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より良い暮らしを築くための価値創造に向けて、生命保険会社はどのように変革しているのか


新しい消費者ニーズ、テクノロジーがけん引するディスラプション(破壊的変化)、社会の転換により、⽣命保険、団体保険、医療保険、リタイアメントマーケットの再構築が進んでいます。


要点

  • 多額の貯蓄や医療保険の格差、雇用の大幅な転換、高齢化により、退職後の過ごし方が根本的に変化しつつある。
  • 保険、銀行、資産運用会社、従業員福利厚生プロバイダーにおいて、あらゆる消費者層からの要望が高まっているファイナンシャルウェルネスを巡り、競争が繰り広げられている。
  • 提供価値の充実、商品のシンプル化やアクセスしやすさの実現を通じて、保険業界は成長を加速させ、より多くの顧客にサービスを提供し、社会的ニーズに応えることが可能となる。


EY Japanの視点

働き方の多様化や長寿命化により、ひとりひとりのWellbeing(幸せ)の在り方が変化し、顧客の生命保険会社への期待が大きく変わってきています。このような環境変化に対応すべく、生命保険業界は、商品を開発して売る、従来のプロダクトアウト・モデルから、顧客ごとの人生モデルに寄り添う、顧客価値ベース・モデルへのシフトを余儀なくされています。欧米では、生保商品も他業界のプラットフォームに組み込まれるエンベデッド・インシュアランスが増加しており、商品の販売の仕方も、従来のチャネルから大きく変化しています。顧客データを活用し、保険以外のサービスと組み合わせた新商品・サービスの開発等、健康と経済の両面からパーソナライズされた顧客体験を提供していくことがより一層求められると考えています。


EY Japanの窓口

青木 計憲
EY Japan 金融サービス・コンサルティングリーダー/保険セクターリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

従来の「⽣命保険」は、今から12〜15年後にも存在しているでしょうか。ファイナンシャルウェルネスに対する顧客の需要の増⼤、⻑寿化、ギグエコノミーの出現、そして膨⼤な数の消費者がこれまでと同様の定年退職を迎える可能性は低いことを考慮すると、この疑問は決して突⾶なものではありません。
 

このような状況を踏まえ、NextWave Insuranceの最新レポートでは、⽣命保険、団体保険、医療保険、リタイアメント領域に焦点を当てています。


当然ながら、2030年代半ばになっても、⼈々は⽣命保険が従来提供してきた保障を必要とするでしょう。しかし、⽣命保険をこれまでと同じ位置付けと捉え続ける企業は、極めて近い将来にその存在意義が危ぶまれることになるかもしれません。⽣命保険、団体保険、医療保険、リタイアメントの状況は国・地域により異なりますが、いくつかのテーマは主要なグローバル市場に共通し、例えば、顧客エンゲージメントの強化や、より優れたテクノロジーの採⽤、新しいビジネスモデルおよびエコシステム形成を含むチャネルの開発が挙げられます。


本レポートでは、今⽇の市場に変化をもたらしている重大な要因と、⼤胆かつ創造的なイノベーションによりまい進している世界各国の企業に焦点を当て、インスピレーションの源にしていただきたいと考えています。


カスタマージャーニーを描く — 社会に出るときからリタイアメントまで 

これまでと同様、業界の未来を決めるのは顧客です。顧客のニーズ、⽬的、願望は、業界の全ステークホルダーの成長戦略やイノベーションのアジェンダに反映されるべきです。また、保険アドバイザーや規制当局も⾮常に重要なステークホルダーであり、彼らを顧客とみなすのが望ましいでしょう。


テクノロジーの活用と強⼒なパートナーシップ形成により、保険会社は、経済に大きな影響を与えることが見込まれながらも、現状では相応のサービスを受けられていない女性を含む多様な顧客と、より深く有意義な関わりを持つことで、ホリスティックな価値を提供することができるでしょう。


近い将来、保険会社にとってエコシステムがもっとも効果的なモデルになるでしょう。なぜならば、保険会社単独では、消費者の重要なライフステージにわたって進化するニーズに応えることができないためです。団体保険および従業員福利厚⽣分野では、すでにエコシステムの効果が表れています。世界の保険会社は、特にメンタルヘルスと、心や身体だけでなく経済的な健康も含めたホリスティックウェルビーイングの領域でエコシステムの編成を進め、サービスを拡充し、多様化するニーズに応えています。


焦点となるのは保障、貯蓄、投資を統合したソリューションで、これらは5つの重要なライフステージにわたって拡大・進化する顧客ニーズに、柔軟に対応できるよう設計されています。


1. はじめはファイナンシャルウェルネスから

保険会社や年⾦プロバイダー、その他企業は、若年層を取り込む必要性を長い間認識してきましたが、⼤半の企業は彼らとのエンゲージメント形成に苦労してきました。最初のステップは、退職貯蓄以外の経済的目標に対する保険の価値を示すことです。コロナ禍後に⾼まった、短期的な経済的打撃(収⼊の減少や予期せぬ⼊院など)に対する保障ニーズに応えることは1つのチャンスとなるでしょう。


