EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
大企業のデジタルパラダイムは流動的です。生成AIや量子コンピューティングなどの最新テクノロジーは、モノのインターネット(IoT)やAIで確立されている機能を補完し、テクノロジートランスフォーメーションの可能性を再定義しています。企業側の他の優先事項も急速に変化していることから、サステナビリティやデータ倫理など、テクノロジーへの投資によって広がる影響を慎重に検討する必要があります。
CIOが直面する喫緊の課題(CIO Imperative)シリーズ では、CIOが組織の未来を再構築する上で役立つ、重要な課題と対応策について考察しています。本記事では、EY Reimagining Industry Futures Study 2024(産業の未来図を再構築するための調査2024:PDF) で得た最新のインサイトを掘り下げながら、最新テクノロジーの可能性を最大限に発揮するには、新たなトランスフォーメーションに対する考え方が不可欠であることを考察します。
最新版の EY Reimagining Industry Futures Study(産業の未来図を再構築するための調査) では、最新テクノロジーへの投資の勢いは堅調であることが明らかになりました。企業の投資計画の最前線へ躍り出たのが生成AIです。現在43%の企業が生成AIに投資しており、今回調査した9つの最新テクノロジーの中で、生成AIは3位にランクインしています。5Gと量子コンピューティングも、投資活動は前年比で増加しており、どちらも現在の投資水準で6ポイントの上昇です。
今後1年から3年間の投資計画においても、それぞれ5G(52%)、量子コンピューティング(46%)、生成AI(43%)となっており期待が持てます。また、こうしたテクノロジーを自社の投資対象ではないと考えている企業は1割に満たないのですが、企業は他のテクノロジーに比べて、ブロックチェーン(15%)と、拡張現実(AR)または仮想現実(VR)(18%)については関心があることが分かります。全体としては、企業は最新テクノロジーの今後の導入に対して、非常に前向きといえます。
貴社では次のうち、どのテクノロジーに投資していますか?
投資意欲に期待が持てるとはいっても、最新テクノロジーの積極的導入はまだ初期の段階です。どのテクノロジーに関しても、大半の組織ではまだ概念実証あるいはパイロット段階にあるに過ぎません。最も進んでいるAIとオートメーションで、45%の組織が限定的導入ないしは導入の拡張段階、35%が現在投資を行っている段階です。黎明(れいめい)期にある生成AIについては、積極的導入はまだですが、パイロットプロジェクトの割合は、行政機関(42%)および消費財(51%)分野で最も高くなっています。
エッジコンピューティング、IoT、AR 、VRはいずれも大きく遅れていて、現在これらに投資している企業の、5社に1社が辛うじて、積極的に展開をしている程度です。IoTが市場に登場してからすでに10年以上たっていることを思えば、その導入状況は驚くほど低く、企業にIoTを組織全体に展開していく意欲が乏しいことがうかがえます。特に注目すべきは、最先端の技術であるフロンティアテクノロジーをビジネスプロセスのメインストリームに導入する自信が企業に欠けている点で、63%がトライアルから大規模展開への移行は難しいと考えていることです。主な阻害要因の1つは、重荷となっているレガシーITで、迅速なイノベーションの妨げになっています。
現在投資している最新テクノロジーの導入については、どのような状況ですか?
