ポストコロナ時代における地域の観光振興体制のあり方

ポストコロナ時代における地域の観光振興体制のあり方


新型コロナウイルス感染症による観光需要の消失は観光業界に多大な影響を与える一方、関係者は新たなロールモデルを模索する必要に迫られています。本稿では、DMOに関する観光庁の政策や各地の特徴的な事例を基に、ポストコロナ時代における地域の観光振興体制のあり方について考察します。


本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)
ストラテジー・アンド・トランザクション(SaT)
インフラストラクチャーアドバイザリー 鷲見太河

総合不動産デベロッパーにおいて資金調達、子会社経営管理などに従事した後、2019年にEY新日本有限責任監査法人に入所、21年9月に現所属先に転籍。インフラストラクチャーアドバイザリーにおいて空港を中心とするコンセッション事業などに係る入札及び選定支援、事業会社のインフラ経営戦略検討支援など、多様なアドバイザリー業務に従事している。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)マネージャー。



要点

  • 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)による観光業界への影響は甚大ですが、各地の観光事業者はマイクロツーリズム等の新たな需要の獲得に積極的に取り組んでいます。
  • 感染収束後の国内外での観光客獲得競争活発化を見据え、ポストコロナ時代の新たな観光の潮流に適応するため、DMOを中心とした各地の観光関係者に求められる役割を説明します。
  • インフラ経営を起点とした地域活性化の観点から国内の特徴的な取組みに焦点を当て、特に人口・税収減少の影響が大きい地方における観光振興体制のあり方を考察します。

Ⅰ はじめに

新型コロナウイルス感染症(以下、Covid-19)によるインバウンド需要の消失が観光業界に与えた影響は大きく、2019年に過去最高の2,825万人を記録した訪日外国人観光客数は20年には前年比88.3%減の331万人となりました(「日本政府観光局(JNTO)」の集計に基づく)。その影響は長期化する公算が高く、国連世界観光機関(UNWTO)の分析によれば、国際旅行がパンデミック前の水準に回復するのは23〜24年ごろとする見方が大勢です。一方、そのような状況下でもマイクロツーリズム(自宅から1〜2時間圏内の地元または近隣への宿泊観光や日帰り観光を指す)需要の取り込みなど観光業界は不断の努力を続けています。

本稿では、Covid-19の感染収束後、ポストコロナ時代の観光の夜明けに向け、観光関係者、特に観光地域づくり法人(DMO:Destination Management/Marketing Organization)に求められる役割を確認するとともに、国内の特徴的な取組みに焦点を当て、ポストコロナ時代における観光振興体制のあり方を考察します。

Ⅱ ポストコロナ時代のDMOに求められる役割

「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」(18.11〜19.3)の結果などを踏まえ、観光庁は20年4月、日本版DMOの登録制度を改正するとともに、「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」を改正しました。これは、DMOの目的、役割をあらためて整理し、各層のDMO(広域連携DMO、地域連携DMO、地域DMO)や観光関係者の役割分担を明確化するものです。

ガイドラインでは、DMOは「観光資源の磨き上げや受入環境整備等の着地整備」に「最優先に取り組む」こととされた他、日本政府観光局(JNTO)を最大限活用することで「プロモーション等を戦略的に実施」することが徹底されました。加えて、広域連携DMOは「広域的な連結性を有するコンテンツ開発等の着地整備の各地域への働きかけ」の他、「広範囲にわたる戦略策定やマーケティング」を実施することとされ、地域連携DMOや地域DMOは「着地整備の徹底について最優先に取り組む」こととされています(<表1>参照)。


表1 「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」(2020.4.15改正)の主なポイント

これは、観光資源の磨き上げやコンテンツ開発といったDMO本来の役割の重要性をあらためて強調するものです。感染収束後に国内外での観光客獲得競争が活発化すると予想される中で、滞在型観光や体験型観光といったポストコロナ時代の新たな観光の潮流に適応した商品・サービスの開発を進めていくことは、競争を優位に進める上でも重要な視点であると思われます。

Ⅲ 重点支援DMOにおける取組み

ガイドラインでは、「登録DMO」のうちインバウンド需要を取り込む意欲・ポテンシャルの高い法人に対して重点的に支援を実施するものとされており、それを踏まえて20年8月には「重点支援DMO」32法人が選定されました。その後、21年9月には新たに5法人が新規選定され、計37法人を「総合支援型」19法人、「特定テーマ型」7法人、「継続支援型」11法人と分類し、きめ細かな支援を実施していくこととされました。

<表2>は重点支援DMOの一部について、その類型と主要事業をまとめたものです。DMOの本務ともいえる「着地型旅行造成」に各社取り組んでいるのに加えて、観光施設運営や地域商社事業、エネルギー事業、コンサルティング事業などを実施しており、各地域の実情や課題を踏まえ地域貢献と収益源の確保の双方に積極的に取り組んでいる様子がうかがえます。


表2 重点支援DMOの類型と主要事業(例)

このように、ポストコロナ時代のDMOでは、国が求める「『観光地経営』の視点に立った観光地域づくりの舵取り役」としての役割に加えて、これまで以上に地域の実情に真摯(しんし)に寄り添うことで、「地域経営」の視点から課題解決への貢献が求められていると考えます。

Ⅳ 観光関係者とインフラ事業者の連携

ポストコロナ時代における地域の観光振興においては、今後の人口減少による観光業界の担い手不足や税収不足による観光振興予算の縮小などを見据えて、地域で活用可能なリソースを結集し、おのおのの役割分担を明確化しながら連携を深化することが必要です。

参考として、和歌山県の南紀白浜空港をコンセッション方式に基づき運営するSPC(特別目的会社)は、地域コンシェルジュとしてワーケーションのプログラム開発から旅行手配・視察アテンドまで一気通貫のサービスを提供しており、日本版DMOにおける候補DMO(地域連携)となっています。このようにインフラ事業者が従来の事業の枠組みを飛び越え観光事業者として「地域経営」に参画することは、インフラ経営を起点に地域活性化を目指すモデルケースとして特に人口・税収減少の影響が大きい地方における参考事例になると思われます。

Ⅴ おわりに

このように、ポストコロナ時代における地域の観光振興体制のあり方においては、観光庁による政策動向を見極めつつ、DMOなどの関係者が各地の事情に応じて自らの役割を再定義し、多様なステークホルダーと連携を深化させながら効果的・効率的に観光を通じた「地域経営」を実現させていく必要があると考えます。


※  観光庁ウェブサイトでは、「地域の『稼ぐ力』を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する『観光地経営』の視点に立った観光地域づくりの舵取り役」となる法人と定義されている。(www.mlit.go.jp/kankocho/page04_000048.html


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サマリー

新型コロナウイルス感染症による観光需要の消失は観光業界に多大な影響を与える一方、関係者は新たなロールモデルを模索する必要に迫られています。本稿では、DMOに関する観光庁の政策や各地の特徴的な事例を基に、ポストコロナ時代における地域の観光振興体制のあり方について考察します。

情報センサー
2022年2月号

 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。


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