スペーステックにおける信頼の構築

スペーステックにおける信頼の構築


スペーステックが軌道に乗り、これまでになく強力なAIの活用が進む中、その透明性と信頼性を確保することが最重要課題の1つとなっています。

EY Japanの視点

衛星データを有効に活用するには、他のデータと結合したり、AIを活用して分析したりといったプロセスが欠かせません。この際、データ流通とAIの管理態勢が不十分な場合、不適切なデータや分析結果が流通することになり、データそのものやデータを提供する事業者、さらには業界そのものの信頼が失墜します。AIやデータ流通の制度設計については、各国での規制整備の検討が進められることに加え、G7デジタル・技術閣僚声明が公表されるなど、国際的なルール作りの動きも広がっています。こうした規制・ルール整備が動的な環境の中、企業がAIを活用したサービスの提供にあたり、リスクの認識や対策などが市場から求められると想定されます。EYでは、「Trusted AI」サービスを提供し、企業における態勢整備を客観的な立場からサポートしています。AIを安全に活用するための態勢整備の過程では、難解な課題があります。今後のAIの普及を鑑みると、専門家の意見を適切に活用することは効率的かつ有効な手段であると考えられます。


EY Japanの窓口
安達 知可良
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部/アシュアランスイノベーション本部 アソシエートパートナー

人工知能(AI)はすでに私たちの生活のあらゆる部分で使用されている一方で、AIとは何であり、何ができるのかを正しく理解していない人が大勢おり、中には聞いたことすらないという人も存在します。

1,500人超のオーストラリアとニュージーランドの消費者を対象に2021年12月に実施した「EY Future Consumer Index」(FCI)おいて、AIに関する理解度を調査したところ以下のような結果となりました。

  • AIが何であるかをある程度理解している:50%
  • AIをよく理解している:15%
  • AIについて聞いたことがあっても全く理解していない:28%
  • AIについて全く聞いたことがない:7%

また多くの回答者が、意図的か否かに関わらず過去1年以内に下記のようなAIを活用したサービスやデバイスを利用していることがわかりました。

  • サブスクリプションの配信サービス:54%
  • カーナビゲーション・アプリ:52%
  • フードデリバリー・プラットフォーム:33%
  • オンラインでの食品購入:29%
  • デジタルウォレット:25%
  • スマートフォンでの顔認識:20%
  • ウェアラブル・フィットネストラッカー:15%

上記のほか、消費者が日常的に使用する複数のサービスやデバイスにもAIが組み込まれていますが、多くの場合、その裏側で実行されているアルゴリズムに意識が向けられることはほとんどありません。

AIと機械学習(ML)の活用が拡大し、これらの強力なアルゴリズムを用いた多くのサービスが次々にリリースされる中、企業は利用者の間に混乱と不信があることを理解するべきです。特にAIについて全く知らないと答えた35%について、その意識を良い方向に変える方法を考案しなければなりません。
 

AIが軌道に乗る中、その信頼性確保が最優先

スペーステックはAIの能力拡大を推し進めています。地球観測ツールは、人工衛星が撮影する高解像度の地理空間画像を使用し、得られたデータをAIとMLで分析します。これらのツールは非常に大きな利益をもたらす可能性を秘めています。例えば、森林火災や、それを誘因する可能性のある初夏の草木の成長状況を遠隔から監視するなど、植生管理に役立てることができます。また、エネルギー企業は非常に険しい環境にある営業資産を確認するためにドローンを飛ばしたり、スタッフを派遣したりといった危険を冒す必要がなくなります。

スペーステックが地球のより良い生活の実現に貢献するというプラスの側面は明白ですが、同時に懸念されるプライバシー問題には注意を払う必要があります。

EYが実施したFCIでは、最も差し迫った問題を理解するために、一般消費者のAIに対する認識を掘り下げて調査しました。スペーステックに対する多くの人の懸念は、新奇性のあるツールに対してではなく、すでに十分に定着しているAIに関連するものでした。スペーステックが「全能のテクノロジー」と見なされるようになることを踏まえ、それを利用する企業においては、信頼性と透明性の確保をすることが優位に立つチャンスであると認識ことがより重要です。

