EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 松下 洋・平川浩光・宮﨑徹・大竹勇輝
この2021年3月期決算においては、見積開示会計基準、改正遡及会計基準、LIBOR取扱い及び株式報酬等取扱いが原則適用となります。また、18年収益認識会計基準、20年収益認識会計基準及び時価算定会計基準を早期適用することができます。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2021年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
Q1 見積開示会計基準の概要
Q2 適用初年度の取扱い
Q3 2021年3月期における会計上の見積りのポイント
Q4 改正遡及会計基準の概要
Q5 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合
Q6 新型コロナ税特法による欠損金の繰戻還付制度
Q7 新型コロナ税特法による欠損金の繰戻還付制度の税効果会計の税率への影響
Q8 会社法改正の概要
Q9 取締役等の報酬に関する規律の見直し
Q10 株式報酬等取扱いの概要
Q11 株式交付制度に関する規定の新設
Q12 株主総会資料の電子提供制度の新設及び整備
Q13 事業報告に関する規定の改正
Q14 改正会社法に伴う金融庁関係政府令等の改正
Q15 LIBOR取扱いの概要
Q16 LIBOR取扱いにおける会計処理及び開示
Q17 グループ通算制度税効果取扱いの適用
Q18 見積り開示基準とKAMとの関係性
Q19 非財務情報とKAMとの関係性
Q20 収益認識会計基準の早期適用のパターン
Q21 20年収益認識会計基準適用時の早期適用の留意事項
Q22 18年収益認識会計基準を適用済の会社の20年収益認識会計基準の早期適用
Q23 20年収益認識会計基準の概要
Q24 時価算定会計基準の概要
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 |
本文中の略称 |
---|---|
企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」 |
見積開示会計基準 |
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 |
改正遡及会計基準 |
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」 |
減損会計適用指針 |
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
税効果適用指針 |
実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」 |
実務対応報告第7号 |
実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」 |
株式報酬等取扱い |
企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」 |
改正純資産会計基準 |
企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」 |
改正純資産適用指針 |
実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」 |
LIBOR取扱い |
実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」 |
グループ通算制度税効果取扱い |
実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」 |
実務対応報告第5号 |
2018年3月30日公表の企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 |
18年収益認識会計基準 |
2020年3月31日公表の企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 |
20年収益認識会計基準 |
企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」 |
時価算定会計基準 |
企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」 |
時価算定適用指針 |
企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針 |
改正時価開示適用指針 |
企業会計基準適用指針公開草案第71号(企業会計基準適用指針第31号の改正案)「時価の算定に関する会計基準の適用指針(案)」 |
改正時価算定適用指針案(※) |
「企業内容等の開示に関する内閣府令」 |
開示府令 |
「企業内容等の開示に関する留意事項について」(企業内容等開示ガイドライン) |
企業内容等開示ガイドライン |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
財規 |
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
連結財規 |
会社計算規則 |
計規 |
会社法施行規則 |
施規 |
国際財務報告基準第15号「顧客との契約から生じる収益」 |
IFRS第15号 |
国際財務報告基準第1号「国際財務報告基準の初度適用」 |
IFRS第1号 |
国際財務報告基準第13号「公正価値測定」 |
IFRS第13号 |
監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」 |
監基報701 |
※本稿は2021年3月5日の時点の情報に基づくものです |
以下では、見積開示会計基準の適用時期や適用範囲を中心に概要を説明しています。
2018年11月に、公益財団法人財務会計基準機構(以下「FASF」という。)内に設けられている基準諮問会議より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。これを受けて企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)で検討が行われ、2020年3月31日に見積開示会計基準が公表されました。
適用時期は、図表1のとおりとなっています。
図表1 適用時期
原則適用 | 2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から |
早期適用 | 2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から |
見積開示会計基準の適用初年度においては、表示方法の変更として取り扱われますが、改正遡及会計基準14項の定めにかかわらず、見積開示会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される比較情報に記載しないことができるものとされています。
会計上の見積りの開示について原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が当該原則(開示目的)に照らして判断することとされています(見積開示会計基準14項)。また、見積開示会計基準の開発において、国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」125項の定めを参考としたとされています。
当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(有利となる場合及び不利となる場合の双方を含む(以下同じ)。)における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することとされています(見積開示会計基準4項)。
識別される項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされており、開示する項目の識別の判断については、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによる項目のうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することとされています(見積開示会計基準5項)。このため、例えば、固定資産の減損損失の認識は行わないとした場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討した上で、当該固定資産が開示項目として識別される可能性があります(見積開示会計基準23項)。
