Water 4.0:水資源管理のデジタル化

Water 4.0: 水資源管理のデジタル化


人工知能(AI)、機械学習、モノのインターネット(IoT)などのデジタルテクノロジーが、水道システムの効率化とサステナビリティ向上に貢献しています。


要点

  • 水資源利用の最適化が、世界中の産業や機関にとって大きな課題となっている。
  • オフィスビルや工場、商業施設、病院などの建物には、データを活用するアプリケーションやAI、産業IoTが導入され、排水処理や雨水貯留が行われている。
  • AIや機械学習、デジタルツインなどの先進テクノロジーが、漏水の検知や水道ネットワークの異常予測に利用されている。
  • 都市の管轄当局は、必要な対策を講じて洪水などの災害やその損害を軽減するために、AIが搭載された洪水予想・予測システムを活用している。


EY Japanの視点

関連リリース:EYとFractaが日本初のAIを活用した下水道管路劣化予測手法を構築

世界の多くの地域では、水不足や気候変動による洪水の激甚化など重大な社会課題に直面しています。
水の生産・配水、汚水の浄化、災害の防止をより高度かつ効率的に行うために、さまざまなデジタル技術が導入されています。また、企業にとっても、製品製造などの事業活動に伴う水の利用や環境対策などを効率的に行うことが重要です。

わが国では、市町村が運営している上下水道事業の管理運営の高度化・効率化は、喫緊の課題です。人口が減少していく時代において、需要不足・現場の担い手不足といった課題への対処という観点、また、激甚化する風水害への対策という観点でもデジタルの力を最大化することが早急に求められています。
EY Japanでは、スタートアップ企業と連携して、AIを活用して下水道管の劣化・損壊リスクを見える化する取り組みなどを進めています。


EY Japanの窓口
藤山 賢
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EYパルテノン ストラテジー インテリジェンス ユニット・リーダー パートナー

福田 健一郎
EY Japan ガバメント・パブリックセクター・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リード・アドバイザリー アソシエートパートナー

水不足が世界的な問題になっています。世界銀行の最近のデータによると、インドには世界人口の18%に当たる人々が暮らしているにもかかわらず、利用できる水資源は世界の水資源のわずか4%であり、極めて深刻な水不足に直面しています。 NITI Aayog(政策委員会)のレポートによると、大都市のデリー、ベンガルール、ハイデラバード、ムンバイ、チェンナイを含むインドの21の都市で2030年までに地下水が枯渇し、1億人の生活が影響を受け、インドの人口の40%は飲料水が入手困難になると予測されています。インドの水不足は国民生活だけではなく、経済にも影響を及ぼしそうです。世界銀行は、水不足と気候変動の複合的影響により、多くの国においてGDPが最大6%減少し、紛争が誘発されかねないと警告しています。

 

水資源に対する需要が高まる中、世界のあらゆる機関がテクノロジーによる解決策に注目しています。AI、IoTセンサー、データアナリティクス、スマート水道網、スマート水資源管理ソリューションといった新たなテクノロジーが、水資源管理インフラや排水処理施設、かんがいシステムの効率化に資しています。また、さまざまな機関や政府がAIやデータアナリティクスを活用し、洪水や地下水の枯渇などの水資源に関する問題へ対応しています。このような種々のソリューションの活用度・導入度は一様ではありませんが、現時点では、水資源リサイクル・雨水貯留、および漏水・盗水対策の2つを中心に取り組みが進められています。

 

水資源リサイクル・雨水貯留

排水処理のプロセスは複雑です。処理水質を一定基準以上に保つには高度な技術を要し、処理施設の運用にかかるコストも高額です。データを活用したインテリジェントなアプリケーションを、AI、機械学習、産業IoTなどのテクノロジーと一緒に用いることで、運用の最適化と、汚水処理施設や雨水貯留システム、限外ろ過膜システムのエネルギー・化学薬品使用量の削減を図ることができます。これにより、運用コストの低減と、安全性の向上も実現できます。

 

機械学習の新たなフレームワークには、ディープニューラルネットワーク(DNN)モデル、ランダムフォレストモデル、変数重要度測定(VIM)分析などが挙げられます。これらのフレームワークでは、浮遊物質や汚泥、化学物質などの排水に関するさまざまなパラメータ、およびタイムラグや温度などの運用上のパラメータについて学習します。学習によって、処理水質の向上と運用コストの削減につながる管理戦略を策定することが可能になります。

 

多くの場合、水処理施設で消費されるエネルギーの半分以上を占めるのは曝気(ばっき、エアレーション)によるものです。先進的なAIツールにより処理施設のデータを分析し、曝気装置の最適な運転方法を予測することで、エネルギー消費量の最大30%減少につながります。逆浸透(RO)膜施設、汚水処理施設、冷却塔から収集されたデータは、クラウドベースの分析プラットフォームに送られ、処理状況の予測、異常検知、問題解決に向けた情報取得に利用されます。

 