Concern related to use of AI ・ Comfort with the use of AI

AIを使用することに関する懸念についての質問では、61%以上の回答者が、企業による以下の行為・対応について懸念、または強い懸念を示しており、懸念を示さない回答者は少数派でした。

  • 個人情報の販売
  • 迷惑電話
  • ID盗難
  • データセキュリティ
  • 個人情報が公開される脅威
  • 不正な情報監視

一方で、AIを使用することによる快適さの程度についての質問では、以下の場面での使用についてそれほどの高評価を得ていないことが分かりました。

  • 地域社会の安全強化
  • 犯罪の検知
  • 人流の改善
  • 購買体験の向上


AIへの信頼性向上が、すでに競争上の差別化要因である理由

AI技術の使用に関する規制が確立されようとしています。データプライバシーを管理する規制が整備されている一方、現在のところ、偏見や公平性 の問題を取り扱う規制はほとんどありません。アルゴリズムがどのように特定の結果を導き出し、AIが出す結果が個人に何らかの形で悪影響を与えた場合に対処する方法を示す政策的フレームワーク は今のところ確立されていません。

例えば、スポーツスタジアムでの警備ツールとしてすでに活用されている顔認識技術では、人種的な偏見によりプロファイルを行うことや、犯罪歴のある者と顔の特徴が似ているという理由で「犯罪歴あり」と誤判定されてしまうことなど、結果がゆがめられる可能性はないでしょうか。

こうしたAIシステムが弊害をもたらし、社会的不信が急速に高まる様子は想像に難くありません。

欧州ではすでに「ハイリスクAI」に対処する規制案が作成されており、ゆくゆくは国や地域を超えてAIが規制されるようになるでしょう。AIを利用する企業にとっては、他社に先駆けてAIに対する信頼性と透明性を向上させることで、コンプライアンス対策のみならず、競争上の差別化要因に活かすことができる絶好の機会であると言えます。

AIシステムに限らず、製品、ブランド、評判における信頼を損なう可能性があるリスクが新たに生まれ、拡大しています。EYの「Trusted AI」フレームワークは、企業がこうした一連の潜在リスクを理解する手助けとなります。またEYは「AIリスク評価」サービスにより、AIを活用したツールに対する世間の評価や、危険な領域の特定など有用な情報を企業に提供することが可能です。

 

重要なのはバランスです。消費者である私たちは、AIが社会的なプラスの成果への実現に貢献する方法については前向きに受け入れますが、プライバシー、安全性、主体性を犠牲にはできません。規制はテクノロジーが発展した後に整備される傾向にあります。私たちはこの問題に取り組むと同時に、スペーステックと共に進化するAIツールの信頼を崩すのではなく、確実に築き上げていけるように努力しています。


※ Facial recognition quietly switched on at Queensland stadiums, sparking privacy concerns, ABC News, www.abc.net.au/news/2019-06-05/facial-recognition-quietly-switched-on-at-queensland-stadiums/11178334(2024年1月12日アクセス)


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    サマリー

    EYが実施した「Future Consumer Index」によると、AIがすでに日常生活のあらゆる領域で横断的に活用されているにもかかわらず、オーストラリアの一般消費者の多くは、AIとその機能についての理解が十分ではないことが分かりました。それ以上に多くの回答者が、AIがプライバシーとセキュリティを侵害する可能性に対し不信感を抱いています。スペーステックが地球上でますます強力なAIツールを展開する今、自社のAIがベースとなるサービス全体の信頼性と透明性を積極的に確保することで、企業が顧客との信頼関係を構築できる絶好の機会が訪れています。


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