なお、直近の市場価額により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、会計上の見積りに起因しないことから、項目の識別において考慮しないこととされています(見積開示会計基準24項)。
また、以下の項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、開示を妨げないとされています(見積開示会計基準23項)。
見積開示会計基準では、会計上の見積りの開示は独立の注記項目とされ、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載することとされています。開示する項目として識別した項目については、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し(見積開示会計基準6項)、併せて以下の注記が求められています(見積開示会計基準7項)。
上記の「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」については、以下の項目が例示されていますが、チェックリストとして用いられるものではなく、企業の置かれている状況に即して情報を開示するものであると考えられることから、開示目的に照らして判断することが求められています(見積開示会計基準8項、31項)。
ここで、例示項目の②の主要な仮定については、①の算出方法に対するインプットとして想定される定量的情報若しくは定性的な情報又はこれらの組み合わせである場合も考えられます。また、③について、定量的に示す場合には、単一の金額の方法のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すことも考えられます(見積開示会計基準29項)。
この点、これらの「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」については、単に会計基準等における取扱いを算出方法として記載したり、会計基準等における取扱いに基づく結果としての影響を記載するのではなく、企業の置かれている状況が理解できるような開示が求められていると考えられる点には留意が必要です(見積開示会計基準29項、30項)。
見積開示会計基準に基づく会計上の見積りの開示は、連結財務諸表と個別財務諸表で同様の取扱いとすることを原則としています(見積開示会計基準32項)。
ただし、連結財務諸表と個別財務諸表の注記の重複を避けるという趣旨で、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法の記載をもって「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」に代えることができるとされており、この場合、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています(見積開示会計基準9項)。
見積開示会計基準の適用初年度の取扱いは、以下のとおりです(見積開示会計基準11項)。
改正遡及会計基準14項では、財務諸表の表示方法を変更した場合には、原則として表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うこととされています。しかし、適用初年度の比較情報を開示するために過去の時点における判断に見積開示会計基準を遡及的に適用した場合、当該時点に入手可能であった情報と事後的に入手した情報を客観的に区別することが困難であると考えられます。
また、多数の子会社を有している企業において、見積開示会計基準の適用初年度の比較情報として、すべての子会社から、見積開示会計基準に基づく開示に必要な過去の情報を入手し集計することは、実務上煩雑であり、特に、会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に関して、翌年度の財務諸表に与える影響を定量的に記載する場合には、これを過去に遡って示すことが煩雑であると考えられます。
このため、適用初年度においては、見積開示会計基準に定める注記事項について比較情報に記載しないことができるとされています(見積開示会計基準34項)。
会計上の見積りは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」とされていますが(改正遡及会計基準4項(3))、新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の感染拡大は、この会計上の見積りに影響を生じさせると考えられます。
2020年3月期決算においては、2020年4月10日にASBJから公表された、第429回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(以下「第429回ASBJ議事概要」という。)等が、企業が会計上の見積りを行う上での参考とされていました。その主な内容は以下のとおりです。
第429回ASBJ議事概要(抜粋)
① 「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、本感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられる
② 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましい。ただし、本感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる事例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられる。この場合、本感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる
③ 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」には当たらない
④ 最善の見積りを行う上での本感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積られる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合には、追加情報としての開示が求められるものと考えられる
2021年3月期決算においても、本感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難である状況に変化はなく、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況であることに変わりはないと考えられます。このため、ASBJではこれまでに公表した議事概要の考え方を引き続き周知するとともに、これまでに公表した議事概要を更新する形で、2021年2月10日に、第451回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(2021年2月10日更新)」(以下「第451回ASBJ議事概要」という。)が公表されています。
2021年3月期決算においては見積開示会計基準が適用されますが、第429回ASBJ議事概要の①、②及び③の考え方は、その適用後も、会計上の見積りを行う上で本感染症の影響を考えるにあたり変わらないとしています。
当期の決算においても、会計上の見積りを行う上で本感染症の影響を考慮するにあたっては、第429回ASBJ議事概要の考え方を踏まえて、検討を行う必要があります。例えば、以下のような項目は、その影響を受ける可能性があります。
資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、又は、悪化する見込みである場合には、減損の兆候となるとされています(減損会計適用指針14項)。このため、減損の兆候の判定においては、本感染症の感染拡大に伴い、製・商品販売量の著しい減少が続くことが見込まれる場合など、将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかに留意し、検討することになると考えられます。
将来キャッシュ・フローは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ることとされています(減損会計適用指針36項)。このため、本感染症に関連して生じている企業の経営環境の変化や、企業が実施した工場の稼働や店舗の休止などにより、将来業績にどのような影響が生じるかなど、本感染症の感染拡大が与える影響についても留意したうえで、その見積りを行うことになると考えられます。
本感染症の感染拡大の影響によっては、繰延税金資産の回収可能性の検討における企業の分類の変更の必要性や、翌期以降の事業計画等に基づく一時差異等加減算前課税所得の見直しの要否を検討する必要が生じる場合が考えられます。