社会⼈⽣活を始めたばかりの若者には、ライフステージにフィットした少額短期保険(簡易ミニ保険)が適しているでしょう。若年層の支持を得るためには、保険会社はスマートフォンからの加入など、完全デジタルの体験を提供しなければなりません。また、代理店や保険アドバイザーに対し、投資資産をほとんど持たない顧客とのエンゲージメント形成・強化を働きかけることも保険会社の重要な役割です。

⽶国のZ世代のうち、退職時に必要な額は25万ドル未満と回答した⼈の割合
出所︓Harris、Northwestern Mutual

2. 生涯の仕事を通じてマネージ

伝統的な年⾦制度や確定給付年金制度が希少となり、雇⽤主が提供する福利厚⽣を利⽤できる従業員が減少する中、これまでのようなリタイアメントは、多くの⼈にとって⼿の届かないものになっています。このギャップを埋め、満たされていない市場ニーズに応えるために、保険会社ができることは多いと考えます。

鍵となるのが、柔軟で⼿頃な価格のソリューションです。保険を統合することで、本業と副業で⽣活する勤労者を⾃動的にカバーすることができるようになるでしょう。フルタイムのギグワーカーや⾃営業者向けの簡易な保障や、雇⽤主が提供する付加的な保障は、有意義な成⻑の契機となるでしょう。また、住宅購⼊、⼦どもの教育資⾦貯蓄、キャリア半ばでの自己啓発や長期休暇のための資金調達など、特定の経済的⽬標をサポートする商品も考えられます。

少なくとも1つの社会保障給付の対象となる勤労者の割合
出所︓国際労働機関(ILO)

3. 大切な人や家族へのケア

家族・世帯構成の変化や不透明なマクロ経済状況は、世界中の消費者に新たな貯蓄と保障のニーズを生み出しています。医療保険の保障範囲と社会的セーフティーネットの格差は、より多くの人が介護者となっていることを意味しているのです。

⼦供と⾼齢の親の世話をし、家計の意思決定の⼤半を担い、貯蓄をはじめとする多くの資産に責任を負う女性の多くが、⻑期的な経済不安を抱えているのは事実なのです。⼥性の資産への関与は増⼤していますが、保険業界からの十分なサービスを提供されていないと感じています。⼥性特有のニーズに合わせて設計された、よりパーソナライズされたサービス提供は、保険業界にとってもう1つのチャンスなのです。

2025年に女性が保有している英国内の資産の割合
出所:バークレイズ銀行

4. ファイナンシャルレジリエンスの浸透

ファイナンシャルレジリエンスの向上は、すべての消費者層に共通するテーマです。保険会社は、貯蓄や投資、収入保障商品やソリューションを通じて、不測事態のための貯蓄、住宅改修、「一生に一度の家族旅行」、快適な老後のための資産形成、長期休暇のための積み立てなど、顧客が抱く目標を支えることができるでしょう。

繰り返しになりますが、引き出し額の基準変更や引き出し状況を綿密にモニタリングできる退職貯蓄や年⾦プランなど、商品設計の柔軟性が鍵となります。⼀部の領域では、エコシステムパートナーシップを通じてアドバイザリーサービスを提供することが重要になるでしょう。消費者はファイナンシャルレジリエンスを⾼めるために、預⾦⼝座や投資状況、保険、従業員福利厚⽣制度などのあらゆるファイナンシャルデータを統合したダッシュボードにより、自身の状態を包括的に把握することを求めるでしょう。

世界の消費者のうち、失業した際に3カ⽉分の収⼊を保障する商品に関⼼がある⼈の割合
出典:EY Global Insurance Consumer Survey

5. 生命保険の保険金と福利厚⽣を最⼤限に活⽤する

保険金支払いや満期に伴う年⾦の支払いは、保険会社が顧客との関係を確実に深めることができる機会です。一方、支払いに伴い、顧客との関係が終わってしまうことを保険アドバイザーは懸念しています。保険会社は、保険⾦支払いのかなり前の段階から丁寧かつ主体的に説明し、支払時には明瞭でストレスのない体験を提供することで、顧客との信頼関係を維持することができます。

エコシステムの強化に取り組んでいる保険会社は、ライフコーチングや大切な人を失った人に対するグリーフカウンセリングの提供など、サービスを拡⼤することができます。また、相続財産管理のための堅実な資産取り崩し戦略や、多世代家族向けのアドバイザリーに魅⼒を感じる顧客が増加しています。保険会社はこれらのサービスを通じて、保険⾦の⽀払いが必要になる前から、顧客の家族と関係を築くことができるのです。

世代間の資産移転により顧客との関係性を失う可能性を懸念する保険アドバイザーの割合
出典:Schroders Annual Advisor Survey 2022

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サマリー

顧客の嗜好や優先順位の変化に伴い、保険業界は大きく変わっていかなければなりません。この変⾰の影響は、⽣命保険商品や退職貯蓄商品のみならず、市場開拓アプローチや販売ネットワーク、組織モデル、業績指標にも及ぶでしょう。企業がそれを正しく理解すれば、顧客との関係はより深く、より長くなり、多くの場合、⽣涯続くものとなるでしょう。

では、顧客が求めているのは何なのでしょうか︖経済的に安定し、最終的には、より幸せで健康的な⽣活を送ることです。2030年には、生命保険は「⼈⽣をより良くするためのファイナンシャルソリューション」と認識されていることでしょう。


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