機関投資家から資金を入れていただくことを考えますと、ある程度の規模がないとなかなか資金が入ってこない面がありますので、実態としては上場後に必要な額を機関投資家から、あるいはその他の方からを含めて資金調達できることが重要なのですが、スタートアップ時の規模が小さすぎるとそれらを行うのが難しいというご指摘もあります。そこに関してどうしていくか頭を悩ませているのが実情でございます。
単に基準を上げるとすべてうまくいくのかというと必ずしもそうではなく、企業の資金調達ができるタイミングが遅れてしまう、または一定の規模までに到達できない期間が長く続く企業もいらっしゃいますので、その辺りについてどのように考えていくのか慎重に考慮しながら、関係者の方々の声も伺いながら検討していく必要があると思っております。
もう一点、上場後の上場維持の基準の引き上げも同様にご指摘を頂戴している状況です。この点につきましても企業が上場後にどう成長していくのかという動機付け、あるいは仮に成長が停滞してしまった場合に企業の新陳代謝、企業の持っている事業や資産、そして作り上げてきたものの新陳代謝を進めるということが大事なのではないかというご指摘を頂戴しております。
この辺りもご指摘はごもっともという面がある一方で、22年に新しい市場区分・基準でスタートしましたので少なくとも経過措置の終了を待つべきとのご意見もあります。逆にあまり遅くなるとその後の展開を考えるとさらに遅くなってしまうのでもっと早く対応するべきではないかとのご意見もあります。
交錯しながら議論しているというのが実情で、この辺りを議論するフォローアップ会議の情報については、できる限り早い段階で東証のHPに情報を出すようにしておりますので、ぜひそちらもご覧いただけたらと思います。
藤原 非常に印象的だったのが、私共が機関投資家の方々をお招きしたセミナーを昨年行った際に皆さまがおっしゃっていたことが、機関投資家の考え方や常識を分かっているスタートアップの方々が少ないとのお話があり、東証さんが行われている機関投資家との接点機会や発信方法も含めて非常に良いお話だと思いました。
2024年のIPO動向
90社~100社がベースライン想定
藤原 IPO社数ですが、2024年のIPOは社数的には90~100社程度と2023年と同水準ぐらいと予想している市場関係者が多い様に見られますけれどもいかがでしょうか?
青 氏 まず企業のIPO意欲につきましては非常に旺盛という印象を持っております。IPO関係者の声を聞く限り、相応の企業数が上場準備を進められていらっしゃるとも聞いております。最終的にどの程度の社数かは相場に左右される部分もありますので難しい話ですが、例年と変わらない水準というところでは90~100ぐらいがベースラインかと思っておりますが、それに加えて規模の方も期待できればと思っております。
TOKYO PRO Marketの新規上場の数につきましても、最近の市場注目度の向上やJ-Adviserの参入が続いているところで見ると2023年以上の水準になるのではないかという空気は感じられます。
2024年、グロース市場は回復するのか
藤原 続いて、スタートアップ関係者の方々の一番関心事であるグロース市場の回復見込みについて触れていきたいと思います。
2024年は日米の金融政策や選挙の動向も注視される年ですが、市場関係者の方にお伺いすると、米国利上げの落ち着きから、グロース市場に年の後半くらいから資金が流入してきてくるのではないかと言われています。
そして今後の大型上場には海外機関投資家が戻ってくることが必要不可欠ですが、今後の海外機関投資家の動きも気になるところです。
特にダウンラウンドを嫌って延期されている大型案件を含めて、今年2024年にIPOを実現していくのかが個人的には注目しておりますが、24年のグロース市場を中心としたIPOマーケットはどのようにご覧になっておられますか?
青 氏 2022年と比較した場合に23年は回復傾向でしたけれども、引き続きIPOを取り巻く環境については順調に推移していくことを期待している状況だと思っております。主幹事証券などの関係者の方から伺うところによれば、24年以降IPOタイミングを見計らっている大型案件も複数あると聞いておりますので、期待したいところです。
IPOを取り巻く環境が悪化するということではなく、多くの企業がIPOを通じて資金調達を果たして、その後の成長を実現していくことは非常に良いことです。そして政府の何かしらの施策も示されていくと思います。
さらに資金提供サイドの環境の方もこれから変わってくることは考えられますので、そうした意味ではより企業が育つための土壌がしっかりしたものになっていくといえるのではないかと思います。
DeepTechやweb3関連のスタートアップへの見解
藤原 業種的には宇宙以外の新たな領域のDeepTech銘柄や将来的には、web3や暗号資産関連のスタートアップにも大きな期待が寄せられておりますが、この辺りの業種についてのご見解はいかがでしょうか?
青 氏 ビジネスモデルの多様化が進んでいる中で、とりわけ先端的な領域や新しい領域に対しては産業としての期待が持たれるところではないかと思っております。
DeepTech銘柄については、相対的に企業価値の評価が難しくなかなか上場にたどり着けない企業もございました。
2022年12月に企業特性に合わせた上場支援を円滑に行っていくという目線で、グロース市場に上場する場合に事業計画の合理性という観点の判断に機関投資家の投資評価を活用するなど幾つかポイントを整理し、大きな成長の可能性を持っている企業に対して必要な資金を供給しやすいような環境作りに少しでも近づいていければと努力しているところです。
主幹事証券をはじめとするIPO関係者の皆さまとコミュニケーションを重ねている中で、例示されたような業種、それに限らず新しいビジネスを手掛ける企業が出てきている話も伺っておりますのでかなり期待をしています。
なお東証では上場推進部にIPOセンターを設置しています。IPOセンターはIPOの時だけではなく前後のタイミングで多様な関係者の方々にステージごとに合わせてサポートすることを目指しております。例えば、主幹事証券や監査法人などのIPO関係者向けに定期的な意見交換会を行うことを通じ、最近の上場審査に関するトピックの共有やご意見を頂戴し将来的な上場審査というものをいかに円滑な仕組みにするのかを考える場とさせていただいております。
藤原 最後にスタートアップの方々へのメッセージをお願いできますか?
青 氏 政府がスタートアップを強く後押しする方針を示したこともありますので、私共としても支援をより一層強化できる環境が整いつつありますし、関係者の方々も積極的に動かれるきっかけができたことが昨年の大きな動きだと思っております。
東証株式市場が新たな産業の担い手となるようなスタートアップの成長の場としてうまく活用していただけるようにしていきたいと強く思っております。関係者の皆さまとしっかりと協力をし合いながらスタートアップ企業などへの円滑な成長資金の供給が実現する環境を作り出し、日本経済の発展につながるようまい進していきたいと思っております。関係者の皆さまやこれをご覧になっている方もぜひ支援をしていただければ幸いに存じます。
藤原 この度の青常務のお話を通じてIPOを正しく理解し、企業成長の発展につなげていただければ幸いです。本日はありがとうございました。