EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター
公認会計士 泉家章男/槙田篤史/竹下大介/吉野 緑
映画配給には、映画興行会社、配給会社それぞれの役割があり、収益認識の考え方について整理すると次のようになります。
映画興行会社は劇場運営を行っており、劇場の入場料である興行収入が収益として計上されます。興行収入は、当日券、前売券、優待券などのチケットが劇場に着券した時点で認識される仕組みになっており、それぞれのチケット単価に入場人数を乗じた金額で計算されます。
また、そのほかにも劇場でのフード・ドリンク等の販売によるコンセッション収入や映画の関連グッズやパンフレット等の販売による売店収入が収益として計上され、特にコンセッション収入については、映画興行会社における重要な利益の源泉の一つとなっています。
このうち、映画の関連グッズやパンフレット等の販売については、買取販売を行う場合と委託販売を行う場合があり、収益認識に関する会計基準等における本人・代理人取引のいずれに該当するか(収益を総額で表示するか純額で表示するか)を判断する必要があります。
この点、本人と代理人のどちらに該当するかについては、企業が提供する財又はサービスが顧客に提供される前に企業が支配(※)している場合は本人に該当し、支配していない場合は代理人に該当すると判断することになります(企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」)第42項)。ただし、当該支配の定義を満たしているかどうかの判断が必ずしも容易でないことから、適用指針第47項では、当該支配の有無を判断するために考慮する三つの指標の例が次のとおり示されています。
(※)企業が財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していること
(1) 企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること。これには、通常、財又はサービスの受入可能性に対する責任(例えば、財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての主たる責任)が含まれる。
企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している場合には、当該財又はサービスの提供に関与する他の当事者が代理人として行動していることを示す可能性がある。
(2) 当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること
顧客との契約を獲得する前に、企業が財又はサービスを獲得する場合あるいは獲得することを約束する場合には、当該財又はサービスが顧客に提供される前に、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
(3) 当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること
財又はサービスに対して顧客が支払う価格を企業が設定している場合には、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある。例えば、代理人は、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、価格の設定について一定の裁量権を有している場合がある。
通常、買取販売については、自己のリスクと責任に基づき商品の仕入れ及び販売を行うことから、本人取引として判断され、商品の提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識することとなります。一方、委託販売については、在庫リスクを負わないことや価格の裁量権を有していない等の理由から、通常、代理人取引として判断され、手数料部分を純額で収益計上することとなります(適用指針第39項、40項)。
配給会社は、映画興行会社に対して映画作品の劇場公開を許諾し、当該許諾料として映画興行会社において計上される興行収入に一定割合を乗じた金額を配給収入(映画興行会社にとっての映画料)として受け取ることとなります。この一定割合のことを映画料率といい、実務慣行として、週次で料率が変更されます。一般的には、映画公開日(近年では金曜日からスタートする作品が多い)から始まる第1週に最も高い料率が設定され、週を経過するごとに低下していく仕組みになっています。映画料率の決定時期については、週次で段階的に確定するケースもありますが、興行締めといわれる1作品の映画上映が終了して精算処理する際に映画興行会社と配給会社が交渉し、確定するケースが多いです。また、映画料率の決定単位については、配給会社と映画興行会社が劇場ごとに取り決めているケースが多く、作品及び週によって料率の幅が大きく変更されることが一般的です。