翌期以降の事業計画等に基づく一時差異等加減算前課税所得の見積りにあたっては、本感染症の感染拡大により将来の業績にどのような影響が生じるかなど、依然として正確な収束時期等の予測に不確実性があるなか、企業自らが合理的で説明可能な仮定を置いて見積る必要があります。このため、本感染症の感染拡大の影響を大きく受ける企業においては、翌期以降の事業計画等に基づく一時差異等加減算前課税所得の見積りにおいて、慎重な判断が求められる場合があると考えられます。
2020年3月期決算における本感染症の影響は、第429回ASBJ議事概要を踏まえて、追加情報として開示するケースが多くありましたが、見積開示会計基準の適用後の考え方が、第451回ASBJ議事概要において示されています。
見積開示会計基準は、重要な会計上の見積りとして識別した項目について、当年度の財務諸表に計上した金額、及び会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を開示することになります。後者には、例えば、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、及び翌年度の財務諸表に与える影響が含まれます。
このため、第429回ASBJ議事概要の④の考え方から追加情報の開示が求められる本感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、見積開示会計基準における開示に含まれることが多いと想定され、他の開示と合わせより充実した開示になることが想定されています。また、上記の一定の仮定が、見積開示会計基準における開示に含めて開示される場合には、改めて追加情報として開示する必要はないものとしています。
なお、本感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、当該判断を2020年3月期において、追加情報として開示していたケースもあったと考えられます。このような開示は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目ではないため、見積開示会計基準における開示に含まれませんが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものとの考え方が示されています。
2018年11月に、FASFに設置されている基準諮問会議より、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。これについて、ASBJのディスクロージャー専門委員会から、我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかでなく、開示の実態も様々であったと考えられることから、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱いを明らかにすることが有用であるとの報告がなされました(改正遡及会計基準28-2項)。これを受けてASBJで検討が行われ、改正遡及会計基準が2020年3月31日に公表されました。
2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することとすることとし、公表日以降終了する事業年度の年度末から早期適用できるとされています。
また、改正遡及会計基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しないものの、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記することとされています。
重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにあり、当該開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同様であるとされています(改正遡及会計基準4-2項)。なお、改正遡及会計基準は、重要な会計方針に関する従来の考え方を変更するものではなく、関連する会計基準等の定めが明らかな場合における取扱いに関する従来の実務の変更を意図しているものとではないとされている点には留意が必要です(改正遡及会計基準44-2項、44-3項)。
「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合をいうとされています(改正遡及会計基準4-3項)。
企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぎ、重要な会計方針について、採用した会計処理の原則及び手続の概要を注記することとされ(改正遡及会計基準4-4項)、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができるとされています。
会計方針の例として、以下のようなものが例示されており、また、重要性の乏しいものについては注記を省略することができるとされています(改正遡及会計基準4-5項)。
Q4に記載のとおり、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合をいうとされています(改正遡及会計基準4-3項)。
例えば、関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が発生した場合で重要性がある場合が含まれるとされています。これには、対象とする会計事象等自体に関して適用される会計基準等については明らかではないものの、参考となる既存の会計基準等があり、当該会計基準で定められている会計処理の原則及び手続を採用したときも含まれるとされています。
また、会計基準等には、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたもの(法令等)も含まれるとされています。このため、法令等によらず、業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続のみが存在する場合で、当該会計処理の原則及び手続に重要性があると考えられる場合も、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当するものと考えられます。
青色欠損金の繰戻還付制度は、青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合において、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して法人税額の還付を請求することができるというものです。
ただし、適用対象となるのは、普通法人のうち、その事業年度終了の時において資本金の額又は出資金の額が1億円以下である中小法人に限られていました。
この点、2020年4月30日に国会で成立した新型コロナ税特法により、欠損金の繰戻還付を受けることができる法人の適用範囲が拡大され、2020年2月1日~2022年1月31日の間に終了する各事業年度において生じた欠損金額につき、大規模法人(資本金の額が10億円を超える法人など)の100%子会社及び100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を保有されている法人等を除き、資本金額1億円超10億円以下の中堅企業においても繰戻還付が受けられることとなっています。
欠損金の繰戻還付の対象となる税金は、国税である法人税及び地方法人税が対象であり、地方税である住民税及び事業税については、対象とはされていません。このため、欠損金が生じて、法人税及び地方法人税について欠損金の繰戻還付の適用を受けた場合においても、住民税(法人税割)及び事業税(所得割)の計算上は、その繰戻還付がなかったものとして、その事業年度において生じた欠損金を翌期以降に繰り越すこととなります。住民税(法人税割)及び事業税(所得割)の具体的な取扱いは図表2のとおりです。
図表2 住民税(法人税割)及び事業税(所得割)の取扱い
項目 |
内容 |
---|---|
住民税(法人税割) |
欠損金の繰戻還付の規定により還付を受けた法人税額は、「控除対象還付法人税額」(住民税の欠損金)として、翌期以降に繰り越し、翌期以降の住民税の計算の基礎となる法人税額から控除する |
事業税(所得割) |
その事業年度において生じた欠損金(繰戻還付適用前の欠損金)は、事業税の欠損金として、翌期以降に繰り越し、翌期以降の事業税の計算の基礎となる所得金額から控除する |
繰延税金資産は、回収が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算することとされており、また、その際に使用する税率である法定実効税率とは連結納税制度を適用する場合を除き、「法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率/(1+事業税率)」で算定するとされています(税効果適用指針4項(10))。
