ケーススタディ

人口減少や施設の老朽化。苦難に立ち向かう水道事業。市民に安全な水を届けるための官民連携のサステナブルなあり方とは?

熊本県荒尾市の水道事業では、2016年4月から国内で最も広範な業務を民間事業者に任せる包括委託(官民連携事業)を導入しました。包括委託の導入に至った理由や包括委託から生まれた変化、そこから見えてくる水道事業における官民連携のあり方について同市企業管理者の宮﨑隆生氏に話をお聞きました。

The better the question

人口減少や職員の不足などの課題に直面する上下水道事業では、官と民はどのように連携を行っていけばよいでしょうか

荒尾市では、公共性を担保しつつ、民間活力を最大限に活用し、想定されるさまざまな場面において、パートナーと共に知恵を出し合い水道事業の運営を行っていくという包括委託スキームを採用しました。

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荒尾市企業局企業管理者 宮﨑 隆生氏

荒尾市企業局 企業管理者
宮﨑 隆生 氏

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リード・アドバイザリー/インフラストラクチャー・アドバイザリー シニアマネージャー 関 隆宏

インタビュワー:
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
リード・アドバイザリー/インフラストラクチャー・アドバイザリー
シニアマネージャー 関 隆宏

わが国の水道事業は、節水や人口減に伴う料金収入の減少、施設の老朽化、団塊世代の大量退職による職員の不足に伴う技術力の低下などさまざまな課題に直面しています。例えば、老朽化した施設は、水道水の安定供給の維持に大きな影響を及ぼしています。和歌山市で令和3年10月に発生した水管橋の破損による大規模な断水では、吊材の腐食が原因とされました*1。また、職員の不足は、技術継承を含めた水道事業における技術基盤の維持に大きな影響を与えています。

こうした課題へ適切に対応していくため、国では他の水道事業者と連携する広域化ほか、民間の長所を生かした官民連携事業の活用など、水道事業の運営基盤の強化につなげる施策に取り組んでいます。


荒尾市の概要

熊本県の最北端に位置する人口約5万人の荒尾市では、1953年度に認可を受け、現在は計画給水人口54,000人、計画1日最大給水量22,400㎥/日の水道事業を行っています。これまで隣の福岡県大牟田市と連携し、県境をまたいだ共同浄水場(ありあけ浄水場)をDBO(Design, Build and Operateの略、設計施工・維持管理など一括して発注する方式)で整備するなど、さまざまな新しい取り組みを行い、課題解決に取り組んできました。

同市では、これまで営業窓口、工事、水道施設の維持管理業務を個別に委託していましたが、これらをまとめて委託する包括委託を2016年度より開始しました。この包括委託は、同市が水道事業の経営権を維持しつつ、業務を受託する民間事業者が計画的に人材を確保・育成し、柔軟な配置をすることができる全国的にも先進的な取り組みとなります。

(EYは、包括委託〈第2ステージ〉の導入およびモニタリング業務をアドバイザーとして支援しました)

水道事業における官民連携手法の整理

水道事業における官民連携手法の整理

出典)内閣府「PFI事業導入の手引き」、https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/tebiki/tebiki_index.html (2022年11月1日アクセス)及び厚生労働省「令和2年度水道事業官民連携等基盤強化支援報告書(水道分野における多様な官民連携手法の活用に関する検討」、https://www.mhlw.go.jp/content/000770513.pdf (2022年11月1日アクセス)の資料を基にEY作成

*1  和歌山市企業局「六十谷水管橋破損に係る調査委員会について」、www.mhlw.go.jp/content/10601000/000943408.pdf(2022年11月1日アクセス)

市の単独経営では水の安定供給は守り続けられない

――まず荒尾市の包括委託の特徴について教えてください。

私たちの包括委託の特徴は、公共性を担保しつつ、民間活力を最大限に導入、想定されるさまざまな場面において、パートナーと共に知恵を出し合い水道事業の運営を行っていくという事業スキームにあります。予算確保や使用料金設定など経営・計画・管理に関する経営権は市に残す一方、経営・計画・管理の支援を委託範囲に含め、将来にわたって水道事業を継続できる、いわゆるサステナブルな経営を意識したスキームを取り入れています。また、設計や工事といった4条予算*2を含むこと、そして地元企業である管工事組合の優先活用を公募要領にてうたっていることも特徴となっています。

