2024年9月4日
GPUサーバー向けデータセンターに求められる要件
情報センサー2024年8月・9月 Trend watcher

GPUサーバー向けデータセンターに求められる要件

執筆者
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

小室 英雄

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション リード・アドバイザリー CIAリーダー パートナー

クロスボーダーM&Aエバンジェリスト。

2024年9月4日

主にデータセンター(以下、DC)関連のビジネスに携わる方々に対し、①GPUサーバー/CPUサーバーが有す主な特徴の違い、➁各サーバーを設置するDCに求められる要件の違いという、大きく2つの情報を提示することで、需要が拡大するGPUサーバー向けDC関連ビジネスへの進出の際に留意する必要のある点を示します。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー事業部 TCF Lead Advisory 小室 英雄

TMT業界、金融業界、不動産業界を中心にプレM&AフェーズからM&Aの実行、海外PMIハンズオン支援までLifecycle支援に強みを有する。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)パートナー


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー事業部 TCF Lead Advisory 七澤 奈緒子

プレM&Aフェーズからの戦略立案からオンディールにかかる企業・市場調査、事業計画策定支援を中心に携わる。リサーチ業務に長く従事しており、事業成長性評価、事業計画策定、企業価値評価、市場分析を踏まえた多数の業界・企業レポートを執筆する。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) シニアマネージャー。


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー事業部 TCF Lead Advisory 加納 星太

データセンター業界のマーケットリサーチ等、同業界に関連する業務に複数従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) スタッフ。

要点
  • 近年、生成AI等のAI関連サービスへのニーズ拡大に伴い、GPU サーバー及びGPU DCの需要が拡大している。
  • GPU DCの主な特徴は、確保すべき電力容量が多い、高機能の冷却機能が必要、ネットワークの低レイテンシー確保の重要性が低い、電力・通信関連機器の冗長性確保の重要性が低いの4点。
  • 今後、東京、大阪以外のエリアで、GPU DCの新設計画が増加する可能性が考えられる。

Ⅰ はじめに

近年、生成AI等のAI関連サービスへのニーズ拡大に伴い、GPU サーバー※1及びGPUサーバーの設置に適した環境を提供するデータセンター(以下、GPU DC)の需要が拡大しています。

本稿の目的は主にデータセンター(以下、DC)関連のビジネスに携わる方々に対し、次の情報を提示することで、需要が拡大するGPU DC関連ビジネスへの進出の際に留意する必要のある点を示すことになります。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

  • GPUサーバー/CPUサーバーが有す主な特徴の違い
  • 各サーバーを設置するDCに求められる要件の違い

※1 Graphics Processing Unit(GPU)を搭載したサーバーを指す。

Ⅱ GPU DCが注目されている背景

改めてDCとは、「インターネット用のサーバーやデータ通信、固定・携帯・IP電話などの装置を設置・運用することに特化した建物の総称」※2を指します。

一般的なDCに設置されているサーバーは、主にCPUサーバー※3です。しかし、近年は多くの企業が生成AI開発投資を進める中、生成AI学習を支える高性能なGPUを備えた多数のサーバーと、それらを収める大規模なGPU DCが不可欠となっており、今後GPU DCの需要は、契約電力量ベースで2023年の7,900kW(見込値)から2028年の184,800kW(予測値)へと、CAGR(年平均成長率) 87.9%のペースでの急拡大が見込まれています(<図1>参照)。

※2 出典:日本データセンター協会「データセンターとは」、www.jdcc.or.jp/activity/datacenter/(2024年8月28日アクセス)

※3 本稿ではIAサーバーのことを指す。IAサーバーはCentral Processing Unit(CPU)として米インテル社のx86系プロセッサまたは他社の互換製品を採用したサーバーを指す。

図1 GPUサーバー向けハウジング市場の契約電力推移

図1 GPUサーバー向けハウジング市場の契約電力推移

出所: 株式会社富士キメラ総研のプレスリリース、www.fcr.co.jp/pr/24024.htm(2024年8月28日アクセス)の内容を基にEY作成

需要の急拡大が見込まれるGPU DCは、GPUサーバーとCPUサーバーが異なる特徴を有していることに起因し、従来のCPUサーバーを主に設置していたDC(以下、CPU DC)とは求められる要件が異なっています。以降Ⅲ章、Ⅳ章で、各サーバーの特徴の違いと、各DCに求められる要件の違いを整理していきます。

