TMT企業が生成AIの価値を最大化するために取り組むべき5つの課題

TMT企業が生成AIの価値を最大化するために取り組むべき5つの課題


テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム(TMT)企業は、生成AIの採用ですでに先頭に立っています。EYは、TMT企業が今後もその立場を維持し、価値を引き出す方法を模索しています。


要点

  • TMT企業の半数以上(52%)がすでに生成AIを活用しており、他の業界に大きく先行していることから、生成AIの採用を進めるのにこの上なく適しているといえる1。
  • TMT企業は先行者であるため、生成AIの不確実性とリスクにいち早く取り組むことにもなる。
  • 生成AIの価値を最大化するには、TMT企業が選択した行動を通じて、イノベーションとインテグリティを追求する必要がある。


EY Japanの視点

TMT業界では生成AIの活用が進んでおり、業務効率化のみならず、ビジネスモデル変革においても幅広い役割を果たしています。一方、生成AI活用が先行している企業では、経営管理上の課題が明らかになりつつあります。導入が遅れがちといわれる日本企業にとって先行企業が直面する課題は参考になるでしょう。

先行する企業では、AIを業務改善ツールとして位置付けるだけでなく、AIを中心に据えた事業の在り方全体を再考しています。

生成AIがもたらす機会や課題に対応していくためには、ユースケースのPoCを回し続けることにとどまらず、ビジネスモデルの再考、ガバナンスの改善、スキルの一元化までを含めた目線の高さが求められます。IT・デジタル部門に丸投げではなく、経営層のコミットメントの下に設置されたAIコントロールタワーが変革を推進するといった取り組みが日本企業にも求められるのではないでしょうか。


EY Japanの窓口

三浦 貴史
EY Japan テクノロジーセクターリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

生成AIの世界が形を成してくると、TMT企業は、生成AIを自社のサービスポートフォリオに組み込んだり、社内のデジタル化ロードマップへと展開することで、重要な役割を果たすようになるでしょう。生成AIが持つ変革の可能性や利用することで生じる急加速は、組織の制約から規制上の不確実性まで、さまざまな課題も引き起こします。これらの複雑な要因を念頭に置いて、EYは、TMT企業が生成AIの将来性を長期的価値に変えるために取り組むべき5つの課題を特定しました。

TMT企業は、生成AI革命の最前線に立つことになります。多数のテクノロジープロバイダーが、顧客が生成AIソリューションを利用できるようにし、テレコム企業が主要なインフラストラクチャーを提供します。メディア・エンターテインメント企業にとって、生成AIはビジネスモデルの革新と破壊の両方を引き起こすでしょう。

また、この3セクター全体にわたって、各組織は「従来型」のAIのメリットを基盤にして、社内システムやプロセスの変革に生成AIを活用することができます。この点で、TMT企業は他の業界と比較して有望な立場にあります。これは、テクノロジー企業を中心に生成AIの導入が進んでいることからも明らかです。メディア・エンターテインメント企業が唯一、従業員の利用率において全体の平均を下回っていますが、これは従業員の抵抗感が大きいことを示しているといえるかもしれません。しかし総合的に考えると、TMT企業は生成AIを社内に展開したり、自社の製品やサービスに組み込みやすい立場にあります。


利用水準の上昇の背景には、継続的な投資があります。TMT企業の45%がAI主導のイノベーションに投資しており、AIを通じた製品やサービスの変更はすでに資本配分プロセスに統合されています。さらに、46%が今後12カ月以内に多額の設備投資を計画しています2。このように、TMT企業は生成AIを活用して経済全体に利益をもたらす絶好の立場にあります。生成AIは破壊的な変化をもたらす可能性を秘めていますが、TMT企業はこれまで、技術サイクルの変化とそれによって生じる圧力に適応してきました。TMT企業は、今後を見据えて、すでに保有しているAI機能の一部として、生成AIを最大限活用する方法に注力する必要があります。
 

顧客、プラットフォーム、コラボレーションのための新たな機会を形成する

TMT企業は、短期的にも長期的にも生成AIからどのようなメリットを得られるかを模索する際に、成長と効率化の両方を実現するユースケースを検討する必要があります。優れたユースケースクラスターには、次のようなものがあります。

