ストック・オプション 第5回:条件変更があった場合の会計処理

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1. 条件変更の意義


ストック・オプションに係る条件変更とは、「付与したストック・オプションに係る条件を事後的に変更し、ストック・オプションの公正な評価単価、ストック・オプション数又は合理的な費用の計上期間のいずれか一つ以上を意図して変動させること」をいいます(会計基準第2項(15))。ここで、ストック・オプションの条件変更に関するポイントをまとめると、以下のように整理することができます。

(1) 「意図的な」変更であること

ストック・オプションの条件変更は、ストック・オプションを付与した企業が当初の条件を「意図的に」変更する場合をいいます。他方、ストック・オプションの付与日から権利確定日までに、ストック・オプションの失効の見積数に重要な変動が生じた場合でも、企業の意図によらない変動の場合には条件変更とはせず、その影響額は失効の見積数の見直しを行った期の損益として計上します(会計基準第7項(2))。

(2) 「公正な評価単価」、「ストック・オプション数」、「合理的な費用の計上期間」の一つ以上の変更であること

ストック・オプションの条件変更は、以下の3類型の変更に区分できます。

  • ストック・オプションの公正な評価「単価」
  • ストック・オプション「数」
  • 合理的な費用の計上「期間」

従って、ストック・オプションの条件変更に関する会計処理は、上記3類型のうちどの変更に該当するかを判断することが重要です。
 

2. ストック・オプションの公正な評価単価を変動させる条件変更


ストック・オプションの公正な評価単価は付与日現在の価値で算定し、原則としてその後の価値の見直しは行いません(会計基準第6項(1))。しかし、ストック・オプションの行使価格の変更のように、公正な評価単価を変動させた場合には、前提とされる付与日における公正な評価単価の修正が行われたと考えられます。この場合、条件変更による公正な評価単価と付与日における公正な評価単価との関係により、以下のように区別されます。

(1) 「条件変更日における公正な評価単価>付与日における公正な評価単価」のケース

このケースの場合、会計処理は以下の2段階の処理を行います(会計基準第10項(1))。

a) 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価に基づく公正な評価額(A)による条件変更前からの費用計上を継続して行う。

b) 条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が、付与日における公正な評価単価を上回る部分に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の増加額(B)につき、以後追加的に費用計上を行う。

上記の説明を図示すると、以下のようになります。


「条件変更日における公正な評価単価>付与日における公正な評価単価」のケース

(2) 「条件変更日における公正な評価単価≦付与日における評価単価」のケース

このケースの場合、会計処理は(1)a)の処理のみを行います(会計基準第10項(2))。

例えば、行使価格を引き下げることにより、ストック・オプションの条件を従業員により価値のあるものにした場合であっても、条件変更後のストック・オプションの公正な評価単価が、なお付与日における公正な評価単価の水準までは回復しないケースが考えられます。この場合、(1) のケースと同じ会計処理を求めるとすると、ストック・オプションの条件を、従業員等にとってより価値のあるものとすることにより、かえって費用を減額させるという矛盾が生じます。このような矛盾を回避するために、条件変更前からの処理のみを継続して行うことになります。
 

3. ストック・オプション数を変動させる条件変更


このケースは、例えば、権利確定条件を緩和することにより、権利不確定による失効見込数が変動した場合が該当します。

ストック・オプションの公正な評価額は、付与日における公正な評価単価にストック・オプション数を乗じて算定されますが、ここでいうストック・オプション数は、権利不確定による失効見積数を控除して算定されます。なお、付与日から権利確定日までの間に、権利不確定による失効見積数に重要な変動が生じた場合には、これに応じてストック・オプション数を見直す必要があります(会計基準第5項、第7項)。

ただし、上記の失効見積数の重要な変動とは、企業が「意図しない」変動であり、企業が意図的にストック・オプション数を変動させる条件変更とは、会計処理が異なります。

ストック・オプション数を変動させる条件変更の場合には、以下の2段階の会計処理を行います(会計基準第11項)。

a)条件変更前から行われてきた費用計上を継続して行う。

b)条件変更によるストック・オプション数の変動に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の変動額を、条件変更日以降残存期間にわたり費用計上する。

上記をまとめると、下表のとおりです。

ストック・オプション数の変動に対する企業の意図

会計処理

あり

a) 条件変更前から行われてきた費用計上を継続して行う。

b) 条件変更によるストック・オプション数の変動に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の変動額を、条件変更日以降残存期間にわたり費用計上する。

なし

失効数の見積数の重要な変動に基づいて見直されたストック・オプション数に基づいて計算された、費用として計上すべき額と、それ以前に費用計上された累計額の差額を、見直しが行われた期の損益として計上する。


4. 費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更


このケースは、対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)を変更した場合が該当します。

費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更は、厳密に言えば、企業と従業員等の間で締結された契約の対象である役務サービスの内容そのものが変更されてしまうため、取引としての同一性を失い、別の報酬に置き換わるとも考えられます。

しかし、行使価格引き下げの際に合わせて対象勤務期間の延長が行われることも考えられるため、対象勤務期間の延長や短縮の場合には、条件変更の問題として取り扱うこととされています(会計基準第58項)。

費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更の場合には、以下の会計処理が必要になります(会計基準第12項)。

  • 当該条件変更前の残存期間に計上すると見込んでいた額を、合理的な方法に基づき、新たな残存期間にわたって計上する。
     

5. 複合的な条件変更


会計基準及び適用指針では、ストック・オプションに係る条件変更を、「公正な評価単価」「ストック・オプション数」「合理的な費用の計上期間」の3類型に区分して整理していますが、実際には3類型の条件変更が同時に存在するといった複合的な条件変更も存在すると考えられます。例えば、行使価格の引き下げと対象勤務期間の延長といった複数の条件変更が同時に行われる場合以外にも、対象勤務期間の延長が費用の合理的な計上期間を変動させるほか、権利確定条件の変更を通じてストック・オプション数(失効見積数)を変動させる場合も想定されます。

このような、複合的な条件変更が行われた場合でも、会計基準では、上記3類型に分解し、各類型別に変動の影響を算定するよう求めています(会計基準第59項)。



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