ここで、法定実効税率の算式上、法人税、住民税及び事業税の税率を含めた算式を使用しているのは、通常、法人税における一時差異に関する影響が住民税及び事業税にも影響を及ぼすためであると考えられます。
一方、連結納税制度を適用している場合には、法人税及び地方法人税の計算上は連結納税制度を適用しますが、住民税及び事業税については、連結納税制度が導入されておらず、この場合においては、繰越欠損金に係る繰延税金資産の金額の計算上、住民税の適用税率については、控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額については、「住民税率/(1+事業税率)」と算定するとされています。また、事業税については、欠損金額又は個別欠損金額について「事業税率/(1+事業税率)」にて算定するとされています(実務対応報告第7号Q2のA)。
この点、新型コロナ税特法による欠損金の繰戻還付については、法人税及び地方法人税は対象となりますが、住民税及び事業税は対象とはならず、欠損金の金額に相違が生じることから、連結納税制度を適用している場合の考え方と同様に、それぞれの税率に基づき、将来回収が行われると見込まれる税金の額を算定する必要があると考えられます。
このため、住民税については、回収可能な控除対象還付法人税額に「住民税率/(1+事業税率)」を乗じて算定し、事業税については、回収可能な欠損金に「事業税率/(1+事業税率)」を乗じて算定することになると考えられます。
2019年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」という。)が成立し、同月11日に公布されました。2014年の会社法改正時に設けられた附則において、企業統治に係る制度の在り方について、必要に応じて所要の措置を講ずるものとされており、また、2014年の改正後にも、会社法の更なる見直しについて、様々な指摘がされていました。このため、これらの指摘等を踏まえ、会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため、会社法の一部を改正したものとされています。
また、改正会社法の施行に伴い、2020年11月27日に、「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正」が公布され、会社法施行令、会社法施行規則及び会社計算規則などが改正されました。
改正会社法及び関連する政令等の改正については、一部を除き、2021年3月1日に施行されます。下記「(3)主な内容」のうち「取締役の報酬に関する規律の見直し」に関して上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する制度を用いる場合及び「株式交付制度の新設」に関して株式交付制度を用いる場合については、株主総会の決議が必要となるため、2021年3月期決算に直接影響を与えることは限定的であると考えられますが、2021年3月期定時株主総会で導入される会社もあると考えられます。このため、2021年3月期決算においても、重要な後発事象の注記などで記載することも考えられます。
改正会社法の施行日は図表3のとおりとなっています。
図表3 改正会社法の対象項目別の施行日
以下を除いたすべての項目 |
2021年3月1日に施行 |
---|---|
|
改正会社法の公布日(2019年12月11日)から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行 |
取締役の個人別の報酬の内容は、取締役会又は代表取締役が決定していることが多いのが現状です。報酬は、取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであり、これを適切に機能させ、その手続を透明化する必要があり、その一環として以下の改正がなされました。
上記のとおり、改正会社法において、取締役等の報酬等として株式を発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に株式報酬等取扱いを公表しました。株式報酬等取扱いの概要はQ10をご参照ください。
なお、2021年3月1日施行であり、株式報酬等取扱いはその日以後に生じた取引から適用されるものの、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する制度を用いる場合には株主総会の決議が必要となるため、2021年3月期決算に直接影響を与えることは限定的であると考えられますが、2021年3月期定時株主総会で導入される会社もあると考えられます。このため、2021年3月期決算においても、重要な後発事象の注記などで記載することも考えられます。
改正会社法において、取締役又は執行役(以下「取締役等」という。)の報酬等として株式を発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に株式報酬等取扱いを公表しました。
会社法202条の2に基づいて、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とすることとされています。
また、現行実務において行われているいわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引には適用されません。この点、株式報酬等取扱いが対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行であるのに対して、いわゆる現物出資構成による取引は株式の有償発行であるなど、法的な性質が異なる点があるため、いわゆる現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点など、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられるとされています(株式報酬等取扱い3項、26項)。
株式報酬等取扱いの適用対象としている取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引については、自社の株式を報酬として用いる点で、ストック・オプションと類似性があるものと考えられます。
両者は、インセンティブ効果を期待して自社の株式又は株式オプションが付与される点で同様であるため、費用の認識や測定については、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)の定めに準じることとされています。
一方、株式報酬等取扱いの適用対象となる取引には、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されており、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点について、取引の形態ごとに異なる取扱いが定められています。
取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い、権利確定条件を達成した場合に譲渡制限が解除され、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、当該無償取得を「没収」という。)取引を事前交付型と定義しています。
新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合が想定されるため、それぞれ図表4のとおりの会計処理が定められています。
図表4 事前交付型の会計処理
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※なお、四半期会計期間においては、計上する損益に対応する金額はその他資本剰余金の計上又は減額として処理し、年度の財務諸表においては、②の処理に置き換える(株式報酬等取扱い10項)。 |
取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引を事後交付型と定義しています。
新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合をそれぞれ図表5のとおり定めています。また、株式報酬等取扱いにおける以下の定めにより、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として、新たに「株式引受権」を計上するとしたことから、改正純資産会計基準及び改正純資産適用指針において、「株式引受権」という科目が追加されています。
図表5 事後交付型の会計処理
新株の発行により行う場合 |
自己株式の処分により行う場合 |
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対象勤務期間における取扱い |
ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上する(株式報酬等取扱い15項) |
ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、自己株式の処分が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上する(株式報酬等取扱い17項) |
割当日における取扱い |
権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替える(株式報酬等取扱い16項) |
権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額として、その他資本剰余金を増減させる(株式報酬等取扱い18項) |
取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、株式報酬等取扱いの開発段階においては改正会社法の施行前であり、取引の詳細は定かではないことから、基本となる会計処理のみを定めることし、株式報酬等取扱いに定めのないその他の会計処理については、類似する取引又は事象に関する会計処理が、ストック・オプション会計基準や企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下、「ストック・オプション適用指針」といい、ストック・オプション会計基準とあわせて「ストック・オプション会計基準等」という。)に定められている場合には、これに準じて会計処理を行うとすることとされています。
株式報酬等取扱いでは、費用の認識や測定はストック・オプション会計基準の定めに準じることとしていることから、ストック・オプション会計基準等における注記事項を基礎とし、ストック・オプションと事前交付型、事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、次の注記項目が定められています。また、以下の注記事項の具体的な内容や記載方法については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて行うこととされています。
ⅰ 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る)
ⅱ 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る、ただし、権利確定後の未発行株式数を除く)
ⅲ 付与日における公正な評価単価の見積方法
ⅳ 権利確定数の見積方法
ⅴ 条件変更の状況
1株当たり情報については、図表6のとおり定められています(株式報酬等取扱い22項)。
図表6 1株当たり情報の概要
事後交付型におけるすべての権利確定条件を達成した場合に交付されることとなる株式 | 企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」9項の「潜在株式」として取り扱い、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取り扱う |
株式引受権 | 1株当たり純資産額の算定上、企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」35項の期末の純資産額の算定にあたっては、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除する |
改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとされています(株式報酬等取扱い23項)。
完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度として、株式交付制度が新設されました。
現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度がありますが、完全子会社とする場合でなければ利用することができない点、また、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、手続が複雑でコストが掛かるという点が指摘されていました。当該制度はこれらの指摘に対応するために新設されたものです。当該制度のイメージは図表7をご参照ください。
図表7 株式交付制度のイメージ
(出所:法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」(3/3)より一部抜粋 )
なお、2021年3月1日施行であり、株主総会の決議が必要となるため、2021年3月期決算に直接影響を与えることは限定的であると考えられますが、2021年3月期定時株主総会で導入される会社もあると考えられます。このため、2021年3月期決算においても、重要な後発事象の注記などで記載することも考えられます。
上記のとおり株式交付制度が新設されましたが、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等の改正はされておらず、当該制度に関する会計処理は、現行の会計基準に従って整理していくことが考えられます。この点、株式交付は、株式交換と同じ組織法上の行為として位置付けられており、現物出資ではなく、株式交換に準じて処理されるものと考えられます。
したがって、株式交付が取得とされる場合、株式交付親会社が取得する株式交付子会社株式の取得の対価は、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」38項に基づいて、時価により算定することが考えられます。
なお、株式交付制度は子会社化を目的とするものであり、基本的に取得に該当するものと考えられます。ただし、株式交付制度では、その範囲を客観的かつ形式的な基準により判断するために、子会社化の要件として、議決権の50%超を保有することにより子会社化する場合に限られています。このことから、議決権の40%以上を保有しており、施規3条3項2号イからホまでのいずれかの要件に該当することとして既に子会社としているケースで、株式交付制度を用いて50%超を保有することとなる場合には、共通支配下の取引に該当することとなります。その他、逆取得になる場合や共同支配企業の形成になる場合も想定されます。
ここで、株式交換と同様に、株式交付制度においても、支配取得の場合、共通支配下関係にある場合及びそれ以外の場合(逆取得や共同支配企業の形成等が該当)といった企業結合の類型に応じて、株主資本変動額を算定することになります(計規39条の2)。具体的には、株式交付に際し、株式交付親会社において変動する株主資本等の総額は、それぞれ下表の方法に従い定まる額となるとされています(同条1項)。また、その内訳である株式交付親会社の資本金及び資本剰余金の増加額についても規定されています(同条2項、3項)。
図表8 株式交付親会社の株主資本変動額
支配取得の場合 |
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吸収型再編対価時価又は株式交付子会社の株式及び新株予約権等の時価を基礎として算定する方法 |
株式交付子会社の財産の株式交付の直前の帳簿価額を基礎として算定する方法 |
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現行法上、インターネット等を用いて株主総会資料を株主に提供するためには、株主の個別の承諾が必要でしたが、改正会社法では、株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法により、株主総会資料を株主に提供することができる制度が新設されました。なお、書面での資料提供を希望する株主は、書面の交付を請求することができるものとされました。当該制度のイメージは<図表9>をご参照ください。
なお、当該規定は、改正会社法の公布の日(2019年12月11日)から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされています。
図表9 株主総会資料の電子提供制度のイメージ
(出所:法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」(3/3)より一部抜粋 )
2021年1月29日に「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(以下「本省令」という。)が公布されました。いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度(事業報告及び計算書類に表示すべき事項の一部については、当該事項に係る情報を定時株主総会に係る招集通知を発出する時から株主総会の日から3か月が経過する日までの間、継続してインターネット上のウェブサイトに掲載し、当該ウェブサイトのURL等を株主に対して通知することにより、当該事項が株主に提供されたものとみなす制度であり、ウェブ開示をする旨の定款の定めが必要)について、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、本省令の施行の日(2021年1月29日)から2021年9月30日までに招集の手続が開始される定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供に限り、同制度の対象となる事項の範囲に以下の事項を加え、拡大することとされています。
