EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本ガイドブックには、タイの会計・監査・税務に関する最新の基礎的概要を掲載しています。すでにタイへ投資されている企業、および今後投資を検討している企業の皆さまの基本的な理解にお役立ていただけますことを願っております。
タイには、2つの会計基準が存在します。1つは、上場企業や金融機関などの公的説明責任を有する企業向けの会計基準である「タイ財務報告基準(Thai Financial Reporting Standards、以下TFRS)」であり、もう1つは「公的説明責任を有しない企業向けのタイ財務報告基準(Thai Financial Reporting Standards for Non-Publicly Accountable Entities、以下TFRS for NPAEs)」です。前者のTFRSは、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、以下IFRS)に基づく会計基準です。後者のTFRS for NPAEsはタイ独自の簡便的な会計基準です。TFRS for NPAEsにおいては、TAS第12号(法人所得税)やTAS第19号(従業員給付)が任意適用である点やIFRS第9号(金融商品)、IFRS第15号(顧客との契約から生じる収益)およびIFRS第16号(リース)のような複雑な会計基準も取り込まれておらず、TFRS for NPAEsとIFRSとの間のGAAP(Generally Accepted Accounting Principles)差は一定程度存在しています。TFRS for NPAEs は2022年に改正がなされ、包括利益計算書、グループ財務諸表、カスタマー・ロイヤルティー・プログラム、機能通貨の選択適用が可能になるなどより多くのオプションが利用可能となりました。また、新たに農業、政府補助金、デリバティブ、企業結合、鉱物資源の探査および評価、サービス委譲契約の規定が追加されたことで、より選択肢の充実が図られています。
そのため、タイに進出する日系企業は、タイ関連企業に適用される会計基準の動向を把握し、連結決算に与える影響をタイムリーに把握することが必要となります。
また、タイの税法のうち、日系企業に影響のある主な税目としては、法人所得税、付加価値税、駐在員に対する個人所得税などがあります。税制の特徴としては、確実な税収確保のため、さまざまな局面で源泉徴収が義務付けられている一方で、税金の還付請求を行うことが税務調査のトリガーとなるという実務が存在するので留意が必要です。その他、歳入局からさまざまな景気刺激税制がアナウンスされるとともに、タイ投資委員会(Board of Investment、以下BOI)が認可したプロジェクトに与えられる税務上の恩恵が存在するといった特徴があります。
項目 |
タイ |
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非上場企業(日本企業の子会社)IFRS適用の可否* |
否 |
IFRSと現地会計基準の主な差異 |
|
決算期の変更 |
可 |
決算期末の選定(暦年以外の採用可否) |
可 |
会社法で作成が求められる財務諸表 |
TFRS
TFRS for NPAEs
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提出する財務諸表 |
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保存期間 |
原則5年間 |
機能通貨適用の可否 |
必須
否
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法定監査 |
必要 |
* 非上場企業のIFRS適用可否については、以下の基準で記載しています。
否:税務申告時または規制当局に提出(添付)する、財務諸表は自国の会計基準で提出しなければならない場合。
可:税務申告時または現地当局に提出(添付)する、財務諸表は自国の会計基準以外にIFRS基準であっても良い場合。
タイ国内の企業は、財務諸表の作成に当たりIFRSを直接適用することは認められていません。タイ国内の企業は、IFRSではなく、タイ会計職業連盟(Federation of Accounting Professions of Thailand、以下FAP)が定めるタイ会計基準および原則に従って財務諸表を作成する必要があります。このFAPでは、2つのタイ会計基準を発行しており、1つは「タイ財務報告基準(TFRS)」であり、もう1つは「公的説明責任を有しない企業向けのタイ財務報告基準(TFRS for NPAEs)」です。
TFRSはIFRSに準拠しており、公的説明責任を有する企業に対してその適用が強制されます。なお、公的説明責任を有する企業とは、以下のいずれかを満たす企業のことをいいます。
他方、公的説明責任を有しない企業とは、前記以外の企業であり、そのような企業は、TFRSまたは実務的な負担の少ないTFRS for NPAEsのいずれかを選択することが可能です。その結果、日系企業のタイ子会社は、タイにおいて公的説明責任を有しないケースが多いことから、そのほとんどがTFRS for NPAEsを適用しています。
