連結子会社・持分法適用会社の未認識数理計算上の差異等に係る連結上の会計処理 ~未認識項目の即時認識に関する留意点~

公認会計士 太田 達也
 

連結グループとしての対応

2012年8月掲載の本コラム「退職給付会計基準適用初年度の留意点」において、「退職給付に関する会計基準」の改正事項のうちの未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の即時認識の会計処理を取り上げました。

この未認識項目の即時認識ですが、連結財務諸表について適用されるので、親会社だけではなく、連結子会社及び持分法適用会社も含めて対応する必要があります。親会社は、連結子会社及び持分法適用会社からの適切な情報収集を行い、連結修正手続によって、連結財務諸表に反映しなければなりません。平成25年4月1日以後に開始する事業年度の年度末に係る連結財務諸表から適用されるので、いよいよ本格的な準備に入る段階かと思われます。

 

連結子会社の未認識項目に係る連結上の会計処理

連結子会社が100%子会社であるときは、親会社の未認識項目の連結上の処理と実質同じになると考えられます。ところが、連結子会社が100%子会社でない、すなわち少数株主持分が存在する子会社であるときは、次の点について留意が必要になります。

連結子会社に少数株主が存在する場合、連結子会社の未認識項目のうち少数株主持分割合に対応する額を少数株主持分に振り替える必要があります。その結果、親会社持分相当額のみが「退職給付に係る調整額」に計上されることになります。子会社の支配獲得日以後に生じた未認識項目について、いったん少数株主持分を含めた全額を認識した上で、少数株主持分割合に対応する額を少数株主持分に振り替える点がポイントです。以下、具体例により、その会計処理を見ていきます。

前提条件
連結子会社S社の個別財務諸表上の「退職給付引当金」が100、連結財務諸表上の「退職給付に係る負債」が150とします。両者の差額50は、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用です。

負債科目に係る会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額(ゼロ)との差額は、税効果会計の一時差異になりますが、繰延税金資産の回収可能性はあると判断され、法定実効税率が40%であったものとします。個別財務諸表上、繰延税金資産が40(100×40%)計上されているものとします。また、親会社持分が70%とします。なお、適用初年度(原則どおり期末から適用)であるとします。

仕訳表1

上記の例では、期末の未認識項目(税効果調整後)のうち、親会社持分相当額21は「退職給付に係る調整額」に、少数株主持分相当額9は「少数株主持分」に計上されます。適用初年度ですので、連結包括利益計算書を通さないで、連結株主資本等変動計算書の当期変動額を通して連結貸借対照表の純資産の部に計上されます。

 

簡便法適用の連結子会社についても要注意

連結子会社の中には簡便法を適用している会社もあるかと思います。簡便法を適用している場合であっても、会計基準変更時差異の未処理額がある場合は、即時認識の対象になりますので(「退職給付に関する会計基準の適用指針」130項)、連結財務諸表上に反映させる必要がある点に留意しなければなりません。上記と同様の処理が必要になります。

 

持分法適用会社の未認識項目に係る連結上の処理

持分法適用会社の未認識項目については、投資会社の持分相当額について、連結子会社と同様に、連結財務諸表に反映する必要があります。ただし、持分法はいわゆる「1行連結」であり、投資会社株式を相手勘定として「退職給付に係る調整累計額」に計上することになります。以下、具体例により、その会計処理を見ていきます。

前提条件
持分法適用会社X社の退職給付債務(PBO)100、年金資産50、未認識項目20、個別財務諸表上の「退職給付引当金」が30とします。繰延税金資産の回収可能性はあると判断され、法定実効税率が40%であったものとします。また、投資会社の持分割合が25%とします。なお、適用初年度(原則どおり期末から適用)であるとします。

仕訳表2

上記のように、持分法の場合、連結財務諸表上の「退職給付に係る負債」に反映されるわけではなく、投資会社株式(ここではX社株式)の増減処理で、未認識項目のうちの投資会社の持分額(税効果調整後)を「退職給付に係る調整累計額」に反映させます。

いったん「退職給付に係る調整累計額」に計上されたもののうち費用処理された部分について組替調整が発生しますが、その他の包括利益の調整については連結包括利益計算書の「持分法適用会社に対する持分相当額」として一括表示される点に留意が必要です。また、費用処理するときの科目は退職給付費用ではなく、「持分法による投資損益」に含めると考えられます。

 

持分法適用関連会社がIFRSを適用している場合

持分法適用関連会社が国際財務報告基準(IFRS)を適用している場合の取扱いに留意する必要があります。持分法適用関連会社において、退職給付会計における数理計算上の差異(再測定)をその他の包括利益で認識し、IFRSルールにより費用処理をしないで純資産の部に計上しているときには、過年度に純資産の部に計上された数理計算上の差異については、全額が過年度において、企業会計基準第26 号「退職給付に関する会計基準」に従い、損益として修正されているものとして取り扱うものとされています(実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」の適用時期等(3)②、設例3ご参照)。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。




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