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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 松下 洋
(2022.05.16 公開)
(2022.11.24 更新)
暗号資産の発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産の会計上の取扱いについて、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)から第490回ASBJ議事概要(別紙)が公表されたことを受けて、その概要を後述「Ⅲ.第490回ASBJ議事概要(別紙)」を2022年11月24日に追加しています。
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2022年3月15日に、「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」(以下「本論点整理」という。)を公表しました。
2019年に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正されました。これにより、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称である。)が金融商品取引法の規制対象となりました。
他方、投資性ICO以外のICOトークンについては、併せて改正された「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)上の「暗号資産」に該当する範囲において、引き続き資金決済法の規制対象に含まれることとされました。こうした状況を受けて、ASBJにおいて、金融商品取引法上の電子記録移転権利又は資金決済法上の暗号資産に該当する ICO トークンの発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、本論点整理が公表されました。
対象となる論点は、資金決済法上の暗号資産に該当する ICO トークンの発行及び保有に関する論点と、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有に関する論点に分けて整理されています。
本論点整理は、金融商品取引法上の電子記録移転権利又は資金決済法上の暗号資産に該 当する ICO トークンの発行及び保有等に係る取引に関する会計基準を整備していく一環として、関連する論点を示し、基準開発の時期及び基準開発を行う場合に取り扱うべき会計上の論点について関係者からの意見を募集することが目的であるとされています。
なお、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有に関する論点については早期に会計基準を開発する一定のニーズが存在するものと考えられたため、より範囲の広い金融商品取引業等に関する内閣府令第1条第4項第17号 に規定される電子記録移転有価証券表示権利等を対象として、本論点整理の公表に合わせて、実務対応報告公開草案第63号 「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下「実務対応報告(案)」という。) が公表されています。
本論点整理では、その審議の過程において実務対応報告(案)で取り扱わないこととした一部の論点が取り扱われています。
ICO トークン(以下において、資金決済法上の暗号資産に該当する ICO トークンを指す。)の発行取引については、特に個別性が強いことが考えられ、対象取引のこれまでの実施状況及び今後の普及見込み、並びに現在、会計基準が存在しないことが対象取引の普及に及ぼしている影響の有無を踏まえ、速やかに基準開発に着手すべきか否かを検討する必要があると考えられるとされています。
ICOトークンの発行者が負担する義務の分類 |
検討された会計処理 |
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ICO トークンの発行者が何ら義務を負担していない場合 |
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ICO トークンの発行者が何らかの義務を負担している場合 |
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本論点整理では、資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンについて、基準開発の時期及び会計処理に関する「主要な論点」に関連した質問(質問1及び質問2)が掲げられています。また、本論点整理において「その他の論点」として整理を行った論点に関連した質問 (質問3及び質問4)を併せて掲げています。
なお、コメントは質問項目に限られるものではなく、また質問のすべてについて回答する必要は必ずしもないものとされています。
以下では、質問項目を記載しますが、質問項目の内容をご覧になる場合には、本論点整理 本文をご参照ください。
「主要な論点」に関連した質問 |
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「その他の論点」に関連した質問 |
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(以下、2022年11月24日更新)
本論点整理に寄せられたコメントへの対応として、暗号資産の発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産の会計上の取扱いについて、2023 年度税制改正要望に関連してASBJが当該会計上の取扱いをどのように考えるのかについて質問が寄せられ、審議の結果、ASBJにおける議論の結果を周知するために、第490回ASBJ議事概要(別紙)が公表されました。その概要は以下のとおりです。
実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」では、資金決済法に規定する暗号資産を対象としながらも、自己(自己の関係会社を含む。)の発行したものを除くこととしています(第33 項)。したがって、会計上、暗号資産の発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産の会計上の取扱いについて、明確な定めは存在しません。
本論点に関して、ASBJに会計上の取扱いをどのように考えるのかについて質問が寄せられました。本論点を検討するにあたっては、上述の本論点整理における主要な論点である暗号資産の発行の会計処理と併せて検討する必要があり、一定の期間を有すると考えられるとされています。このため、当該質問への対応として、暗号資産の発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産の会計上の取扱いについて、ASBJで2022年11月7日に審議が行われました。
本論点整理第32項では、暗号資産の発行者は、その発行時に、「会計上、受領する対価を資産として認識するとともに、負担する義務を負債として認識することとなると考えられる」とされています。
ここで、第490回ASBJ議事概要(別紙)では、暗号資産の発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産のうち、発行による対価を受領しておらず自己で完結していると考えられるものは、第三者との取引が生じるまでは、資産を認識しないか、又は取得原価で資産を認識するという考え方が示されています。これらの考え方のいずれを採用すべきかどうかについて第490回ASBJ議事概要(別紙)において結論は出されていませんが、いずれの場合も時価では評価されないと考えられるとされています。
なお、この考えは、本論点整理に対するコメントにおいて本論点についてコメントしたほとんどすべての回答者の意見と整合しているとされています。
なお、本稿は概要を記述したものであり、詳細については全文をご参照ください。
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