EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
世界一位の人口となり、その経済成長も期待されているインドは、少子高齢化が進む日本を中心にビジネス展開する日系企業にとって、魅力的な不動産投資マーケットです。独特の商慣行や規制から外国企業にとっては参入ハードルの高い国の一つでありましたが、昨今では政府主導で外国人投資家にとって参入しやすい環境が整えられてきています。
本稿では、不動産投資信託(REIT)をはじめとする不動産市場の成長を促進するために講じられている政府の施策に加え、住宅・商業・ホテル・物流といった各サブセクターにおけるトレンドを紹介します。
インドにおいて不動産セクターは、インド経済にとって最も重要なセクターの1つであり、インド国内総生産の約7.3%を占め、農業セクターに次いで2番目に多くの雇用を生み出しています。不動産セクターは、2047年までに5兆8,000億米ドルまで拡大すると予想されており、インド経済において重要性が高いことを示しています1。
2005年、インド政府は外国直接投資法を自由化し、最低資本金と最低建築面積に関する条件を設定した上で、自動承認ルート(Automatic Route)による100%の投資を許可しましたが、外国投資は一定規模のタウンシップに限定されていました。しかしながら2005年以降、さらに不動産に対するFDIポリシー(外国直接投資政策)の変更を経て、現在では以下のように規定されています。
インドにおいて公開市場のある不動産投資信託(REIT)の創設は、外国人投資家にとっては大きな転換点となりました。REITが創設されるまで、不動産のエグジットは主にプライベートでの取引によるものでしたが、REITはエグジットの選択肢の拡大に寄与しています。また新たに導入された中小型REIT(Micro Small and Medium REIT:MSM REIT)は、最低資産規模が低いことから、特に個人投資家やインド市場へのエントリーを図る企業にとって関心が高くなっており、MSM REITはインドにおける不動産投資の転機となるものと注目されています。
※REITに関するより詳しい解説は以下のリンクを参照ください。
以下では各サブセクターのトレンドを解説します。
まず住宅については、コロナ禍後に需要が急増し、資産価値の上昇と高級住宅セグメントへのニーズの高まりが注目されています。中間層の住宅市場も依然として重要ですが、近年は高級住宅(12万米ドル以上)への需要が高まっており、この傾向はしばらく継続すると予想されています。購入者の間では評判の良いデベロッパーへの志向が強まっており、それが企業間の統合を加速させ、大手デベロッパーが大きな市場シェアを確保するという傾向は今後も続くと思われます。不動産(規制・開発)法が導入され、破産倒産法が適用されたことで、不動産セクターの制度化が進んでいます。インドの住宅市場は主にビルド・トゥ・セル(Build-to-Sell)市場が中心です(税引き後の賃貸利回りは2%台)。インドのデベロッパーは通常、土地を直接購入してから建設する方法、または地主と共同で行うモデルを住宅プロジェクトに採用しており、後者は一般に共同開発契約モデルとして知られています。印紙税率としては土地区画が所在する州によって5%から15%の範囲で定められています。
次にオフィスについては、市場は堅調な成長を遂げており、グローバルな投資家やテナントからの関心が高まっています。現在インドには、Embassy Office Parks(BlackstoneとEmbassyがスポンサー)、Mindspace Business Parks(K Rahejaがスポンサー)、Brookfield India Real Estate Trust (Brookfield がスポンサー)の3つの不動産投資信託(REIT)が上場しており、2024年1月時点での時価総額は合計で80億米ドル近くに達し、近い将来、オフィスに特化したREITがさらに増えると予想されています。インドのコワーキングスペースの在庫は5,000万平方フィートを突破し、オフィス在庫全体の約7%を占めており、この分野で大規模な資金調達が行われています。世界的な傾向と同様、インドでも多くの企業でハイブリッドな働き方が採用され、一部のテナントではオフィススペースの在り方やスペースに関する見直しを行っていることもあり、特に外国人投資家の間でオフィススペースに対するネガティブな見方もあります。しかし、一方で多くの多国籍企業がインドにグローバル・ケイパビリティ・センターの設立を通じてインドに業務をアウトソースすることを検討しており、中長期的にはオフィス需要は今後も成長し続けると見込まれています。加えて、特別経済区(SEZ)においてビルのフロア単位での指定解除が行えるようになったという最近の規制変更は、(同じ建物内でDTA<国内関税一般区域>目的で使用可能なスペースも持つことができるようになったという点で)賃借人がSEZ内にオフィスを構える際の柔軟性を高めるとともに、そのような形でのフロア需要が増加すると予想されています。
