ジェネラルカウンセル(最高法務責任者)が直面する喫緊の課題:子会社管理を効果的なガバナンスに進化させる方法とは

ジェネラルカウンセル(最高法務責任者)が直面する喫緊の課題:子会社管理を効果的なガバナンスに進化させる方法とは


実効的な子会社管理は、リスクを低減し、ビジネス戦略を実行する上で重要な役割を果たしますが、多くの企業は十分に実現できていません。


要点

  • EYの調査により、大多数の企業が子会社管理について課題を有することが明らかになった。
  • 子会社管理における未解決の課題は、トランザクションやサプライチェーンの再構築といったビジネスの優先事項に影響を与える可能性がある。
  • 企業は、テクノロジーとソーシングの戦略を再考し、グローバルな活動の全体像をその目的ごとに正確かつ最新の形で示さなければならない。
EY Japanの視点

第1弾となるレポート「障壁をビジネスの土台に変える方法とは」、第2弾のレポート「複雑な契約実務の背後で損なわれるビジネスの利益とは」に続く第3弾となる本レポートは、子会社管理の改善にスポットを当てています。多くの企業が、「海外子会社の管理(特に法務面)は、現地任せ」という体制では適切なガバナンス・リスク管理、M&A、組織再編への対応などにおいて不十分であると考えています。本社の法務部が海外子会社の情報を即座に引き出すことができないようでは、有事対応もままならないだけでなく、事業サイドの期待にも応えられず、さらにはコスト管理もしようがないではないか、という問題意識を持っています。日本においても海外法人の管理に頭を悩ませている企業は多く、本レポートを参考にしていただければ幸いです。


EY Japanの窓口

EY 弁護士法人
グローバルネットワークを活用したワンストップ法務サービス

貴社は、子会社をどの程度把握できていますか。この質問には、多くのビジネスリーダーが自分は自信を持って回答できると思っているかもしれません。しかし、EYが最近実施した調査のデータによると、89%の企業が子会社管理に課題を抱えていると回答しています。

一般的には、法務の側面は見落とされがちであり、ビジネスの優先事項のリストにおいて上位に挙がることはありません。にもかかわらず、子会社管理は、ビジネスに対して重大な影響を実際に与えています。あなたが経営幹部である場合、子会社が法的要件に準拠していなければ、トランザクションやサプライチェーンの再構築といった他の優先事項を実行する際に、課題に直面する可能性があります。

幸いなことに多くの企業が、子会社管理の重要性および現在のアプローチの欠点と欠点に対処することで得られるメリットを認識し始めています。これらの企業は、子会社管理をより効果的に支援できる新しいソーシング戦略やテクノロジーを積極的に模索しています。


本調査から得られた重要な知見

本レポートは、EY LawとHarvard Law School Center on the Legal Professionが2000名のビジネスリーダーを対象として実施した包括的な調査(「調査の手法」参照)に基づくシリーズの第3弾であり、企業の子会社管理プロセスを監督する法務部門のリーダーへの900回を超える聞き取り調査から得た知見を検証しています。聞き取り調査からは、法務部門が直面する課題と機会に関する重要な知見が得られました。

  • 限られたリソース:法務部門の多くは、税務部門と財務部門に子会社管理プロセスの支援を求め、依拠していますが、それによって調整上の課題が生じ、ビジネス・リスクが増加しています。
  • 人材:ジェネラルカウンセルの87%が、法務部門は子会社のコンプライアンスなどの反復的業務に時間を費やしすぎていると回答しています。また、半数近く(47%)は、この種の業務の量の多さが従業員の士気を低下させていると回答しています。
  • テクノロジー:大多数の企業が子会社管理専用のテクノロジーを使用していますが、その96%が現状の自社システムに課題があると回答しています。
  • コスト:88%の法務部門がコスト削減の圧力にさらされており、子会社管理は多くの法務部門がコスト削減を目指している分野の一つです。
  • アウトソーシング:3分の2の企業が、子会社管理に複数のプロバイダーを使用していますが、それはコストの増加や一貫性の欠如につながる可能性があります。その他の企業は、単一のグローバルなプロバイダーを活用することにより、複数のプロバイダーを使用する企業よりも大きな恩恵を受けています。

 

子会社管理の現状

EYの調査により、企業が子会社管理プロセスにおいて現在直面している幾つかの重要な課題が明らかになりました。最も多く見られたのは、子会社についての最新かつ正確な情報にアクセスできないこと(68%の回答者がこの課題を挙げています)です。また、66%の企業が、子会社が存在する法域の全てにおいて、現地のコンプライアンスの要件・要求に準拠していくことの困難さを課題として挙げています。

これらの課題の根底には、子会社管理プロセス自体が複雑であることや、多くの企業においては、往々にしてリソース不足の中で、プロセスの管理業務が分散化して行われていることがあると考えられます。

