2.5/3D実装技術で切り開く日本の半導体産業

2.5/3D実装技術で切り開く日本の半導体産業


国内半導体業界は、数十年に一度の変革期を迎えており、技術のパラダイムシフトにより新たな競争も始まっています。本稿では2.5/3D実装技術に着目し、日本としての勝ち筋について説明いたします。


要点

  • 2.5/3D実装技術は日本が半導体業界でリーダーシップをつかむチャンスがある。
  • 国内への生産拠点誘致・技術標準化推進によってその蓋然(がいぜん)性は高まる。
  • 政府の支援・巻き込みは今後も不可欠であるが、国内に競争力のあるプレーヤーが多数存在する本領域においては、企業自身の働きかけも大きな影響力を持つ。


日本が勝つ可能性が残された領域としての先端パッケージング技術

昨今の先端半導体開発は、微細化と先端パッケージングの2つの方向性で進められています。微細化については物理的限界が見えつつも、さらなる性能向上に向けてBeyond 2nmの次世代半導体開発が加速しています。グローバルではTSMCをはじめとするトップファウンドリが最先端の量産技術を握り盤石な地位を築いている一方、日本国内ではRapidusがこの2nm量産技術の確立に向けて取り組んでいます。一方、先端パッケージングは、微細化スローダウンと製造コスト増加の課題を解決しつつデバイス性能向上が可能な技術として注目されています。各グローバルプレーヤーが研究開発を進めている中、日本には先端パッケージング向け材料や装置において世界で高いシェアを誇るメーカーが多数存在しており、優位性を発揮できる可能性が秘められています。本稿ではこの先端パッケージングのうち、特に2.5/3D実装技術に注目し、先端半導体における日本の勝ち筋について考察します。

 

2.5/3D実装技術

半導体パッケージング技術には多数の方式が存在し、文脈にもよるものの、先端パッケージングと呼ばれる方式としてはFCCSP, FCBGA, FOWLP, WLCSP, 2.5D, 3Dが挙げられます。本稿では、今後の半導体のキーテクノロジーであり、幅広い領域での活用ポテンシャルがある2.5/3D実装技術を対象として取り上げます。

まず、近年話題の2.5D実装は、インターポーザー基板を介して複数のチップを1パッケージに実装する技術です。TSMCのCoWoS、IntelのEMIB、SamsungのI-Cubeなど、構造や実装方式に応じてさらに複数の種類に分類され、現在はハイエンドGPUを中心に採用されています。特にTSMCのCoWoSについては、NVIDIAのGPU向けを中心に需給が逼迫(ひっぱく)しており、OSATとの協業や工場増設による生産能力強化が進められている程の注目ぶりです*1。現在はHPC向けがメインであるが、今後はHPC向け以外のアプリケーションへの転用が期待される領域です。

そして、最先端パッケージング技術である3D実装は、メモリやロジックなど複数の半導体チップを3次元方向に積層する技術です。2.5D実装と同様にメーカーごとに方式が分かれ、TSMCのSoICは、AMDのInstinct™ MI300Xなどに既に採用されている*2ものの、2023年時点で月産2,000個程度*3と生産規模はまだ小さいです。また、SamsungのX-CubeやIntelのFoverosもハイエンド品に採用されていますが、量産が開始されたばかりであり*4一部製品のみに採用されている*5など、やはり規模は限定的です。このように3次元実装技術は、一部製品へ既に採用されているものの量産規模はまだ限定的である上、ハイブリッド接合や量産性・熱対策など解決すべき技術課題も多いことから、黎明(れいめい)期にあると言えます。

アプリケーションに関して言えば、2.5/3Dいずれも現状の主要ターゲットはHPCですが、先端ノードプロセスと同様に、AI等の高速演算が求められる領域を中心に、今後幅広い分野での活用が期待されます。その中でも自動車産業が日本の強みであることを考慮すると、2.5/3D実装技術を強化する上で、車載向け製品はシナジーを考慮すべき重要な領域になると言えます。車載に関しては、高度な処理が求められる自動運転向けSoCへの利用が期待されており、現在国内ではASRA(Advanced SoC Research for Automotive)で研究開発が進められています*6

 

