情報センサー2023年7月号

公開草案「金融商品の分類及び測定の修正」の公表

2023年6月30日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2023年7月号 IFRS実務講座

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 佐野 敏行

当法人入社後、主としてテクノロジーセクターでの監査業務に従事。2021年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 マネージャー。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、2023年3月に、IFRS第9号「金融商品」(以下、IFRS第9号)の分類及び測定の要求事項の修正を提案する公開草案「金融商品の分類及び測定の修正」(以下、本公開草案)を公表しました。本公開草案は、2022年12月に完了したIFRS第9号の分類及び測定の要求事項の適用後レビュー(以下、PIR)から受けたフィードバックに対応する形で開発されています。

本稿では、本公開草案の内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 公開草案の概要

IASBは、PIRの結果、全般的に当該要求事項は一貫して適用することができ、財務諸表利用者に有用な情報を提供しているとの結論を下しました。一方で、さらに拡充又は明確化を求める具体的な領域が識別されたことを受け、本公開草案を公表しました。本公開草案で基準の修正が提案されている事項は<表1>の通りです。

表1 本公開草案で修正が提案された事項

IASBはPIRのフィードバックのうち、「電子送金システムを使用した金融資産又は金融負債の決済」と、「ESG連動要素を含んだ金融資産へのキャッシュ・フローの特性の評価」の2点をできるだけ早く対応することが必要なものと識別しており、本稿では、この2点の対応により修正が提案された<表1>の1.及び2.①について、次章にて詳細を解説します。

なお、本公開草案では適用開始日は示されていませんが、早期適用は認められるとしています。ただし、早期適用の場合には、本公開草案に係る全ての修正を同時に提供しなければならない旨が定められています。

Ⅲ 電子送金で決済される金融負債の認識の中止

2021年9月、電子送金システムを通じて受領される現金の支払いで決済される金融資産はいつの時点で認識を中止すべきかという質問がIFRS解釈指針委員会に寄せられ、この議論は、電子送金システムを通じて行われる支払いにより決済される金融負債の認識の中止にまで拡大しました。これを受けて、IASBは本公開草案にて、金融資産又は金融負債の認識又は認識の中止に関する原則的な会計処理は、決済日会計であるということを強調しています。これは、金融資産又は金融負債は、現金が受領者の銀行口座に入金され、使用が可能になった時点で初めて認識を中止できるということを意味します。

一方、特に金融負債の決済について実務でのばらつきがあるとの認識から、IASBは、電子送金システムにより決済される金融負債の認識の中止を、一定の条件を満たした場合には決済日前に行うことを認める新たな要求事項を提案しています。これは、金融負債について電子送金システムを使用して決済するという特定のケースに対処するものであり、決済日前に金融負債の認識を中止するには次の要件が全て満たされていなければなりません。

  • 企業が支払指示の撤回、中止又は取消しを行う能力を有していない
  • 企業が支払指示の結果として決済に使用される現金にアクセスする実際上の能力を有していない
  • 電子送金システムに関連した決済リスクが僅少である

企業は、特定の電子送金システムを使用して決済する全ての金融負債について、前述の会計処理を適用するという会計方針の選択を行うことができます。

Ⅳ ESG連動要素を含んだ金融資産へのキャッシュ・フローの特性の評価

環境・社会・ガバナンス(ESG)に連動する要素のある金融資産(例えば、金利がESG目標の達成度合いに応じて変動する金融資産)の国際市場が急速に成長している中、IASBは、多様な実務が定着することを避けるために、会計処理の明確化が必要として、PIRで対処すべき優先課題に識別していました。しかし、IASBは、ESG連動要素を含んだ金融商品についての固有のガイダンスは開発しないことを決定しました。これは、元本及び元本残高に対する利息の支払のみであるキャッシュ・フロー(SPPI)評価をはじめ、IFRS第9号の原則主義のアプローチから逸脱する可能性があると考えたからです。

その代わり、IASBは2つの広範な修正を提案しています。最初の提案は、以下を検討することを要求することで、貸手が受け取る補償が基本的な融資の取決めと整合的であるかどうかを評価する助けになります。

  • 貸手は何に対する補償を受け取ることになるのか
  • 補償が、基本的な融資の取決めと整合的とは通常考えられないようなリスク又は市場要因をカバーしているかどうか
  • 契約上のキャッシュ・フローの変動が、その変動の方向及び規模を含めて、基本的な融資の取決めと整合的でないかどうか

もう1つの修正案は、金融資産の存続期間にわたり契約上のキャッシュ・フローの時期又は金額を変化させることとなる契約条件をどのように評価すべきかを規定するガイダンスについて、次の検討を追加しています。

  • 契約上定められた特定の変更が、偶発的事象の発生の蓋(がい)然性に関係なく、SPPI要件を満たすことになるかどうか
  • 基本的な融資の取決めに整合的であるためには、偶発的事象の発生又は不発生は債務者に固有のものでなければならない
  • その結果生じる契約上のキャッシュ・フローは、債務者に対する投資又は特定の資産の運用成績に対するエクスポージャーを表すものであってはならない

さらに、本公開草案はこのアプローチを説明するために2つの例示を追加することを提案しています。

Ⅴ おわりに

本公開草案での提案の多くは、既存のIFRSの明確化であるとされています。しかし、現行の実務に変更をもたらす可能性のある内容も含まれており、引き続き注視が必要と考えられます。

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