EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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EYは、バイサイドM&A、事業分割におけるセルサイド、関係当事者取引に関して、独立した第三者としてのフェアネスオピニオンを取締役会と株主に提供します。詳しい内容を知る
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Sharer氏が指摘する説明責任と情報把握義務の重さこそが、訴訟の多い昨今の取引環境の最も明白な特徴ではないでしょうか。これから行おうとする取引を考えるとき、取締役は損害賠償責任を負うリスクと、株主の価値を損なう可能性にさらされることになります。これらのリスクを緩和し、株主の利益により大きく貢献するため、取締役は確固たるフェアネスオピニオンによって得られる保護と知見を求めるのです。
フェアネスオピニオンの提供者を選定する前に、取締役は次の四つの重要な質問を考慮する必要があります。
- フェアネスオピニオンを取得する目的は何か
- 今日の法的環境において、フェアネスオピニオンを取得することがますます重要になっているのはなぜか
- 取締役はフェアネスオピニオンの提供者として誰を選ぶべきか
- 取締役会はフェアネスオピニオン提供者をどのタイミングで関与させるべきか
質問1:フェアネスオピニオンを取得する目的は何か
1980年9月、トランス・ユニオン・コーポレーション(Trans Union Corporation)とマーモン・グループ(Marmon Group Inc.)は、トランス・ユニオンの株価に48%のプレミアムをつけるという条件で交付金合併(キャッシュアウト・マージャー)を実行することで合意しました。しかし、トランス・ユニオンの取締役会が知らないところで、この合併取引の発表をきっかけに、デラウェア州の裁判所で、会社法のあり方を永遠に変えてしまうような一連の判決が下されることになるのです。
今や有名になったヴァン・ゴルコム判決2において、デラウェア州最高裁判所は、マーモン・グループとの交付金合併を検討する時点で、トランス・ユニオンの取締役会が十分な情報収集をしていなかったことから、金銭的損害について個人的に責任を負うと結論付けました。最高裁はその判決の一部で、トランス・ユニオンの取締役がフェアネスオピニオンを取得しなかったために、譲渡する会社の公正な価値を正しく評価できなかったという事実を指摘しています。3
トランス・ユニオンの取締役会にとって、同社の株価に大きなプレミアムがついたこの取引は一見理想的に見えました。しかし、デラウェア州最高裁判所は、取締役には、マーモン・グループが支払う対価がトランス・ユニオンの株主にとって十分な補償になることを確認するためにフェアネスオピニオンを取得し、十分な情報を得るフィデューシャリー・デューティーがあると断じました。
このヴァン・ゴルコム判決が下された結果、フェアネスオピニオンは企業の意思決定における常識となり、現在はコーポレートガバナンスのベストプラクティスとして広く受け入れられています。実際に、重要な取引に関しては多くの企業が複数のフェアネスオピニオンを取得しています。
ヴァン・ゴルコム判決から現在までおよそ40年にわたり、企業は取締役の意思決定能力を高め、賠償責任を負うリスクを緩和する目的でフェアネスオピニオンを取得してきました。フェアネスオピニオンは、予定される取引において提供するものと取得するものの本源的価値についての知見を提供することで、取締役の意思決定能力を高めます。交換される対価が株主の価値を創出するのか、それとも損なうのかを理解する上でこうした知見は極めて重要です。フェアネスオピニオンは同時に、取締役が賠償責任を負うリスクを低減させます。取締役会がしかるべき注意を払うフィデューシャリー・デューティーを遂行したことの重要な証拠になるからです。
質問2:今日の法的環境において、フェアネスオピニオンを取得することがますます重要になっているのはなぜか
トランス・ユニオンの取締役会が当時置かれていた法的環境は、今日の取締役会の置かれている環境とは大きく異なります。取締役が認識すべき最近の法的傾向が二つあります。
物言う株主
取締役が直面している問題は大不況前とは根本的に異なります。一つの顕著な問題は、物言う株主の圧力です。物言う株主の特徴は、株主の権利の行使による企業活動への影響力です。物言う株主は、委任状争奪戦(プロキシーファイト)や株主決議、訴訟などさまざまな方法でその要求を通そうとします。2010年から2016年にかけて、物言う株主から要求を受けた上場企業はほぼ4倍に増加しました。4
物言う株主の要求に応じて、会社として変革的な行動を実行しようとした取締役は、他の株主がその取引が自分たちの利益に反すると考えた場合、訴訟を起こされるおそれがあります。2017年8月、世界的に事業を展開するあるパッケージング会社の株主が苦情を申し立てました。「アクティビストの投資家からプロキシ-ファイトをかけられることを恐れた取締役が悪意を持って合併契約を結んだ」というのです。5 同様に、アクティビストの投資家は、自分たちの要求が通らないと訴訟を提起することでも知られています。2017年3月の製薬会社のケースがそうでした。6
精査が厳格化する中で、企業売却や大規模な買収など、会社として重要な行動を取るときにフェアネスオピニオンを取得した取締役は、アクティビスト投資家や、アクティビストの要求と利益が相反する別の株主から訴訟を提起されたときに、しっかりと身を守ることができます。
取締役会の説明責任の重視