2.5/3D実装技術で勝つための取り組み方向性

それではこの2.5/3D実装技術を軸に、国内半導体産業が競争力を高めるにはどうすればよいのでしょうか。今回は生産拠点、技術標準化の2つの視点から考察します。

まず生産拠点についてです。2.5/3D実装領域の国内の現状としては、グローバルで競争力のある材料・装置プレーヤーは多数存在し、特にインターポーザーや基板は高い競争力を誇ります。また、ASRAやレゾナックのJOINT2などの各コンソーシアムで先端パッケージ技術開発が推進されており、この点も競争力に寄与しています。一方で、日本には2.5/3Dパッケージの生産プレーヤーが存在しません。国内にパッケージング材料・装置技術が存在しても、製造インフラの不足によって付加価値の多くが海外で生み出されており、このままでは技術や人材の流出を防ぎ、国内半導体産業の競争力を高めることができません。

したがって、国内でのパッケージ生産拠点確保が重要課題ですが、これは国内でオーガニックに推進するのではなく、グローバルのファウンドリ・OSAT誘致が現実的な解になると言えるでしょう。熊本へのTSMC誘致と同様に、これには政府からの補助金や税制優遇措置の提供が必要です。一方で、半導体材料メーカー・半導体装置メーカーによる誘致働きかけの重要性もポイントです。繰り返しになりますが、先端パッケージングの観点では競争力のある材料・装置メーカーが存在している点に日本の地の利があります。実際、TSMC, Samsung, Intelといった先端パッケージングプレーヤーは、これらの国内メーカーと密に連携を取って技術開発を行うため、日本に3次元実装技術の研究拠点・組合を設立しています*7。生産拠点誘致には技術力の高い材料・装置獲得、安定したサプライチェーンが必要となりますが、これらに実際に寄与する材料・装置メーカー自身が動くことが、説得力のある提案になるのではないでしょうか。しかしながら、各国内メーカーはそれぞれが一定の競争力を持つが故に、現状内輪で競い合っている実態となっていることも否めません。日本に設立された研究開発拠点や技術開発コンソーシアムなどの「きっかけ」は既に存在しているため、これをうまく活用して材料・装置メーカーが一丸となり、日本の2.5/3D実装の在り方を描く必要があります。こうして製造拠点としての日本の優位性を示していくことが、ファウンドリ・OSAT誘致の後押しになると考えられます。

そして、海外プレーヤーの誘致を進める上で重要な論点となるのが顧客確保です。半導体製造拠点設立には数千億円規模の投資が必要となり、これを回収するには安定受注を確保できる顧客基盤が必須となるためです。

この論点に対する仮説としては、2.5D実装領域では車載向け製品の拠点を立ち上げ、3D実装領域では車載向け製品を見据えつつHPC向け製品の試作拠点から立ち上げるという方向性が考えられます。

まず2.5Dについては、グローバルではHPC向け技術がある程度成熟している上、現在の国内には顧客となる半導体プレーヤー(NVIDIA, AMDなど)が残念ながら存在しません。したがって、ファウンドリ・OSAT視点では新たに日本にHPC向けのパッケージング生産拠点を設立するメリットが薄いと言えます。2.5Dという観点では、大きな顧客基盤を持つ自動車産業に注目し、今後採用が期待される車載向け製品をターゲットに据えることで、中長期的な需要が見込めるでしょう。

3Dについても、同様に最終的にターゲットとすべき製品は車載となると考えられます。しかしながら、3D実装はこれからHPC向け製品への採用が拡大していく段階であり、車載向けへの展開は時間軸としてはかなり先になるでしょう。一方、2.5Dと異なるのは、3D実装技術はまだ発展途上であり、国内にはそれを支える材料・装置メーカーが多数存在している点です。この点に注目すると、グローバルファウンドリ・OSATの国内研究開発拠点をきっかけとした、HPC向け3次元実装製品の試作・小ロット生産拠点の誘致という方向性が考えられます。HPC製品の顧客が国内に存在しないため、本格的な量産拠点とするのは難しいかもしれませんが、最先端技術を使った試作・小規模生産であれば、試しに使ってみたいというプレーヤーも出てくるのではないでしょうか。また、HPC向け製品に関して言えば、Rapidusが前・後工程をカバーする予定であり、誘致された生産拠点は、Rapidusの後工程技術・生産キャパシティーを補完する形での協業も考えられるかもしれません。そして、HPC向け製品の試作・製造を通してノウハウを蓄積し、車載向け製品への転用と量産に備える方針が現実的です。

