新型コロナウイルス感染症:企業が従業員、業務、価値を守るためにできること

新型コロナウイルス感染症:企業が従業員、業務、価値を守るためにできること


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行による課題が急増する中、組織が検討・対処すべき重要な人材課題が浮き彫りになっています。

企業とその従業員が新型コロナウイルス感染症のパンデミックに直面する中で、パンデミックの影響の長期化は明白になりつつあります。従業員への影響を管理・低減するためには、企業の迅速な行動が不可欠です。今すぐに次なる事態への準備、さらにその先の検討に着手する必要があります。

企業の対応を構想する上で、人材・人事部門が非常に大きな役割を果たします。従業員の健康と幸福は、組織の継続性、弾力性、そして今後のニューノーマルの中で未来を再構築する上で不可欠です。

危機の渦中で、ワークフォース・レジリエンスの第一線に立つのが人材・人事部門です

従業員が置かれている状況、各個人とチームの動向、保護、強化要因を理解し、評価する反復的サイクルに沿った取り組みが組織に求められています。私たちは、必要なタスクを人材に関する5つのテーマに分けました。これらのテーマは、あらゆる組織が対応すべき事柄、課題、リスクの範囲を網羅しています。

組織が目の前の課題に集中する際には、時間をかけて自らの行動がもたらす影響を検討するべきです。「短期的対応は、その影響の明確な理解に基づいて計画するべきだ」とEYのMichael Bertolinoは述べています。

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第1章

人材と優先事項への影響を理解する

目的に沿った方法で人材の枠組みを定義する6つのステップ

新型コロナウイルス感染症の時代において、組織は目的と一致する 価値について明確な考えを持ち、この試練の期間を通して従業員の価値を守る措置を積極的に計画する必要があります。優れたリーダーシップとロールモデルはこれまで以上に際立つようになるでしょう。

重要事項は以下の通りです。

  • 決断力がありかつ創造的なリーダーシップを伴うトップダウンのガバナンス
  • 中堅レベルのマネジメントとチームのリーダーシップ
  • 従業員へのコミュニケーション、方針、メッセージ発信
  • 健康・安全情報への容易なアクセスと使用
  • リスク評価と管理
  • リスクと事故の報告と調査
  • 保証、監視、報告
  • 機敏性、柔軟性、共感
  • 正しい情報を持つ従業員
  • インクルージョンの文化
  • 現地法の順守
リーダーシップのインフォグラフィック

ワークフォース・レジリエンスを実行するには、組織は危機の全段階を通して明確に定義された枠組み内で行動する必要があります。目指すべきゴールは、人材戦略を評価、計画、決定、伝達するリーダーシップ能力を確立し、適所に生かすことです。次の6つのステップでそれを実現します。
 

1.人々がさらされるリスクを評価する

現状のエンド・ツー・エンドのリスク評価を実施します。評価の項目には、業務上および地理上のリスク、健康と安全への影響、国境を越えて移動する従業員への影響、顧客への影響、サイバーセキュリティ、税金、給与、報酬への影響などが含まれます。リスク指標を算出し、確定することを最終目標とします。
 

2.危機対応シナリオを明確にする

最善から最悪までのケースを想定したいくつかの危機対応シナリオを作成します。これらのシナリオは、ディスラプションを管理する業務能力のストレステストを行い、リスク評価の結果とデータを分析して現在不足している対応能力の深刻度を評価できるよう構成されています。

3.従業員が不足している部分を特定する

必要不可欠なビジネス機能、高価値資産、欠かすことのできない仕事や役割、サプライチェーン内での重要要素を特定します。各ディスラプションシナリオの中で既存の危機管理方針と規則を実行し、現在の従業員モデルの不足部分と、それに起因する定性的および定量的影響を特定します。
 

4.対応策を確立する

人、プロセス、テクノロジーの各種要因に考慮しながら、危機による影響の回避や、影響緩和の迅速な対応を可能にするために、対応策実行のきっかけとなる要素を定義します。
 

5.対応策のテスト

危機対応シナリオのシミュレーションを、特にリモートワークの増大に注目して実行します。その中で既存対応策の効果をテストし、既定の成功基準に照らして有効性を検証します。
 

