コロナ禍において、企業はオープンイノベーション・CVCにどのように向き合っていくべきか

コロナ禍において、企業はオープンイノベーション・CVCにどのように向き合っていくべきか


関連トピック

コロナ禍による社会の変化をチャンスと捉え、成長する企業が登場してきています。現状、多くの企業が投資に慎重になっていますが、スタートアップに出資し、オープンイノベーションを行うには、今がチャンスではないでしょうか。その3つの理由をご説明します。


1  昨年までの盛り上がり

オープンイノベーションのパートナーとして、スタートアップの存在感がかつてなく高まっています。図表1に、2018年と2019年の国内スタートアップによる資金調達額の上位3社を掲載しました。国内でも100億円前後の資金調達が可能となり、多くの事業会社が名を連ねているのが見てとれます。このように、スタートアップとオープンイノベーションを推進していく上では、併せて投資活動も行う必要があります。

図表1: 国内スタートアップによる資金調達額の上位3社

図表1: 国内スタートアップによる資金調達額の上位3社

そのため、図表2に示す通り、この10年間で多くのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)が新設されています。スタートアップ投資では、スピード感のある意思決定が求められることから、通常のM&A案件とは異なる意思決定プロセスや判断基準が必要となってくるため、CVCとして専任のチームを組成するということが主な理由です。

図表2 国内における新規CVCの設立件数

図表2 国内における新規CVCの設立件数

2 コロナ禍の影響

2020年4月の日本経済新聞の報道によると(図表3参照)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、大企業の投資子会社の9割が、昨年と比較して投資を減らす意向を持っているとされ、事業会社によるスタートアップ投資が減速することが予想されています。それと同時に、大企業におけるオープンイノベーションが停滞するのではないかと懸念されています。

図表3 スタートアップ投資の減速

図表3 スタートアップ投資の減速

また、図表4に示す通り、日本ではスタートアップ投資における事業法人の存在感が大きいため、その投資の減速は、スタートアップにとってもそれなりの影響が出るのではないかと考えられます。

図表4 国内におけるスタートアップへの投資額

図表4 国内におけるスタートアップへの投資額

多くの企業にとって、オープンイノベーションによる事業モデルの変革は急務となっています。その中で、スタートアップ投資の減速によるオープンイノベーションの停滞は、中長期的に競争力の低下につながりかねないと考えられます。


3 オープンイノベーション・CVCにどのように向き合うべきか

それでは、企業は現状、オープンイノベーション・CVCにどのように取り組んでいくべきなのでしょうか?
それについては、図表5に示した通りです。投資対象の見直しを行いつつも、投資自体は積極的な取り組みを継続するべきだと考えています。以降では、図表5の理由①から③について、より詳細に説明します。

図表5 オープンイノベーション・CVCにどのように取り組むべきか

図表5 オープンイノベーション・CVCにどのように取り組むべきか

3.1 高成長企業が登場する可能性

スタートアップ投資の世界では、「偉大なスタートアップは不況の下で生まれる(または、不況の下で成長する)」と言われることがあります。
例えば、リーマンショックの時を振り返ってみると、図表6に示す通り、その頃に創業されたスタートアップとしては、AirbnbやUber、Kickstarterがあります。

図表6 景気低迷期に登場したスタートップの例

図表6 景気低迷期に登場したスタートップの例

リーマンショックは、低所得者層の住宅購入意欲(「アセットを持ちたい」願望)が高まり、サブプライムローンの利用比率が高まったことで発生したものです。そして、リーマンショック以降、「アセットを持たない」という価値観が支持され、そのコンセプトに基づいたビジネスモデルは、後に「シェアリングエコノミー」と呼ばれるようになり、大きなトレンドを形成していきました。

今回のコロナ禍では、10年分を上回る変化が、数カ月の間に起こったと言われています。リモートワークやオンライン教育が急速に広がり、食事のデリバリーサービスが急成長するなど、「日常生活のオンライン化」とでも呼べそうなライフスタイルが急速に進展しています。

今後、これらの変化を捉えた新しいトレンドを生み出すスタートアップが登場し、飛躍的な成長を遂げていくことが予想されます。今後数年間が、それらの次世代を担うスタートアップに投資できるチャンスではないかと考えられます。


3.2 投資タイミングとバリュエーション

スタートアップ投資に対する財務リターン(キャピタルゲイン)は、どこに投資するかも重要ですが、いつ投資するかも同様に重要です。

図表7に黒丸で示す通り、おおむね8~10年ごとに株価のピークを付けて、高騰期・低迷期を繰り返しています。投資ファンドを組成する場合、10年程度の運用期間を設定し、最初の5年程で投資を終え、残りの期間で投資先をIPOまたはM&AによってEXIT(投資資金を回収)します。図表7では、ファンドAよりもファンドBの方が高いパフォーマンスが期待できるのは明らかです。

