EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 太田 達也
平成23年12月2日付で公布された改正税法(「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」)において、税務上の繰越欠損金に係る改正が行われました。改正点は2点あり、どちらの改正も税効果会計に影響する点に留意が必要です。
以下に、二つの改正内容を説明します。
青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度における控除限度額について、その繰越控除をする事業年度の、その繰越控除前の所得の金額の100%ではなく80%相当額に制限するものとされました。中小法人等については従来どおりであり、所得の金額の100%相当額が維持されます。適用時期は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度です。
税効果会計のルールでは、将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金については、一時差異と同様に取り扱い(税効果に係る会計基準第二.一.4)、回収可能性があると判断されるものについては繰延税金資産を計上することになりますが、今回の改正により繰越欠損金の控除限度額が縮小するので、将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金が減少する影響が生じ得ます。繰延税金資産の一部取崩が必要となるケースも生じ得ます。
繰越欠損金の繰越期間が7年から9年に伸長されることになりました。平成20年4月1日以後に終了した事業年度で生じた欠損金額について改正後の9年が適用されます。
繰越欠損金の繰越期間が7年から9年に伸長されることにより、スケジューリングにより繰延税金資産の回収可能性を判断するに際して、平成20年4月1日以後に終了した事業年度で生じた欠損金額について繰越期間が9年という前提で判断する必要がある点に留意する必要があります。
スケジューリングに基づき、繰延税金資産の回収可能性を判断する上で、上記の二つの改正内容を解消スケジュールに反映して、対応することになります。以下、設例により二つの改正内容が回収可能性の判断にどのように影響するのかを解説します。
税制改正前と税制改正後について、それぞれ繰延税金資産の回収可能性を判断してください。
税制改正前の取扱いは、繰越欠損金の繰越期間が7 年なので、3 年前(平成21年3月期)に生じた欠損金は平成28年3月期に期限切れとなります。
今回の税制改正がなかったと仮定した場合の繰延税金資産の回収可能性があると判断できる税務上の繰越欠損金は、570(=150+140+120+160)となります。この570に対して法定実効税率を乗じて計算した金額が繰延税金資産の計上額になります。
(注) 控除限度額=課税所得×80%
税制改正により、控除限度額が繰越控除前の所得の金額の80%に制限されることとされたので、平成25年3月期以降の課税所得の見積額に対して80%を乗じて計算した額が繰越欠損金の控除額になる前提で回収可能性を判断します。
また、繰越欠損金の繰越期間が7年から9年に延長されたので、3年前(平成21年3月期)に生じた欠損金は平成30年3月期末に期限切れとなります。ただし、監査委員会報告第66号の業績区分(5区分)が3の会社のため、将来の合理的な見積可能期間として5 年内の課税所得の見積額を限度とすることになるため、平成29年3月期末の欠損金残高424については、繰延税金資産を計上できないことになります。
繰延税金資産の回収可能性があると判断できる税務上の繰越欠損金は576(=120+112+96+128+120)となり、税法改正前と比較して、6だけ増加することとなります。
以上のように、繰越欠損金の控除限度額が所得の金額の80%に制限されることによるマイナスの影響と、繰越欠損金の繰越期間が7年から9年に伸長されることによるプラスの影響がそれぞれ働いたことにより、本設例の場合は繰延税金資産の計上額が少しだけ増加しています。通常は、マイナスの影響が働くケースの方が多いように思われます。
税務上、繰越欠損金の繰越控除を行う上で、帳簿書類の保存要件が課せられている点に留意が必要です(法法57条10項、58条5項、81条の9 第7項)。具体的には、帳簿書類の保存期間は、平成20年4月1日以後に終了する事業年度に係る帳簿書類から、9年間保存しておく必要があることになります。より正確には、9年前または8年前の事業年度が欠損事業年度であった場合に、帳簿書類の保存期間は9年間分ということになります。
帳簿書類の保存期間について、社内規定を7年のままにしている会社の例が見受けられますが、9年に改定しておかないと、改正のメリットが発生しない点に留意が必要です。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。