期間帰属方法及び割引率の見直しが適用初年度の財務数値に与える影響 ~退職給付会計基準の改正への実務対応~

公認会計士 太田 達也

期間帰属方法及び割引率の見直し

平成24年5月17日付の「退職給付に関する会計基準」(以下、退職給付会計基準)の改正により、平成26年4月1日以後に開始する事業年度の期首から、期間帰属方法、割引率、予想昇給率など、退職給付債務の計算に関わる重要な改正が予定されています。

第1に、期間帰属方法については、期間定額基準又は給付算定式基準のいずれかを選択し、選択した方法については継続適用が原則とされています。第2に、割引率については、IFRSなどの国際的な会計基準と同様に、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映させるものとされ、例えば①退職給付の支給見込期間及び支給見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、②退職給付の支給見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれるとされています(退職給付会計基準24項)。

なお、早期適用事例の分析が当法人のウェブサイト上の企業会計ナビに掲載されているので、参考としてください。

これらの改正は、原則として、平成26年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用とされている点に留意が必要です。

 

適用初年度の期首における会計処理

期間帰属方法及び割引率の改正のそれぞれが適用初年度の財務数値にどのように影響を与えるかを整理します。

1. 期間帰属方法の改正

従来期間定額基準を採用していて、改正後も期間定額基準を継続する企業については、何も影響はありません。以下、期間定額基準から給付算定式基準に変更する場合を例として解説します。

適用初年度であるX1年4月1日に開始しX2年3月31日に終了する事業年度(X2年3月期)の期首から、期間定額基準から給付算定式基準に変更するものとします。X1年4月1日時点における期間定額基準を適用した場合の退職給付債務と給付算定式基準を適用した場合の退職給付債務が、それぞれ次の数値であったものとします。

期間定額基準

給付算定式基準

1,000

900

繰延税金資産の回収可能性があると判断されるものとし、法定実効税率を35%と仮定すると、次の会計処理が必要になります。

図1
(注1) 会計基準変更前のPBO(1,000)-会計基準変更後のPBO(900)
(注2) (注1)の金額×35%

この会計方針の変更による影響額は、適用初年度の期首における利益剰余金の加減で処理することになります(退職給付会計基準37項)。

2. 割引率の改正

適用初年度の期首(X1年4月1日)において、割引率の取扱いは改正後の退職給付会計基準に従うことになります。

改正後の退職給付会計基準の適用初年度の期首時点(X1年4月1日)において、従来、重要性基準を考慮している場合、改正後の退職給付会計基準に基づく割引率が前期末に用いていたものに比べて重要な変動が生じていないと判断されれば、割引率を見直さないことが認められます。この場合、前期末の割引率を変更せず用いたとしても、改正前の退職給付会計基準を適用しているわけではなく、改正後の退職給付会計基準の考え方・取扱いが適用された上で重要性がないため従前の割引率を使用するという整理になります。この場合は、何も影響はないことになります。

一方、改正後の退職給付会計基準の適用初年度の期首時点(X1年4月1日)において、改正後の退職給付会計基準に基づく割引率が前期末に用いていたものに比べて重要な変動が生じていると判断される場合は、割引率を見直すことになります。その場合の影響額は、先の期間帰属方法の変更に伴う影響額の処理と同様に、適用初年度の期首における利益剰余金の加減で処理することになると考えられます。

なお、期間定額基準から給付算定式基準に会計方針を変更するときの10%ルールによる重要性の判断については、次のように同じ給付算定式基準を適用した場合の退職給付債務を比較して行うものと考えられます。

(前期末の割引率が1.8%、当期首における改正後の退職給付会計基準を適用した実際の割引率が1.6%であったものとします。)

割引率の改正 図

適用初年度の勤務費用及び利息費用に影響

会計方針の変更による影響が、適用初年度の期首における退職給付債務に及ぶ場合は、期首の退職給付債務が変わることにより、適用初年度の勤務費用及び利息費用の額も影響を受けることになります。その場合は、適用初年度の第1四半期会計期間以降の損益に影響が生じることになる点に留意が必要です。

 

10%ルールを適用しないこととした場合の影響額の処理

前期末に用いた割引率により算定した場合の退職給付債務と比較して、当期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときには、重要な影響を及ぼすものとして当期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならないとする、いわゆる10%ルールは存続するものとされました(退職給付に関する会計基準の適用指針30項)。

このルールを形式的に捉えると、10%以上になった途端に(今後、連結上の)退職給付債務の額とその他の包括利益に大きなインパクトが生じることになります。このルールには一部批判的な意見が見られ、10%ルールを適用しないことに変更することを検討している企業があるようです。

10%ルールを適用していた企業が適用しないことに変更する場合は、(退職給付会計基準改正に伴う)会計方針の変更には該当しません。会計方針の変更に該当しないため、割引率の変更に伴う退職給付債務(PBO)差額は、本来であれば数理計算上の差異に含めることが考えられるものの、適用初年度の期首において10%ルールの適用を同時に取り止める場合には、新基準の適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減することができるものとされている点に留意が必要です。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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