企業内でフロンティアテクノロジーを効果的に拡大していくには、レジリエントなトランスフォーメーションの枠組みが必要です。73%の企業が、自社の経営幹部は生成AIがもたらす価値創造の機会に関心があると回答する一方で、52%は、生成AIの登場で、自社のデジタルトランスフォーメーション計画が目的に合っているか疑問に思うと回答しています。さらに、64%の企業は、最新テクノロジーが現行のトランスフォーメーション計画を根本から揺るがす影響を及ぼすと考えています。
現在のトランスフォーメーションロードマップには何が欠けているのでしょうか。データガバナンスは盲点の1つであり、74%の企業がその改善の必要性を感じています。また、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の重要性も高まっています。最新テクノロジーへの投資判断を行う際に、83%の企業がESG要素を重要または主要な検討事項としており、昨年の76%から増加しています。このように企業の課題は常に変化し、新たな難題を生み出します。7割を超える企業が、自社のサステナビリティ戦略とテクノロジー戦略の調和を図るためには、さらなる対応が必要だと考えており、これは特にアジア太平洋地域で顕著です。
今回の調査結果で特に際立っていたのが、企業が最新テクノロジーを単体で展開するのは避けたいと考えている点です。企業は、最先端のソフトウェアとハードウェアの機能を統合して相互に補強させ、その中で価値創造を最大化する必要があることを強く認識していますが、それを阻んでいる要因の1つが知識不足です。75%の企業が、最新テクノロジーをどう組み合わせたら価値を創造できるのかについて、理解を深める必要があると感じています。
加えて、複数のテクノロジーの接点やつながりを特定することにも重点を置いています。自社の5GおよびIoT戦略を補完する最新テクノロジーはどれかという質問に対し、上位になったのはAIとオートメーションで、半数以上の企業がそれらを挙げています。また、異なる機能の接点を俯瞰的に見る視点も求めています。今回の回答では、最新テクノロジー間のばらつきが減り、AR/VR、量子コンピューティング、ブロックチェーンのいずれも、5GやIoTとの統合対象として重要性が高まっています。
貴社の5GおよびIoT戦略を補完するのに最も適したテクノロジーは次のうちどれですか?
テクノロジーおよび通信のプロバイダーが提供する各種ソリューションは、複数のフロンティアテクノロジーの融合を求める企業の要望に追い付いていません。10社中6社は、ベンダーがどうすればIoTをAIやエッジコンピューティングと統合できるのか、明確に説明していないと考えています。ほぼ同様の割合(59%)の企業は、ベンダーが5GおよびIoTソリューションにおいて、十分なAI能力を提供していないと考えています。また、10社中7社が、ベンダーは自社製品がもたらすビジネス上のメリットを、さらに明確に伝える努力をすべきだと考えており、ビジネス視点の不足も要因の1つとなっています。
5Gの優先事項としてテクノロジーベンダーや通信ベンダーとの連携強化を挙げる企業は32%と、昨年の25%から増加していており、これらの課題への早急な対応が求められます。また、企業がベンダーについて検討するとき、頭にあるのはテクノロジーの融合だけではありません。導入スピードとセキュリティへの信頼性は、現在および将来のサプライヤーに求められる資質のトップ2です。どこに相談するのか、あるいはどういった選択肢があるのかが単純に分からないというケースも少なくありません。50%の企業が適切な生成AIベンダーの選定に苦慮しており、適切な5G導入モデルの選択が難しいと回答した企業は53%です。
特に注目すべきは、多くの企業が自社のビジネス上の喫緊の課題について、テクノロジーサプライヤーが十分に理解していないと考えていることです。この点は企業が改善を望む課題のトップで、次に最新テクノロジーに関する説明の明確化が続きます。こうした懸念は、企業とそのサプライヤー間でより踏み込んだ対話が重要であることを示しています。
貴社との関係性向上のため、ICTサプライヤーが最も改善すべき点は何ですか?