2023年度はホテル業界が力強く回復し、稼働率は約66%とコロナ禍前の水準に戻りました。特筆すべきは、リベンジツーリズムと出張機会の回復というトレンドにけん引され、平均客室単価(ADR)と販売可能な客室1室あたりの収益(Revenue Per Available Room:RevPar)がコロナ禍前の水準を10~15%程度上回ったことです。観光地やレジャー先で大きな存在感を示しているホテルブランドは、コロナ禍後に、より大きな成長を遂げています。このようなADRやRevParといった料率の上昇は、レジャーツーリズムやMICE(企業等の会議、インセンティブ旅行、国際会議、展示会等)といったイベントへの需要の高まりに起因しています。ホスピタリティ業界は、ビジネス客やレジャー目的の観光客に加え、宗教上の目的で移動する旅行者からの強い需要に支えられて、今後20年間で大幅な成長を遂げると予測されています。
インドは、eコマースの普及が進んでいるにもかかわらず、組織化された小売の実店舗の大きな成長余地がある珍しい市場と言われており、この業界では主要プレーヤー間での統合が進んでいます。Tier2およびTier3の都市における購買動向は、小規模な都市中心部での小売モールの成長を後押ししています。ソブリン・ウェルス・ファンドや年金基金など、外国の機関投資家はインドにおける消費の伸びをにらんだ投資対象に強い関心を集めています。注目すべきは、Blackstoneが最近インド初の小売不動産投資信託(REIT) - Nexus Select Trust - の立ち上げに成功したことで、この分野の成長に勢いがついただけでなく、大手企業が参入したことで業界内で大きな再編が予想されています。
倉庫・物流セグメントは、GST(物流・サービス税)の導入、インフラや物流への資本支出などの政府による改革によって大きな後押しを受け、コロナ禍におけるeコマースの台頭と相まって、今後数年間、大きな成長が見込まれています。テナントが「多極的」サプライチェーン戦略を採用していることや、現在インドのGDPの16%を占める物流コストを2024年末までに9%まで削減するという政府の目標に支えられ、倉庫や物流への需要は底堅い状態が続くと予想されています。一方で、土地のコスト増と都市部での倉庫用地の不足は、対処すべき課題の一部となっています。
インドの不動産市場では、グリーンビルディング、データセンター、学生寮、高齢者向け住宅など、新たな資産クラスが注目を集めています。大規模な開発が可能な場合には、データセンターといった資産の素地(そじ)として価値が高まっています。収益不動産を選好することで知られるソブリン・ファンドや年金基金は現在、利回りを目的の投資先としてデータセンターに注目しています。有力投資家は、データセンターへの投資や開発を行うために、特定の事業者と提携したプラットフォームの設立を積極的に検討しています。しかしながら、大手ファンドが求めるクライテリア(特に運営経験や規模といった点)を満たす国内のデータセンター事業者は限られています。また、大学のキャンパスへ通学する学生が増えていることから、大学キャンパス内やその近くに立地する学生寮といった居住施設への需要も高まっています。グリーンビルディングに関しては、建物によるエネルギー消費を規制する規制条項が導入されており、住宅を含む大型建築物については、1平方メートルあたりのエネルギー消費量の基準を定めた省エネルギーコードが提案されています。
このようにインドでは、今後数年間の持続的な成長と投資機会の可能性を秘めた、デベロッパーと投資家の両者にとって大きな機会のあるダイナミックなマーケットとなっています。一方で、政府主導で制度や税制といった面でさまざまな施策が検討中であり、これらの政策の動向には留意が必要です。また、日々刻々とマーケットのトレンドも変化していることから、インドへの不動産投資にあたっては慎重な検討が望まれます。
EYインドには、不動産およびホスピタリティセクター専門のチームがあり、100名以上の専門家が不動産セクターのライフサイクル全般にわたり、税務ストラクチャリング及びデューデリジェンス、財務及びビジネスデューデリジェンス、MAアドバイザリーサービス、ビジネスおよびリスクコンサルティングサービスなど、幅広いサービスを提供しています。
1 Real Estate Industry Report by IBEF, https://www.ibef.org/download/1709098099_Real-Estate-December-2023.pdf (2023年12月アクセス)
ガウラヴ・カルニク
パートナー、税務・規制及び不動産ナショナルリーダー
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ラガヴ・ハリ
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アジット・クリシュナン
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アビシェーク・バッバール
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ジャパン・ビジネス・サービス(JBS)
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世界一位の人口となり、その経済成長も期待されているインド。そこでの不動産投資は日本企業にとって魅力的なマーケットですがリスクもあり、多くの企業はその進出に二の足を踏んできました。しかしながら、昨今では政府主導で外国人投資家にとって参入しやすい環境が整えられてきています。