6.介入のビジネスケースを構築する

レジリエンスに関連する介入措置を含むビジネスケースを構築します。検証済み対応策の実行のきっかけとなるビジネスケースとして、要求事項、ソリューション、価値命題を含めて構成します。

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第2章

国内および国境を越えて移動する従業員のリスクを評価する

従業員に対するパンデミックのリスクと影響を評価するための詳細な評価基準

事業継続への当面の重点的取り組みの一環として、組織は新型コロナウイルス感染症が従業員に及ぼす影響を測定する必要があります。手始めとして、国内および国境を越えて移動する従業員を迅速に識別し、何らかの理由でパンデミック地域またはその周辺にいたことがある者を特定します。

  • 乗り継ぎまたは最終目的地として、パンデミック地域に滞在中あるいは最近入域したことがある従業員(赴任者、派遣社員、海外出張者を含む)とその帯同家族を特定
  • 感染症の流行地域を訪問したことで、入国時に受ける影響を検討。検疫または安全確保を理由とした隔離が求められる場合や、本帰国前あるいは第三国への移動前のケースも含め、不本意な「在留期間超過」という事態に陥る可能性がある
  • 現在、国境を越えて移動している全ての従業員、乗り継ぎ中の出張者、パンデミック地域やその周辺にいる帯同家族の総合的な情報を集める
     

続いて、国境を越えて移動している従業員への危機の影響を評価します。

  • 国境を越えて移動する各従業員とその帯同家族への影響を評価
  • 個々の状況に対して危機リスク評価を実施
  • 国境を越えて移動している各従業員と帯同家族の在留資格を確認する。具体的には、現在の滞在地でのビザのステータス、保持しているその他のビザのステータス、保持しているパスポートの有効期限/物理的な場所/有効性
  • 現地での移動、移転、リモートワークの障害や制限を特定
  • 物理的な障壁、出国許可、飛行禁止、規制による禁止、その他の法的制限を検討
  • 移転の影響とインフラ要件を評価
  • あらゆる段階で適切な法的助言を参照しながら、コスト、業務への影響、契約上の義務(不可抗力を含む)、および法的要件の順守を検討する
     

最終的に、現在および将来の移動制限とロックダウンに対応する行動計画を立案します。

  • ロックダウンがまだ実施されていない場合は、各所ごとに働き方および拠点間やオフィス間の移動に関するガイドラインを準備。訪問者とミーティングに関する規則や、他の場所やイベントの訪問に関する指針などもこのガイドラインに含める
  • ロックダウン方針を整備
  • 適切な保護措置とインフラ要件を検討
  • 国境を越えて移動する各従業員とその帯同家族への措置を決定
  • 出張者が入国する可能性のある国のリモートワークの制限を理解し、政府による新型コロナウイルス感染症対策に何らかの柔軟措置があるかどうかについても確認する
  • リスクと潜在的影響を評価して、対応措置と優先順位を決定
    • 現地の危機リスク評価
    • 各人の個人的/固有の状況、深刻度が増したリスク要因
    • 各人のビザ/労働許可のステータス、および移動の機会
    • 移動の障害
    • 政府機関が閉鎖している状況で入国申請を行う能力、「在留期間超過」に対する政府の柔軟な方針について確認
  • これらの評価を使用して、情報に基づくビジネス決定を行い、優先順位を伴う行動計画を作成する
ロックダウンの拡大に伴い、国境を越えて移動し、永住権を持たない国への入国や乗り継ぎを行う従業員は非常に高いリスクにさらされ、入国を拒否されることもあり得ます
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第3章

従業員を守る

従業員の健康とウェルビーイングの確保を目指す組織が重視すべき3つの領域

この危機的な時期を通して、全体的な環境、コミュニケーション、従業員の福祉に焦点を当てることが重要です。ビジネス混乱時に重要なのは、リーダーシップとコミュニケーションです。
 

環境

全ての職場が、拠点、オフィス、出張およびリモートワークにおける健康・安全管理に関して、現地当局のガイダンスに従っていることを確認してください。リモートワークの増加によるテクノロジーへの影響を監視し、必要に応じてITサポートと機器の提供を強化します。リモートワークを選択できない従業員を必ず含めた上で、さまざまな区分の従業員の就業環境を再確認します。
 

