ニュースリリース
2024年12月23日  | Tokyo, JP

EY Japan、2025年に予想される地政学的動向トップ10を発表

プレス窓口

  • デジタル主権と新たな局面にある地政学的エネルギー情勢は、デジタル変革とエネルギー移行の今後を形作る
  • 地政学的情勢やそれによる影響について洞察を持つことは、経営者が今後の変革に自信を持って取り組むために重要

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡、以下EYSC)で戦略コンサルティングサービスを提供するEYパルテノンは、地政学が今後1年間で世界の市場にどのような機会と課題をもたらすかについて考察する最新のレポート「2025 Geostrategic Outlook(2025年に予想される地政学的動向トップ10)」(以下 本レポート)を発表しました。

2024年は、「世界的な選挙イヤー」により、政治的および政策的な不確実性が目立つ1年でした。EYでは、2025年に世界的な潮流を形作る3つの主要テーマを特定しました。
第一に、選挙後の政治指導者は選挙戦から統治へと焦点を移し、これにより世界中の政策や規制が変化する可能性があります。第二に、各国政府が経済上の優位性・競争力および経済主権を確保するために保護的な政策を強化する可能性が高まり、特に、デジタル技術と気候技術が注目されることが予測されます。第三に、地政学的競争が激化する中で、各国が独自の外交政策やビジネスルールを作るため、クロスボーダービジネス活動と両立し得ない基準やシステムなどが制定され、グローバル経済をさらに複雑化させます。地政学的情勢はグローバリゼーションの方向を変えることになり、企業の原料や製品の調達先、投資先や売却先が限定される可能性があります。

3つの主要テーマと2025年地政学的動向トップ10

各国リーダーの軸足は選挙から統治へ

1. ポピュリズム政策の影響
ポピュリズムの影響から、保護主義の強化、移民の制限などが懸念され、グリーン政策には圧力がかかるでしょう。CEOは、社内外のセンシティブな政治的課題に対処するためのコミュニケーション戦略を策定し、地政学的動向から生じ得る事業上のリスクやレピュテーションリスクの軽減が必要です。

2. 課税に関する難題
各国の新政府は、債務負担残高を減らすために、企業への法人増税、資産への課税、高所得世帯への増税をはじめとする代替戦略を模索するとみられます。企業はステークホルダーと協力して、潜在的な税制改正の影響を明確化しつつ、政府が効率的な税制政策を形成するのを支援することが望ましいです。

3. 人口動態からみえる分断
人口の高齢者層と若年層、そして移民層とが相互に及ぼし合う影響が、国内ならびに世界的な政治的な力学をつくり変えている方向性に一層拍車をかけるとみられます。経営者は移民の経済的な正当性を政府に訴え、人材の獲得と維持に資する柔軟な労働移動の枠組みの設立を支援することが重要です。

各国における経済上の競争と経済主権

4. デリスキング(リスク低減)と依存関係
各国政府は経済安全保障上の措置を加速させていくとみられますが、その結果として、企業や国境にまたがるサプライヤー関係の複雑な供給網が生じます。経営者は、新規市場の多様化を進める際には透明性を優先事項として、企業の本国にとっての地政学的ライバルとの接触を先んじて最小化すべきと考えられます。

5. デジタル主権
デジタル技術の戦略的重要性の高まりから、各国はデジタル空間を政府のコントロール下に置くための政策や規制の施行を、さらに加速するでしょう。経営者は、人工知能(AI)アルゴリズムや半導体、ネットワークインフラに関連する産業政策により生じ得る投資機会について評価・検討が求められます。

6. 気候政策と内在する競合課題
気候政策は、経済、地政学、価格という潜在的に相入れない3つの競合的な力の拮抗(きっこう)によって動くものと考えられます。経営者は、矛盾する各国の気候規制がクロスボーダー事業の相互運用性や長期的なサステナビリティ戦略にどのように影響を与えるか精査が必要です。

地政学的競争の激化

7. 新たな局面にある地政学的エネルギー情勢
各国の政策により、地政学的エネルギー情勢の拮抗(きっこう)は引き続き影響を受けながら変化しますが、その影響によりグローバルなエネルギー移行の速度については不確実性をもたらします。企業は、同時進行的な各国のエネルギー移行が企業の戦略やコンプライアンスにどのように影響を与えるかについて評価すべきと考えられます。また投資決定の機会には、再生可能エネルギーの利用可能性と魅力度を考慮する必要があります。

8. 新興国市場の統合
グローバルサウスによる新興国市場の地域経済統合ならびに多国間機関における改革への2つの圧力が、グローバルな事業運営環境をより複雑なものにしています。経営者は、新興国市場のうちどれが最大の機会をもたらすかについて調査し、どのシナリオを用いれば適切な市場参入あるいは撤退の決定ができるかについて考察しておくべきです。

9. 戦争と紛争
現在進行中の戦争・紛争が継続する中にあって、国や集団内外における緊張のエスカレーションは、現実世界とサイバースペースの双方で新たな戦争・紛争を引き起こす可能性があります。経営者は、将来の潜在的紛争シナリオの事態に向けたレジリエンス強化が必要です。事業のフットプリント(足跡)の変化や事業運営の変更内容の同定は、レジリエンス強化に寄与するもので、早急に実施することが推奨されます。