なお、本省令は、2020年11月15日に失効した令和2年法務省令第37号「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」による同様の規定を延長するものです。
株式会社の事業報告について図表10の項目などの見直しをするとともに、所要の規定の整備が行われました。
図表10 事業報告に関する規定の改正
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※ 役員等賠償責任保険契約及び補償契約に係る記載事項については、当該附則の中で、施行日以後に締結されたこれらの契約に係る事項に限るとされています。 |
改正会社法の施行等に伴い、2021年2月3日に「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部の施行に伴う金融庁関係政令の整備等に関する政令」(以下「改正金融庁関係政府令等」という。)が公布されており、一部を除き、改正会社法の施行の日(2021年3月1日)から施行、適用されます。
開示府令においては、株式交付制度に係る所要の規定の整備がされたほか、改正会社法において補償契約及び役員等賠償責任保険契約に関する規定が新設されたことを踏まえ、「コーポレート・ガバナンスの概要」の開示項目の拡充がされています。また、改正会社法において取締役の個人別の報酬等に係る決定方針の規定が新設されたことを受け、「役員の報酬等」においても、開示拡充のための改正がされています。
改正金融庁関係政府令等のうち、財規、連結財規等の財規等及び開示府令に関する改正の主な内容は以下のとおりです。なお、これらは改正会社法の施行の日(2021年3月1日)から施行、適用されるため、2021年3月期の有価証券報告書から適用されることになります。
また、投資者の理解が容易になる観点から、記載内容が同様である又は重複する箇所があれば、適宜、当該他方を参照、引用するなどして記載することになると考えられます(企業内容等開示ガイドライン5-14参照)。
図表11 財規等の改正内容と改正会社法との関連
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※ 2021年3月1日施行であり、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する制度を用いる場合には株主総会の決議が必要となります。 |
図表12 開示府令の改正内容と改正会社法との関連
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※1 2021年3月1日施行であり、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する制度を用いる場合には株主総会の決議が必要となります。 |
現在、2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められています。そうした中、LIBORの公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっています。LIBORを参照する取引は、各企業において広範に行われており、金利指標改革により多くの取引に影響が生じる可能性が高いとされています(LIBOR取扱い1項、26項)。
このため、ASBJより、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにするために、LIBOR取扱いが公表されています(LIBOR取扱い2項)。
LIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更又は契約の切替のみが行われる金融商品を適用範囲とすることとされています(LIBOR取扱い3項)。契約条件の変更又は契約の切替の内容について、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当するか否かのそれぞれの例は、図表13のとおりです(LIBOR取扱い30項、31項)。
図表13 経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更に該当するか否かの例示
経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更に該当する変更 |
経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更に該当しない変更 |
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また、LIBOR取扱いについては、公表日(2020年9月29日)以後適用することができるとされています。さらに、適用にあたっては、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができるとされています(LIBOR取扱い20項)。
金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業からみると不可避的に生じる事象であり、ヘッジ会計を定める企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)等の開発時には想定していなかったと考えられます。このような事態を想定して開発されていない金融商品会計基準等に基づいてヘッジ会計を終了又は中止した場合、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられるため、一定の条件の下で、直ちにヘッジ会計の終了又は中止をせずにヘッジ会計の継続を適用することができる等の特例的な取扱いを定めることとしたとされています(LIBOR取扱い34項)。金利指標改革に起因するLIBORの置換のイメージは、図表14のとおりです。
図表14 金利指標改革に起因するLIBORの置換のイメージ
LIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品について、当該取扱いを適用した場合における具体的な会計処理は、図表15のとおりとなります。
図表15 LIBOR取扱いを適用した場合の会計処理
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また、報告日時点においてLIBOR取扱いを適用することを選択した企業は、LIBOR取扱いを適用しているヘッジ関係について、次の内容を注記するとされています(LIBOR取扱い20項)。
なお、LIBOR取扱いを一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記するとされています。また、連結財務諸表において上述の内容を注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています(LIBOR取扱い20項)。
連結納税制度では、連結納税の範囲に含まれる連結会社群を、法人税法上の一つの納税主体として、法人税の申告納税を行うこととされています。
一方、グループ通算制度では、企業グループ内の適用対象の各法人を納税主体として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、損益通算等の調整を行う制度とされています(グループ通算制度税効果取扱い10項)。
税効果適用指針44項では、繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています。
このため、税効果適用指針44項の定めに基づけば、2022年4月1日以後、グループ通算制度の適用を行う企業は、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要があります。しかし、グループ通算制度を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことについて、実務上対応が困難であるとの意見が聞かれたため、ASBJでは、必要と考えられる取扱いを検討し、グループ通算制度税効果取扱いを公表したとされています(グループ通算制度税効果取扱い7項)。グループ通算制度税効果取扱いにおける具体的な取扱いは次のとおりです(グループ通算制度税効果取扱い4項、10項)。