大規模な多国籍企業は、数は大きく異なるものの、一般的に100~500の子会社を有しています。これらの管理においては、何百ものコンプライアンス上の要件を把握することが必要になることがあります。また、世界各地で利用する共通性の無い外部のサービス・プロバイダー間の調整業務が必要となり、それにより不要なコストが発生し、管理が複雑になっている企業もあります。

これらの課題は、子会社管理チームに、業務量と業務範囲を効果的に管理するために必要なテクノロジー、プロジェクト・マネジメントおよびその他の専門的な知識が不足していることが多いという事実によって、さらに深刻化しています。その上、法務部門は、既に予算の問題と増大する仕事量を天秤に掛けている状態であり、子会社を効果的に管理する余力がないこともよくあります。実際、法務部門の76%が、子会社管理に関与する従業員は、5人以下であると回答しています。

財務部門
の企業が、子会社管理プロセスに財務部門を利用しています。
税務部門
の企業が、子会社管理プロセスに税務部門を利用しています。

「子会社管理に特化したリソースの不足により、他の部門(特に法務部門を支援するために通常起用される税務部門や財務部門)に大きな負担を課しています」とEY Americas Legal Managed Services LeaderであるSeth McNaryは述べています。「しかし、これらの部門は、既に自部門への大きな圧力に対処するのに追われており、他にも優先事項があります」


「これらの部門は、企業のために協力していますが、効果を上げるために必要な専門知識や現地の法規制上の要件についての認識が不足していることがあります」とMcNaryは述べています。「その結果、業務の手直しや提出・申請漏れが発生することがあり、子会社管理チームにさらに負担がかかっています」


税務部門や財務部門はデータの収集をサポートすることはできますが、法的なトレーニングを受けていないので、企業にリスクをもたらします。さらに、子会社管理業務が複数の部門にまたがっている場合、プロセスの標準化や効率化が困難になる可能性があります。


新しいテクノロジーの機会

企業の65%(収益が200億米ドル以上の大規模な企業では85%に増加)が専用の子会社管理システムを使用していますが、その96%が自社のテクノロジーに課題があると回答しています。新しいテクノロジーへの更新を含むこれらの課題を解決することが、子会社管理の強固な基盤を構築する上で極めて重要となります。

子会社管理にテクノロジーを導入している企業が直面している最も一般的な課題は、システムを最新の状態に維持することが容易ではないことです(調査では72%がそのように回答しています)。多くの企業にとってこの課題は、効果的でないテクノロジーの導入と、最新のテクノロジーが具備するようなユーザー間のインタラクションやインターフェース機能を有しない古いシステムへの依存という2つの関連する問題から生じています。

システムの利用頻度の低い人にとっては必要なデータへのアクセスが容易でないことから、旧式のユーザーインターフェースが法務部門以外でのシステム導入の妨げとなっています。また、これにより企業内の他のステークホルダーがデータの保守に注力しなくなり、データが法務部不在の環境で運用され、データの完全性や信頼性の問題が生じています。

「多くの企業が子会社管理については消極的な姿勢をとっており、それがテクノロジーの活用方法にも反映されています」と、EY Global Entity Compliance & Governance LeaderであるMike Fryは述べています。「子会社管理システムは、2~3カ月のタイムラグのある子会社データの格納ツールでしかないと認識されていることがしばしばあります。しかしながら、これらのツールは、グローバルなコンプライアンス・リスクを管理し、全世界の子会社のリアルタイムなガバナンスのレポートとモニタリングを提供する、将来を見据えたソリューションとして捉えられるべきです」

子会社管理システム
の企業がシステムに問題があると回答しています。
の企業がシステムを最新の状態に維持するのが難しいと回答しています。
の企業がガバナンス業務の状況を追跡できないという課題を抱えています。

最新の子会社管理システムを活用すれば、企業が直面する他のテクノロジーの課題も解決できます。62%の企業が、自社のテクノロジーではガバナンス業務の状況を追跡できないと回答しており、これは一部の旧式システムの限界を反映しています。最新の子会社管理システムは、それとは対照的に、優れた機会を提供するでしょう。

最新の子会社管理システムは、ワークフローの自動化を可能とし、社内承認から現地での実施に至るまでの全てのガバナンス業務を定義し、最適化したプロセスに従って実行されます。さらに、さまざまな企業システムとインターフェースができ、分析ツール構築のための一元化したデータウエアハウスのプラットフォームを提供します。

「古い子会社管理システムの非効率性が原因で、多くの企業が、コンプライアンスの期限、組織図、その他のガバナンス業務について類似するプロセスやデータセットを作成・維持しています」とFryは述べています。「これは非効率的であり、可視性と一貫性の欠如によるリスクを生み出しています」

