「収益認識に関する注記」における「収益の分解情報」 ~新たに求められる注記事項の趣旨・内容~

公認会計士 太田 達也

収益認識に関する注記

収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することであるとされ(収益認識会計基準80-4項)、その開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の項目を注記すると定められています(収益認識会計基準80-5項)。

  1. 収益の分解情報
  2. 収益を理解するための基礎となる情報
  3. 当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報

ただし、上記に掲げている各注記事項のうち、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については記載しないことができ、また、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、どの程度詳細に記載するのかを開示目的に照らして判断するとされています(収益認識会計基準80-5項ただし書、80-6項)。開示目的に照らして重要性が乏しいと認められるか否かの判断は、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮して行うことになります(収益認識会計基準168項)。

なお、重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができるとされ、また、収益認識に関する注記として記載する内容について、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができるとされています(収益認識会計基準80-8項、80-9項)。

令和3年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。ただし、令和2年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することができ、また、令和2年4月1日に終了する連結会計年度および事業年度から令和3年3月30日に終了する連結会計年度および事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から早期適用することもできるとされています。

以下、「収益認識に関する注記」として掲げられている項目のうちの「収益の分解情報」について解説します。

 

収益の分解情報

損益計算書に表示される収益は、さまざまな財またはサービスの移転およびさまざまな種類の顧客または契約から生じる可能性があり、顧客との多くの契約から生じた複合的な金額です。顧客との契約から生じる認識された収益の内訳を財務諸表利用者が理解できるようにするために求められるものであると考えられます(収益認識会計基準174項)。 当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して注記します(収益認識会計基準80-10項)。

 

収益の分解に用いる区分

収益の分解に用いる区分については、次のような情報において、企業の収益に関する情報が他の目的でどのように開示されているのかを考慮して、決定します(収益認識適用指針106-4項)。

  1. 財務諸表外で開示している情報(例えば、決算発表資料、年次報告書、投資家向けの説明資料)
  2. 最高経営意思決定機関が事業セグメントに関する業績評価を行うために定期的に検討している情報
  3. 他の情報のうち、上記で識別された情報に類似し、企業または企業の財務諸表利用者が、企業の資源配分の意思決定または業績評価を行うために使用する情報

財務諸表利用者とのコミュニケーションにおいて開示している区分や企業が業績評価の目的で利用している区分を考慮するという趣旨です。

収益を分解するための区分の例として次のものが挙げられています(収益認識適用指針106-5項)。

  • 財またはサービスの種類(例えば、主要な製品ライン)
  • 地理的区分(例えば、国または地域)
  • 市場または顧客の種類(例えば、政府と政府以外の顧客)
  • 契約の種類(例えば、固定価格と実費精算契約)
  • 契約の存続期間(例えば、短期契約と長期契約)
  • 財またはサービスの移転の時期(例えば、一時点で顧客に移転される財またはサービスから生じる収益と一定の期間にわたり移転される財またはサービスから生じる収益)
  • 販売経路(例えば、消費者に直接販売される財と仲介業者を通じて販売される財)

収益の分解情報は、単一の区分により開示される場合もあれば、複数の区分により開示される場合(例えば、製品別の収益の分解と地域別の収益の分解)もあると考えられます。また、企業の収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性に影響を及ぼす要因の全てを考慮する必要はなく、「主要な」要因に基づく区分による収益の分解情報を開示すれば足ります(収益認識会計基準178項)。

収益の分解情報で用いる区分を決定するに当たっては、開示目的に照らして、企業グループの実態をよく反映し、財務諸表利用者にとって有用な情報となるように、慎重に判断する必要があると考えられます。

セグメント情報との関係

企業が業績評価の目的で利用している区分については、セグメント情報の報告区分が参考になると考えられます。ただし、セグメント情報では一定の要件を満たしている場合に集約を認める取扱いがありますが、収益認識に関する注記では集約を認める取扱いが置かれていません。セグメント情報の開示よりもより詳細に区分した開示を行う必要も生じ得る点に留意する必要があります。

注記する収益の分解情報と、セグメント情報等会計基準に従って各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記する必要があります(収益認識会計基準80-11項)。

収益を分解する程度については、企業グループの実態に即した事実および状況に応じて決定する必要があります。

IFRS第15号の開示例を分析すると、収益の分解情報とセグメント情報の売上高の対応関係が明らかになるような開示内容が確認できます。例えば、セグメント情報における報告セグメントを横軸に、収益の分解情報の区分を縦軸にとる表形式により、両者の対応関係が明らかとなるような工夫がみられます。

(例)

(例)

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



この記事に関連するテーマ別一覧



企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。