EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
シンガポール、インドネシア、タイのいずれにおいても、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は大きく、2020年の建設市場は縮小ないし停滞をしていましたが、翌年の2021年以降は回復傾向となっています。政府においては大規模な施策の展開がなされ、インフラ開発にも積極的な投資がなされています。また、開発だけでなく、各企業では環境管理への配慮もなされています。
わが国の建設業界は、短期的には建設資材の高騰に伴う採算性の悪化、長期的には人口減少に伴う人手不足や国内市場の縮小といった課題に直面しています。一方、海外の建設業界においても、建設資材の高騰や新型コロナウイルス感染症に伴う民間投資の減少といった要因により短期的な需要の落ち込みは見られるものの、政府主導でインフラ開発を中心とした大規模な施策がとられ、需要の回復が期待される国もあります。このように、日本の建設会社にとって、海外進出は再び重要なキーファクターとなると考えられます。
本稿では、特にASEANの主要3カ国であるシンガポール、インドネシア、タイにおける今後の建設市場の動向に関する調査結果をまとめています。また、日系企業が海外工事を受注する際、現地の建設会社とJVを組むことが多いことから、現地企業の環境対応やSDGsについての情報体制についても調査しています。
シンガポールにおける建設需要は、主に住宅および長期的なインフラ開発がけん引しており、引き続き堅調に推移することが予測されています。
Singapore Construction Demand (in S$ billion)
2021年の建設需要についても、主に住宅およびインフラ開発により約42%の増加が見られ、そのうち、公共部門からの建設需要が約60%を占めています。今後についても、交通インフラ開発をはじめとしたさまざまな建設需要が期待されています。
また、シンガポールは、環境の持続可能性に焦点を当て、インフラの維持やサポートに多額の投資を続けており、中でも、二酸化炭素削減と持続可能な開発目標(SDGs)を達成するため、地下鉄路線の開発や電気自動車の充電インフラの拡充をはじめとした長期プロジェクトを意欲的に進めています。
建設生産高について見ると、新型コロナウイルス感染症の影響による建設コストの増加や人件費の上昇などにより、2020年は前年比約39%の大幅な減少となりましたが、2021年には前年比で約21%増加し、回復してきています。
シンガポール政府は、新型コロナウイルス感染症に対処するため、建設会社に対して金銭的・法的救済を行うとともに、デジタル化を推進するための取り組みも実施しています。
なお、EYで調査した現地企業5社の中で、ESGに関する格付け機関であるSustainalytics社によるESGリスクの採点が公表されている企業は1社だけですが、5社とも環境経営に関する取り組みを整備し、安全性やガバナンスについても包括的に報告しています。
インドネシアでは、健全な需要動向とインフラ開発に下支えされた建設業の力強い成長が、今後数年間続いていくと見込まれています。
Construction industry value, real growth % change
建設需要を後押ししている要因としては、低い金利と高い都市化率による住宅ニーズの増加や、ジャカルタから東キリマンジャロへの首都移転に伴う産業振興の加速化が挙げられます。
すでに同国では約480もの建設プロジェクトが現在進行中であり、これらのプロジェクトの総投資額は2,870億米ドルを超えています。
インドネシア政府においてもインフラ開発を積極的に進めており、特に、インフラの成長に重要な役割を果たしている道路、橋、鉄道、空港などの運輸部門では、野心的なプロジェクトが進められています。
建設業界全体の総生産量については、新型コロナウイルス感染症の影響により2020年に前年比で3.3%の減少となりましたが、2021年にはほぼ回復しています。さらに政府は、海外直接投資を促進するために政策の緩和を進めるほか、プロジェクトのさらなる遅延を防ぐために、建設部門ではロックダウンに伴う規制を免除しています。
EYで調査した現地企業5社のうち、4社についてSustainalytics社によるESGリスクの採点が公表されており、5社とも環境経営に関する取り組みを整備し、安全性や多様性に関しても包括的に報告しています。
タイでも、インフラ開発が建設セクターの成長をけん引することが予想されています。
Construction industry value, real growth % change
力強い景気回復や支援的な政府の政策、海外からの投資に後押しされ、建設業界の長期的な見通しは明るい状況です。
新型コロナウイルス感染症の影響によって業界の成長は2019年から減速していましたが、2023年からは回復する可能性が高い見込みです。
また、政府では、購買力の回復と経済活動の再開に向け、複数回に渡り3.1兆TBH(約12兆円)に上る対策を実施しています。
なお、EYで調査した現地企業5社のうち、2社のみSustainalytics社によるESGリスクの採点が公表されていますが、5社全てにおいて環境に関するガイドラインを整備し、開示を行っています。
今後の建設マーケットの見込みについては、各国の政府によるインフラ施策の動向が重要となりますが、新型コロナウイルス感染症を契機とした民間セクターにおける建設ニーズの変化にも留意が必要です。また、わが国同様、ASEANの建設業界でも持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行う姿勢を利害関係者に示すことが求められており、今後、JV先の選定にあたっては、環境に関する取り組みを行う姿勢といった点が、より重要なファクターの1つになるでしょう。
上記の詳細については、英語版をご覧ください。