サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2023年4月号

EYではサステナビリティ開示・保証に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。

 

IFRS S1/S2基準の適用初年度における経過措置

4月初め、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、IFRS S1及びS2の適用初年度における経過措置に関する発表を行いました。この経過措置を適用した企業では、IFRS S1の要求事項は、気候関連開示に関連するもののみに適用されることになります。


ESRS 第一弾の追加ガイダンスを優先課題に

金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局(DG FISMA)のメイリード・マクギネス欧州委員会委員は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)について、現在計画中の第二弾(セクター別基準、上場中小企業向け基準、非EU企業向け基準等)の準備に代えて、第一弾(セクター横断的基準)の追加ガイダンスを優先課題とするよう述べています。


SEC 気候関連開示規則の最終版が公表予定

米国証券取引委員会(SEC)は、気候関連開示規則の最終版、及び人的資本管理規則の草案を4月中に公表予定です。

サステナビリティ開示・保証に関するグローバルな最新動向の詳細については以下をご覧ください。




Key developments

【Global】

IFRS S1/S2基準

ISSBは、IFRS S1号 サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(S1)及びIFRS S2 号 気候関連開示(S2)を6月末に最終公表予定です。これは6月26日から27日にロンドンで開催されるIFRS財団会議2023で発表される可能性があります。

また、ISSBはS1及びS2の適用初年度における経過措置をS1に設けることを暫定決定しました。これは企業の実務上の負担に配慮したものであり、ISSBの気候優先の立場を反映したものです。企業がS1及びS2を同時に適用する場合、初年度は気候関連のリスクと機会のみを開示することを認め、2年目からはすべてのサステナビリティ関連のリスクと機会を開示することを要求しています。この経過措置は、S1及びS2の適用日(2024年1月1日以降に始まる年次報告期間)に影響を与えません。
SSB prioritizes climate disclosures with transition relief

S1及びS2の公表後、証券監督当局の国際機関である証券監督者国際機構(IOSCO)はこれらの基準の評価プロセスを開始します。IOSCO Board Priorities – Work Program 2023-2024の中で、IOSCOはこれらの評価を2023年内に完了するとし、サステナビリティ報告の「完全性、一貫性、比較可能性」の向上に向けた取り組みを強調しています。このWork Program 2023-2024は、グローバルな保証フレームワークの開発に向けた報告書に続くもので、サステナビリティ保証基準や倫理基準を策定する際に国際基準設定機関が検討すべき優先事項を示しています。


ISSBアップデート

4月のISSB会議で、SASB基準の国際的な適用可能性及びSASB基準とISSB基準を統合するための公開草案について協議しています(アジェンダ・ペーパー8A及び8B)。またアジェンダ優先事項に関するコンサルテーション及びパブリックコメントの応募プロセスについても協議を進めています。パブリックコメントの応募はWebサイトを通じて行う予定で、コメント期間は120日間となる可能性があります(アジェンダ・ペーパー2)。


ISSBとIASBのコネクティビティ

ISSBの姉妹組織である国際会計基準審議会(IASB)は、財務諸表における気候関連リスクの検討を開始し、企業が財務諸表の中でどのように気候関連リスクに関するより良い情報を提供できるか協議しています。ISSBのエマニュエル・ファベール議長とIASBのアンドレアス・バーコウ議長は、IFRS財団の記事(Connectivity – what is it and what does it deliver?)の中で、サステナビリティ関連財務開示と財務諸表のコネクティビティについてのビジョンとそのメリットについて説明しています。


生物多様性関連

3月28日、自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD)は、2022年3月より順次発表されていたベータ版フレームワークの最終草案を公表し、大きなマイルストーンを達成しました。これによりフレームワークの全体像が明らかになりました。TNFDは2023年9月に最終的な開示フレームワークを公表する予定です。
TNFDベータv0.4版発行:企業にとって、開示イメージがより具体的になったドラフト最終案の5つのポイント


【Americas】

米国では、SECが今月中に気候関連開示規則の最終版及び人的資本管理規則の草案を発表する予定です。 しかし、どちらか一方または両方が延期される可能性があるとの見方もあります。気候関連開示規則の策定に関しては、SECのゲンスラー委員長は反対意見の圧力に直面しており、共和党の議員らはこれを時期尚早であると批判しています。SECのヘスター・ピアース委員もこの規則策定はビジネスの障壁になると警告しています。一方、自然保護団体であるシエラクラブは、最終版の気候関連開示規則において、スコープ3の温室効果ガス排出量開示を義務付けることを維持するようSECに書簡で要請しました。

カリフォルニア州で気候関連開示を義務付ける法律案(SB253及びSB261)の立法手続きが進められています。この法案は、同州でビジネスを展開し、売上が年間10億ドル以上の企業約5,400社に適用される予定です。また、米国の監査品質センター(CAQ)は、気候関連情報における監査人の役割を取り上げた「The Role of the Auditor in Climate-Related Information」を発表しました。本書は監査人の気候関連情報保証を可能にするファクターやスキルセットについて書かれています。