このような流れで決定された配給収入は、映画作品に関する知的財産のライセンス(劇場公開権)に関連して顧客(映画興行会社)が使用又は売上高を計上するときに収益を計上することが求められるところ(適用指針第67項)、実務的には、映画興行会社から日次、週次及び月次で興行成績の報告を受けた時点で、当該報告に基づき配給収入として収益を認識することとなります。しかし、前述したように映画料率が興行締めまで確定しないケースでは、過去の実績料率など企業が合理的に入手できる情報を踏まえ、認識した収益の著しい減額が生じない金額を、各決算日において見積もる必要があると考えられます(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、会計基準)第51、54項)。
なお、前述のような歩合制ではなく、定額で劇場上映を許諾するような実務慣行もまれにあります。通常、映画作品の上映許諾はライセンスの使用権に該当するケースが多いと考えられるため、映画公開日である許諾開始日に売上計上されることとなります(ライセンスの使用権については、「2.二次利用権(マルチユース)に係る収益認識」にて詳述します)。
また、配給会社は、配給収入からトップオフ経費といわれるP&A(Printing & Advertising)費等の必要経費の金額を控除したのち、一定割合を乗じた金額を配給手数料として自社の収入とし、残額を権利者に支払います。図に表すと次のようになります。
この点、配給会社が行う配給業務について、企業が本人か代理人のいずれに該当するかを判断する必要がありますが、配給会社は配給権を有していること、配給宣伝業務や配給営業(映画館のブッキング)等の配給業務における重要な活動を行うなど主たる責任を有していること、映画料率に関する一定の価格裁量権を有していること、トップオフ経費が配給収入で回収できない場合は当該損失を配給会社が負担するなど一定のリスクを負っていること等の理由から、本人に該当すると判断するケースが多いと考えられます。
二次利用権は、オリジナルの映像作品をインターネット配信やテレビ放映する権利、BD/DVDなどのパッケージ商品にする権利、航空機内で上映する権利等のことをいいます。
これらは、権利元の製作者が所有する映像作品に関する知的財産権(著作権)に対する各種の権利の利用を顧客に許諾するものであることから、適用指針第143項に該当し、会計上は「ライセンスの供与」として取り扱われることになります。
このとき、製作者はライセンスの許諾時点で存在する映像作品を使用する権利を顧客に許諾することになり、かつ映画等の映像作品は一般に独立した機能性を有し企業の活動による影響を受けないことから(適用指針第150項参照)、このような形態のライセンス許諾は適用指針第62項(2)に規定するライセンスの使用権に該当すると考えられます。
ここで、ライセンスの使用権に該当する顧客との契約は、顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識することになります(適用指針第147項)。
映画作品のBD/DVD化は、オリジナルの映画作品に対する権利を有している製作者又は配給者が自ら行うケースが多く見られますが、製作者等が他のBD/DVD制作会社や海外の映画会社にビデオグラム化権をライセンスアウトするケースも見受けられます。ここでは、このように二次利用権を第三者にライセンスアウトする場合の収益の認識について検討します。
権利元の製作者等が、ライセンシー(許諾を受けた者)に対して映像マスターを引き渡した後にライセンシーに対して重要な履行義務を負っていない、すなわち、ライセンスの供与のみが約束されているケースでは、契約におけるライセンス開始日までに映像マスターを引き渡すことにより契約上の履行義務が完了することになります。前述したように映画等の映像作品に関するライセンスは使用権に該当することが一般的であるため、このような場合には、ライセンシーに映像マスターが引き渡され(あるいはライセンシーが映像マスターをいつでも使用可能な状態になっており)、かつ契約におけるライセンス開始日が到来し、顧客がライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識することが適切と考えられます。
権利元の製作者等が、ライセンシーに対して映像マスターを引き渡した後においても、インターネット配信等又はBD/DVDソフトへの製作協力や協同プロモーション等を行う等、ライセンスの供与に加えて他の財又はサービスの提供が約束されている場合は、映像マスターを引き渡したのみでは、契約上の義務債務の履行が部分的にしか完了していないことになります。このように、ライセンス許諾と別個の財又はサービスが存在する場合は、取引価格をそれぞれの履行義務に配分し、それぞれの履行義務を充足したとき又は充足するにつれて収益を認識することが適切と考えられます(会計基準第32項、35項、65~66項)。
