7 分 2024年9月19日
Diabetic patient monitoring glucose level

持続血糖測定器(CGM)市場から学ぶこととは

執筆者
Maryline Marquet

Partner, Business Consulting, Ernst & Young AG; EY EMEIA Digital Transformation Architect MedTech Lead

Mother of three amazing children. Life Sciences Industry fan. Global citizen - born in France, raised in Middle East, worked and lived in Asia, US, Europe.

Mark Ginestro

Principal, Life Sciences, EY-Parthenon, Ernst & Young LLP

Experienced advisor. Life sciences whitepaper and article author. Speaker.

John Babitt

Partner, Life Sciences, Ernst & Young LLP

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専門的知見に基づき、製薬・医療機器メーカーに対し、成長戦略や業務改善に係る施策の策定・実行を支援。

7 分 2024年9月19日
関連トピック ライフサイエンス

進化する持続血糖測定器(Continuous Glucose Monitoring、以下 CGM)市場は、糖尿病領域の医療機器メーカーに、未開拓な市場を開発するための重要な教訓を提示しています。

要点

  • CGMメーカーは、市場での普及に向けて、さまざまなアプローチを試みている。
  • CGMメーカーが製品を市場に浸透させるためには、何を考慮すべきか。
  • 今後、押さえるべきCGM市場の課題は何か。

 EY Japanの視点

糖尿病を巡っては、成因や病態メカニズムの解明に並行して、新たな薬物療法や治療デバイス・モニタリングデバイスの登場により、血糖コントロールや合併症のリスクは以前より容易になってきました。また国民の健康志向の向上や検診・保健指導により日本における新規糖尿病患者は減少していくことが期待されますが、根本的に治癒する治療法がない中で、既存患者へはきめ細かい治療・モニタリングが今後ますます必要になってくると思われます。

CGMを巡る技術革新は日進月歩であり、近年の医療機器メーカーの提携に係る動きも極めて活発です。今後はContinuum of Care(継続したケア)の考え方に基づき、より患者特性に沿った製品およびサービスが開発され患者に届いていくことが考えられます。特にAIを含むデジタルヘルス領域においては関連する製品やサービスの上市が見込まれますが、浸透に向けては適正な技術評価の枠組みが必要と想定されます。

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EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 医薬・医療セクター パートナー
村上 祐介

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 医薬・医療セクター マネージャー
儀間 清昭

※所属・役職は記事公開当時のものです

持続⾎糖測定器(CGM)市場は活況を呈しています。今年初めに開催されたJ.P. Morgan Healthcare Conferenceをはじめ、⼤⼿メーカーが強気な成⻑⾒通しを報告しています。また、魅⼒的な新製品の上市や、2028年までに売上⾼200億⽶ドルを達成するといったコミットメントも発表しています1

CGMの技術は、ハイブリッド・クローズドループ・システムと組み合わせることで、糖尿病の治療と管理に改革をもたらしました。例えば、サハラマラソン(サハラ砂漠で開催される250キロのウルトラマラソン)のような過酷なレースに1型糖尿病患者が参加し、血糖値管理とインスリン治療を続けながら完走することを可能にしました2。これは、10年前の従来の糖尿病管理方法では不可能と考えられていたことです。

本記事では、CGM市場の現状と、CGM機器メーカーの市場参入(go-to-market、以下GTM)戦略に関する重要な教訓、糖尿病管理を支えるCGM機器市場参入を成功させる戦略構築に向けた今後の課題について考察します。

Doctor checking patient with records
(Chapter breaker)
1

第1章

CGM機器メーカーの強力なGTM戦略策定における重要な教訓

1型糖尿病と2型糖尿病の患者のニーズと、その他の患者グループの違いを認識することで、CGM機器メーカーのGTM戦略はどのように形成されたのでしょうか。

Medtronic社は、2017年にセンサーシステム「GuardianTM」で早い段階からCGM市場に参入しました。しかし、システムの複雑さ、指に針を刺すキャリブレーションが必須であること、またアラームの頻繁な作動を要因として、患者はより使いやすい製品に乗り換えるようになっています。3。2023年にAbbott Laboratories社が計上した(糖尿病ケア事業内)CGMの売り上げは53億⽶ドル4、同年にDexcom Inc社が計上した収益は36億⽶ドルです5

糖尿病医療機器市場の主要なプレーヤーは、ターゲットとする患者のプロファイルに応じ、独自のGTM戦略をとってきました。Dexcom社は使いやすさ、安全性、控えめなアラームで、1型糖尿病患者に特に人気があり6,7、同社のCGM製品G6とG7では、低血糖を検知するセーフティ・アラーム・システムをカスタマイズすることが可能です。一方、Abbott社の手頃な価格のFreestyle LibreTMシステムは、診断後の生活の適応と管理に関心が高い患者に適しており8、2型糖尿病患者に対して優れた実績を残しています。