  • 卓越した顧客エクスペリエンスの推進:短期的には、生成AIはよりスマートなチャットボットを作成し、新しい方法で人による支援とデジタルの支援とを融合させることで、近い将来、顧客との対話に革命を起こす可能性があります。これは特に、幅広いカスタマーサポート業務を行うテレコム企業に該当します。また、生成AIはサービスのパーソナライズにも役立ち、コンテンツ推奨エンジンや光ファイバーネットワークのアップグレードなど、特定の顧客ニーズにより適した投資を確実に行うことができます。
  • プラットフォーム・ビジネスモデルの解放:長期的には、生成AIは新しいビジネスモデル、特にエコシステムパートナーや仲介業者間で利用できるサービスプラットフォームの力を解き放つ可能性があります。生成AIの可能性は、製品開発と流通の強化、B2B2Xでエンドユーザーに最適な製品・サービスを提供するためのキュレーション、「エコシステムの満足度」の向上をもたらします。つまり、ビジネスモデルのイノベーションにおいて幅広い役割を果たすことができます。
  • AIで拡張された組織となる :より多くの権限を与えられた従業員を擁する生成AI中心の組織では、ナレッジマネジメント、生産性、自動化のすべてが向上します。TMT企業は、情報へのアクセスと共有を改善することで、例えばIT部門と製品開発部門の間にあるような根深い組織の壁を克服したり、価値の低いタスクを自動化するなど、価値の創造に専念する時間を確保できます。

ユースケースのニーズは、セクターによって異なります。テクノロジー企業は、生成AIを活用して既存のプラットフォーム製品を強化することに注力し、自社の製品ポートフォリオにおいて他の先端テクノロジーとの最も有望な周辺領域がどこにあるかを模索するでしょう。テレコム企業は、生成AIが既存の顧客ケアに関するチャネル、システム、プロセスをどのように強化または代替できるかに注力します。そしてメディアプロバイダーは、コンテンツの作成からキュレーション、配信に至るまで、コンテンツのライフサイクルのあらゆる段階で生成AIの具体的な役割を検討するとみられます。

図2:TMTのセクター別の代表的なユースケース

  図2:TMTのセクター別の代表的なユースケース

TMTに新たな課題を突き付ける生成AI

TMT企業が他の業界よりも生成AI採用の道を先行しているという事実は、つまり、その過程で遭遇する課題もTMT企業が最初に経験するということです。実際、  TMT企業の68%(PDF参照) はAI利用による意図せぬ結果を管理するために実施している措置はまだ不十分と考えており、「先行者」の利点に付随する責任が浮き彫りになっています。EYは、経営管理上の注意を必要とする主な課題として、以下を挙げています。

  1. 不確実な規制と政策環境:規制当局は、新しい形のデータガバナンスと保護の必要性と並んで、AIがもたらす倫理的課題を認識しています。新しいルールが策定されれば確実性は上がるはずですが、定着までには時間がかかり、地域によっても異なる可能性があるため、複雑さが増し、イノベーションが制限される恐れがあります。大手TMT企業は、EUのAI規制法案に関して、すでにそのような懸念を表明しています3

  2. エコシステムによる制約:多くのTMT企業はサプライヤーとバリューチェーンのエコシステムを構築していますが、こうした既存のエコシステム構造の中に、生成AIベースのパートナーシップという新しい波を取り入れることは難しいかもしれません。生成AIの実装に関しては、新規パートナーと既存パートナーの理論的根拠、優先順位が異なる場合や、正反対の規制圧力に直面する場合があります。

  3. 予算と投資の制約:厳しいマクロ経済環境により、TMT企業のAIへの投資能力が制限される恐れがあります。その結果、生成AIの技術力と専門知識をもたらすパートナーへの依存度が高まるかもしれません。同様に、予算上の制約から、企業顧客がAIの技術とスキルの両方に投資する能力が制限されることも考えられます。

