取締役に対する株式の無償交付に係る会計と税務

公認会計士 太田 達也
 

取締役に対する株式の無償交付制度の創設

令和元年会社法改正前は、取締役に株式を無償交付することはできないとされていたため、いったん取締役に対する報酬決議を行い、取締役の有する金銭債権(報酬支払請求権)を会社に現物出資させる方法により、取締役に株式を交付するスキームが活用されていました。

令和元年会社法改正により、このような現物出資の方法によらないで、取締役に対して株式を無償交付することができるとされました。取締役に適切なインセンティブを付与するために、株式を報酬として交付する意義が重要視されている状況を踏まえた改正であると評価されます。なお、改正後も従来どおり、現物出資方式による交付も可能です。

 

取締役に対する株式の無償交付に係る会計処理

会社法の改正を踏まえて、企業会計基準委員会から、令和3年1月28日付で、実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(以下、「実務対応報告」)が公表されました。改正法の施行日である令和3年3月1日以後に生じた取引から適用することとされています。

実務対応報告では、取締役に対する株式の無償交付について、新株発行による場合と自己株式の処分による場合を分けて会計処理が示されています。また、事前交付型と事後交付型の区別もありますので、全部で4通りの会計処理が示されています。

事前交付型と事後交付型

事前交付型と事後交付型
(注)「権利確定条件」とは、事前交付型においては譲渡制限が解除されるための条件、事後交付型においては株式の発行等が行われるための条件をいう。権利確定条件には、勤務条件や業績条件がある。

なお、実務対応報告は、先の現物出資方式には適用されません。

会計処理は先の4通りの区別に従って定められていますが、以下に主なポイントをまとめています。

事前交付型の会計処理の主なポイント

事前交付型の会計処理の主なポイント
(注)株式の公正な評価額は、公正な評価単価に株式数を乗じて算定する。株式数の算定およびその見直しによる会計処理については、実務対応報告第8項を参照されたい。

事後交付型の会計処理の主なポイント

事後交付型の会計処理の主なポイント

取締役に対する株式の無償交付に係る税務

以上説明しましたように、企業会計上は役員の役務提供期間に対応して報酬費用を計上しますが、税務上は、事前確定届出給与に該当させることにより、「給与等課税額が生ずることが確定した日」の属する事業年度に一括で損金算入することができます。改正会社法に基づく無償交付型の場合の損金算入額は、譲渡制限付株式の交付された時の価額(時価)となります(現物出資方式の場合は「金銭報酬債権の額」)(法令111条の2第4項)。

なお、事前確定届出給与は、所定の時期までに一定の事項を記載した届出書を所轄税務署に提出することが必要ですが、譲渡制限付株式の交付については、一定の手続要件をクリアすることにより、事前の届出書の提出が不要となります(無償交付および現物出資ともに)。実務上は、事前の届出不要な事前確定届出給与として損金算入するケースが多くなると予想されます。

株式の無償交付の会計・税務イメージ

前提条件

  • 譲渡制限期間2年

  • 交付時の時価500

  • 新株発行により交付

  • 事前確定届出給与の要件を満たしているものとする
株式の無償交付の会計・税務イメージ 図

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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