――水道事業の運営をパートナーと共に行うという事業スキームとなって、これまでの民間事業者との関係性には違いが出てきていますか。

これまでは発注者と受注者の関係でしたが、包括委託では互いに知恵を出し合いながら、より良い方向に持っていくというのが大きな特徴と言えます。私たちにとって民間事業者はまさにパートナー的な存在となっているのです。

荒尾市水道事業包括委託のスキーム図

荒尾市水道事業包括委託のスキーム図

出典)荒尾市企業局「荒尾市水道事業等包括委託の概要」(2016年)を基にEY作成

*2  4条予算とは、水道事業などの地方公営企業における施設の建設改良に要する資金としての企業債収入、企業債の元金償還などに関する収入および支出からなっており、地方公営企業法施行規則別記第1号の予算様式第4条に示されているところから、一般に4条予算と呼ばれている。

人口減少や施設の老朽化。苦難に立ち向かう水道事業。市民に安全な水を届けるための官民連携のサステナブルなあり方とは?

――荒尾市では2016年度から包括委託を導入されました。既にDBO(Design Build Operate)を活用されていた後で、さらに包括委託を導入されるに至った理由とは何でしょうか。

福岡県大牟田市と共同で運営する「ありあけ浄水場」の設計、建設および運転維持管理を一体的に民間に任せるDBOを経験し、官民連携について学んだことが大きかったと思います。当時、老朽化施設の改築更新を控えていることに加え、日常の維持管理でもさまざまな技術力の確保と継承が急務でしたが、団塊世代の職員の退職や市長部局との人事ローテーションにより、技術系職員の確保自体が困難な状況となっていたのです。そこで、既にありあけ浄水場でも活用していた水道法24条に定める第三者委託の導入を始め、包括委託方式の見直しに大きくかじを切る機会と捉え、検討することにしたのです。

――私たちも多くの自治体とお付き合いする中、新しい事業に取り組もうとすると、どうしても「そこまではまだいいのではないか」といった現状維持の意見が勝る傾向にあります。荒尾市でも2016年の段階では技術者もまだ十分にいらっしゃったと思いますが、その時点で取り組もうと決断できたのはなぜでしょうか。

荒尾市企業局企業管理者 宮﨑 隆生氏

団塊世代の職員が退職し、将来的に技術系職員の減少を止められない中、安定的に水道事業を行っていくには、早く手を打つしかないという強い危機感があったからです。そこで水道法改正によって第三者委託が可能となることをきっかけにかじを切ることにしたのです。やはり先代の水道部局の方々が先見性を持って取り組んだことに、今になって感謝しています。

――荒尾市は他の県内の自治体と比べて、特に人口減少率が激しかったそうですね。

当市では主力産業であった三井三池炭鉱の衰退に伴い、1950年代から1960年代にかけて人口が大きく減少しましたが、工業団地や住宅団地の建設などの基盤整備により、1970年代からは人口が徐々に増加しました。その後、1990年代以降は人口が徐々に減少していますが、1997年の三井三池炭鉱閉山後の市内中央部における商業施設や住宅街の整備などの効果により、人口減少率を低く抑えることができています。近年では、商業施設内に図書館を併設するなど、若い世代が住みたいと思うような街づくりを行っており、今後、荒尾競馬場跡地の土地区画整理事業を通じて、魅力的な街づくりを進めていくことも計画されています。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リード・アドバイザリー/インフラストラクチャー・アドバイザリー シニアマネージャー 関 隆宏

――技術者の不足は水道の安定供給にとって欠かせず、包括委託によって民間人材を活用されることで解決しようとされたということですね。では、民間企業に広範囲な業務を任せる上で、注意した点とは何でしょうか。

 

官民連携の検討では、民間のノウハウを最大限に生かしながら経営権は市が維持し、最終的な経営責任は市が負う。そうした基本事項を念頭に置いた上で、建設工事や日常の維持管理にはスペシャリストを、アセットマネジメント策定や広報活動などには総合的知見を有するゼネラリストの人材を確保することを目指しました。また、発注者・受注者といったタテのつながりではなく、共に市民の方を向いて取り組むパートナーとしての関係性に気を配りました。

 

――官民連携では同じ目線に合わせるというところがなかなか難しいところです。同じ方向を向いて事業を進めていくために、気を付けていることはありますか。

 