「最先端のテクノロジーは、企業にとって信頼できる唯一の情報源を構築するのみでなく、子会社データの活用によりガバナンスについての知見をリアルタイムで提供できることから、これらの課題を解決でき、幅広いステークホルダーグループのために企業内部の効率化を実現できます」

 

子会社管理と効果的なガバナンスが重要な理由

最適化され、十分なサポートを得た子会社管理プロセスは、幅広い分野の戦略と運営上のビジネスの優先事項を実現することに役立ちます。

取締役会の動向を把握する目的で経営幹部を対象として実施した調査「2021年EY Capital Confidence Barometer(EYキャピタルコンフィデンス調査)」のデータからは、2021年度において大規模な企業は、トランザクションを最重要視していることが明確になりました。49%が今後12カ月間に積極的な買収を計画しており、その大半が国際的な企業の買収を検討しています。

スピンオフなどその他の種類のトランザクションも検討されています。78%の企業が、保有期間が長期にわたる資産の売却を検討していると回答しています1。企業にとっては、このようなディールに即座に対応できることが、明らかな戦略上の最優先事項です。もっとも、このようなディールへの即応性は、子会社管理プロセスの非効率性によって、リスクにさらされます。「子会社管理は、リストラクチャリングやトランザクションなどの大規模な企業イベントにおいて、重要な役割を果たします」と、EY Asia-Pacific and EY Oceania Entity Compliance and Governance LeaderのJennifer Coxは述べています。「子会社管理の失敗は、プロジェクトの遅延、スケジュールの圧力や不必要な予算外のコストの発生につながる可能性があります」

業務上の優先事項も、不十分な子会社管理プロセスによってリスクにさらされる可能性があります。85%の企業が、新型コロナウイルス(COVID-19)の大流行により発生した課題を受けて、サプライチェーンの大幅な変更を検討しています2

子会社管理の失敗は、プロジェクトの遅延、スケジュールの圧力や不必要な予算外のコストの発生につながる可能性があります

「子会社管理プロセスがサプライチェーンに与える影響は見落とされがちです」とCoxは述べています。「サプライチェーンの迅速な転換を目指している企業は、世界各国の子会社が現地の法規制に準拠していることを確保する必要があります。子会社が現地法規制に完全に準拠していない場合、許認可を剥奪されたり、登録を抹消されたりするおそれがあります。その場合、商品が関税当局に留め置かれ、グローバルなサプライチェーンが機能しなくなる可能性もあります」

しかし、リスクはそれだけではありません。現地における活動が明確化されていないと、法的コスト、処罰、収益の逸失、役員の責任および企業の評判の低下につながるおそれもあります。定義されたプロセスと適切に設計されたテクノロジーを活用して子会社管理を最適化することによって、これらのリスクを軽減し、企業の幅広い優先事項を実現することができます。

 

新たなソーシング戦略とより協調的なアプローチ

子会社管理は、調整された可視性と統制を備えた、企業全体の実務になる必要があります。多くの企業がこの必要性を認識し始めています。現在、企業の32%が、単一の世界的プロバイダーを通じて、子会社管理プロセスを一元化しています。また、企業の57%が現在、従来の法律事務所によるサポートモデルから業務を移行することによって、一元化を実現しようとしています。

単一のグローバル・サービス・プロバイダーの活用に既に移行している企業のメリットは明らかです。それらの企業は、現地のプロバイダーのネットワークを利用している企業よりも、子会社管理に課題があると回答する割合が低くなっています。また、明確なプロセスを整備していると回答した企業の割合は約5倍であり、予算の問題に直面しているとの回答も少なくなっています。

88%の法務部門が、今後3年間で、法務機能全体のコスト削減を計画しており、その多くが削減を求めている分野の1つが子会社管理です。

「単一のサービス・プロバイダーは、スケールメリットにより、コスト効率が良くなる可能性があります」とMcNaryは述べています。「同様に重要なのは、コストの透明性に与える影響です。多くの企業においては子会社の管理方法によって、プログラムの全体的なコストの把握が困難になることがよくあります。企業は、法務、税務および財務部門全体の社内コストを積算した後に、何十または何百もの法律事務所からの請求書を確認する必要があります。単一のグローバル・サービス・プロバイダーを利用することで、このような業務が簡素化され、コストの特定と長期的な管理が非常に容易になります」

単一のサービス・プロバイダーは、スケールメリットにより、コスト効率を向上する可能性があります。同様に重要なのは、コストの透明性に与える影響です

最⼤⼿のオルタナティブ・リーガル・サービス・プロバイダー(ALSP)は、⼦会社管理サービスに必要なグローバル・ネットワークを提供しています。ALSPは、複雑なグローバル企業のニーズを理解しながらも、一貫性のある予測可能な方法で現地のコンプライアンスの要件・要求を実現できる現地の専門家を配置することが可能です。