コミュニケーション

コミュニケーションチャネルをグローバル、リージョン、ローカルレベルで調整し、柔軟性、発展的な情報更新、メッセージングを可能にしてください。コミュニケーションメディアを見直して、すべての従業員と利害関係者(請負業者、サプライヤー、コンサルタント、クライアント、顧客)にコミュニケーションが届くことを確認します。各拠点の生産性、パフォーマンス、安全性を維持する代替勤務方法に関するガイダンスを提供します。データセキュリティのガイダンスを再確認してください。在宅勤務ができない従業員のために、柔軟で適応しやすい実践モデルと短期的な代替勤務体制について協議・検討します。
 

従業員のウェルビーイング

従業員の身体的・感情的・経済的ウェルビーイング(幸福度)への潜在的影響を認識し、従業員が情報、ガイダンス、サポートの入手先を理解していることを確認してください。家族やコミュニティーの取り組みを優先しつつ、同僚とのつながりとチームワークを維持しながら、自己啓発と学習に集中し続けることを従業員に推奨します。従業員が懸念を表すことができ、相談でき、差し迫った問題を解決できるコミュニケーションチャネルとフォーラムを確立してください。手始めとして、トップから適切な方向づけを行います。先入観や無意識の偏見には確実に対処し、取り除くようにします。

この危機的な時期を通して、全体的な環境、コミュニケーション、従業員の福祉に焦点を当てることが重要です。ビジネス混乱時に重要なのは、リーダーシップとコミュニケーションです。

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第4章

従業員が力を発揮できるよう導く

リモートワークの大幅な拡大の中で従業員の生産性の維持を可能にするステップ

渡航禁止令、集団隔離や外出自粛、企業の封鎖、それらに関連した育児や高齢者介護への影響は今後長期にわたるとみられ、ビジネスの継続性と生産性は包括的で柔軟な新しい働き方に左右されることになるでしょう。
 

リモートワークへの大規模な移行は、準備、実行、実験の3段階で実現します。

 

1.準備

貴社ではリモートワークの大幅な拡大への準備は整っていますか。まずはチームリーダーとサポート部門、リモートワーク推進チームと協働で、従業員への影響評価を迅速に実施してください。続いて次の作業を行います。
 

  • 各従業員区分(役割、シフト、顧客対応、業務など)の影響評価内容を特定し、評価を実施。各グループのニーズと優先順位を決める
  • ラインマネージャーおよび従業員チームと共同でリモートワークのテストを実施、順応を確認し、同意を得る
  • コアビジネスの要求事項に加えて、プロジェクトやその他のチームタスクに優先順位を付けつ
  • 専門チームとの事前打ち合わせには次の内容を含めて実施
    • 工程に関するチームルールを確立し、仕事のやり方、期待、懸念またはリスク、ビジネス機会を確認
    • 可能であれば、リモートワークを展開する前にテクノロジーやツール、リモートワークのやり方をテスト。信頼できる専門家を特定する
    • シフトと勤務パターンをマッピングし、チームが経験から学んだ内容に応じて改善していく方法について合意。個人的な経験(自分や他人への配慮、個人的な支援のつながり)を、検討の要素として含めるようにする

 

  • 重要な業務または結果については、失敗またはそれが予測される状況から見た机上演習またはロールプレイ演習を検討するとともに、そうした事態を防ぐ方法をプロセスをさかのぼって考察する
  • トップの姿勢を示し、それに従ってリーダーが事前にツール、アプリ、ワーキングチャネルの参照・使用を始めることで、先の展開に対する認知を高める
  • 課税、給与、報酬、サイバーセキュリティ面での関連リスクを評価
  • 機能チームと業務チームに特別措置を講じる
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2.実行

計画の実行に当たっては、組織と従業員による学習と適応が必要になります。
 

  • 業務を明確化して優先順位を付ける。不可欠ではない作業を撤廃
  • 個人の責任を考慮しながら、労働時間のバランスを適切に保つ
  • チームおよび1対1でミーティングを行い、従業員の状態を確認します。
  • 何が従来通りで、何が変化し、どのような影響があるかを確認