大規模な上下水道事業体では、効率的なデータコミュニケーション設備により、センサー搭載システム装置の効率的管理、下水処理のスマートプロセス制御、さらにはプロセスの自動化を行っています。例えば、Delhi Jal Board(デリー上下水道公社)は先般、4カ所の下水処理施設にAIを活用するテクノロジーを導入しました。これらの処理施設では、AIソフトウエアを通じてIoTが活用され、データがリアルタイムかつ自動的に共有されています。処理施設と設備の稼働状況は設置されたセンサーにより監視されます。下水道管路網を対象とするAI搭載の予測分析ツール・制御装置により、下水道管内で危険な水位まで上昇すると検知・警告され、詰まりの原因の位置が表示されます。また、水道管の破裂など安全上の危険が発生する可能性について警告サインが送られます。

 

また、データシミュレーションとデジタルツイン(IoTでの取得データを活用することなどにより、仮想空間に「実物」を再現する技術)により不測の事態に備えることで、施設運営者は処理の効率化を進めるとともに、公共の安全にも貢献できます。これらのテクノロジーを活用することで、施設運営のコスト削減につながり、施設の処理能力と安全性の向上も可能になります。

 

雨水貯留システムが導入されている建物では、AI搭載の自動化テクノロジーが活用されています。屋上からの雨水の流出量は、自動化されたシステムで制御されています。湿度や温度、貯水槽の水位のモニターにはセンサーが使用されており、豪雨が予測される場合には、屋上と貯水槽で自動的に排水される仕組みのため、雨水の貯留能力を向上させることができます。


漏水・盗水の検知

水道システムにおいて漏水は大きな問題です。水道システム内のさまざまな箇所から収集したデータを統合することで、水道事業者が漏水を抑制し、水資源の損失を回避することが可能になります。現在、漏水検知システムの大半は手動で操作されています。AIと機械学習のアプリケーションを利用すれば大規模な水道管路網の安全性を確保できるため、こうしたテクノロジーの利用は水道会社にとって有望な手段だと考えられます。

 

圧力センサーや音響センサーなどの電子的システムやデジタルシステムを一元的なクラウドベースのモニターシステムに接続して用いることで、リアルタイムに漏水を検知・検出することが可能になります。先進的なAIや機械学習と統計的手法を併用することで、水道網内の漏水の検知と水道管破裂の予測を向上できそうです。例えば、今では、訓練を経たオートエンコーダ(AE)ニューラルネットワークや機械学習の手法の1つである教師なし学習(Unsupervised Learning)モデルにより、より正確に漏水を検出し、誤警報の発生を減少させることが可能です。これらのテクノロジーとスマートメーターを併せて活用すれば、水資源の損失の低減、ひいてはコスト削減につながります。

 

データ取得、AI搭載デジタルアシスタント、運営データ、ネットワーク形成、統合システムを活用することで、水道網システムの技術的・組織的プロセスとバリューチェーンの全体の自動化を実現できるものと考えられます。水道会社はこのデータをデジタルツインに取り込み活用すれば、水道施設の計画、運営、保守を最適化できます。また、デジタルツインを利用して、流量に基づき水道管の漏水箇所を検知することも可能です。これにより、水道管破損の際に迅速に修復でき、無収水量の削減につながります。IoT機器から収集されたデータをデジタルツインにより視覚化し、マッピングや3Dモデル化、水道設備の資産管理に活用することもできます。また、追跡・特定システムの向上や断水時における利用者への影響の特定、さらには災害対策チームが潜在的な脆弱(ぜいじゃく)性に対して事前に対処するためにも利用できます。

 

ビルや商店などの商業施設や住宅では、AI搭載スマートメーターの導入により、利用パターンを把握し、使用量削減につなげることができます。
 

 

その他の領域

水位計測やリスク予測などのために、AIや機械学習モデルを貯水システム管理に導入することも可能です。AI搭載の洪水予想・予測システムに基づいて必要な対策を講じることで、災害による大惨事を軽減できている行政府もあります。例えば、ジャル・シャクティ(Jal Shakti)省傘下の中央水委員会は、テクノロジー系の多国籍企業との協働の下、洪水を予測し、その影響が及ぶ地域の人々に警告を発するため、機械学習とリアルタイムの河川の水位計測値を活用した洪水予測モデルを導入しています。これらの予測は大量のデータセットに基づき、リアルタイムで行われます。現在このソリューションは、その対象をインドの河川流域の大半にまで拡大しつつあります。

 

世界の真水の約70%が農業に使用されています。AIが搭載された精度の高いかんがいシステム、コンピューターアルゴリズム、モデル化など、水管理に対するアプローチのインテリジェント化は、すでにインドを含む数多くの国の農業従事者に貢献しています。その他にも、さまざまな政府や水の調査機関が、地下水の可用性予測や特徴分析のために機械学習を利用しています。地下水のある特性を正確に判定するに当たり、データを基盤とするモデルは物理的に調査をするモデルと比較すると、必要とされる入力データは少なくて済み、構造はよりシンプルです。


EYパルテノンについて

戦略コンサルタントが、長期的価値の構築に向けた変革の戦略立案と、その実行を支援します。


サマリー

世界で最も貴重な天然資源である水の追跡と管理のために、データアナリティクス、クラウドベースのAIツール、スマートセンサー、機械学習アプリケーションの導入が進んでいます。 Water 4.0、すなわちスマートウォーターは、間もなく現実になるでしょう。そして、さまざまな組織、産業、政府による、それぞれの持続可能な開発目標への取り組みに寄与するものと考えられます。