法)の場合、会計上の取得価額と税務上の取得価額との差異に起因する減価償却超過額が生じる点がポイントになります。

設例 圧縮積立金の積立ておよび取崩に係る会計・税務処理

前提条件

当期末に圧縮記帳の対象資産である機械装置(耐用年数10年、定額法償却率0.100)を5,000万円で取得しました。圧縮記帳(圧縮限度額2,000万円)は当期に行い、減価償却は翌期から行うものとし、利益は対象資産の圧縮記帳と減価償却を除いたところで各期とも3,000万円とします。また、法定実効税率は30%、税務調整項目は他にはないものとして説明します。

Ⅰ 圧縮積立金の積立てに係る処理

1. 会計処理

圧縮記帳につき直接減額方式(損金経理により帳簿価額を直接減額する処理方法)による場合、2,000万円が費用または損失として計上されます。しかし、圧縮記帳は課税の繰延にすぎないため、企業会計上損益に影響させるべきではなく、原則として直接減額方式は適当ではありません。積立金方式を適用するものとします。

積立金方式による場合、原則として、法人税等の税額計算を含む決算手続として会計処理を行うことになります。具体的には、積み立てる事業年度の決算において剰余金の処分により圧縮積立金を計上して貸借対照表に反映させるとともに、株主資本等変動計算書に記載し、株主総会または取締役会で当該財務諸表を承認することになります(企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」第25項)。

なお、剰余金の処分による任意積立金の積立ては原則として株主総会の決議事項ですが、圧縮積立金の積立ては法令の規定に基づく剰余金の増減項目に該当し、株主総会の決議は不要です(会社法452条、会社計算規則153条2項)。

本事例の場合、圧縮記帳により2,000万円の将来加算一時差異が発生し、それに対して法定実効税率30%を乗じた600万円の繰延税金負債を計上します。

仕訳表1

(株主資本等変動計算書)

(株主資本等変動計算書)
2. 税務処理

(1) 別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の記載

本事例につき直接減額方式による場合、所得金額は圧縮損2,000万円が損金算入され、1,000万円となります。

これに対し、積立金方式の場合には利益が減少しないため、所得金額の計算上、同様の効果を持たせるために繰延税金負債控除前の2,000万円を別表四で減算します。実務上はこの際、確定申告書に「積立金方式による諸準備金等の種類別の明細表」を添付して税効果会計適用前の金額を明らかにすることになります※1

また、圧縮積立金に係る繰延税金負債に対応する法人税等調整額600万円につき、所得計算に影響しないよう加算します。この結果、所得金額は直接減額方式の場合と一致します。

※1 「積立金方式による諸準備金等の種類別の明細表」につき、従来は旧会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」の別紙として参考例が記載されていたところ、同委員会報告は、平成30年2月16日付で企業会計基準委員会から企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等が公表されたことを受けて廃止されています。実務上は従来どおり有効に取り扱われるものと考えられます。

別表四「所得の金額の計算に関する明細書」
* 当期利益:3,000-法人税等調整額600=2,400

(2) 別表五(一)「利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書」の記載

株主資本等変動計算書から圧縮積立金の額を、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」から圧縮積立金認定損を、それぞれ転記するとともに、繰延税金負債を転記します。

別表五(一)「利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書」

Ⅱ 減価償却および圧縮積立金の取崩に係る処理

1. 減価償却

(1) 会計処理

本事例につき直接減額方式による場合、減価償却費は(5,000万円-2,000万円)×0.100=300万円となるのに対し、積立金方式による場合には、会計上の取得価額は圧縮記帳前の本来の取得価額とされるため、本事例の機械装置の減価償却費は、5,000万円×0.100=500万円となります。

(2) 税務処理

① 別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の記載

圧縮記帳を行った資産の税務上の取得価額は、直接減額方式および積立金方式いずれの場合も圧縮による損金算入額を控除した後の金額とされます。したがって、本事例の機械装置の減価償却限度額は、(5,000万円-2,000万円)×0.100=300万円となり、積立金方式の場合は減価償却超過額200万円が生じます。減価償却超過額は将来減算一時差異として税効果会計の対象となり繰延税金資産60万円が生じますので、これに対応する法人税等調整額を所得計算に影響させないよう減算します。この結果、所得金額は2,700万円となり、直接減額方式による場合(3,000万円-減価償却費300万円=2,700万円)と一致します。

別表四「所得の金額の計算に関する明細書」
* 当期利益:3,000-減価償却費500+法人税等調整額60=2,560
2. 圧縮積立金の取崩

(1) 会計処理

会計上の減価償却費が税務上の償却限度額を上回ることにより、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との差異が縮小していきますので、圧縮積立金とそれに応じた繰延税金負債を取り崩すことになります。なお、積立ての場合と同様、剰余金の処分による取崩についても、株主総会の承認は不要とされています。

本事例の場合、上記1.で500万円の減価償却を行ったことに伴い、圧縮積立金が税効果分を含めて200万円取り崩され、このうち法定実効税率30%を乗じた60万円の繰延税金負債が減少します。

仕訳表2

(株主資本等変動計算書)

(株主資本等変動計算書)

(2) 税務処理

① 別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の記載

圧縮積立金は、税務上は対象資産を処分するまで減少させず、減価償却に伴う取崩は行いません。会計上取り崩した場合には、税務上は任意取崩として益金算入されます(法基通4-1-1)。本事例の場合、税効果分を含めて200万円が益金算入されます。

ただし、一方において減価償却超過額が生じているため、圧縮積立金の取崩額の範囲内において減価償却超過額を認容減算して損金算入する調整を行うことになります(法基通10-1-3)。

また、繰延税金負債の減少と繰延税金資産の増減に対応する法人税等調整額を所得計算に影響させないよう減算します。この結果、所得金額は2,700万円となり、直接減額方式による場合と一致します。

別表四「所得の金額の計算に関する明細書」
* 当期利益:3,000-減価償却費500+法人税等調整額60(減価償却超過額に係る繰延税金資産の増加60-その認容60+圧縮積立金取崩に係る繰延税金負債の減少60)=2,560

② 別表五(一)「利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書」の記載

株主資本等変動計算書から圧縮積立金の額を、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」から圧縮積立金取崩額を、それぞれ転記するとともに、繰延税金負債および繰延税金資産を転記します。

別表五(一)「利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書」

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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