企業局と包括委託の事務所が同じ敷地内にあるため、何かあればすぐに互いに対話することができます。そうした対話の中から、互いにさまざまなことを学んでいます。日頃から付き合いを深め、互いの距離感が近いことで一体感が生まれているのです。

 

例えば、公共工事を行うには地域の方々への周知が必要ですが、民間で行う場合は限られたところにしか周知しません。しかし、包括委託になって、民間の方もより周囲に気を使うようになり、市民の方々との対話も生まれたことで、市の事業としての認識を深められたと思います。また、包括委託では何より地域の人材を活用していることが大きいですね。地元企業や地元の人材を活用することで、より丁寧なサービスが地域で実現できていると思っています。


包括委託第1ステージでの大きな改善効果の裏でさまざまな課題も。荒尾市の官民連携はその改善の歩みを止めることはない

The better the answer

包括委託第1ステージでの大きな改善効果の裏でさまざまな課題も。荒尾市の官民連携はその改善の歩みを止めることはない

包括委託第1ステージでは、官民連携により水道供給を維持するための専門技術者の確保や危機管理意識の向上などの効果が生まれた一方で、モニタリング方法や発注方法などの面では継続して改善に取り組んでいます。

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第1ステージでの効果・反省、
第2の現状、第3ステージへ向けた期待

――そのような中、2016年度からスタートした第1ステージは、2021年度に一区切りを迎えました。第1ステージを振り返って、市の水道事業はどのように変わりましたか。

第1ステージでは、「人的基盤の確保」「給水サービスの維持向上」「需要減少化での経営の維持」の3つの事業目的を掲げていました。

1つ目の「人的基盤の確保」では、有資格者を含むマンパワーの増加や地域雇用の創出、地域企業の参画といった地元に対する経済効果を含めた付加価値を生み出す結果につながりました。2つ目の「給水サービスの維持向上」については、ICT導入など最新の技術力を生かした業務効率の向上や、災害時においてBCP(事業継続計画)やBCM(事業継続マネジメント)を官民共同で策定したことにより、市職員の危機管理意識も向上しています。

3つ目の「需要減少化での経営の維持」の面では、事業運営における骨幹と言える水道ビジョンやアセットマネジメントを日常の維持管理や更新工事を行っている受託事業者と共に策定したことで、より実態に沿ったものを策定できたと実感しています。

人口減少や施設の老朽化。苦難に立ち向かう水道事業。市民に安全な水を届けるための官民連携のサステナブルなあり方とは?

――財政面についてはいかがでしょうか。

包括委託導入後において、財政面を経営指標(PI)から見ると、改善しているとは言い難い状況ではあります。しかし、水供給を継続するための手だてを行っているからこその結果であり、適正な料金設定を踏まえた長期的な判断が要る部分だと捉えています。第1ステージは全体的に、一定の成果を上げることができ、評価できるものでありますが、モニタリングについては項目が多岐にわたり、モニタリングを行う企業局側の人員を含め、技術ノウハウの維持や継承方法が課題として考えられます。

――なるほど。良い点もありつつ、工夫すべきところも見つかったということですね。特に市職員側の人材育成は課題だということでしたが、第2ステージではどのような工夫をされましたか。

第1ステージで課題の残った市側のモニタリングについては、要求水準を達成するための重要な部分に絞り、ボーナスやペナルティ項目などを「見える化」するなど定量的に判断ができるよう業績評価指標(KPI)を設定するなどの工夫をしています。

市側の技術力が低下する心配もありますが、毎日のように民間の技術者と対話する中で、市職員にも向上心が生まれており、技術系職員の中には、自主的に資格を取得する者も出てきており、いい刺激が生まれていると感じています。

また、第1ステージで策定したアセットマネジメントに基づき更新工事を実行しています。突発的に計画より早く故障が発生し、更新を前倒しするなど計画変更を余儀なくされることもありますが、計画支援を委託に含めていることで、リアルタイムに計画の組み直しが行え、切れ目のないスピード感を持った更新の実施を収支計画に反映することもできています。

――包括委託によって事業を進める中、特にメリットだと感じる点はどこでしょうか。

市に機械や電気の技術系職員がほとんどいない中、包括委託によって人材を確保することができたことが大きいですね。しかも、なかなか見えない部分かもしれませんが、給水のメンテナンスを迅速に対応できるようなったことが大きなメリットとなっています。当たり前のように聞こえますが、実はこれが一番重要で、助かっているところなのです。