1996年から2011年の間に、買収された上場企業の98%が少なくとも1回、フェアネスオピニオンを取得しています。7 取引の売り手側企業の取締役会がフェアネスオピニオンを取得しようとするのは、訴訟を提起される可能性が非常に高いからです。こうした訴訟のリスクの高さは、2017年の1億米ドルを超える規模のM&A取引の73%で被買収側上場企業の株主が訴訟を起こしたという事実を見れば明らかです。8
株主訴訟の場合は、説明責任を確認するため、被買収企業の取締役会の行動が細かく精査されます。これは、会社や経営権が売却される際には必ず、デラウェア州の裁判所が「高度な審査基準」と呼ばれる通常時の経営判断原則よりも厳しい審査基準を適用するからです。
高度な審査基準の下では、取締役は、経営判断が十分な注意を払った上で下されたこと、そして各状況下で取締役会の決定が妥当であったことを証明する必要があります。9 フェアネスオピニオンを取得していない取締役会は、損害賠償責任に関してより大きなリスクを背負うことになります。なぜなら、裁判所の目から見て、フェアネスオピニオンは十分な注意を払ったことを証明する上で極めて重要だからです。
これらが重要である理由
この二つの傾向は、結果として経営判断を下す際に取締役のリスクを高めます。物言う株主の存在は訴訟の可能性を高めます。同時に、取締役会の説明責任の強化は、訴訟の過程で取締役が下した経営判断が厳しく精査されることを意味します。
審査基準の厳格化と取締役の賠償責任の重大化の関係は十分に証明されています。10 リスク軽減のための答えは何もしないことではありません。大きな利益をもたらす可能性のある取引を実行しないという決断もまた、株主から疑義を提起されるおそれがあるからです。意思決定プロセスを助け、ディールの成果を高めることができるような、より深い知見を求めることは取締役の義務です。
フェアネスオピニオンはこうした知見を取締役に提供すると同時に、取締役会が十分な情報をもとに行動していることの明確な証明にもなります。こうした分析が意思決定プロセスにおいて最も重要な役割を果たすことが証明されています。単一の取引で複数のフェアネスオピニオンを取得する取締役会が増えているのがその証拠です。
質問3:取締役はフェアネスオピニオンの提供者として誰を選ぶべきか
必ずしもすべてのフェアネスオピニオン提供者が、真に独立した知見を提供する能力と厳密な分析を行う能力の両面で等しい実力を持っているとは限りません。
独立性
裁判所はフェアネスオピニオンに独立性が欠けると思われるケースについて懸念を表明しています。ディールの成立を条件に別途手数料を受け取ることになっている企業が提供するフェアネスオピニオンは、利益相反と受け取られる可能性があります。米国最大の公的年金基金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は次のように指摘しています。「意見の提供にあたって成功報酬制が採用されたときには、必ずバイアスが生じるとわれわれは考えています。取引が成立した場合にのみ投資銀行が多額の手数料を受け取ることになっているとすれば、状況のいかんにかかわらず、その取引が公正だと判断することに対して非常に大きな動機付けが働くからです。11
それでも企業はさまざまな理由で、ディールをサポートする投資銀行からフェアネスオピニオンを取得するでしょう。しかし、近年は多くの取締役会が、本当の意味で客観的な助言を受けるために、少なくとも一つは独立した提供者からの意見を求めるようになりました。
厳格性
フェアネスオピニオンから得られる知見の質と取締役に与えられる保護の確実さは、その意見を裏付ける分析の厳格さに左右されます。確固たるフェアネスオピニオンというのは、多くの場合従来の財務モデリングを超えた専門知識を必要とし、詳細なデューディリジェンス能力に基づく所見が組み込まれたものです。フェアネスオピニオンの提供者が、以下のような付随的分析を行えることが理想です。
- 市場規模の推定
- 条件付き対価の評価
- 節税効果および租税属性の数値化
- サイバーリスクの評価
- シナジー効果の評価
フェアネスオピニオン提供者の中には、ディールの経済的意味を評価する際に、経営陣の予想のみに依拠するところもあります。また中にはこうした付随的な能力を活用し、財務予測に加えて、その他の価値創出要因とそれに付随するリスクを評価する提供者もいます。フェアネスオピニオン提供者は、ディールを総合的な視点で見ることによって、より適切な判断を可能にする幅広い知見を取締役会に提供するのです。
質問4:取締役会はフェアネスオピニオン提供者をどのタイミングで関与させるべきか
デューデリジェンスプロセスの初期の段階でフェアネスオピニオン提供者を参加させることによって、提供者は、独自の価値ある知見を明らかにし、取締役会と共有することができます。取締役がこれらの知見を検討すれば、経営上の決定を下す際にしかるべき注意が払われ、フィデューシャリー・デューティーが遂行されたことの重要な証拠になります。
提供者を関与させるタイミングとしてはいつが理想的なのでしょうか。簡単に言ってしまえば、それはいろいろな要因によって変わってくるということになりますが、熱心な取締役会であれば、適正なレベルのデューデリジェンスとリサーチを行うための十分な時間を提供者に与えるでしょう。
例えば、デラウェア州衡平法裁判所の判事は、大手飲料販売企業が関係する訴訟において、およそ1週間で作成されたフェアネスオピニオンに対して批判的な見解を示しました。このオピニオンは「非常に疑わしく、単なる事後処理にすぎない。まさしく、初めから決まっていた合併の結果を正当化するために被告が行った粉飾行為である」と判事は述べています。12