  4. 従業員と顧客からの抵抗:生成AIが自動化を加速させ人の関与を減らす可能性があることには、特に米国のメディア・エンターテインメント業界において、すでに従業員から不安の声が上がっています4。同時に、データのプライバシーと品質に関する顧客の懸念は、混乱を生じさせたり、AIを利用した対話や交流の受容を妨げる恐れがあります。EYの調査によると、消費者の48%が、アプリやWebサイトで使用されているアルゴリズムと、それがオンラインで目にする内容にどのような影響を与えるかを懸念しています5

  5. 不十分なデータおよび知的財産ガバナンスと保護:TMT企業は取り扱いデータ量が豊富な組織ですが、それゆえに複雑さが生じます。生成AIアルゴリズムのトレーニングには、クリーンで精選されたデータセットが不可欠です。データが断片的なままで、管理に苦慮している組織では、データガバナンスをより迅速に、よりしっかりと適応させる必要があります。その間にも、独自データと公開データの組み合わせや、TMT企業・パートナー・顧客間でのデータ共有の増加により、新たなリスクが生じているかもしれません。さらに生成AIの世界では、知的財産権侵害のリスクが高まる危険があります。

組織は、セクター固有の課題も考慮する必要があります。例えばテレコム企業は、生成AIの採用が将来のネットワーク負荷と、関連する投資コミットメントにどのような影響を与えるかを検討しなければなりません。メディア企業は、これまでの技術サイクルと同様に、他の業界よりも先にビジネスモデルの破壊的な混乱を経験する可能性があり、テクノロジー企業は、生成AIプラットフォームソリューションのグローバル化を目指す中で、最も規制の不確実性のあおりを受けるかもしれません。

これらの微妙な違いはあるにせよ、TMT企業は、倫理的リスクに対処するために、他の業界関係者とさらに協力する必要があると認識しています。CEOの74%は、ビジネス界はAIの倫理的影響を注意深く見守る必要があり、その利用により私たちの生活の重要な領域がどのように影響されるのかを考慮すべきであると考えています6。このような共通のコミットメントの感覚は、エコシステム戦略にとって重要な意味を持ちます。
 

TMT企業にとって重要な5つの行動

1. AIコントロールタワーを設置し、イノベーション、知識、スキルを一元化する

TMT企業の30%は、すでにAIの採用と活用に特化したグループを擁しており7、生成AIは、すべての企業がさらに前進し、AIコントロールタワーを設置するきっかけとして機能するはずです。これは、ユースケースの実験にとどまらず、ビジネスモデルの再考、ガバナンスの改善、スキルの一元化に役立ちます。コントロールタワーグループは、ビジネスユニットの責任者とその他の関連する経営陣の役割(最高デジタル責任者や最高データ責任者など)を組み合わせて構成することができ、破壊的リスク、人材要件、データガバナンスのニーズを評価しながら、生成AIの機会を特定して優先順位を付けます。

今、どこから行動すべきか

経営幹部の適任者をAIリーダーに任命し、コントロールタワーの活動を計画して、既存のデジタル・ビジネスユニットやセンター・オブ・エクセレンスなど、社内の他部門と調整を図ります。コントロールタワーの活動が、組織全体のビジネス戦略やテクノロジー戦略に沿っていることを確認します。

必要な関連スキルと直ちに埋めるべきスキルギャップを特定し、AIリーダーに報告する新しい役割を検討します。同時に、生成AIのビジネス面と技術面でチームをトレーニングし、長期的なリスキリングの必要性を啓発するような基本原則を効果的に活用しましょう。

対象を絞った生成AIの機会のポートフォリオを開発します。その一環として、既存のAIユースケースのカタログを再検討し、可能であれば生成AIを組み込める機会を特定します。影響、複雑さ、拡張性、市場投入までの時間などの指標に基づいて、生成AIのユースケースに優先順位を付けます。即効性のあるユースケース(quick win)と、より複雑なユースケースを適度に組み合わせたものを選択します。

また、生成AIベースの製品を企業に提供するテクノロジー企業は、商業的原則を前もって検討する必要があります。これには、生成AIをスタンドアロン製品として販売するか、既存のサービスパッケージに組み込むか、最初に設定する最適価格モデル(無料トライアルや段階的な価格設定から価値ベースの価格設定まで)が含まれます。