図表7 投資タイミングと財務リターンの関係

図表7 投資タイミングと財務リターンの関係

図表8に、世界に1,619あるVCファンドの運用成績を、ビンテージ別(ファンドの設立年別)に集計した結果を示しています。濃いグレー(2003~06年)に設立されたVCファンドでは、リーマンショック後の株価低迷時がEXITタイミングと重なったため、ファンドの運用成績が振るわなかった一方で、黄色(2007~12年)では、リーマンショック後の株価低迷期に投資し、高いリターンを出していることが確認できます。

図表8 VCファンドのビンテージ別パフォーマンス

図表8 VCファンドのビンテージ別パフォーマンス

足元ではコロナ禍も影響して投資家が慎重になっているためか、スタートアップのバリュエーション(企業価値評価額)は、2019年前半と比較すると下がっています。そのため、図表5の理由2で示したように、現在は適正な株価で投資できるチャンスと言えるのではないでしょうか。

一方で、今後の株価の見通しについては、さまざまな意見があるでしょう。株式相場のピークやボトムを正確に予想するのは不可能です。それに対しては、筆者は、企業におけるCVCには、株式投資期における「ドルコスト平均法」が適していると考えています。ドルコスト平均法とは、毎月一定の金額を継続的に投資し続ける手法です。株価が低くなった月は多くの株数を買うことができます。そして、株価が高くなった月は株数が少なくなります。これを長期で続けることにより、良好なパフォーマンスが期待できるというものです。

オープンイノベーションによる企業変革が求められている企業にとって、市況に左右されず、継続的な投資は必須なのではないでしょうか。


3.3 見えないレピュテーションリスクを避ける

オープンイノベーションを行うパートナーとしては、スタートアップの中でも、競争力のある有力スタートアップであることが望ましいのは言うまでもありません。では、有力スタートアップを発掘する上では、何が重要になるのでしょうか。

図表9の左側に示す通り、有望案件に関する情報を入手するには、起業家やVCらと信頼関係を構築しておくことが重要となってきます。しかし、コロナ禍の影響で投資をストップしてしまうと、図表9の右側に示す通り、起業家・VCには「本気度が感じられない」「中長期のパートナーとして安心できない」と見られてしまうリスクがあります。

図表9 見えないレピュテーションリスク

図表9 見えないレピュテーションリスク

これらは、不祥事の時のように明示的に非難されることはありませんが、起業家・VCなどのインナーサークル内で良くない評判が定着してしまいかねず、「自社からは見えない」レピュテーションリスクを負ってしまうことになりかねません。一度そのような評価が定着してしまうと、景気が回復して、いざ投資を再開しようとなったときに、有望な案件がなかなか回ってこず、案件開拓で苦労することが予想されます。そのようなリスクを回避するためにも、安定的に投資を継続する方が、中長期的に見たメリットは大きいのではないでしょうか。


4 海外企業の動向

海外のトップCVCとして、CB Insightsが2019年に発表した「最もアクティブなCVCランキング(グローバル)」の上位3社の投資件数の推移を、図表10に示します。

図表10 海外トップ CVCの投資状況

図表10 海外トップ CVCの投資状況

コロナ禍の中でも、3社とも昨年までとほぼ同じペースで投資を行っていることが見てとれます。Intel Capitalは、ドットコムバブル崩壊時やリーマンショック時も、若干投資件数が下がってはいるものの、安定して投資を行っています。

図表11に示す通り、新型コロナウイルス感染症の影響で経済活動に大きな制限が課されていた2020年4~6月期においても、世界では新たに22社のユニコーンが誕生しています。

図表11 四半期ごとの新規ユニコーン数

図表11 四半期ごとの新規ユニコーン数

図表12に示す通り、リモート学習、自宅トレーニング、Eコマース、リモートワークなど、コロナ禍が追い風となった企業が多く含まれており、今後の協業・投資先を考えるうえで参考になるのではないでしょうか。

図表12 コロナ禍で登場した新しいユニコーン

図表12 コロナ禍で登場した新しいユニコーン

5 Innovation for the future

2020年8月時点では、コロナ禍の影響で不透明な状況が続いています。しかし、このような状況においても、アフターコロナ時代の新たなトレンドをけん引するスタートアップが、今まさに生まれようとしているのではないでしょうか。
多くの企業にとって、オープンイノベーションによる変革は、急務となっています。積極投資を続けているグローバルプレーヤーとの差をこれ以上広がらないようにするためにも、このような状況にひるむことなく投資を継続していくことが必要ではないでしょうか。

「コロナ禍において、企業はオープンイノベーション・CVCにどのように向き合っていくべきか」をダウンロード


サマリー

オープンイノベーションのパートナーとして、スタートアップの存在感がかつてなく高まっています。コロナ禍の影響により事業会社からスタートアップへの投資減速が見込まれている現在、企業がオープンイノベーションに向き合っていくべき主な理由は、「新しいスタートアップが登場する可能性」「適切なバリュエーションで投資できるチャンスかもしれない」「見えないレピュテーションリスクを避ける」の3つになります。


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