10. 宇宙政治と宇宙経済
技術能力と宇宙資源の所有権主張のために多くの国・地域が競争をし烈化するにつれて、多極化する宇宙競争は新たな域に達するとみられます。企業は、新しいスキルセットを育成し、事業運営全体のレジリエンスを構築することが非常に重要です。そのためには、まず研究開発計画と投資を再考し、将来に向けたサイバーおよびデータのレジリエンスを開発する必要があります。

2025年に予想される地政学的動向トップ10がセクターに及ぼすと考えられる影響は以下の通りです。

  • 消費財・ヘルスケア
    各国政府が気候変動や人口動態、デジタル変革に対応する中での政策立案・政策変更は、消費財とヘルスケア分野にわたって企業に影響を及ぼします。また税制改正も企業の財務状態や成長見通しに影響を及ぼすと考えられます。経営者は、政策の変化が消費者の嗜好(しこう)に対しどのように影響するかを評価し、結果を長期戦略に反映させることが推奨されます。

  • 金融サービス
    地政学的な競争は、金融サービス機関のグローバルなフットプリント、企業戦略、変革アジェンダにリスクをもたらします。また、規制環境がますます複雑化する傾向は、今後続く可能性が高いです。経営者は、事業運営する各地域における規制順守状況とコンプライアンス、中でもAI分野について、念入りに確認することが重要です。

  • パブリックセクター(政府・公共サービス)
    課税に関する難題は、不動産企業や建設会社への資金の流動性に大きく影響を及ぼすと考えられます。脱炭素化や持続可能なケアエコノミー(介護、福祉や看護)の確立など、戦略的変革のコストをどのように調達するかは、多くの政府にとって切実な問題です。

  • 製造業・エネルギー
    各国政府は、引き続き、炭化水素、金属、グリーンテクノロジーなどを戦略的な製品として、産業政策の対象とするものと考えられます。経営者は、新たな局面にある地政学的エネルギー情勢と気候政策による変革が、産業全体の市場需要やビジネスモデルにいかに影響を及ぼすかについて、考慮することが望ましいです。

  • プライベートエクイティ
    プライベートエクイティによる地政学的情勢へのエクスポージャーのほとんどは、ポートフォリオ企業のレベルで生じます。人口動態の分断は、資金調達プロセスと資本源を変え得るものであると同時に、デリスキングと依存関係は投資機会に影響を及ぼします。ファンドマネージャーは、資本を投下する際には、これらの変革の潮流を考慮することが推奨されます。

  • テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム
    デジタル主権政策は、国境を越えた新しい基準や規制を課す半面、セクター全体の企業に新しい投資機会をもたらします。経営者は積極的に、進化しつつある地政学的展望と自社の事業運営とを同調させることが重要です。また、業界基準が制定・改定される際に、経営者が意見を提供することが推奨されます。

EYSC EYパルテノン パートナー 小林 暢子のコメント:
「地政学的リスクの高まりを受け、日本企業は対応策を強化しています。EYの調べによると、上場企業の年次有価証券報告書における地政学的リスクや関連用語への言及は、過去10年間で10倍と急増しています。
米国を含めいくつもの既存政権が苦戦した2024年選挙スーパーサイクルを経て、世界の地政学的な力学は新しい転換点を迎えています。ビジネスへの影響は大きなものになるでしょう。私たちは、企業がこれらの課題に対処し、持続可能な成長を達成するための戦略を提案し支援します」

詳細については、下記をご覧ください。
2025年に予想される地政学的動向トップ10 


Geostrategic Outlook(地政学的動向)について

EYの地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group:GBG)が毎年公表しているGeostrategic Outlook(地政学的動向)は、今後1年間で予想される世界の政治的リスクの動向に関する分析結果を解説しています。GBGは、政治リスク、政府政策、公共部門、戦略、学術界の各分野において長年の経験を有する地政学リスク専門家グローバルネットワークです。

「2025 Geostrategic Outlook(2025年に予想される地政学的動向トップ10)」では、10の地政学的動向を選ぶにあたり、GBGはまず、2024年8月から9月にかけてクラウドソーシングによるホライズン・スキャニング調査(将来大きなインパクトをもたらす可能性のある変化の兆候をいち早く捉えるために、現状を調査・分析して将来を展望する)を実施し、潜在的な政治的リスクを特定しました。本スキャニング調査は、複数の内部および外部データ、ならびに研究ソースからのデータを収集しました。GBGは、公共政策、戦略、マクロトレンド、セクターレベルの動向に焦点を当てた世界中のEYのチームに属する数十に及ぶ領域のプロフェッショナルからの見解や情報も収集しました。本スキャニング調査は、世界のすべての地域を対象とし、地政学的戦略の枠組みを構成する4つのカテゴリー(地政学・国・規制・社会)すべての政治的リスクを網羅しています。また、さらに多くの動向を把握すべく、政治的リスク関連の調査会社に所属する専門家にも聞き取り調査を行いました。

次に、特定したすべての政治的リスクを、その発生確率、および世界中のさまざまなセクターや地域の企業への影響度合いという2つの側面から評価しました。この影響評価は、地政学戦略の実行プロセスにおける第2段階の一環として位置付けられています。EYがGeostrategic Outlookで公表している地政学的動向トップ10は、グローバル企業に代表される政治的リスクの発生確率と影響度合いの評価結果に基づいています。

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