後で決めるべきこと
  • 生成AIソリューションをビジネス全体に拡張するための包括的なロードマップを設計します。組織がユースケースの成果と実現可能性を分かっていくにつれ、チームは生成AIプロジェクトにより多くのリソースを割り当てるかどうかを決定できるようになります。
  • パートナーとの共同市場投入を伴うプラットフォームサービスやB2B2Xサービスなど、生成AIを活用した変革的なビジネスモデルやサービスポートフォリオを模索します。「共同販売(sell with)」アプローチを支える商業条件を定義し、特に収益分配モデルに注意を払います。
  • 優先ユースケースに関連する分野で、生成AIに関する能力を備えた新しい人材を獲得するための長期計画を作成します。特定の生成AIの役割を定期的に見直して優先順位を付け、コモディティ化する可能性が高い役割ではなく、時間の経過とともにビジネスを差別化する役割に注力します。

2. ビジネスの各機能と働き方を再考する

生成AIが生産性を向上させ、ビジネスモデルを刷新する可能性を実現するには、新しい働き方が不可欠です。生成AIを利用することでビジネス機能間のやり取りはよりシームレスになり、役割や責任は時間の経過とともに進化するでしょう。組織の構造とプロセスには、これらの新しい働き方を反映させる必要があります。生成AIが仕事を奪うのではなく、従業員を力強く後押しすることで、これまでは分断化されていたチーム間で新たに情報交換できるようになります。TMTの従業員から寄せられた初期の反応は肯定的で、51%が仕事の進め方に全体としてはプラスの影響があると予想しています8

今、どこから行動すべきか

従業員の抵抗を軽減するために、独自の企業データを利用して小規模なパイロットプロジェクトを立ち上げ、生成AIソリューションをテストしてフィードバックを収集します。この結果を利用して、生成AIが既存のプロセスを強化し、従業員の効率を向上させ、能力を強化する方法を示します。

AIコントロールタワーがビジネスの他の部門と緊密に連携して、適切な内部フィードバックループを構築していることを確認します。生成AIがどのように展開され、基盤となるデータセットが使用されているかを説明することで、あらゆる階層の従業員が、自分もその取り組みの一端を担っていると感じられるようにすることが大切です。これがAI利用をベースとした成果物に対する信用と信頼の構築につながります。

経営陣はワークフローがどのように変化しているかを明確に伝え、事業部門のリーダーらは定期的にミーティングを行い、進捗状況と将来の計画を共有します。コラボレーションツールとしての役割を強調することで、AIを、抵抗を招くかもしれない心配の種から成長の機会に変えることができます。

後で決めるべきこと
  • AIの利用によるデータ管理の改善を考慮に入れて運用モデルを再評価し、従来のビジネス機能間、および各機能とAIコントロールタワーが新しく交わるポイントに注意を払います。
  • 組織全体のスキルアップとリスキリングだけでなく、各機能に特化した生成AIのトレーニングにも投資します。テクノロジーロードマップとビジネス機能の変革に歩みを合わせた人材開発計画を策定します。従業員が新たな役割に移行し、多機能なAIコンピテンシーを構築できるように、社内の人材と業務をマッチングするタレントマーケットプレイスの構築を検討します。
  • 生成AIイニシアチブの長期的価値を実証するために、監視メカニズムを継続的に導入し、主要業績評価指標(KPI)を策定します。

3. 生成AIをエコシステム戦略の中心に据える

テクノロジー大手やハイパースケーラーと呼ばれる大規模なクラウド企業からネットワーク機器ベンダーやテレコム企業に至るまで、TMT企業はエコシステムのオーケストレーターとしての地位を確立しています。その経験からTMTは有利な立場になり得ますが、それはまた同時に、既存のエコシステム構造をどのように適応させれば良いかを検討する必要がある、ということでもあります。まずは能力のギャップを評価し、エコシステム戦略を進化していくAIがもたらす機会に対応させること、また、最先端の研究と知識を活用する新しい方法を探ることからから始めましょう。