なお、TFRS for NPAEsにおいては、2022年に改正されましたが、ほとんどの会計処理は変更されず、従来と同様にIFRS第9号(金融商品)、IFRS第15号(顧客との契約から生じる収益)およびIFRS第16号(リース)といった複雑な概念は組み込まれていません。一方、包括利益計算書、グループ財務諸表、カスタマー・ロイヤルティー・プログラム、機能通貨の選択適用が可能になるなどより多くのオプションが利用可能となり、また、新たに農業、政府補助金、デリバティブ、企業結合、鉱物資源の探査および評価、サービス委譲契約の規定が追加され、全28章で構成されています。
タイでは、2011年以降、下表の通りIFRSとTFRSとのコンバージェンスを継続しています。コンバージェンスという国内手続きを踏む必要があることから、TFRSにおける新会計基準は、IFRSと比較して1年程度遅れて適用される結果となります。なお、金融商品会計については、従来コンバージェンスの対象外とされてきており、タイ独自の規定が設けられていましたが、2020年1月1日以降に開始される事業年度から金融商品会計基準(TFRS第9号)が適用されるようになりました。
No |
概要 |
関連するIFRSs |
---|---|---|
TFRS 1 |
国際財務報告基準の初度適用 |
IFRS 1 |
TFRS 2 |
株式報酬 |
IFRS 2 |
TFRS 3 |
企業結合 |
IFRS 3 |
TFRS 4 |
保険契約 |
IFRS 4 |
TFRS 5 |
売却目的で保有する非流動資産および廃止事業 |
IFRS 5 |
TFRS 6 |
鉱物資源の探査および評価 |
IFRS 6 |
TFRS 7 |
金融商品―開示 |
IFRS 7 |
TFRS 8 |
事業セグメント |
IFRS 8 |
TFRS 9 |
金融商品 |
IFRS 9 |
TFRS 10 |
連結財務諸表 |
IFRS 10 |
TFRS 11 |
共同契約(ジョイント・アレンジメント) |
IFRS 11 |
TFRS 12 |
他の事業体に対する持分の開示 |
IFRS 12 |
TFRS 13 |
公正価値測定 |
IFRS 13 |
TFRS 15 |
顧客との契約から生じる収益 |
IFRS 15 |
TFRS 16 |
リース |
IFRS 16 |
TFRS 17 *1 |
保険契約 |
IFRS 17 |
フレームワーク |
財務報告概念フレームワーク |
概念フレームワーク |
TAS 1 |
財務諸表の表示 |
IAS 1 |
TAS 2 |
棚卸資産 |
IAS 2 |
TAS 7 |
キャッシュ・フロー計算書 |
IAS 7 |
TAS 8 |
会社方針、会計上の見積りの変更および誤謬 |
IAS 8 |
TAS 10 |
後発事象 |
IAS 10 |
TAS 12 |
法人所得税 |
IAS 12 |
TAS 16 |
有形固定資産 |
IAS 16 |
TAS 19 |
従業員給付 |
IAS 19 |
TAS 20 |
政府補助金の会計処理および政府援助の開示 |
IAS 20 |
TAS 21 |
外国為替レート変動の影響 |
IAS 21 |
TAS 23 |
借入費用 |
IAS 23 |
TAS 24 |
関連当事者についての開示 |
IAS 24 |
TAS 26 |
退職給付制度の会計および報告 |
IAS 26 |
TAS 27 |
個別財務諸表 |
IAS 27 |
TAS 28 |
関連会社およびジョイントベンチャーに対する投資 |
IAS 28 |
TAS 29 |
超インフレ経済下における財務報告 |
IAS 29 |
TAS 32 |
金融商品―表示 |
IAS 32 |
TAS 33 |
1株当たり利益 |
IAS 33 |
TAS 34 |
中間財務報告 |
IAS 34 |
TAS 36 |
資産の減損 |
IAS 36 |
TAS 37 |
引当金、偶発負債および偶発資産 |
IAS 37 |
TAS 38 |
無形資産 |
IAS 38 |
TAS 40 |
投資不動産 |
IAS 40 |
TAS 41 |
農業 |
IAS 41 |
*1 当該IFRS適用の1年後に適用とされています。
他方、日系企業のほとんどが採用しているTFRS for NPAEsは、本会計基準がタイ独自の簡便的な会計基準であることから、IFRSと比較してさまざまな差異があります。日系企業が直面する主な差異としては、税効果会計の適用が任意であること、退職給付債務の計算にあたり年金数理計算を行わない方法も認められていることなどが挙げられます。現在のTFRS for NPAEsは2022年に改正がなされ、現在は以下のトピックを取り扱う28章から構成されています。
章番号 |
トピック |
---|---|
1 |
背景および目的 |
2 |
適用範囲 |
3 |
基本概念 |
4 |
財務諸表の表示 |
5 |
会計方針および会計上の見積りの変更、誤謬の修正 |
6 |
現金および現金同等物 |
7 |
売掛金 |
8 |
棚卸資産 |
9 |
投資 |
10 |
有形固定資産 |
11 |
無形資産 |
12 |
投資不動産 |
13 |
借入費用 |
14 |
リース |
15 |
法人所得税 |
16 |
引当金、偶発負債および偶発資産 |
17 |
後発事象 |
18 |
収益 |
19 |
不動産販売による収益 |
20 |
工事契約 |
21 |
外国為替レート変動の影響 |
22 |
農業 |
23 |
政府補助金 |
24 |
デリバティブ |
25 |
企業結合 |
26 |
鉱物資源の探査および評価 |
27 |
サービス委譲契約 |
28 |
TFRS for NPAEsへの移行および発効日 |