大手医療機器メーカーの間で価格競争は起きていないものの、各メーカーはCGM機器の価格を戦略的に引き下げ、市場での存在感の拡大を図ってきました。Abbott社は、2019年に生産拡大により価格を下げたと報じられていますが9、Medtronic社など他の大手メーカーも、2021年にGCMのコストを66%も削減し、同じ道をたどっています10。注目すべきは、従来はCGM機器の主たる消費者層ではなかった2型糖尿病患者市場を、企業が開拓していることです11

糖尿病医療機器メーカーは、大手CGM機器メーカーの事例から学び、さまざまな顧客の特定ニーズに対応する、独自のGTM戦略の策定に注力する必要があります。例えば、1型糖尿病患者の場合、病気の重症度と合併症のリスクから、継続的モニタリングとハイブリッドクローズドループ技術に投資する価値があります。一方、多くの2型糖尿病患者は、高価な先端テクノロジーへの投資を望まず、より手頃な価格を選択肢として好みます。

同様に、地理的な違いもGTM戦略で重要な役割を果たします。ほとんどのメーカーは、米国と欧州で市場を拡大していますが、低・中所得国には、コストの制約、誤った情報、不十分な医療教育など独自の課題を抱えた未開拓市場があります。これらの市場をターゲットとする場合、CGM機器メーカーは、さまざまなアウトリーチチャネルや戦略を活用し、誤った情報や偏見を除外する必要があります。例えば、教育機関、NGO、政府機関と連携することで、若年層と中高年層、両方の患者集団を教育することができます。これらの他にも、メーカーがGTM戦略策定のために、分析・検討することが必要な重要な領域があります(図1を参照)。

糖尿病医療機器メーカーの今後の課題
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2

第2章

糖尿病医療機器メーカーの今後の課題

CGM機器メーカーにとって、次の重要な課題は何でしょうか。また、それにどう対処すればよいでしょうか。

CGM機器はペイシェントエクスペリエンスと生活の質を向上しましたが、このテクノロジーはまだ発展途上にあり、技術面と市場において、両方の課題に直面しています。中でも、CGM機器市場への影響が不明なことから、最近の糖尿病治療におけるグルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide 1、以下GLP-1)の成功は、重要な課題となっています。

CGM機器メーカーは、GLP-1受容体作動薬を服用している患者において、血糖モニターの利用が増加したと主張していますが12, 13、2023年10月の報道によると、新薬に対する消費者の不安感から、医療機器関連の株価指数は3カ月間で20%下落しました14。一方、アナリストの予想は、医療機器メーカーと一致しており、2型糖尿病患者へのGLP-1受容体作動薬の投与開始後に、CGMの導入が加速し、アウトカムが向上すると予想しています。ただし、GLP-1の影響により、インスリンを使⽤する患者の割合が今後5年間で、20%〜25%減る可能性もあります1。医療機器メーカーは、GLP-1が患者の属性、治療パラダイム、臨床医とのコミュニケーションに及ぼす影響についての理解を⼗分に深めることにより、将来的に適切な戦略上の意思決定を下すことができます。

CGM機器メーカーのもう1つの課題は、機器の流通チャネルにあります。従来米国では、CGM機器はメーカーまたはサードパーティーベンダーからしか購入することができませんでした。2010年代半ばになると、CGM機器メーカーは保険会社と連携し、薬局の処方箋を通じて患者に直接CGM機器を提供するようになりました。これは企業に大きな利益をもたらし、ここ数年の売り上げ増加に大きく貢献しています。患者へのアウトリーチをさらに強化するために、CGM機器メーカーは、eコマース機能に投資し、消耗品と病気の管理をサポートするアプリに加え、健康管理に関するアドバイスをオンラインで提供すべきです。そのためには、医療従事者、保険者、糖尿病ケアで使用する他の機器のメーカー(インスリンポンプ、インスリンペン、医療用ソフトウェアの開発企業)との関係を育み、強化しなければなりません。

最後に、病気の種類、人口統計(年齢、性別、医療費)、確立されたチャネル(医療従事者、薬局、地域医療)による、それぞれの患者グループのニーズを深く理解し、より的確に活用するために、重要なデータと分析機能に投資し、開発することが必要です。テクノロジー企業と連携することで、各患者グループに対するインサイトを獲得し、より多くの情報を基に、市場と治療に関する意思決定を行うことができます。

糖尿病医療機器メーカーの今後の展望
(Chapter breaker)
3

第3章

糖尿病医療機器メーカーの今後の展望

CGM機器メーカーが、CGM を糖尿病の新たな標準治療としての普及を図るために、糖尿病治療全体をカバーするよう拡大し、データを活用するには、どうすればよいのでしょうか。

一歩先を行きたいCGM機器メーカーは、最先端のテクノロジーやパートナーシップに投資し、スクリーニング検査や診断、モニタリングや管理まで、一連のペイシェントジャーニーをサポートする幅広いソリューションを提供する必要があります。この戦略的な機会に加えて、メーカーが見据えるべき戦略として、糖尿病性神経障害、慢性腎疾患、糖尿病足病変・眼病変など糖尿病の併存疾患を対象に加え、事業領域全体を拡大することも重要です(図2参照)。