今、どこから行動すべきか

既存のパートナーエコシステムとのAIに関する議論を優先し、生成AIにおける相互の関心領域と協力の可能性を明らかにします。AIパートナーの状況を継続的に監視し、新たな機会を探ることが重要です。スタートアップ企業、同業他社、学術機関など、生成AIの取り組みを強化できる新しいパートナーを特定してください。一方、テクノロジー企業は、さまざまな業界の企業と提携して、カスタマイズされたドメイン特化型の大規模言語モデル(LLM)と独自のナレッジグラフを作成できます。これらは、パブリックモデルと統合することも、サービスとして提供することも可能です。

インフラストラクチャー(コンピューティング施設、クラウド、データ)、モデル、アプリケーション開発などのさまざまな階層にわたって生成AIの準備状況を評価し、パートナーシップが果たせる役割を特定します。既存の事前トレーニング済みモデルとデータエコシステムに接続して、ユースケースを探索しましょう。TMT企業は終始一貫して、エコシステムのパートナーがデータを安全に共有し、統合プロトコルを採用していることを確認しなければなりません。

後で決めるべきこと
  • 選定したパートナーを通じてエコシステム内のAIコンピテンシーを拡張し、関連性の低いパートナーシップは優先順位を下げます。
  • 共同イノベーションに向けてスタートアップ企業との関係を緊密にして、スキルや専門知識が拡張できる買収や合弁事業を検討します。
  • エコシステム戦略を定期的に見直し、進化を続けるAIの目標と足並みをそろえます。また、パートナーの選定や適合性に影響を及ぼし得る政策や規制の要因にも細心の注意を払います。

4. AIに対するステークホルダーの信頼を築く

多くのTMT企業がAIの倫理的な枠組みを設計しましたが、生成AIはまったく新しい倫理的ジレンマと安全保障上のリスクを生み出します。TMT企業は、知的財産や著作権の問題、偽のコンテンツ、LLMをトレーニングする際のセキュリティやデータプライバシーなど、AIが生成したコンテンツに関するステークホルダーの懸念に対処する必要があります。従業員の懸念も同様に重要です。クリエイティブ業界における興味深い例として、アーティスト、パフォーマー、作家、アスリート向けのAIのベストプラクティスを提唱する「Human Artistry Campaign」があります9。AIの規制状況が進化を続ける中、政策立案者と定期的に対話を持つことは不可欠です。また、AIに特化した規制がない場合、TMT企業は自社のAIアプリケーションへの信頼を築くために、堅固なガバナンスを重視する必要があります。

今、どこから行動すべきか

生成AIから生じる新たなリスクを特定し、そのリスクを軽減するツールを実装します。倫理的なAI手続きを実行・監督するチームと、それらを監視・監査する方法を確立します。LLMを立ち上げる前に、モデルのハルシネーション(幻覚:事実と異なる情報をもっともらしく生成すること)、ジェイルブレーキング(脱獄:あらかじめ設けられた制限を非正規に解除し有害情報を生成すること)、不適切なコンテンツ、その他の法的リスクや風評リスクについてストレステストを行います。

生成AIの採用をさらに促すには、生成AIのデータプライバシーに関する懸念に対処しなければなりません。企業は、テクノロジー企業が自社の独自データを一般的なLLMのトレーニングに使用したり、モデルのトレーニング中に機密情報を誤って漏えいすることがないよう保証する必要があります。コンテンツ発行者は、ディープフェイクの音声や動画、テキストなどのコンテンツを追跡・制御するための解決策に、優先的に取り組むべきでしょう。

AIが生成したコンテンツのラベル付けといった現在のソリューションを模索し、従業員の教育とスキルアップのための倫理的なAIトレーニングプログラムを検討します。アウトプットの確率的な性質を考慮した統制と、結果の品質と堅牢性を検証する方法を構築するようにしてください。