一方で、前述のような製作協力等が、単独又は容易に入手できる他の資源との組み合わせで便益を得られるものでない場合や、映像マスターの引き渡しと高い相互依存性があるような場合には、それらを一体として会計処理することになります。この場合は、履行義務の充足時点、つまり製作協力等の終了の時点又はライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点のいずれか遅い時点で収益を認識することになると考えられます(会計基準第39項)。
一時金のように固定額ではなく、ライセンシーにおける売上に連動した一定の歩合に基づいてライセンス料が決定される場合があります。
これまでのわが国における実務において、歩合制によるライセンス料については、ライセンシーからの報告書到着日に売上を計上する実務が一般的に行われていました。この点、当該ライセンス料はライセンシーにおける売上高等に応じて契約で規定された方法で計算された使用料として権利元の製作者に支払われるものであることから、適用指針第67項にいう「売上高又は使用量に基づくロイヤルティ」に該当することになり、同項の規定により次の(ア)又は(イ)のいずれか遅い方で収益を認識することになります。
(ア)知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時
(イ)売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時
通常、権利元の製作者等がライセンシーに対して映像マスターを引き渡した後に、ライセンシーは当該映像マスターを使用して売上高を計上することとなります。そのため、上記(ア)のタイミング、つまりライセンシーが売上高を計上するとき(通常、知的財産のライセンスを使用するときも同じ時点と考えられます)が収益認識のタイミングと考えられます。
このように収益認識に関する会計基準等では、通常、知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上するときに収益を認識することが求められますが、決算が確定するまでの間にライセンシーがどの程度売上高を計上しているかを把握できず、原則的な会計処理が適用できないケースもあります。このような場合には、一般的な変動対価の制限も考慮した上で収益を見積もることになると考えられます。
具体的には、権利元の製作者等においてライセンシーからの報告書到達日が決算日後となるような場合おいては、ライセンシーから速報値等を入手するなど、企業が合理的に入手できる情報を踏まえ、認識した収益の著しい減額が生じない金額を、各決算日において見積もる必要があると考えられます(会計基準第51、54項)。
しかし、実務的には、ライセンシーのITシステムが対応できないことやライセンシー側での売上計上が可能となるタイミングが遅く速報値等を入手できない場合、関連市場における公表データと過去の歩合部分の売上高との相関性がなく自社での見積りが著しく困難な場合、またそれらの理由も含めて会計上の見積りの仮定が多数あり計算方法が複雑な場合など、合理的な見積りを行うことが困難なケースもあると考えられ、その場合には、ライセンシーからの報告書の入手時など、変動対価の不確実性が解消されたときに確定額の収益が認識されることになると考えられます。
ライセンス料について、返還不要の最低保証金額(ミニマムギャランティー)が設定され、ライセンシーがミニマムギャランティーを超過する収入を獲得した場合に、当該超過部分について一定の歩合に基づき、収益の分配を受けるというケースがあります。
この場合のミニマムギャランティー部分についての考え方は、前述の(1)と同様です。すなわち、権利元の製作者等が、ライセンシーに対して映像マスターを引き渡した後は、ライセンシーに対して重要な履行義務を負っていないような場合には、ライセンシーに映像マスターが引き渡され(あるいはライセンシーが映像マスターをいつでも使用可能な状態になっており)、かつ契約におけるライセンス開始日が到来した時点で収益を認識することが適切と考えられます。一方、ライセンシーに対するライセンス許諾とは別の重要な履行義務が存在する場合には、取引価格を当該履行義務に配分の上、履行義務を充足したとき又は充足するにつれて収益を認識することが適切と考えられます。
また、歩合部分についての考え方は前述の(2)と同様です。すなわち、ライセンシーが売上高を計上するタイミングで権利元も収益を認識しますが、適時に情報を入手できない場合には一般的な変動対価の制限も考慮して見積り計上を行う必要があります。さらに、実務的に見積り計上が著しく困難な場合には、変動対価の不確実性が解消されたときに確定額の収益が認識されることになると考えられます。