決算期の変更は、歳入局および商務省の承認を受ければ可能です。なお、タイの民商法典上、12カ月を超える決算が認められません。従って、12月決算の企業が決算期を翌年3月に変更する場合は、一度12月で決算を行い、これに加えて翌年1月から3月(3カ月間)の変則的な決算を行う必要があり、15カ月決算は認められません。3カ月間の決算についても、会計監査を受け決算日から150日以内に歳入局に税務申告書の提出および株主総会の承認から1カ月以内に商務省に監査済み財務諸表を提出する必要があります。
なお、定款に会計期間を明示している場合は、事前に定款変更のための株主総会決議を行い、歳入局および商務省への申請が必要です。
タイにおける企業の決算期については、12月31日を期末日とする企業が一般的ではあるものの、定款によって自由に設定できます。日系企業のタイ子会社においても、親会社と決算日を統一するためなどの理由により、親会社の決算日を考慮して、決算日を決定している企業も多く存在します。
なお、タイには4月中旬にソンクランという旧正月があり、多くのタイ人が帰省するなど、長期休暇を取る習慣があるので、タイ子会社の決算期を3月とする場合には、決算スケジュールに配慮が必要です。
TFRSを採用する企業は以下の財務諸表を作成する必要があります。
TFRS for NPAEsを採用する企業は以下の財務諸表を作成する必要があります。なお、包括利益計算書・キャッシュ・フロー計算書は任意で作成することが認められます。
法律で作成が定められた財務諸表一式が対象になります。主な提出先は以下の通りです。
会計帳簿や補助資料は税務調査に備えて、少なくとも決算日から5年間は保管する必要があります。また、歳入局からの命令があった場合には、最大7年間保管する必要があります。さらに、歳入局との間で未解決の案件がある場合には、会計帳簿と記録は10年間またはそれ以上の期間、保管しなければなりません。
TFRSを採用する企業は、機能通貨に関する規定(TAS第21号)の適用が必須であることから、当該機能通貨によって記帳することが求められます。例えば、企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨が米ドルである場合は、米ドルを機能通貨として記帳する必要があります。
他方、従来TFRS for NPAEsを採用する企業にはTAS第21号が適用されないため、記帳に用いる通貨はタイバーツ(THB)のみとされてきましたが、2022年のTFRS for NPAEsの改正により、TAS第21号の選択適用が可能となりました。
タイ国内のすべての企業は、タイ会計基準および原則に従い、財務諸表を作成し、免許を有する公認会計士による監査を受ける必要があります。当該監査済みの財務諸表は、決算日から4カ月以内に定時株主総会で承認され、承認後1カ月以内に商務省に提出しなければなりません。また、監査済みの財務諸表は決算日から150日以内に年次法人所得税申告書とともに歳入局に提出する必要があります。
タイのすべての企業は、会計法で定められた要件を満たした経理担当者を配置する必要があります。具体的には経理担当者は、タイに居住していて、十分なタイ語能力を備え、会計学に関して一定の知識を備えていることが求められます。仮に、そのような人材を雇用できない場合は、資格のある経理担当者を有する外部会計事務所に経理担当者の業務をアウトソースする必要があるのでご留意ください。
法人税率(%) |
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キャピタルゲイン税率(%) |
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支店税率(%) |
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源泉徴収税率(%) |
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欠損金(年) |
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* 特定の種類の利息は、非課税扱いとなります(フルバージョンの「F. 租税条約に基づく源泉徴収税率 脚注(a)」参照)。
税金の名称 |
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導入日 |
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貿易圏への加盟 |
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所管 |
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VAT税率 |
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VAT番号の形式 |
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VAT申告書の期間 |
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VAT登録 |
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国内で設立されていない事業者(外国法人)によるVATの控除 |
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2024年(2023年7月~2024年6月)各国/地域情報アップデート
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