上記の特例的な取扱いについて、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、選択適用とされています。また、2021年2月25日現在において、ASBJより、実務対応報告第5号等の改廃に関する公開草案は公表されていません。今後の公開草案の公表時期を鑑みると、2021年3月期においては、グループ通算制度税効果取扱いの定めを用いることができることになると考えられます。
グループ通算制度税効果取扱いは、2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)(以下「改正法人税法」という。)の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業及び改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業を対象とするとされています(グループ通算制度税効果取扱い2項)。
連結納税制度の適用法人は、内国法人及び当該内国法人との間に当該内国法人による完全支配関係がある他の内国法人のすべてとされています(法人税法4条の2)。一方、完全支配関係を有していなくとも、他の企業に財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を支配されている会社は子会社に該当し、連結財務諸表の作成にあたっては、親会社は原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めるとされています(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下「連結会計基準」という。)6項、13項)。
したがって、子会社のうち連結納税制度の適用法人については、グループ通算制度税効果取扱いの適用範囲に含まれるものの、完全支配関係がない等の理由により、連結納税制度の適用法人ではない子会社については、グループ通算制度税効果取扱いの適用範囲に含まれないため、留意が必要です。
また、グループ通算制度税効果取扱いは、日本基準における特例的な取扱いを定めるものであることから、国際財務報告基準(以下「IFRS」という。)の任意適用企業の連結財務諸表においては、IFRSの定めに基づくことになります(実務対応報告公開草案第58号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」に対するコメント 2)。
なお、改正法人税法ではグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度についても以下の見直しが行われています。
当該見直しは、グループ通算制度への移行を前提として設けられたものであるため、特例的な取扱いの対象に含めることとされています。
ここで、単体納税制度における当該見直しは、グループ通算制度を適用しない企業も対象となります。しかし、グループ通算制度税効果取扱いにおける特例的な取扱いは、グループ通算制度の適用を前提とする場合の取扱いであることから、グループ通算制度の適用を前提としない企業には、適用されないと考えられます。
したがって、グループ通算制度の適用を前提としない企業において、改正法人税法が2020年3月27日に成立していますので、改正後の税法に基づいて、税効果適用指針44項の定めを適用することになると考えられる点には留意が必要です。
監基報701第12項では、監査報告書の「監査上の主要な検討事項」の区分において、以下を記載しなければならないとされています。
(監基報701第12項)
KAMは、財務諸表に注記されている内容を繰り返して記載することを意図するものではありませんが、関連する財務諸表における注記事項へ参照を付すことで、経営者が財務諸表を作成する上で当該事項をどのように取り扱ったかについて、想定される財務諸表の利用者が理解を深めることが可能となるとされています(監基報701 A40項)。また、企業が会計上の見積りに関してより具体的な注記を行っている場合には、KAMに該当すると判断した理由及び監査上の対応を説明するために、監査人は主要な仮定、見込まれる結果の範囲、見積りの不確実性の主な原因又は重要な会計上の見積りに関するその他の定性的及び定量的な注記事項に言及することがあるとされています(監基報701 A41項)。
このように、KAMの決定プロセスにおいて、監査人が特に注意を払った事項を決定する際に考慮する事項として、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りが挙げられていることから(監基報701第8項(2)参照)、見積開示会計基準の定めに基づいて識別された項目についてKAMの対象となるケースが多くなるものと考えられます。
監基報701第8項では、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定する際に、監査人は以下の項目等を考慮しなければならないとされています。
(監基報701第8項)
また、有価証券報告書の非財務情報のうち、KAMの記載との関連性が高いと考えられる、「事業等のリスク」及び「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」の具体的な開示項目は、それぞれ以下のとおりです。
図表16 「事業等のリスク」と「MD&A」の開示項目
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※ 主要なリスクは、「連結会社の経営成績等の状況の異常な変動」、「重要な訴訟事件等の発生」や「役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等」など、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいうとされています。 |
収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの原則適用となりますが、18年収益認識会計基準等は、2019年4月1日以後開始事業年度からの早期適用も認められており、20年収益認識会計基準等は、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することが認められています。このため、2021年3月期における早期適用のパターンは、以下の3つのパターンがあることになります。このうち、パターン②について、2020年3月期決算上の留意事項Q&AのQ9と同様の取扱いになりますので、そちらをご参照ください。パターン①についてはQ21、パターン③についてはQ22をご参照ください。
収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています(以下「原則的な取扱い」という。)(20年収益認識会計基準84項本文)。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(20年収益認識会計基準84項ただし書き)。この適用初年度の取扱いをまとめたものが、以下の図表です。
図表17 収益認識会計基準の適用初年度の取扱い
原則的な取扱いに従って遡及適用する場合であっても、以下①から③の方法の1つ又は複数を適用することができるとされています(20年収益認識会計基準85項)。遡及適用する企業においても以下のいずれの方法で遡及適用するのか、早めの検討と対応が必要になると考えられます。
ⅰ 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の比較情報を遡及的に修正しないこと
ⅱ 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
ⅲ 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
適用初年度に20年収益認識会計基準84項ただし書きの経過措置を選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことができるとされています(20年収益認識会計基準86項本文)。
また、経過措置を選択する場合、契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することができることとされています(20年収益認識会計基準86項また書き)。
IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に20年収益認識会計基準を適用する場合には、適用初年度において、IFRS第15号又はTopic 606「顧客との契約から生じる収益」のいずれかの経過措置の定めを適用することができることとされています(20年収益認識会計基準87項本文)。
また、IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に20年収益認識会計基準を適用する場合には、その適用初年度において、IFRS第1号における経過措置に関する定めを適用することができるとされています(20年収益認識会計基準87項また書き)。
