通信事業者にとって、サイバーセキュリティ関連の課題は山積みです。2023年版のEY Global Cybersecurity Leadership Insights Studyによると、サイバーセキュリティ侵害が組織にもたらすコストについて、通信事業者の53%が、2023年には300万米ドルを超えると想定しています(2022年は40%)生成AIの台頭もデータガバナンスの面で大きな負担をかけています。最新の EY CEO Outlook Pulse によると、通信事業者の5社中4社はAIが社会を良くする力であると思う一方で、7割以上の企業は、AIの悪用対策により力を入れ、AIのもたらす倫理的影響にさらに注視する必要があると考えています。
上の図は、2023年7月のEY CEO Outlook Pulseの回答に基づき、通信事業者のAIに対する考え方を示しています。
最新の EY Decoding the Digital Home(デジタルホームを解き明かす) 調査によると、生活費高騰の危機に際し通信事業者は協力的だったと回答した世帯は、わずか3分の1でした。回答者の4分の3は、ブロードバンドプロバイダーは、より多くの定額保証プランを提供すべきだと考えており、ほぼ半数(49%)が料金変更の説明が分かりにくいと感じています。こうした不満は、ユーザーが乗り換えを検討するきっかけとなり、通信事業者が購入への影響力を失う結果となっています。価格比較サイトを見たり、友人や身内のアドバイスを受ける世帯の割合は、2022年の19%から2023年には30%に増加しました。
3. 人材およびスキル管理が不十分
財政面の圧力により、通信事業者は採用を控えています。 EY 2023 Work Reimagined Survey(EY働き方再考に関するグローバル意識調査2023)では、通信事業者の55%が採用を凍結すると回答しており、全セクター(28%)のほぼ倍の割合です。給与や福利厚生の削減へとつながるコスト抑制策を行っているのは、全企業では44%だったのに対し、通信事業者では61%でした。実際に、通信事業者は人材管理を人材関連リスクとして挙げることが圧倒的に多く、人材の定着、新しい人材の獲得、次世代の人材育成はいずれもトップ5に入っています。
上の図は、EY 2023 Work Reimagined Surveyの回答に基づき、通信事業者が挙げた人材関連リスクの上位5つを示しています。
4. サステナビリティへの取り組みの管理がずさんである
EY Global Climate Risk Disclosure Barometer(グローバル気候変動リスクバロメーター) によると、通信事業者による気候関連財務情報開示において、開示範囲は大幅に拡大しているものの、その品質について過去2年間で大きな改善は見られません。通信・テクノロジー企業の43%は、具体的なネットゼロ戦略や移行戦略、脱炭素化戦略をいまだに開示していません。開示が進まない理由として、サステナビリティが優先事項として十分に取り上げられていないことが挙げられます。 CEO Outlook Pulseによると、通信事業者の46%が資本配分に際してサステナビリティを考慮してはいるものの、優先度は高くありません。また、複雑な社内事情も足を引っ張っています。 EY Sustainable Value Study によると、通信業界の経営幹部の半数以上が、自社の気候変動戦略は複数の競合する取り組みの寄せ集めで、統一されたアプローチがないと回答しています。
上の図は、2022年版のEY Sustainable Value Studyの回答を基に、気候変動戦略を実施する際の障害を示しています。
5. 新たなビジネスモデルを活用する能力が欠如している
エンタープライズ市場での成長機会を狙う通信事業者は少なくありませんが、モノのインターネット(IoT)やセキュリティなどのB2Bサービスが収益に占める割合は、まだほんの一部に過ぎません。また、B2Bセグメントの重要業績評価指標(KPI)は、B2Cに比べ過小報告される傾向にあり、通信事業者の戦略がどれほど進んでいるのかを見定めるのは困難です。 EY Reimagining Industry Futures(産業の未来図を再構築するための調査) によると、通信事業者はデジタルアドバイザーとしての信頼性が低く、それがB2Bの成功を阻む障壁になっていることが分かりました。大企業の53%が通信事業者をIoTの専門家と見なしている一方で、デジタルトランスフォーメーションの専門家と認識しているのはわずか22%です。こうした先入観により、通信事業者が企業にコンサルティングサービスやソフトウェア関連サービスを拡大展開できていません。
