外貨建取引 第3回:外貨建有価証券等の換算と処理

公認会計士 山岸聡

外貨建有価証券等は、決算時において保有目的の分類や種類等に基づき異なる換算方法や処理を求められます。このため、それぞれに求められる処理等を適切に把握することが重要となります。
今回は、外貨建有価証券等の決算時のポイントを整理していきます。
なお、ヘッジ会計に関しては前述しているため、解説の記載から除いています。
 

1.外貨建有価証券の換算と会計処理


(1) 外貨建有価証券の換算方法と換算差額の処理

外貨建有価証券の換算方法と換算差額の処理は、保有目的に応じて次のようになります。

保有目的

 

換算方法

 


処理方法

 

売買目的有価証券

期末換算
外貨による時価×決算時の直物為替相場
期末換算前簿価との差額
有価証券運用損益として処理

業務プロセスに係る内部統制

期末換算
外貨での取得価額×決算時の直物為替相場
期末換算前簿価との差額
為替差損益として処理





当期償却額の換算
外貨建ての当期償却額×期中平均相場
当期償却額
利息勘定の調整として処理

 
期末換算
外貨建ての償却原価法に基づいて算定された価額(※1)×決算時の直物為替相場
期末換算前簿価との差額
為替差損益として処理

子会社株式および関連会社株式

期末換算
取得時の為替相場による円換算額

その他有価証券

 


期末換算(時価のあるもの)
外貨による時価(※2)×決算時の直物為替相場(※2)
期末換算前簿価との差額
評価差額として処理

 
期末換算(時価のないもの)
外貨による取得原価または償却原価(※3)×決算時の直物為替相場
期末換算前簿価との差額
評価差額として処理





期末換算(外貨建債券)※4
外貨による時価×決算時の直物為替相場
時価変動に係る差額※5
評価差額として処理

※1 (外貨建取得原価+外貨建ての償却累計額)となります(実務指針13項)。
※2 その他有価証券の決算時の時価は、原則として期末日の市場価額に基づいて算定された価額となりますが、継続適用を条件として、期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができます。
その場合には、原則として期末前1カ月間の平均相場により換算することに留意が必要です(ただし、継続して適用することを条件として、決算時の直物為替相場により換算することができます。)(実務指針11項なお書き)。
※3 (外貨建取得原価+外貨建ての償却累計額)となります。
なお、期中における償却原価法による当期償却額は、満期保有目的債券と同様に、期中平均相場により円換算し、利息の調整項目として処理します(実務指針15項)。
※4   その他有価証券に属する外貨建債券については、外国通貨による時価を決算時の為替相場で換算した金額のうち、外国通貨による時価の変動に係る換算差額を評価差額とし、それ以外の換算差額については為替差損益として処理することができます(会計基準注解10、実務指針16項)。
※5 (外貨ベースの評価差額×決算時の直物為替相場)


(2) 評価損の換算方法と処理

a. 著しい下落または低下の判断

外貨建有価証券(売買目的以外)について、時価の著しい下落または実質価額の著しい低下の事実が生じている場合には、評価額の引き下げが必要となります(実務指針18項、19項)。
引き下げの必要性認識・測定と判断は、時価の有無に応じて次のようになります。


時価または実質価額

認識・測定方法

判断基準

時価のある外貨建有価証券

外貨建ての時価

外貨建ての時価と外貨建ての取得価額とを比較※1

時価が著しく下落し、かつ回復する見込みがない場合※2

時価のない外貨建株式

外貨建ての1株当たり純資産※3

外貨建ての実質価額と外貨建ての1株当たりの取得原価とを比較

実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下したとき

※1 外貨建その他有価証券のうち債券について、時価の著しい下落は生じていなくても、円相場の著しい上昇により、円換算後の金額が著しく下落するときには、外貨建ての時価を決算時の為替相場により円換算し、この場合に生じる換算差額を当期の損失として処理します(実務指針19項なお書き)。

※2 時価が「著しく下落した」場合とは、必ずしも数値化できるものではないため、金融商品に関する会計基準等に従い、状況に応じて慎重に判断する必要があります(金融商品会計に関する適用指針91項)。