企業は、新しいテクノロジーを十分に活用するには、サプライヤーや同業他社と新しい形で連携する必要があると認識しており、71%の企業は、オープンイノベーションの原則が組織内で広く受け入れられていると答えています。また、69%の企業が現在、エコシステムの一環で別の組織と連携していますが、その理由のトップは、新しい知識やスキルの習得、次にエンド・ツー・エンドのテクノロジーソリューションの活用が挙げられます。
こうしたエコシステム連携を促すドライバーは、企業が抱える知識ギャップへの対処に有用であると同時に、タイプの異なるサプライヤーからテクノロジーを導入し、それを新たに組み合わせる可能性も広げます。しかし、エコシステム戦略の優先順位が下がる危険性が高まりつつあり、回答者の61%が、エコシステム連携によるイノベーションは必要不可欠ではなく「あれば助かるもの」と考えており、この数字は昨年から増加しています。
また、運用面の課題もあり、10社中6社が多面的なパートナーシップの遂行は難しいと回答しています。その結果、企業は、他のベンダーやパートナーとの調整力があり、かつエコシステムでの役割や立ち位置を適切に説明できるテクノロジーサプライヤーを優遇するようになるでしょう。
以下の記述について、どの程度同意しますか?自社では、エコシステム連携によるイノベーションは必要不可欠ではなく「あれば助かるもの」と考えている(同意する%)。
最新テクノロジー導⼊に対する意欲が⾼まり、企業はさまざまな画期的機能に⼿が届くようになりまし た。しかし、企業が既存のプロジェクトの拡⼤を図り、複数のテクノロジーを統合しようとする中、トランスフォーメーションの枠組みに無理が⽣じています。また、サプライヤーも企業側が意思決定できるよう多くの情報を提供する必要に迫られています。こうした問題に対処するため、CIOは次のような⾏動を取る必要があります。
フロンティアテクノロジーから⼤きな価値を引き出せるかは、これまでとは別の、新しい確かな視点でユースケースや展開シナリオを描くことができるかで決まります。また、間違ったテクノロジースタンダードやプラットフォームの選択の他にもリスクはあり、投資判断にはデータガバナンスやサステナビリティ関連の検討も必要です。最⾼サステナビリティ責任者やカスタマーエクスペリエンスのトップ、最⾼情報責任者やリスク責任者など、他の経営幹部や部⾨と緊密に連携することで、新しいテクノロジーをさまざまな観点から検討できるようになります。こうした複合的な視点は、現在だけでなく将来においても、テクノロジーへの投資やその展開を確実に判断していく上で役に⽴つでしょう。
最新テクノロジーへの初期投資では、ビジネスの特定部分に対するピンポイントのソリューションが好まれる傾向にあるため、専⾨知識が企業のさまざまな部署やセンター・オブ・エクセレンス(CoE)に分散しています。最新テクノロジーとエンド・ツー・エンドのソリューションの統合を求める声が⾼まる中、最新テクノロジーの接点を評価できるワーキンググループの結成が必要です。⻑期的に、⾃社には新たにどのようなスキルが必要なのか、マルチテクノロジーの専⾨知識と経験を中⼼に据えて検討することが求められます。こうしたステップを踏むことは、社内に新たな知識を構築し共有する⼤きな契機となり、現⾏の実証実験やパイロット運⽤を拡⼤する場合は不可⽋です。
トランスフォーメーション計画にかかる圧⼒が増す中、最新テクノロジーへの初期投資を最適なものとするため、また構築してきた能⼒や機能を確実に成熟させていくためにも、今後5年から10年間のテクノロジー展望を⾒直すことがこれまで以上に重要です。そのためには、トランスフォーメーションの根幹を再確認し、⽬的に合致しているかどうか、評価をする必要があります。短期的には、リスキリングとパートナー管理に重点を置きます。⻑期的には、デジタルトランスフォーメーション計画の中で、データ倫理や ESG、従業員のウェルビーイングのために積極的に対策を講じ、企業の優先事項が変化してもレジリエンスを維持できるようにします。
ビジネス課題の変化をテクノロジーや通信のサプライヤーに明確に伝え、サプライヤー側がそれに適したソリューションを的確に、より魅力的な形で提供できるようにします。また、トランスフォーメーションにおける課題の変化も共有し、サプライヤーとの間に情報格差が生じないよう努めます。サプライヤーエコシステムを精査して特有の能力を持つテクノロジープロバイダーを探し、他のパートナーとの調整ができるベンダーを優先することで、価値の創造と維持に重点を置いたエコシステム連携を構築します。エコシステム連携に充てる経営陣の時間とエネルギーを増やし、テクノロジー戦略との整合性を高めて、エコシステム連携にさらに果敢に取り組みます。
企業がテクノロジーによって変革を目指す意欲は健在ですが、長期的価値を引き出すには、組織内外でのコラボレーションの強化が不可欠です。
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