安全とウェルビーイングが最も重要です。組織は安全なリモートワークとリスク評価に関するガイダンスを提供し、通勤に費やしていた時間を自己啓発とウェルビーイングの追求に使うように従業員に奨励するべきです。

経営陣がトップの姿勢に注目することが重要です。それにより、生産性、配慮、関与の面で非常に良い影響が得られ、ひいては従業員が仕事上の特定の問題だけでなく、幅広い懸念を表明できるようになります。
 

3.実験

仕事のリズムの確立後は、新しい働き方への微調整が必要です。
 

  • リモートツールとアプリの使用についての簡潔な学習の機会と知識の共有が定期的に行われていることを確認。こうした取り組みは、可能な限り知識がある同僚や「頼りになる」チームメンバーが主導する
  • 仕事の遂行と共有の方法を支えるために、チームの役割を特定して割り当てる。新規採用の方向性をサポートし、パフォーマンス要件と戦略の理解を促進する手順を定め、想定外の問題を最小限に抑える
  • 実験的な試みを許容し、働き方はじめ従業員の関与、結果を改善するために新たな方法に挑戦する従業員を称賛する
  • 企業カルチャーと連帯感を維持するために、バーチャルな環境で従業員同士やリーダーとの結び付きを構築できる時間を設ける
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第5章

ケイパビリティとキャパシティを維持する

今コスト管理を行うことで、維持できる組織のレジリエンスと変革力

特に混乱期において、短期的なコストバランスは、長期的戦略の保護につながる重要な要素です。パンデミックの影響は、サプライチェーンと顧客購買の崩壊による収益減、欠勤や出張制限、強制検疫によるコスト増加と生産性低下、長期の学校閉鎖による従業員の欠勤、予想外の医療費急増といった形で現れることになるでしょう。

 

レジリエンスが低い状態とは

  • 従業員コストが可視化されていない
  • 従業員構成が慎重に検討されていいない
  • リモートワークおよび業務の自動化を可能にするテクノロジーとプロセスが不足している
  • 従業員が変動的な条件に適応できていない
  • 従業員が欠勤または医療費による経済破綻に直面している

 

レジリエンスが高い状態とは

  • 従業員コストの7つの要因を理解している
  • 人員を再構成する能力がある
  • 従業員コストが可視化されている
  • 仮想人材を配置し、インテリジェントオートメーションを活用
  • 機敏で柔軟なカルチャーがある
  • 従業員は予期せぬ事態への対処に必要なツールと経済的手段を持っている

 

複数の要因を含む従業員戦略が複雑さを増す中、多くの介入戦略の結果と、市場の不安定さによる潜在的影響の長期的見通しから、より堅牢で定量的な従業員計画のアプローチが求められることになるでしょう。

ワークフォース・レジリエンスの全体像を提供するために、従業員計画とその最適化の4本柱であるキャパシティ(Capacity)、ケイパビリティ(Capability)、コスト(Cost)、構成(Composition)(=4つのC)を検討する必要があります。

 

キャパシティ

組織が将来の従業員規模を予測するには、自動化などのデジタルテクノロジーを既存業務に適用した場合の潜在的影響を検討すると同時に、職務から外れた労働者を戦略的に再配置することも必要です。

 

コスト

継続的な混乱状況の中で競争力を維持し、ビジネス価値を生み出すには、コスト管理が不可欠です。適切な場所に適切な人数の労働者を適切な構成で配置することが重要となります。危機による経済的影響が、報酬と人材維持の方針をどのように変化させる可能性があるかを検討しましょう。

 

ケイパビリティ

将来の従業員を確保する最良の方法は、組織に今後必要となるスキルの要件を把握することです。これは仕事を持つ全ての人にとって重要です。職務が進化するにつれて、新しいスキルを身に付ける必要があるからです。

 

構成

組織がビジネス全体に迅速に展開できる重要スキルを持つ人材を獲得するには、より広範な人材エコシステムの活用が必要です。それはスキルの不足や新たな人材プラットフォームの出現、世代間の期待の変化によって促進されます。


サマリー

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、検討・対処すべき重要な人材課題を組織にもたらしています。­人材を第一に考え、安全性を確立し、新しい働き方を可能にすることで、企業はこの大きな混乱の時を乗り越え、長期的に一層の強靭さとレジリエンスを身に付けることができます。


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