【後編】生成AIの本質を理解することで創出されるユースケースとは

寄稿記事

掲載誌: 2024年5月31日、日経ビジネス電子版 Special
執筆者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・イノベーション AI&データ
パートナー 山本 直人
ゲスト編集者 山本 直人

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・イノベーション AI&データ パートナー

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生成AIの本質は
「読み解く力」と「掛け合わせる力」

生成AIは、間違いなくイノベーティブなテクノロジーである。そして、イノベーティブなテクノロジーを活用するからこそ企業に今までにない新価値をもたらすことができる。当記事の前編では、「生成AIの本質」に触れたが、本質を捉えるからこそ創出される価値とはどのようなものなのか。後編では、想定されるユースケースについて、EYストラテジー・アンド・コンサルティングで生成AI分野をけん引する山本直人氏に聞いた。

AIの本質を捉えることが
思考能力の増幅、新価値創出につながる

前編では、生成AIの本質は「読み解く力」と「掛け合わせる力」であると解説してきた。世の中を読み解き、それを構成する企業の動きを読み解く、また消費者の思考を読み解き、それらを掛け合わせる中で、今までにない新価値を見い出すことができる。

「多様化し、流通するデータが指数関数的に増加する社会において、従来的な人海戦術では不可能な細粒度での情報の掛け合わせに、生成AIが活用できると考えます。また、分析すべきモノゴトは基本的に構造を持っていると話してきましたが、単純にプロダクトレベルで業界をまたいだ掛け合わせを行っても既定路線の域を出ないでしょう。生成AIを応用することで『構造分解と新結合』の仕組みを提供し、さらにそこから導出されるインパクトを人がシミュレーションすることが可能となるのです」と山本氏は語る。

「もちろん、AIが『山本さん、筋の良い答えはこれです』とズバリ答えを出すことは現実的ではありませんし、優秀なビジネスパーソンであればそのような答えは期待していないでしょう。人に対して気付きを与えることこそが、AIの大きな価値です。言い換えると、答えを出すのではなく、『問いを見い出す』ということです。例えばAIが出してくる答えの裏にある背景を考察するだけでも大きな気付きが生まれるのではないでしょうか」(山本氏)

以下、具体的なユースケースについて山本氏に解説してもらった。

生成AIの本質を理解した
ユースケースを紹介

社会的価値のある新規事業を開発

まずは、新規事業の開発を例に挙げたい。新規事業開発とは、簡潔に言えば、自社の強みを生かして、メガトレンドや社会課題を読み解き、筋の良い他事業領域にピボットし、新たな価値を見い出すことである。

昨今では多様な新技術が次々と生み出され、人の価値観も多様化したことで、企業は社会課題に対してさまざまなアプローチを仕掛けている。自社の強みを生かすための世の中に対する掛け算が無数に存在している状況と言えるだろう。従来のような人海戦術で“筋の良い領域”を見い出すことは困難な状況にある。

「従来、新規事業開発は、既存事業における強みを棚卸しして、それをメガトレンドや社会課題と掛け合わせ、新たな便益を生み出す価値を見い出すというフレームワークが取られてきました。しかし昨今では、この『掛け合わせ』が簡単にはいきません。なぜなら『モノゴトの構造』は複雑さを増しているからです」(山本氏)

例えば「完成品の新しい用途を模索する」といった固定的な視点で応用先を見い出そうとしても、事業としては既定路線を超えていくことは難しい。あらゆるモノゴトは基本的に複雑な構造を帯びており、今までにない価値を見い出すポイントは、その構造を捉え、構成要素レベルで掛け合わせを行うことだと山本氏は提案する。

パソコンを例にすれば、完成品としての応用は既に検討し尽くされており、一般的に想像可能な域を出ることは難しいだろう。しかし、これを構成するさまざまなデバイスに着目すると、異なる視点が生まれてくる。

パソコンの構成要素の一つには、「GPU」というユニットがある。GPUとはGraphics Processing Unitの略称で、簡単に言うとピクセル単位でパソコンの画面描画を行う、極めて単純な処理を担当するユニットだ。単純な処理を「超並列」で実行するという機能的価値を持っている。

「この超並列という価値を、ディープラーニングの学習に応用したことが、実は現在のAIブームの礎となっています。CPUでは処理できない超並列性が求められる処理をGPUに行わせているのです。生成AI全盛の世の中において、GPUメーカーの需要はとどまるところを知らず、マーケットを席巻しています。構成要素に着目して別の価値を見い出す、ということの好例と言えるでしょう」と山本氏は語る。