次に技術標準化について述べます。国内半導体産業の競争力を高めるには、前述の生産拠点確保だけでなく、日本製品・技術をグローバルスタンダードにする動きが必要です。例えば車載製品を例に挙げると、日本製品は優れた機能や高い信頼性に強みを持ちます。このうち信頼性に関しては、課題感は世界で認知されているものの、低コスト化を求めるプレーヤーも依然として多く、現状は信頼性を優先しようという強い動きに結び付いていません。この状態で日本が得意とする製品を打ち出しても、すぐに市場に受け入れられることは期待できません。したがって、「壊れたら部品を取り換えるよりも、最初から信頼性の高い製品を使用した方がトータルで安く済む」など、明確なメリットを世界に示しながら評価技術の確立や規格標準化を進める必要があります。

これを実現する具体アプローチとしては、企業主導のルール形成戦略が挙げられます。ルール形成戦略とは、企業がさまざまなルール形成機関に対してより良い社会像を企業が自ら描き、それを実現するルールを提唱し、同時に自身のビジネスを新たなルールの中で競争力を高められる構造に変革する活動を指します。特に3次元実装は今後、高度かつ急速に進化が期待される分野であるため、企業が自らルール形成に参加することが必要です。一つの事例として、TSMCでは3次元実装の設計・量産エコシステム形成として、3次元IC設計仕様「3Dblox」のIEEE標準化を行っています*8。日本においてはパッケージング技術開発のコンソーシアムがいくつか存在しますが、技術開発で終えるのではなく、開発した技術の国際標準化に向けた取り組みまでも合わせて行うことが求められるのではないでしょうか。

 

総括

本稿では2.5/3D実装技術に注目し、日本の勝ち筋について論じた。2.5/3D実装技術は日本が半導体業界でリーダーシップをつかむチャンスであり、生産拠点誘致、技術標準化推進によってその蓋然性は高まります。政府の支援・巻き込みは今後も不可欠であるが、国内に競争力のあるプレーヤーが多数存在する本領域においては、企業自身の働きかけも大きな影響力を持ちます。国内プレーヤーが足並みをそろえて動くことで、高い付加価値を生み出す生産拠点が確保され、日本の先端実装技術が国際的なデファクトスタンダードとなるのです。そしてこれは彼ら自身のビジネス成長を加速させるだけでなく、日本の戦略的自立性・優位性獲得による経済安全保障確保へともつながるでしょう。


*1:日経クロステック「TSMCがパネルレベルパッケージ参入検討、『CoWoS』は後工程専業と連携」、xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09587/ (2024年1月20日アクセス)
*2:PC Watch「AI=NVIDIAの牙城を崩すAMDの新GPU『Instinct MI300X』」、pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1553731.html(2024年1月20日アクセス)
*3:Trend Force「TSMC’s Advanced Packaging Capacity Fully Booked by NVIDIA and AMD Through Next Year」、www.trendforce.com/news/2024/05/06/news-tsmcs-advanced-packaging-capacity-fully-booked-by-nvidia-and-amd-through-next-year/(2024年1月20日アクセス)
*4:Samsung「Samsung Electronics Unveils Plans for 1.4nm Process Technology and Investment for Production Capacity at Samsung Foundry Forum 2022」、semiconductor.samsung.com/news-events/news/samsung-electronics-unveils-plans-for-1-4nm-process-technology-and-investment-for-production-capacity-at-samsung-foundry-forum-2022/(2024年1月20日アクセス)
*5:ASCII.jp「Meteor Lakeの性能向上に大きく貢献した3D積層技術Foverosの正体 インテル CPUロードマップ」、ascii.jp/elem/000/004/103/4103177/(2024年1月20日アクセス)
*6:ASRA asra.jp/(2024年1月20日アクセス)
*7:日経クロステック「TSMCやインテル呼び込む日本の後工程資源、サムスンは横浜で捲土重来」、xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09253/(2024年1月20日アクセス)
*8:日経クロステック「2nm世代に着々のTSMC、27年にHBM4を12個搭載の3次元IC」、xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09931/(2024年1月20日アクセス)



【共同執筆者】

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター
栗山 大成 マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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EY Japan Consulting TMTチーム

サマリー

2.5/3D実装技術において競争力のある国内プレーヤーが足並みをそろえて動くことで、高い付加価値を生み出す生産拠点が確保され、日本の先端実装技術が国際的なデファクトスタンダードとなる可能性が高まります。これが日本の半導体業界におけるリーダーシップ獲得の突破口となり得ます。


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