※3 外貨建ての実質価額の算定に当たり、資産等の時価評価のための資料が合理的に入手できる場合には、当該資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して外貨建ての実質価額を算定します。

b. 評価額の引き下げ

評価額の引き下げが必要と判断された場合、引き下げ後の外貨建有価証券の換算と換算差額の処理方法は次のようになります(実務指針18項、19項)。

換算方法

換算差額の処理方法

時価のある外貨建有価証券

外貨建ての時価×決算時の直物為替相場

当期の有価証券の評価損として処理

時価のない外貨建株式

外貨建ての実質価額×決算時の直物為替相場※

当期の有価証券の評価損として処理

※ 著しい物価変動等を起因とした為替相場の変動の著しい状況において、実質価額の著しい低下により評価額の引き下げが求められる時価のない外貨建有価証券については、再評価(インフレ会計適用により実質的に再評価している場合を含む)後の外国通貨による実質価額を決算時の為替相場により円換算した額を付すことができます。

 

2. 外貨建保有転換社債型新株予約権付社債および外貨建保有転換社債の決算時の会計処理


外貨建保有転換社債型新株予約権付社債および外貨建保有転換社債の決算時の円換算は、保有目的に応じて次のように行います(実務指針19-9項、21項)。
なお、子会社または関連会社により発行されたものは、転換請求の可能性に応じて処理が異なります。


保有目的

換算方法

 

処理方法

 

売買

期末換算外貨による時価×決算時の直物為替相場期末換算前簿価との差額
有価証券運用損益として処理

その他

期末換算(時価あり)
外貨による時価×決算時の直物為替相場
期末換算前簿価との差額
評価差額として処理

 

期末換算(時価なし)
外貨による取得原価または償却原価×決算時の直物為替相場
期末換算前簿価との差額
評価差額として処理

子会社または関連会社により発行されたもの

 

期末換算
外貨による取得価額×取得時の為替相場

 

期末換算(転換請求の可能性がないと認められるもの※)
外貨による取得価額×決算時の直物為替相場
期末換算前簿価との差額
為替差損益として処理

※ 転換請求の可能性がないと認められる場合とは、外貨ベースで、当該転換社債の転換価格が転換の対象となる株式の相場を大きく上回り、転換請求期間満了前に相場の相当な変動(過去の変動額に基づき現在の株価、為替相場およびその他の要因を考慮して予測したもの)があっても、これを逆転するとは考えられない状況をいいます(実務指針22項)。

 

3. 外貨建保有新株予約権の決算時の換算方法


外貨建保有新株予約権は、保有目的区分に応じて売買目的有価証券またはその他有価証券として会計処理することとされており、時価評価されることから、決算時の為替相場により換算されます(実務指針19-5項)。
 

4. 外貨建自己新株予約権の決算時の会計処理


(1) 期末時の換算方法

外貨建自己新株予約権は、取得原価による帳簿価額を、純資産の部の新株予約権から、原則として直接控除することとされているため、決算時の円貨への換算は取得時の為替相場によります(実務指針19-5-3項)。

(2) 外貨建自己新株予約権の損失処理

a. 損失処理の概要

外貨建自己新株予約権の帳簿価額が、対応する新株予約権の帳簿価額を超える場合において、当該外貨建自己新株予約権の時価が著しく下落し、回復する見込みが認められないときは、時価との差額を当期の損失として処理します。(ただし、外貨建自己新株予約権の時価が対応する新株予約権の帳簿価額を下回るときは、当該外貨建自己新株予約権の帳簿価額と当該新株予約権の帳簿価額との差額を当期の損失として処理します。)
また、外貨建自己新株予約権が処分されないものと認められるときは、当該自己新株予約権の帳簿価額と対応する新株予約権の帳簿価額との差額を損失処理します(実務指針19項-5-3)。

b. 損失処理の判断

外貨建自己新株予約権の帳簿価額が「対応する新株予約権の帳簿価額を超える」かどうかは、両者の円換算後の帳簿価額を比較して判断します。
また、外貨建自己新株予約権の当該時価が「著しく下落した」かどうかは、外貨建ての時価と外貨建ての取得原価を比較して判断します(実務指針19-5-3項)。

c. 損失処理時の換算

外貨建自己新株予約権の帳簿価額と時価との差額を当期の損失として処理する際には、外貨建ての時価を決算時の為替相場により円換算した額をもって当該時価とします。
なお、外貨建自己新株予約権が処分されないものと認められる場合には、外貨建自己新株予約権の帳簿価額は取得時の為替相場、対応する外貨建新株予約権の帳簿価額は発行時の為替相場により換算されます(実務指針19-5-3項)。



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