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会計情報トピックス 吉田剛
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成27年12月28日に企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「本適用指針」という。)を公表しています。
税効果会計に関連する会計基準の体系は、企業会計審議会が平成10年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)を中心に、日本公認会計士協会から公表されている会計上の実務指針及び監査上の実務指針が実務上の適用指針として定められる形となっていました。これらの実務指針については、基準諮問会議から平成25年12月にASBJで審議を行うことが提言され、平成26年2月から審議が続けられてきました。
審議の中で、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に対する問題意識が強く聞かれることから、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の開発(移管)を先行して進めることとされました。具体的には、以下の実務指針等のうち、繰延税金資産の回収可能性に関する定めを本適用指針に引き継ぐものとされ、その上で見直しが必要と考えられる点について検討が重ねられ、今般、本適用指針が公表されたものです。
なお、日本公認会計士協会から公表されている上記実務指針等のうち本適用指針に含まれないもの及び会計制度委員会報告第11号「中間財務諸表等に関する税効果会計に関する実務指針」並びに監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」については、ASBJの適用指針として開発していく予定であることが示されています(本適用指針第55項)。また、これらのうち税効果会計に適用する税率の取扱いに関しては、実務上の課題があるため、実務指針全体の移管作業から切り離して早急に対応を図るべきとの意見が聞かれたため、先行して適用指針を開発するものとし、平成27年12月10日に企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」が公表されています。
本適用指針は、繰延税金資産の回収可能性について、税効果会計基準を適用する際の指針を定めるものであるとされています。
本適用指針では、監査委員会報告第66号における企業の「分類」に応じて回収可能性を判断するという基本的な枠組みを基本的に踏襲するものとしています。すなわち、企業を5つの分類に分け、それぞれの分類に応じて繰延税金資産の回収可能性を判断する現行の方法を原則として引き継いだ上で、当該定めの一部について、必要に応じた見直しを行うという形で本適用指針は作成されています。
以下では、監査委員会報告第66号の定めなどの現行の取扱いと異なる点を中心に、本適用指針における定めの概要を説明します。
前述のとおり、本適用指針では監査委員会報告第66号における「会社分類」という考え方を踏襲しており、各企業は将来の課税所得による繰延税金資産の回収可能性の判断に当たり、それぞれ(分類1)から(分類5)に区分されます。これらの各分類の要件は、極力隙間が生じないように作成されていますが、それでも(分類1)から(分類5)のいずれの要件にも該当しないようなケースが想定されます。本適用指針では、そのような場合に、過去及び当期までの実績、並びに将来の見込みなどを総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断される分類に当てはめるものとされました。
この定めの適用により、例えば監査委員会報告第66号の適用の際に、分類と分類の間に当てはまっていたときに保守的に下位の分類に該当するなどとしていたケースでは、従前の会社分類と異なる結果となることがあるため、留意が必要です。
(分類2)及び(分類3)に係る分類の要件を判断する際の指針として、これまでの規準であった「経常的な利益」に代え、「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得」を用いることとし、繰延税金資産の回収可能性の判断において求められる要件が「将来の課税所得の十分性」であることと平仄を合わせる形とされました。
なお、このときに「臨時的な原因により生じたもの」を除くこととしているのは、過去において「臨時的な原因により生じたもの」は、将来においても頻繁に生じることは見込まれないという推定に基づくとされています。また、分類要件を課税所得に基づく要件に変更するものの、これまで分類②又は分類③に該当していた企業の範囲を変更しないこと、及びこれまでの「経常的な利益」に基づく分類と概ね整合的になることを意図して、課税所得から「臨時的な原因により生じたもの」を除くこととした旨が示されています(本適用指針第71項)。
これまで、監査委員会報告第66号の分類②の企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異については、一律にそれに係る繰延税金資産の回収可能性がないものとして取り扱われていました。本適用指針では、原則としてこれまでの取扱いを踏襲するとした上で、一定の要件を満たす場合(将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性があるものとして取り扱うこととされました。
監査委員会報告第66号では、「おおむね5年」とされていながら実務上は5年を上限として運用されていたものと考えられる分類③の会社における将来の課税所得の合理的な見積可能期間について、見直しが行われています。
具体的には、各企業の実態を反映すべく、課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における当該計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案した上で、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた将来減算一時差異等に係る繰延税金資産の回収可能性があると企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、(分類3)の企業において、当該繰延税金資産に回収可能性があるものとされます。
これまでの定めにおいても、監査委員会報告第66号の会社分類ではいわゆる「④のただし書き」と呼ばれる分類があり、期末において重要な繰越欠損金が存在していたとしても、一定の要件を満たす場合には分類③として取り扱うとする定めがありました。
本適用指針ではこの取扱いに調整を加える形で、(分類4)の要件を満たす場合において重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における当該計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の繰越欠損金の推移等を勘案した上で、将来5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得(後述)が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には(分類2)に、将来においておおむね3年から5年程度一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には(分類3)に該当するものと取り扱うとものとされます。
本適用指針では、注記事項に係る追加の定めは設けられていません。
開示(注記)に関しては、前述した今後行われる他の実務指針の移管の際に、税効果会計に関する注記事項の見直しを行う方針が示されています。
平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用とするものとされています。
ただし、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から早期適用することができます。
本適用指針の適用初年度においては、以下の項目を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。
上記の会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に係る影響額は、当該期首時点の利益剰余金に加減することとされています。ただし、その他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に係る影響額に関しては、当該その他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減することになります。
税効果会計基準及び本適用指針で示された内容についての理解を深めるため、参考として以下の設例が示されています。
【設例1】 一時差異等加減算前課税所得の算定方法
【設例2】 過年度にその他有価証券を減損した場合の税効果(税効果Q&A Q3から移管)
【設例3】 繰越外国税額控除の税効果(個別税効果実務指針 設例6から移管)
本適用指針では、公開草案の段階より、以下に示した点が主として修正されています。
なお、本稿は本適用指針の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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