メーカーは、CGMなど既存のテクノロジーを活用して、ウエアラブル端末や専用のフィットネス・ダイエットアプリを通じて、より多くの血液由来のパラメーターや、医師から指示された生活習慣(食事や運動)に対する患者の現状もモニタリングすることができます。また、予測分析やAIテクノロジーを組み合わせることで、糖尿病とその関連疾患のワンストップソリューションを開発し、患者の負担をさらに軽減し、ペイシェントエクスペリエンスを全体的に向上させることが可能になります。収集したデータは、医師、医療従事者、医療機器メーカー、医薬品メーカーが個々の患者のより良い治療法や、糖尿病の治療と管理全体の効果的な方針に関するインサイトを得るために活用できます(図3を参照)。

EYは、独自の医療機器分野での豊富な経験を生かし、医療機器メーカーのCGM機器分野への進出を支援しており、専用のデジタルヘルスケア・エクセレンス・センターでは、デザインの革新、データと分析の最適化、製品発売の円滑な推進に関する優れた専門知識を提供しています。その戦略的ガイダンスは、クライアントが確実に市場機会を生かすこと、規制環境にうまく対応すること、効果的な市場参入戦略を構築することにまで及びます。EYとパートナーシップを組むことで、医療機器メーカーは、変化および競争の激しい業界で、持続的な成功を収めるために必要なツールとインサイトを得ることができます。


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サマリー

CGM機器市場は近年、目覚ましい成長を遂げています。本記事では、大手CGM機器メーカーを成功に導いた主要な戦略を取り上げ、CGM機器メーカーが直面する課題について議論の上、CGM市場の将来について考察しています。

謝辞

本記事の作成に当たり、Liga SkardaとAman Bhatnagar、Hebri Nandita Mallyaの多大な貢献に感謝の意を表します。

  • Reference

    1. Whooley, S. (2024, January 11). The biggest stories from the 2024 J.P. Morgan Healthcare Conference. Retrieved from Mass Device: https://www.massdevice.com/biggest-stories-2024-jpmorgan-healthcare-conference/
    2. Medtronic. (2023, October 30). People with type 1 diabetes can do anything, even an ultra-marathon. Retrieved from Medtronic website: https://news.medtronic.com/people-with-type1-diabetes-can-do-anything-newsroom
    3. Abbott Laboratories: High Single-Digit Long Run Revenue Growth. (2021, August 31). Retrieved from Seeking Alpha: https://seekingalpha.com/article/4452884-abbott-laboratories-high-single-digit-long-run-revenue-growth
    4. Abbott. (2024, February 16). 10-k. Retrieved from Abbott Website: https://www.abbottinvestor.com/static-files/5e99eb33-444e-4519-9f8e-6588dc1ed407
    5. DexCom, Inc. - Dexcom Reports Preliminary, Unaudited Revenue for the Fourth Quarter and Fiscal Year 2023 and Initial 2024 Outlook
    6. The Lancet Diabetes Endocrinology (2019). Type 1 diabetes technology: advances and challenges. The lancet. Diabetes & endocrinology, 7(9), 657. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(19)30269-4
    7. Fuchs, J., & Hovorka, R. (2021). Benefits and Challenges of Current Closed-Loop Technologies in Children and Young People With Type 1 Diabetes. Frontiers in Pediatrics, 9. doi:https://doi.org/10.3389/fped.2021.679484
    8. Rachal, M. (2019, December 19). Rivalry of the Year: Abbott and Dexcom’s race to dominate CGM. Retrieved from MedTech Dive: https://www.medtechdive.com/news/rivalry-cgm-abbott-dexcom-glucose-monitoring-dive-award/565923/
    9. Steenhuysen, J. (2019, July 16). Abbott to hike production of lower-cost glucose monitors as diabetes soars. Retrieved from Reuters.com: https://www.reuters.com/article/us-abbott-diabetes-idUSKCN1UB0Z3/
    10. Elliott, T. (2021, July 13). CGM Competition: Medtronic Announces 66% CGM Price Cut. Retrieved from bcdiabetes.ca: https://www.bcdiabetes.ca/medtronic-announces-66-cgm-price-cut/
    11. MedTech Strategist - As Competitive Landscape Shifts Diabetes Companies Jockey for Position (mystrategist.com)
    12. Whooley, S. (2023, September 8). Analysts: GLP-1 drugs should have minor impact on insulin pump market — but will boost CGMs. Retrieved from Drug Delivery Business News: https://www.drugdeliverybusiness.com/analysts-glp-1s-minor-impact-insulin-pump/
    13. Wegovy study details revive debate over GLP-1 impact on devices. Retrieved from MedTech Dive: https://www.medtechdive.com/news/wegovy-study-glp-1-impact-devices/699591/
    14. Taylor, N. P. (2023, October 17). Medtech can cope with GLP-1s but ‘fear and doubt’ suppressing stocks: analysts. Retrieved from MedTech Dive: https://www.medtechdive.com/news/medtech-glp-1-obesity-drugs-fear-stocks/696515/

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Maryline Marquet

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