わかりやすい解説シリーズ「退職給付」 第3回:退職給付費用

公認会計士 内川 裕介
公認会計士 七海健太郎

1. 退職給付費用


【ポイント】
退職給付費用は、1会計期間の退職給付引当金の増加額であるとともに、企業の退職給付に関して発生したコストを示すものです。退職給付費用を構成する内容について、要因別に検討してみたいと思います。

※この回では個別財務諸表における処理を前提としています。連結財務諸表の処理については第4回をご参照ください。

第2回でも触れましたが、退職給付費用を構成する項目は、以下の図表の項目です。

【図3-1】

図3-1

以下、退職給付費用を構成するそれぞれの項目について、具体的に解説していきます。

2. 勤務費用と利息費用


【ポイント】
勤務費用とは、退職給付見込額のうち当期の労働の対価として発生したと認められる退職給付をいいます。また、利息費用とは、期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいいます。

第1回でも触れたとおり、退職給付債務の毎期発生額は、期間定額基準または給付算定式基準により見積られます。従業員の将来の退職給付見込額は、毎期発生する勤務費用の積み上げですが、一方で退職給付債務は割引計算を行う必要があるため、各期で発生した勤務費用にはその後の退職までの期間に応じて利息費用が発生することになります。

ある1名の従業員について、勤務費用と利息費用の発生を図で示した場合、以下のとおりになります。

【図3-2】

図3-2

上記の図に関して、各期の勤務費用と利息費用を算出するためには、退職を迎える期である第3期から見ていく必要があります。すなわち、第3期における退職給付見込額300を勤務年数で割った金額100が各期の退職給付債務発生額となりますが、当該金額には、それぞれ時の経過に応じて発生した利息費用が含まれています。従って、各期の勤務費用を求めるためには、以下のような割引計算を行い、利息費用と勤務費用を区別して把握する必要があります。

各期別の勤務費用と利息費用は、以下の表のように発生します。

年数

退職給付債務
(期首)

勤務費用①

利息費用②

退職給付債務
(期末)

第1期

96

96

第2期

96

98

2

196

第3期

196

100

4

300


3. 期待運用収益


【ポイント】
期待運用収益とは、年金資産により当期に獲得が期待される、運用上の収益額です。
期待運用収益は、期首の年金資産残高に対して、長期期待運用収益率を乗じることにより算定します。

年金資産とは、従業員への退職給付支払いのために企業が外部の企業年金基金等に掛金の拠出を行い、積み立てている資産をいいます。年金資産は主に株式や債券等から構成されているため、毎期運用上の収益が生じることになります。

しかし、期末の年金資産の実際の運用結果を待ってからでは毎期の退職給付計算に間に合わないため、一定の長期期待運用収益率を用いて期待運用収益を算定し、退職給付計算に反映することとなります。

期待運用収益の発生のイメージを図にすると、以下のとおりです。

【図3-3】

図3-3


4. 数理計算上の差異


【ポイント】
数理計算上の差異とは、退職給付における見積数値と実績数値との差をいいます。数理計算上の差異が発生するパターンとしては、大きく二つに区別できます。
また、数理計算上の差異は費用(又は収益)として処理する際に、遅延認識を行うことができます。

数理計算上の差異とは、退職給付計算において予測と実績が乖離する場合、又は予測数値の修正等により生じる差異をいいます。数理計算上の差異は、主に以下の二つのパターンに起因して発生します。



5. 過去勤務費用


【ポイント】
過去勤務費用とは、退職給付水準を改訂したことなどにより、将来の退職給付見込額が変化し、それによって割引計算し直した場合の、退職給付債務の増減部分をいいます。

退職給付水準が改訂されて、給付水準が上がった場合を前提とすると、過去勤務費用は以下の図表における斜線部分となります。すなわち、給付水準改訂前の退職給付債務と改訂後の退職給付債務の差額のうち、当期以前の期間に属する部分が過去勤務費用となります。

【図3-6】

図3-6

過去勤務費用は、発生した各年度に一括で損益処理する方法のほか、その後の平均残存勤務期間以内の一定の年数により定額法又は定率法で損益処理する方法により会計処理されます。

過去勤務費用は、例えば退職金規定の改訂に伴い給付水準が変更された場合の他、初めて退職給付制度を導入した場合で、計算対象が従業員の過去の勤務期間に及ぶ時などに発生します。

なお、ベースアップにより退職給付債務が変動する場合は、退職金規定の改訂には当たらないため、過去勤務費用には該当しません。

6. 遅延認識


【ポイント】
数理計算上の差異と過去勤務費用は、会計処理の際に遅延認識が認められています。企業が一度採用した遅延認識の方法は、継続的に適用する必要があり、みだりに変更することはできません。

数理計算上の差異と過去勤務費用は、発生した期に一括で損益処理する方法のほか、平均残存勤務期間以内の一定の年数による定額法又は定率法で損益処理する方法、いわゆる遅延認識が認められており、企業は継続適用を条件に、これらの方法を選択適用することができます。企業が遅延認識を採用した場合、数理計算上の差異及び過去勤務費用は発生の翌期以降に未償却部分が残ることになりますが、当該未償却部分はそれぞれ「未認識数理計算上の差異」及び「未認識過去勤務費用」と呼ばれます。

また、それぞれの遅延認識時における処理年数については処理方法と同様、継続適用が求められており、一度採用した費用処理年数を変更する場合には合理的な変更理由が必要となります。なお、償却方法及び償却年数は、数理計算上の差異及び過去勤務費用それぞれごとに設定することができます。

また、数理計算上の差異については、発生した期ではなく、その翌期より損益処理を開始することが特別に認められています。





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