20年収益認識会計基準等は、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の会計処理として税込方式を認めていないため、税抜方式のみとなります(20年収益認識会計基準47項、161項)。
適用初年度において、消費税等の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。したがって、消費税等の会計処理も遡及適用することが原則となりますが、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができるとする経過措置が定められています(20年収益認識会計基準89項)。
表示科目については、20年収益認識会計基準の適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。
また、20年収益認識会計基準等の適用初年度においては、20年収益認識会計基準等において定める以下の注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。
18年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2021年3月期から20年収益認識会計基準を早期適用する場合には、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります。ただし、 20年収益認識会計基準等では、主に表示及び開示に関する定めが追加されていることから、18年収益認識会計基準を早期適用している場合には、20年収益認識会計基準の適用による会計処理への影響は、契約資産の性質の見直しや適用範囲の見直しに限られており、限定的であるものと考えられます。
さらに、経過措置として、将来にわたり新たな会計方針を適用することができるとされています(20年収益認識会計基準89-4項)。
20年収益認識会計基準の適用初年度においては、20年収益認識会計基準の適用により表示方法(注記による開示も含む。)の変更が生じる場合には、過年度遡及会計基準14項の定めにかかわらず、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。
また、以下に記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。
2018年3月30日に18年収益認識会計基準等が公表され、2020年3月31日に、主に、表示及び注記事項を改正する20年収益認識会計基準等が公表されています。
20年収益認識会計基準では、開示目的を定めた上で企業の実態に応じて、企業自身が当該開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとした方が、より有用な情報を提供できるとして、注記事項の開発にあたっての基本的な方針として、次の対応が行われています(20年収益認識会計基準101-6項)。
20年収益認識会計基準の概要は、下表のとおりです。
図表18 20年収益認識会計基準の概要 |
以下では、時価算定会計基準の適用時期や適用範囲を中心に概要を説明しています。
我が国では、金融商品会計基準等において、時価の算定が求められてきましたが、時価の算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていませんでした。一方、IFRSや米国会計基準では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスが定められています。また、IFRSや米国会計基準で要求されている公正価値に関する開示の多くは日本基準では定められておらず、特に金融商品を多数保有する金融機関において国際的な比較可能性が損なわれているのではないかとの意見があったことから、ASBJは時価に関するガイダンス及び開示についての検討を開始し、2019年7月4日に時価算定会計基準等を公表しました。また、同日付けで、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)の金融商品実務指針等が改正されています(図表19参照)。
図表19 新設及び改正された主な会計基準・実務指針等
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※ 上記の他、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」、実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者の会計処理に関する実務上の取扱い」について、実質的に内容を変更するものではありませんが、用語等の形式的な修正が行われています。 |
適用時期は、図表20のとおりとなっています。
図表20 適用時期
原則適用 | 2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
早期適用 | 2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から 2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から |
なお、早期適用する場合には、時価算定会計基準と同時に改正された金融商品会計基準及び棚卸資産会計基準についても同時に適用する必要があります(時価算定会計基準17項)。
国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れることとされました。ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断にあたっては、期末前1か月の市場平均に基づいて算定された価額を引き続き用いることができるなど、一部の項目については我が国でこれまで行われてきた実務に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別の取扱いを定めています。また、時価算定会計基準では、「公正価値」ではなく、従来どおり、「時価」の用語を用いています。これは、我が国における他の関連諸法規において「時価」が広く用いられていることを踏まえたものとされています。なお、時価の定義はIFRS第13号における「公正価値」と整合的なものとされています。
金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に適用されます(時価算定会計基準3項)。なお、時価算定会計基準は、時価をどのように算定すべきかを定めるものであり、どのような場合に時価で算定すべきかについては、他の会計基準の定めに従うこととされています。
なお、投資信託の時価の算定等については、時価算定会計基準の公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていましたが、ASBJは2021年1月18日に時価算定適用指針を改正する公開草案を公表しています。この改正時価算定適用指針案では、投資信託財産が金融商品又は不動産である投資信託、及び貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の算定及び注記に関する取扱いが提案されています。
時価算定会計基準が定める新たな会計方針は、原則として将来にわたって適用することとされています。この場合、その変更の内容について注記することとされています(時価算定会計基準19項)。
ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができるとする経過措置が定められています。また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできるとされています(時価算定会計基準20項)。
新たに設けられた金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に関する注記について、適用初年度の比較情報の開示は不要とされています。また、時価がレベル3の時価に分類される金融資産及び金融負債の期首残高から期末残高への調整表については、時価算定会計基準を年度末の財務諸表から適用する場合には、適用初年度は省略可能とされています(改正時価開示適用指針7-4項、7-5項)。
なお、時価算定会計基準を適用した場合に会計処理には影響がなく、表示及び注記事項の定めのみが影響すると見込まれる会社については、同基準の適用時には会計基準等の改正に伴う会計方針の変更ではなく、表示方法の変更に該当することになると考えられます。このような会社において、改正遡及会計基準22-2項の定めに基づき、未適用の会計基準等の注記の対象とすることが適切であると考えられます。