またALSPは、複雑な関連データについて、その収集、標準化、検証、分析と共有がより適切に実行できるテクノロジーやプロセスの設計にも投資しています。実際に、58%の法務部門リーダーが、ALSPは自社の法務部門よりも強力なテクノロジーとプロセス管理能力を備えていると回答しています。

子会社管理のモデル

全ての子会社の管理に単一のグローバル・サービス・プロバイダーを活用

法域に応じて複数の法律事務所を利用

全ての子会社管理業務を内製化

各モデルを使用している企業の割合

32%

47%

21%

各モデルを使用している企業の属性

  • 大規模企業
  • 子会社が最も多い
  • 多くがALSPを広く利用しており、その他は検討中
  • 中規模企業
  • 子会社が多い
  • 法律事務所を利用
  • ALSPをあまり利用していないが、利用の拡大には関心がある
  • 小規模企業
  • 子会社が少ない
  • 法律事務所もALSPも利用していない

単一のグローバル・サービス・プロバイダーを利用するメリット

  • 課題に直面していると回答する割合が最も低い。
  • 明確なプロセスを有する割合は5倍弱。
  • 予算の問題に直面していると回答する割合は低い。

単一のサービス・プロバイダーにアウトソーシングするもう1つのメリットは、社内の業務量を減らせることです。87%のジェネラルカウンセルが、子会社のコンプライアンスなど、複雑ではない反復的な業務の量を削減したいと回答しています。また、ALSPを活用している企業は、その利用を拡大したいと回答する割合が最も高くなっています。

 

子会社管理を改善する方法

子会社管理の現在の状況を十分に把握したいと望む企業には、実務的に実施可能な手段が幾つかあります。

  • 子会社のガバナンスの枠組みを評価し、それがグループ全体で十分に運用されているかを判断します。もし子会社のガバナンスの枠組みがない場合は、何らかの注意が必要です。
  • 主要な市場の子会社について健全性のサンプルチェックを実施し、その最新の状況、コンプライアンス要件、リスクへのエクスポージャーと子会社管理システムのデータの品質について評価を行います。
  • 貴社の取締役が、自身が任命されたそれぞれの子会社の責任を認識しているか評価します。
  • 現在の業務モデルの非効率性やギャップを特定し、業務モデルがビジネスユーザーやその他のステークホルダーにどのような影響を与えているかを定量化します。
  • 企業の現在のテクノロジーが目的達成を可能とするかを検討します。企業内の他のステークホルダーがデータ品質を信頼できず、データや文書の抽出についての内製化モデルがない場合、このことは別の問題を示唆しています。
  • 適切な人材が適切な業務に配置されているかどうかを評価します。ソーシング戦略が適切であれば、子会社管理がもたらす運営上の課題が軽減されます。単一のグローバル・サービス・プロバイダーにアウトソーシングすることで、子会社のガバナンスに関するプロファイルの向上に必要な人材とテクノロジーが提供されるとともに、外部コストを削減し、リスクを最小化できます。

 

結論

子会社管理は、スタンドアローン型テクノロジーやリソース不⾜の機能に依拠する限り、もはや持続不可能です。企業とその取締役へのリスクが重大なものになる可能性があります。また、戦略を実行する際の障壁になる可能性もあります。

企業は、子会社管理の課題に対処するために、全体的なコスト削減とリスクへのエクスポージャーの低減が可能な、十分なリソースに支えられた、最高クラスのテクノロジーを必要としています。

EYのメンバーファームは、現地の法律や規制により法律業務の提供が認められていない場合、法律業務の提供ができません。

  1. 2021 Global Corporate Divestment Study | EY – Global | EY - Global.
  2. EY Geostrategy In Practice Survey.

EY Law surveyレポートをダウンロードする

関連記事

ジェネラルカウンセル(最高法務責任者)が直面する喫緊の課題:複雑な契約実務の背後で損なわれるビジネスの利益とは

EYは「2021年EY Law Survey」を実施し、契約チームがビジネスの優先課題を適切に支援するための重要な要件を明らかにしました。


    サマリー

    企業は、往々にして、子会社管理を見落としがちであり、リソース不足で業務過多な状態で放置しています。このような状況は、トランザクション、サプライチェーンの再構築、リスクマネジメント、コスト削減といった主要なビジネスの優先事項に非常に大きな影響を与えています。企業は、業務戦略やソーシング戦略を再考することにより、コスト削減とリスク低減を図りながら、企業価値を向上し、世界各地における子会社の活動のコンプライアンス要件(法令遵守の要件)を正確かつ最新の状態で把握できるようになります。


    この記事について

    執筆者

    執筆協力者