6. ネットワーク品質と価値提案が不十分
最新の EY Decoding the Digital Home によると、26%の世帯が自宅のブロードバンド接続は「頻繁に」または「非常に頻繁に」不安定になると感じており、自宅のモバイルデータ通信についても29%が同様に回答しています。 通信事業者はサービス速度と品質向上のための対策を講じてはいるものの、顧客は依然として懐疑的であり、43%がWi-Fiの性能保証は誤解を招く、あるいは不正確だと考えています。3人に1人は「速度とパフォーマンスが見合っていない」、また半数は「高速プランの速度が高い料金に見合っていない」と考えていることから、企業は価値提案を再考する必要があると思われます。
2023年の EY Work Reimagined Studyでは、通信業界の従業員の30%が、完全なリモート(必要時のみ出社)を希望すると回答したのに対し、全セクターでは23%でした。リモートワークの傾向が高いことは、スキル開発に影響を与えており、通信業界の従業員はリモートまたはハイブリッド環境で成功するための1番の要因として、学習やスキル開発の機会を挙げています(47%)。また、従業員の43%が、自社はリモートワークのためにテクノロジーを強化したと回答していますが、34%は、さらに大きな変化が必要だと考えています。
8. 外部エコシステムとの関わり方が効果的ではない
企業は年々、エコシステムの重要性を認識し、それを構築している通信事業者と取引するようになっています。最新の EY Reimagining Industry Futures Study では、71%の企業が、エコシステムを持つ5Gサプライヤーを優先していることが分かりました。大半の通信事業者が現在、パートナーシップやビジネスエコシステムを通じてサービスを提供している一方で、 EY Tech Horizon Study を見ると、さまざまな要因がその効果を妨げていることが分かります。エコシステムに懐疑的な最大の要因は、投資リターンの不確実性で、次に従来の事業拡大戦略への固執、サイバーセキュリティへの懸念が続きます。
上の図は、 EY Tech Horizon Study(2022年4月)の回答を基に、エコシステムに懐疑的な主な要因を示しています。
9. 規制環境の変化に適応する能力が欠如している
最新の CEO Outlook Pulseによると、通信業界の経営幹部の61%は、規制リスクは今後1年間の自社の業績に大きな影響を及ぼすと考えており、コンプライアンスに関する負担への深い懸念が明確に示されています。規制当局における最近の合併審査は、一部の市場で議論の的となっており、当局の企業統合に対する考え方は、依然として予測不可能です。本年度からBEPS 2.0のルールが施行されることも踏まえ、税制の枠組みも流動的です。また、新たな悩みの種になりそうなのが、AIに対する規制の整備です。既に国レベルで、ガイドラインと法律策定のバランスにおいて一部相違が生じています。
10. インフラ資産の価値を最大化できない
インフラの価値を引き出そうとする通信事業者の動きが拡大し、勢いを増しています。 CEO Outlook Pulse によると、通信業界CEOの41%が今後1年以内にダイベストメント、スピンオフ、IPOを進めると回答し、また61%が合弁事業や戦略的提携を模索しており、引き続きインフラのカーブアウトが重視されていることが分かります。しかし、アセットライト(資産圧縮)アプローチがどう変化するかを予測することは依然として困難です。EYの別の調査1 を見ると、ネットワーク事業会社とサービス事業会社への分離が業界構造の主流になるかどうかに関して、業界リーダーの間で意見が分かれています。
上の図は、EY Telco of Tomorrow調査(2023年10月)への回答を基に、ネットワーク事業会社・サービス事業会社という市場構造に対する通信業界経営陣の見解を示しています。