実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 平川浩光
 

企業会計基準委員会が2022年8月26日に公表

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2022年8月26日に、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表しました。

2019年5月に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称である。)は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われました。

具体的には、これまで流通する蓋然性が低いものとされ、第二項有価証券として分類されてきた金融商品取引法第2条第2項各号に規定される信託受益権、民法上の任意組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利等(以下「集団投資スキーム持分等」という。)について、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合、株式等と同様に事実上流通し得ることを踏まえ、「電子記録移転権利」と定義し、規制が課されています。

また、2020年5月に改正施行された金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)において「電子記録移転権利」よりも広い概念である「電子記録移転有価証券表示権利等」が定められました。これは、集団投資スキーム持分等を含む、金融商品取引法第2条第2項に規定されるみなし有価証券のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものであり、株式や社債などの有価証券表示権利も、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものとして含まれることになりました。

こうした状況を踏まえ、ASBJにおいて、金商業等府令における「電子記録移転有価証券表示権利等」の発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、本実務対応報告が公表されました。


Ⅰ. 本実務対応報告の概要

1. 範囲(本実務対応報告第2項及び第19項から第26項) 

本実務対応報告は、「株式会社」が、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています。    

なお、電子記録移転有価証券表示権利等は、今後どのように取引が発展していくかは現時点では予測することが困難であるため、一部の論点については本実務対応報告では取り扱わないこととしています(「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当する ICO トークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」参照)。

(参考)取り扱わないこととした論点

 (1) 株式会社以外の信託、持分会社、民法上の任意組合、商法上の匿名組合、投資事業有限責任組合及び有限責任事業組合における発行及び保有の会計処理

(2) 株式又は社債を電子記録移転有価証券表示権利等として発行する場合に財又はサービスの提供を受ける権利が付与されるときの会計処理

(3) 暗号資産建の電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理

(4) 組合等への出資のうち電子記録移転権利に該当する場合の保有の会計処理

2. 会計処理の基本的な考え方(本実務対応報告第27項)

電子記録移転有価証券表示権利等は、金融商品取引法において、金融商品取引法第2条第2項の規定により有価証券とみなされる権利(以下「みなし有価証券」という。)(※)のうち、当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情等を勘案し、内閣府令で定めるものに限るとされており、金商業等府令では、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものとされています。

電子記録移転有価証券表示権利等は、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いて行われる点を除けば、従来のみなし有価証券(電子記録移転有価証券表示権利等に該当しないみなし有価証券を指す。以下同じ。)と権利の内容は同一と考えられるため、本実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理と同様に取り扱うこととされています。

(※) みなし有価証券の例(金融商品取引法第2条第2項)

(1) 次の有価証券に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する当該有価証券が発行されていないもの

  • 国債証券
  • 地方債証券
  • 社債券
  • 株券又は新株予約権証券
  • 信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券

(2) 次に掲げる権利

  • 信託の受益権
  • 持分会社の社員権
  • 民法上の任意組合契約に基づく権利、商法上の匿名組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利のうち、いわゆる集団投資スキーム持分に該当するもの(※2)
     

※1 いずれも一部の有価証券及び権利のみ記載している。

※2 金融商品取引法第 2 条第 2 項第 5 号の要件を満たすものがみなし有価証券に含まれる。


3. 発行の会計処理(本実務対応報告第4項から第6項及び第28項から第32項)

電子記録移転有価証券表示権利等に該当する企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。また、金融商品会計基準及び金融商品実務指針を合わせて、以下「金融商品会計基準等」という。)上の有価証券を発行する場合は、従来のみなし有価証券を発行する場合と同様の会計処理を行うこととされています。

4. 保有の会計処理(本実務対応報告第7項から第10項及び第33項から第46項)

金融商品取引法上の有価証券については、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われるものと有価証券として取り扱われないものがあります(金融商品実務指針第8項及び第58項)。株式会社はいずれも保有することが考えられるため、電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて定められています。

(1) 金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合(本実務対応報告第8項及び第9項並びに第34項から第43項)

① 貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理

金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品会計基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従うこととされています。

② 発生及び消滅の認識  

金融資産の発生の認識について、金融資産の契約上の権利を生じさせる契約を締結したときは、原則として、当該金融資産の発生を認識しなければならないとされ(金融商品会計基準第7項)、金融資産の消滅の認識について、金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したときは、当該金融資産の消滅を認識しなければならないとされています(金融商品会計基準第9項)。
ただし、有価証券の売買契約の認識については、金融商品実務指針第22項において、「約定日基準」が定められ、金融商品会計基準における原則に対する別途の定めが置かれています。

電子記録移転有価証券表示権利等に該当する金融商品会計基準等上の有価証券を保有する場合の会計処理は、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様とすることが考えられるため、発生及び消滅の認識についても、金融商品会計基準等の定めに従うことが考えられます。しかしながら、電子記録移転有価証券表示権利等の売買に係る事例が限定的である現状を踏まえると、約定日及び受渡日が明確ではない場合も生じ得ると考えられる等の理由から、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約における発生及び消滅の認識については、以下のとおり、本実務対応報告において別途の定めが置かれています。

電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識については、金融商品会計基準が定める原則(金融商品会計基準第7項から第9項及び金融商品実務指針)に従って行うこととするが、その売買契約について、契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合に限り、契約を締結した時点において認識することとされています。

(2) 金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない場合(本実務対応報告第10項及び第44項から第46項)

一部の信託受益権については、金融商品取引法上の有価証券に該当するものの、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われない場合があり、これらの会計処理については、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(以下「信託報告」という。)に定めがあります。  

電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容は、金融商品取引法上の従来のみなし有価証券と同一であると考えられることから、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する前述の信託受益権を保有する場合の会計処理についても、金融商品実務指針及び信託報告の定めに従うこととされています。

ただし、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び信託報告の定めに基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うこととされているものについての発生の認識(信託設定時を除く。)及び消滅の認識は、本実務対応報告の金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識の定めに従うこととされています。

5. 開示(本実務対応報告第11項及び第12項並びに第47項)

電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とすることとされています。

6. 適用時期(本実務対応報告第13項及び第48項)

本実務対応報告は、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとされています。

また、本実務対応報告の公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することが認められています。

7. 公開草案からの主な修正点

電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理において、払込金額が負債及び株主資本に区分される場合以外に、新株予約権に区分される場合の取扱いについても、従来のみなし有価証券を発行する場合と同様の会計処理を行うことが明確化されています(本実務対応報告第4項から第6項)。
 


なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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