EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 七海 健太郎
EY税理士法人 アシスタントマネージャー 發知 謙次
いわゆる「グループ法人税制」は、平成22年度税制改正により導入された税制で、平成22年10月1日以後行われた取引が対象となります。主な内容は①100%グループ内法人間の資産譲渡による損益の繰延べ②100%グループ内法人間の寄附金についての二重課税排除がなされることです。グループ法人税制の対象となる取引については、一時差異が発生することとなるため、その一時差異について税効果会計の検討対象となります。
なお、"100%グループ内法人間"とは、完全支配関係を有する内国法人間のことを意味します。
100%グループ法人間の寄附については、寄附を行った法人においては全額損金不算入となり、寄附を受けた法人においては全額益金不算入となります(連結納税制度を採用している場合も同様)(法人税法第25条の2、第37条第2項)。
この取扱いにより100%グループ内で寄附を行った場合の二重課税が排除され、課税を生じさせることなくグループ内で価値の移転が可能となります。しかし、100%グループ内で寄附を行うことによって、寄附金を支出または受領した法人の株式を売却した際の税務上の株式譲渡損益を操作することが可能となるため、投資価額修正の規定が設けられ(法人税法施行令第9条第1項第7号、第119条の3第6項)、そのような操作が防止されています。これは、支出法人の株式を有する法人が、支出法人の株式の帳簿価額を寄附金の損金不算入額相当分(持分割合を乗じた額)減額するとともに、受領法人の株式を有する法人が、受領法人株式の帳簿価額を受領した寄附金の益金不算入額相当分(持分割合を乗じた額)増額させるというものです。
【設例1a】において、仮に当該税務規定(投資価額修正の規定)が存在しないとすると、P社はA社からB社に対し200の寄附を行わせることによってA社の価値(純資産)を1,800に減少させ、その純資産価額1,800でA社株を譲渡する結果、(A社株の税務上の簿価は2,000のままのため)税務上200の損失を発生させることが可能となります(また、B社株を譲渡すれば、税務上200の益金を発生させることが可能となります)。このような株式譲渡損益の操作を防ぐために投資価額修正の規定が設けられ、【設例1a】においてはP社におけるA社株式の税務上の簿価を、当初の2,000から寄附金の損金不算入額相当の200を減額し、1,800に調整します。また、P社におけるB社株式の税務上の簿価を、当初の2,000から受領した寄附金の益金不算入額相当の200を増額し、2,200に調整します。
【設例1a】
<前提>
次の【設例1b】は、P社のB社に対する直接持分割合が70%のケースです。P社におけるB社株式の税務上の簿価は、B社が受領した寄付金に持分割合を乗じた額だけ調整されます。
【設例1b】
<前提>
100%グループ内寄附金に伴う税務上の投資価額修正により、子会社株式などの簿価が会計上と税務上とで乖離(一時差異)しますが、譲渡時などにその乖離が解消することとなるため、当該一時差異が税効果の対象となります(個別税効果実務指針第8項、第10項)。
【設例1a】においては、P社におけるA社株式の会計上の簿価2,000が(投資価額修正後の)税務上の簿価1,800を上回るため、その差額である将来加算一時差異に対し、原則として繰延税金負債を計上する必要があります。また、P社におけるB社株式の会計上の簿価2,000が(投資価額修正後の)税務上の簿価2,200を下回るため、その差額である将来減算一時差異に対し、繰延税金資産の計上を検討する必要があります。
税効果の検討に当たっては、個別税効果実務指針第16項、第24項にあるとおり、将来減算一時差異については、繰延税金資産の回収可能性を検討した上で計上し、将来加算一時差異については、当該株式を譲渡する予定がなくとも原則として繰延税金負債を計上します。
この原則的な取扱いは、連結納税制度上の投資価額修正、すなわち他の連結納税会社株式を譲渡等した場合の税務上の投資価額修正(減額修正)について、予測可能な将来の期間にその譲渡を行う意思がない場合には繰延税金負債を認識しないことが適当(「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」Q6)とする特段の取扱いが定められていることと、相違している点に留意が必要です。