後で決めるべきこと
  • 組織内での生成AIを主流化する進度に応じて、データの利用とモデルの実装に関する包括的な倫理的枠組みを考案し、リスクと軽減戦略について、あらゆる階層のユーザーを教育します。
  • 業界関係者、規制当局、非営利団体、公的機関、学会、オピニオンリーダーと協力して、AIが生成するコンテンツの規制を形成し、規制における知的財産関連の問題に対処します。
  • AIベースのサービスに関する顧客との新たなフィードバックループを構築し、現在の受容レベルと将来の受容可能性を評価します。

5. 生成AIを長年にわたるテクノロジートランスフォーメーションに組み込む

生成AIの技術は急速に進化しています。選択肢を広げておくことは大切ですが、より広範なテクノロジートランスフォーメーション・プログラムの中で生成AIをどのように活用するのが最適かを理解することが、長期的価値を創造する上で何よりも重要です。TMT企業の多くは、トランスフォーメーションを加速させるために、クラウド、エッジコンピューティング、量子コンピューティングなど、さまざまな先端テクノロジーを次々に導入しています。生成AIは単独で扱うものではなく、他の先端テクノロジーへの追加投資として扱うべきです。

今、どこから行動すべきか

ビジネス戦略に基づいて導入するテクノロジーの優先順位を決め、テクノロジーロードマップが、選択した生成AIのパイロット版と同期していることを確認します。特定のドメインにおいて特定されたユースケース向けのデータセットを準備してください。クラウドとコンピューティングインフラストラクチャーの可用性を確保して、独自のデータを使用して小規模な生成AIソリューションのセットをテストします。生成AIソリューションを提供するテクノロジー企業は、生成AIソリューションの力を実証するために合成データセットを提供できます。

生成AIソリューションを、コンテンツ管理、顧客関係管理(CRM)、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムなどの既存のテクノロジースタックとどのように統合するかを検討してください。インフラストラクチャーに関しては、フルスタックの基盤モデルを実行する場所には柔軟性を持たせるようにします。

後で決めるべきこと
  • データ、アプリケーション、インフラストラクチャーを含む大規模な生成AI展開に向けて、エンタープライズアーキテクチャの準備を整えます。より大規模なモデルをサポートできるよう、データとアプリケーションプラットフォームを最新化し、コンピューティングインフラストラクチャーをアップグレードすることも検討してください。
  • 生成AIと、エッジコンピューティングや量子コンピューティングなど他の先端テクノロジーとの間の周辺領域と交差点を評価し、それらの組み合わせによる影響と価値創造を最大化します。
  • コンピューティング施設とデータセンター施設の利用が増加することで、ESG(環境・社会・ガバナンス)とサステナビリティへの取り組みが受ける影響を評価します。サステナビリティを追跡する指標と下振れリスクを軽減する対策を講じます。

 

  1. EY「Work Reimagined Study 2023(EY働き方再考に関するグローバル意識調査2023)」(EYのナレッジ分析結果)
  2. EY「CEO Outlook Pulse」(2023年7月)
  3. Light Reading, DT and Orange join protest against Europe’s planned AI rules, 5 July 2023
  4. SAG AFTRA, SAG-AFTRA Statement on the Use of Artificial Intelligence and Digital Doubles in Media and Entertainment, 17 March 2023
  5. EY「デジタルホームを解き明かす」(2023年9月)
  6. EY「CEO Outlook Pulse」(2023年7月)
  7. EY「Tech Horizons Study」(2022年) 
  8. EY「Work Reimagined Study 2023(EY働き方再考に関するグローバル意識調査2023)」(2023年)
  9. RIAA, Human artistry campaign launches, announces AI principles, 16 March 2023

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サマリー

TMT企業は、生成AIの採用で圧倒的にリードしており、この画期的なテクノロジーから価値を生み出すのに有利な立場にあります。しかし、そのためには、生成AIがもたらす新たな課題や試練を乗り越える先陣とならなければなりません。

ここで紹介した、取り組むべき5つの課題は、TMT企業がまさに先陣となる上で役立てることができます。生成AIの能力を開発する際は、今すぐできることに集中し、その後のステップを計画する必要があります。生成AIは、世界を変えるでしょう。TMT企業は、確実に自らとそのステークホルダーの価値を最大化することができます。 


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