「ポイントは、完成品の構成要素まで分解し、構成要素ごとの応用価値を見い出す、という点にあると考えます。生成AIは、一般的に文章を生成するユースケースが注目されがちですが、私は『モノゴトを解釈する力』を応用した構造化する力にも着目しています。モノゴトを解釈する力を有しているからこそ、『モノゴトの掛け合わせ』が可能となるため、ビジネスにおける可能性が無限に広がるのです」(山本氏)

「構造分解と新結合」、言うはやすしであるが、いざ人力でやろうとしても限界がある。これをAIに行わせることで、人がさばききれない無数のマッチングシミュレーションを可能とし、いわば人の認知能力の拡張が実現されるのだ。

次世代型のリスキリング戦略

新規事業では「モノゴトの構造」に着目したが、これを人のスキル、経験に置き換えるとリスキリングにも応用可能であると山本氏は語る。

一般に、人事部門が人材をリスキリングする際には、これまでのキャリアや職能、得意分野などを踏まえつつ、本人に「どんな仕事をしたいのか」、あるいは「どんな仕事に向いていると思うか」、といったことをインタビューした上で、カリキュラムを選択することが多いようだ。しかし「本人が語る自身の適性は、必ずしも正確にすべてを網羅しているとは限りません。自分では気付いていないような経験値や能力を備え、それが意外な職位に結び付く可能性もあるわけです」と山本氏は語る。

そこで新規事業開発と同じように、“潜在的な強み”を抽出し、世の中の動きとマッチングさせることで、職種と、それに当てはまる潜在的なスキルを備えた人材をマッチングすることができるという。「構造分解と新結合は、モノづくりの世界に閉じた話ではなく、人のキャリアも構造分解して捉えることが可能です。経験により得られたスキル、専門性も構造を持っています」と山本氏は続ける。

「私の場合、AIコンサルタントとしてディープラーニングAIの研究開発を含んだ経験を多く有しています。そのため現在では、そのディープラーニングの知識を生かしたコンサルティング活動を展開しております。そんな私のCV(履歴書)を独自のAIで分析すると面白い結果を得ることができました」(山本氏)

例えば、山本氏が現在取り組んでいる「マルチモーダルAI」という分野は、これを応用すると「自動運転」の世界との親和性が生まれ、また深層学習の手法である「グラフニューラルネットワーク(GNN)」の知見は「次世代電池の基礎技術開発」の世界に通ずることがわかったという。自動運転も電池も、世の中のトレンドと合わせれば、多くの社会的意義につながっていることも把握できる。山本氏自身では考えたことのないマッチングだったという。

多様化する世の中に対応するため、企業にとっても個人にとってもリスキリングは喫緊の問題と言えるだろう。しかし、世の中の流れ、企業の事業戦略の流れ、自身のキャリア、その行き着く交点となるスキルを見い出すことは難易度が高い。AIにより人を読み解き、世の中を読み解き、企業を読み解く。そこからの構造分解と新結合に次世代のリスキリング戦略の答えがあるのではないだろうか。

モノづくりとキャリアの観点で話を展開してきたが、改めて、世の中のすべてのモノゴトは構造を持っている。サービス業でも、人の健康でも同様だ。構成要素を分解し、構成要素ごとに、全く異なる業界とつなぎ合わせ、世の中のトレンドとつなぎ合わせることで、思いもよらぬ“新結合”を発見すること。それこそがイノベーション創出の種になるのである。

製造・建設現場の生産性や安全性を向上

最後のユースケースとして山本氏が挙げるのが、製造・建設などの現場における生産性や安全性の向上だ。

近年の生成AIはマルチモーダル化が進んでいる。従来のシングルモーダルAIでは、文章、画像、音声などの中から、単一の情報を取り込むことでデータを処理してきた。一方、マルチモーダルAIは、これら複数種類の情報を同時に取り込むことができるため、人間の認知モデルに模した扱いが可能になるという。

「人間と同じように、“五感”を発揮して全体の状況を把握できるようになってきているのです。しかも、人間の目や耳が捉えられる状況は限られていますが、AIは常に全方位を見渡し、すべての状況を把握するので、現場の生産性や安全性を高めるための用途がいろいろと考えられます。日本の製造業の底力が高まり、ゲームチェンジが実現するかもしれません」と山本氏は語る。

企業価値そのものを変える
生成AIの活用を

このように生成AIは、企業の方向性そのものを大きく変え、競争力を飛躍的に高める力を持っている。

山本氏は、「経営者の皆様には、ぜひその力を十分に理解し、業務効率化の枠を超えて活用することを検討していただきたいと思います。EY Japanは、そのための支援体制を整えていますので、何でもお気軽にご相談ください」と語った。

【前編】⽣成AIの機能に着⽬することなかれ 新価値創出には本質の理解が不可⽋

著作・制作 株式会社 日経BP(2024年日経ビジネス広告特集)

※執筆者の所属・役職は掲載時点のものです。

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