Ⅲ GPUサーバーとCPUサーバーの特徴の違い

GPUサーバーとCPUサーバーの特徴の違いを、「ユーザー」、「用途」、「電力消費」の3つの観点で整理すると<表1>のようになります。

表1 GPUサーバー/CPUサーバーの 特徴の違い

表1 GPUサーバー/CPUサーバーの 特徴の違い

*1 インターネットを通じてソフトウェアやサービスを提供する事業者を指す。

*2 クラウドベースのプラットフォーム、インフラストラクチャー、アプリケーション、ストレージサービス等を提供する事業者を指す。

出所: 国際環境経済研究所「AIのエネルギー消費に関する雑感」(2022年)、各DC事業者のプレスリリース等の内容を基にEY作成

消費電力<表1(#3)>に関する補足

電力消費量の違いは、両サーバーの演算処理数の違いに起因しています。

GPUサーバーに搭載しているGPUは、多数のコアを有することで、並列演算処理を得意としています。近年では大量の演算処理を行うAI関連用途でGPUが必要とされるケースが多くなっています。

演算処理数が増加すると、①演算処理自体が消費する電力、②演算処理によって発生する熱を冷却するための消費電力※4の両方が大きくなるために、大量の電力が必要になります。

※4 GPUサーバー、CPUサーバー共に、演算処理に伴う発熱が高くなりすぎるとサーバーが正常に機能しなくなるため、サーバーを冷却する必要がある。

Ⅳ GPU DCとCPU DCそれぞれに求められる要件の違い

Ⅲで述べた各サーバーの特徴の違いを踏まえ、GPU DCとCPU DCそれぞれに求められる要件の違いを、「確保する必要のある電力容量」、「冷却方式」、「ネットワークの低レイテンシー※5確保の重要性」、「電力・通信関連機器の冗長性確保の重要性」の4つの観点で整理すると<表2>のようになります。

※5 ネットワークの低レイテンシーとは、ネットワーク通信における遅延が少ない状態を指す。

表2 GPU DC/CPU DCそれぞれに求められる要件の違い

表2 GPU DC/CPU DCそれぞれに求められる要件の違い

*1 DC内では、サーバーはラックと呼ばれる棚に設置されており、ラックあたりの提供可能電力がDCごとに大きく異なる。

*2 kVA(キロボルトアンペア)は、皮相電力という理論上の電力量を表す単位であり、有効電力に無駄な損失分を含めたもの(電圧と電流の積で計算)。有効電力はkW(キロワット)で表す。

*3 障害・自然災害等想定外の事態が生じても、電力・通信機能を問題無く享受できる体制を整備する事を指す。具体的には電力・通信配線を、それぞれ複数DC施設に引き込むなどの対応を行う必要があるが、当然相応のコスト負担が発生している。

出所:各DC事業者のプレスリリース等の内容を基にEY作成

冷却方式<表2(#2)>に関する補足

液体冷却方式は、実証研究等は進んでいるものの、本格的な普及には一定の時間を要すると考えられます。


ネットワークの低レイテンシー確保の重要性<表2(#3)>に関する補足

低レイテンシーの確保にはさまざまな要素が絡みます。特にインターネットトラフィックの相互接続ポイントであるIx※6拠点との物理的な距離は重要な要素となります。主要なIx拠点は、関東圏では東京の大手町、関西圏では大阪の堂島に位置しており、国内の多くのDCが東京、大阪を中心に立地している一因となっています。

双方向のデータ処理頻度が低いAI向け GPU DCであれば、Ix拠点が少ない東京、大阪以外のエリアでも問題無いとされる可能性があり、東京、大阪以外の立地ならではのメリット(相対的な土地代の低さ、補助金等)を享受できる可能性が考えられます。

※6 インターネットエクスチェンジの略。

Ⅴ おわりに

ここまで述べてきた内容のポイントをまとめると次の通りとなります。

  • 近年、生成AI等のAI関連サービスへのニーズ拡大に伴い、GPU サーバー及びGPU DCの需要が拡大している。
  • GPU DCは、①多くの電力容量の確保、②高機能の冷却方式の完備といった、従来型のCPU DCでは求められなかった「追加で求められる要件」がある。一方、③ネットワークの低レイテンシー確保の重要性の低さ、④電力・通信関連機器の冗長性確保の重要性の低さといった、CPU DCでは重要視されていながら「一部のGPU DCにおいては重要性が低く、対応の優先度を落とすことで、コストメリット等を享受できる可能性」が存在していると考えられる。
  • 今後、東京、大阪以外のエリアで、GPU DCの新設計画が増加する可能性が考えられる。

GPU DCとCPU DCでは求められる要件が異なります。この違いを理解することで、GPU DC関連ビジネスにおける、ビジネスチャンスをつかむ可能性を高められると考えています。本稿が皆さまのGPU DCに対する理解を深める一助になれれば幸いです。

サマリー

主にデータセンター(以下、DC)関連のビジネスに携わる方々に対し、①GPUサーバー/CPUサーバーが有す主な特徴の違い、➁各サーバーを設置するDCに求められる要件の違いという、大きく2つの情報を提示することで、需要が拡大するGPUサーバー向けDC関連ビジネスへの進出の際に留意する必要のある点を示します。

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