【設例1a】での損益計算書抜粋
税務上は、経済的合理性に従って活動する法人間において、資産譲渡取引は時価で行われるものと考えます。つまり、仮に時価を下回る対価で資産を譲渡した場合(低廉譲渡)でも時価で譲渡したものとみなされます。具体的には、譲渡法人において時価差額を譲渡益に加算するとともに、同額を寄附金として認識します。また同時に、譲受法人においては寄附を受けたものとみなし、時価差額を取得資産の簿価に加算するとともに、同額を寄附の受贈益として取り扱うこととしています。逆に時価を上回る対価で資産を譲渡した場合(高額譲渡)には、譲渡法人において時価差額を寄附の受贈益として認識し、譲受法人においては時価差額を寄附金として取り扱うとともに、取得資産の簿価から減額することとしています。
この基本的な考え方は、グループ法人税制においても相違ありませんので、100%グループ内で低廉譲渡や高額譲渡がなされた場合には、時価差額が100%グループ内の寄附として取り扱われます。
例えば、【設例1a】において×2年に寄附ではなくA社が保有している時価2,600の資産についてB社へ簿価2,000での譲渡が行われたとします。これは低廉譲渡となり、譲渡価額と時価との差額600については寄附金相当として、A社においては損金不算入、B社においては益金不算入とした上で、P社で投資価額修正を行う必要があります。また、このケースでは簿価での売却のため会計上の利益は発生していませんが、税務上は時価2,600で譲渡したとみなされ、差額600について通常は税務上の売却益として認識します。しかし、次項3.での解説のとおり、100%グループ内の資産譲渡による損益については、一定の要件を満たすまで繰り延べられることとなります。
税務上、100%グループ内法人間の資産(「譲渡損益調整資産」に限る)の譲渡により発生した損益は、譲渡法人側において繰り延べられ、譲受法人側で譲渡・償却・評価替・貸倒れ・除却等の事由が生じた際に、譲渡法人側において税務上の損益として認識されます(法人税法第61条の13第1項、第2項)。
100%グループ内法人間の資産譲渡取引について、全てが税務上譲渡損益繰り延べの対象となるわけではなく、対象となる資産は「譲渡損益調整資産」に限定されています。譲渡損益調整資産には、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含む。棚卸資産に該当するものも対象)、有価証券(譲渡法人側又は譲受法人側で売買目的有価証券とされるものを除く)、金銭債権及び繰延資産のうち、譲渡直前の税務上の帳簿価額が1千万円以上のものが該当します。なお、1千万円以上か否かは次の表の区分ごとの単位で判定します。
土地以外の棚卸資産は譲渡損益調整資産になりませんが、保有目的により固定資産か棚卸資産かの区分が異なる資産については、その判定は譲渡法人側の区分で行います。例えば、譲渡法人である車両メーカーが棚卸資産として保有する車両を、譲受法人が固定資産として使用する場合、棚卸資産の譲渡として取り扱われ、譲渡損益の繰り延べ対象とはなりません。
区分 |
単位 |
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金銭債権 |
債務者ごと |
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減価償却資産 |
建物 機械及び装置 その他の減価償却資産 |
一棟ごと(マンション等については住戸等ごと) 一の生産設備又は一台もしくは一基(通常一組又は一式が取引単位となる場合はその単位)ごと 上記「建物」又は「機械及び装置」の単位ごと |
土地等 |
一筆ごと(一体として事業の用に供される一団の土地等は、その単位) |
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有価証券 |
銘柄ごと |
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その他の資産 |
通常の取引単位ごと |
このグループ法人税制における100%グループ内の法人間の譲渡損益の繰り延べは、連結納税制度において連結納税会社間で譲渡損益調整資産を譲渡した場合の譲渡法人における譲渡損益の繰り延べと、同様の取扱いとなっています。
グループ法人税制に関する税効果会計