EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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要点
新規立地開発が困難な日本では2011年の東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故を経て、日本政府は原子力発電所の保安規制を厳格化し、地震や津波などの天災地変やテロ対策などの安全基準が大幅に強化されました。しかしながら、原子力発電所は1件ごとに、設備や立地条件、地盤などが異なるため、原子力規制委員会による安全審査は、審査項目数が膨大な規模となり、長期間を要しています。このため、福島事故以降の13年間で再稼働に至った日本の原子力発電設備は全33基中12基にとどまっています。
こうした中でSMRは日本においても、安全性の高さから注目されています。原子炉格納容器がコンパクトであり、工場内で組み立てることで現場での工事作業が大幅に簡素化されること、燃料交換やきめ細かな運転操作が不要であること、メカニズムがシンプルであることから、既存のPWR(加圧水型)やBWR(沸騰水型)と比べて過酷事故のリスクが低いと考えられています。
日本で新設する場合は、1ユニットの発電容量が小さいことから、コスト単価が割高になること、地域住民の了解を取る必要があることから、発電容量が大きいPWRなどの既存型式の方が優位な印象もあります。SMRのユニットを数十基並べるなどの設置方法に経済合理性が見いだせれば、普及のポテンシャルが出てくるかもしれません。
20世紀後半、原子力産業は短期間で飛躍的な発展を遂げましたが、チェルノブイリ原子力発電所や福島第一原子力発電所の事故に対する世論の影響により、その発展に減速傾向が見られました。しかし、2020年になると、原子力は再び注目を浴びることになります。化石燃料の減少や特に気候変動対策が急務であることから、脱炭素エネルギーの電力需要が高まり、原子力はその大きなニーズに応え得る技術の1つであることは明らかです。
各国政府は、従来型である大型の第3世代原子炉や第3世代プラス(加圧水型炉や沸騰水型炉、900~1,600MWe)と、より小型の第3世代プラスや第4世代原子炉(SMR/AMR)の両方をロードマップに組み入れています。
小型モジュール炉(Small Modular Reactor 、以下SMR )は、出力の低い第3世代原子炉や第3世代プラスを指します。
先進モジュール炉(Advanced Modular Reactor、以下AMR)は、第4世代原子炉(超高温原子炉、溶融塩原子炉、液体金属冷却炉)であり、使用済み燃料の再利用や受動的安全設備の導入が可能ですが、その成熟度はまだ高くありません。
本稿では便宜上、SMR/AMRの両方を「SMR」とします。
SMRは、主に以下3つの特徴を持つ原子炉です。
SMRによって産業上、期待できるのは、より工業的で標準化した原子力施設の建設です。これにより、建設コストの安定化と不測の事態を減らすことができ、さまざまな用途に向けたカーボンフリーの電力や熱エネルギーの提供が可能になります。こうした期待は、より大きな発電所を造ることで総合的に固定費を抑えるという従来の考え方とは一線を画すものです。
フランス電力、GE日立ニュークリア・エナジー、ロールス・ロイス、ウェスチングハウスを筆頭に老舗企業は、主に電力生産向けにSMRプロジェクトを立ち上げており、既に原子力潜水艦などで実績のある技術(加圧水型炉)を使用した中型ユニット(100~300MWe)を採用しています。
同時に、より小型のユニット(10~100MWe)のプロジェクトを中心に、ベンチャー企業のエコシステムが形成されており、主に第4世代原子炉での熱生産を目的としています。
SMR市場は2050年には700~1,200億ドル規模となり、2つの領域への対応が想定されます。1つ目はユニットの建設で、多額の資金を要しますが、経常的に発生する費用ではありません。2050年には年間500~900億ドル、つまり年に5~10GWe出力相当のユニットが建設されると考えられます。
2つ目は、燃料の供給と施設の管理を含む発電ユニットの運営です。こちらに要する資金は建設費ほどではありませんが、経常的にかかる費用であり、2050年には200~300億ドルと推定され、これは60~100GWe出力の拠点設置に相当します。また、この市場は建設市場の成長に数年遅れている状態です。
SMRの主な開発分野は、SMRが技術的・資金的に競争力に優れ、脱炭素エネルギーのニーズが高い分野ですが、それぞれの市場のニーズにSMRの技術的特性を合わせる上で、決定要因となるのは原子炉の出力と温度です。つまり、加圧水型炉のように技術的には成熟していても、温度が300℃程度のものは、電力網や熱供給網に対応することができ、より高温な原子炉や800℃の高温ガス炉(HTGR)は、金属工業や化学産業のニーズに応えることができます。
上記の考察やさまざまな技術の成熟度を考えると、2050年時点のSMRの主たる開発領域は、電力網への供給(特に石炭火力発電の代わりとして)、水素の製造(特に、石油化学分野において)、金属工業分野などになるといえます。他に、潜在的に大きな発展が期待される分野は、家庭向けの熱供給、セメント工場のキルン(焼成炉)、海水の淡水化、紙・繊維の製造工程、データセンターへの供給などです。
SMRが最も発展する可能性のある地域は、業界全体の脱炭素化、能力ある人材のプール、資金上・規制上の強力な支援、温室効果ガス排出削減に対する積極的な政策を打ち出している地域です。
この条件を満たすのは、アジア・欧州・北米です。確かにこれらの地域では、既存の原子力産業(中国広東核電集団〈CGNPG〉、フランス電力、GE日立ニュークリア・エナジー、ロールス・ロイス、ウェスチングハウスなど)と強力な公的支援がある中で、先端技術の急成長によって、必然的に多くのベンチャー企業が出現し、資金調達を可能にしています。
SMRは、非製造業におけるプロジェクトにおいては以前から存在していましたが、さまざまな要因が新たに組み合わさることにより、その価値への信頼性が増しています。まず、第3世代プラスおよび第4世代の技術は、経験に基づく豊富なフィードバックを得ることができます。次に、この業界に対する公的支援が復活し、産業としての能力・資金能力が大きく回復しています。最後に、最終消費者からのニーズが生まれたことで、民間投資がますます増えています。
しかし、資金を要する産業の成長を維持・加速させるためには、強力な資金援助と全てのステークホルダーによる長期的なエンゲージメントが必要であり、SMRの開発のためには、4つの解決すべき課題があります。
留意すべきこと:SMRは、脱炭素化および制御可能なエネルギーへの移行において重要な役割を担っており、SMR市場は経済的・技術的に大きな可能性を秘めています。しかし、それには各国政府、規制当局、産業界、投資家の長期にわたるエンゲージメントが必要です。学習曲線を加速し、適格性の合理化を図るために、関係者はまずエンジニアリングにおいて、次に建設において相乗効果を達成し、比較的に新しい業界の持続可能化および強化、業界内の協力を実現することができます。