チリでは、大規模上場企業が3月30日までに金融市場委員会(CMF)にサステナビリティレポートを提出しました。


【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

EUでは、DG FISMA(金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局)が、現在策定中のESRSの第一弾についてのコンサルテーションを4月中旬から4週間にわたって行う予定です。前述の通りDG FISMAのマクギネス委員は、ESRSの開発機関である欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)に対し、ESRSの第一弾(セクター横断的基準)に関する追加ガイダンスの提供を優先し、第二弾(セクター別基準、上場中小企業向け基準、非EU企業向け基準等)の準備を遅らせるよう要請しました。これにより、2023年4月または5月に予定されていた第二弾の公開草案に関するEFRAGの公開協議の時期が遅れると予想されます。

ウォールストリート・ジャーナルの最近の報道(At Least 10,000 Foreign Companies to Be Hit by EU Sustainability Rules)によると、外国に本社を置く少なくとも1万社の企業(うち8%が日本企業)がCSRDに従った開示を求められる可能性が高いと強調されています。しかし、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の最近の講演では、報告要件を簡素化し25%削減するための具体的な提案を提出する予定であると述べられています。 この発表の影響はまだわかりません。

英国では、2023年グリーンファイナンス戦略の中で、英国におけるISSB基準の適合性を検証するための正式な評価メカニズムを立ち上げ、S1/S2公表後12ヶ月以内にこれらを承認するかどうかを決定するとしています。これは英国政府におけるISSBへの支持の強さを示すものであり、英国が国際基準の正式採用の先駆者となることを意味します。 2023年グリーンファイナンス戦略には、英国グリーン分類法に対する企業情報開示の義務化、企業に移行計画の開示を求める協議、TNFDフレームワークを英国の政策として取り入れる方法の検討などが含まれています。

インドでは、証券取引委員会(SEBI)が提案した、上位の上場企業に対する「企業責任とサステナビリティ報告」(BRSR)の追加要件に対するコメント期間が3月に終了しました。


【Asia-Pacific】

日本では、先月末に金融庁によるサステナビリティ開示義務化を含む開示府令が施行されました。この開示府令は日本全体で約4,000社に適用されます。一方、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、ISSB基準をモデルとした、サステナビリティ開示基準を策定する計画を進めています。

アジア太平洋地域では、マレーシア証券取引所が上場企業のサステナビリティ報告プラットフォームの一元化を発表しました。また、ニュージーランドでは、金融市場局(FMA)がニュージーランドで重要な事業活動や投資を行っていない外国免責企業に対する気候報告免除措置の導入を検討しています。

GRI(Global Reporting Initiative)とKPMGによる最近の報告によれば、ASEAN地域が持続可能なビジネスにおける新たなグローバルリーダーとして台頭しており、企業がその影響を開示する傾向が強まっているようです。特にシンガポールとマレーシアは大企業のサステナビリティ報告率が最も高い国の一つであり、フィリピンも急速に追い上げています。これらの国の上位100社の多くがGRIスタンダードを使用しています。
Recognizing sustainability strengths of ASEAN region



今後の日程

今後注目すべき主な日程は以下です。

  • 2023年4月:米国において、SECによる気候関連開示規則の最終版及び人的資本関連開示規則の草案を公表予定(ただし、公表が遅れる可能性もあり)

  • 2023年4月:EUにおいて、DG FISMA(金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局)がESRSの第一弾について、4週間のコンサルテーションを開始予定

  • 2023年4月/5月:EUにおいて、EFRAGはESRS公開草案の第二弾に関するコンサルテーションを開始予定

  • 2023年5月:ISSBが今後の基準設定の優先事項に関するコンサルテーションを開始予定

  • 2023年6月:ISSBが最終的なS1基準及びS2の基準を発表予定

  • 2023年6月:EUにおいて、欧州委員会がESRSの第一弾を採択予定

  • 2023年Q3:IOSCOは、ISSB基準の承認に関する決定を発表予定


その他の重要トピック

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(AR6)

IPCCは、気候危機に関する第6次評価報告書を発表し、早急な対応を促しました。報告書は、気候変動の影響による荒廃について詳しく記述し、その不可逆的な損害を避けるために、世界の気温上昇を1.5℃に抑える必要性を警告しています。
Synthesis Report of the Sixth Assessment Report


グローバルなサステナビリティ開示基準の次の目標

2月にモントリオールで開催されたISSBシンポジウムの後、EYの公共政策担当グローバルバイスチェアのショーン・マハーは、過去1年間にサステナビリティ基準に関する2つの基準をリリースしたISSBの意欲と努力について振り返りました。ショーンは、ISSB基準と他の法域の基準との間の相互運用性を達成することの重要性と、グローバルなベースライン基準の意味合いを強調しました。

※ 2023年4月号よりタイトルを「Sustainability Reporting Developments」から「サステナビリティ情報開示のグローバル動向」に変更しています。


〈お問い合わせ先〉
EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室

牛島 慶一
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader
馬野 隆一郎
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー
Kyle Lawless
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン ディレクター

※所属・役職は記事公開当時のものです。



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