――第2ステージではKPIを導入されていますが、どう機能していますか。

正直、ボーナスやペナルティが数値化されると何事もシビアに見るようになるので、互いにより真剣に事業に取り組むようになったと思います。私たちのミッションはあくまで市民の方々に対し、給水を止めないことです。そのため、パートナーと共に互いに信頼関係を築きながら、あうんの呼吸で協力し合いながら業務を行っています。

第2ステージで新たに導入されたKPI

――第3ステージでは、どのような発展をお考えでしょうか。

第3ステージは、第2ステージに引き続き、官民連携でしっかりと老朽化施設の更新や耐震化を行うことを目的としており、市の関与など基本的事項に変化はないと考えています。検討事項としては、包括委託が有期契約ですので事業者選定が5年に1度発生することになり、官・民共に労力や費用面で負担が生じるため、事業期間の見直しはこれから考える必要があるのではないでしょうか。

荒尾市企業局企業管理者 宮﨑 隆生氏

しかし、第2ステージでは、今まさに起きていることですが、コロナ過や世界情勢の変化で大きな物価変動が起きています。金額の大きい工事費を含む複数年契約になると、契約額と大きく乖離してしまうなどの課題も出てきますので、現在は慎重に検討を進めているところです。

 

――他の自治体では第3セクターをつくって事業を行っているケースがありますが、こちらについてはどのように見ていますか。

 

私たちも商業施設などは第3セクターで行っています。しかし、事業を進めていく上で、第3セクターだから必ず民間事業者に対して要望も伝わるとは言い切れないところもあります。また、第3セクターでは行政側との協議にも時間を費やし事業にスピード感がなくなってしまう場合もあります。他方、包括委託では民間の力を最大限に生かしながら、タイムラグをつくらずに事業を進めることができると感じています。第3セクターを採用する場合はそのようなデメリットにも留意が必要だと思います。いずれの場合であっても、互いにパートナーという意識がない限り、やはり物事はなかなか進まないのです。

 

――荒尾市では水道事業以外の事業も行っていますが、官民連携は地域にどのような影響を与えていますか。

 

水道事業の官民連携を足掛かりに、荒尾競馬場跡地の再開発を進める中で、道の駅ほか、保健福祉や子育て支援といったウェルネスの拠点化がPFIで公募されています。また、当市では令和3年にゼロカーボンシティを宣言し、RE100(事業で使用する電力を再生可能エネルギーに100%化するコミットメント)の取り組みが始まり、企業局でも、脱炭素に向けた取り組みについて、包括委託の事業者と協議を行いながら、時間帯によって消費電力を抑えるなどの工夫を行っています。

 

また、こうした環境問題への対応については、本市では、9月の議会で承認を受けた環境省の地域脱炭素移行・再エネ推進交付金などを活用して、市民などに対し太陽光発電や蓄電池の補助がスタートしています。今後も官民連携を上手に活用しながら、新たな取り組みを進めていきたいと考えています。

自治体固有の課題に合わせた持続可能な官民連携の新たなスキームを共に創り上げる

The better the world works

自治体固有の課題に合わせた持続可能な官民連携の新たなスキームを共に創り上げる

国内外の先進的な事例や制度を踏まえ、荒尾市の課題に合わせた官民連携の仕組みを導入することで、これからも安全で強靭、持続できる水道事業を目指していく。

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水道事業における官民連携とは ― EYのようなコンサルティングサービスを利用することの意味

――国内では同じように技術者の維持に苦労している自治体が多いと思いますが、そのような自治体に対してどのようなアドバイスがありますか。民間事業者と互いの長所を引き出し合うコツなどがあれば教えてください。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リード・アドバイザリー/インフラストラクチャー・アドバイザリー シニアマネージャー 関 隆宏

まずは、ご自身の水道事業が置かれた現状の把握・分析を行うことが大切です。その上で、自前で行う方が良いのか、官民連携を進めるべきなのか、方向性の判断を行っていただきたいです。また、官民連携ではコンセッションを始めとするPFI事業や包括委託など手法はたくさんあります。水源などの地域性や地元企業との関係性などを総合的に検討し、ご自身の水道事業に適した手法を選択していただきたいですね。

小さな自治体では、日々の業務に追われ検討する時間も取れない、何から手を付けていいのか分からないといったこともあるかと思います。荒尾市の事例でよろしければご紹介させていただくことも可能ですし、リスク分担やモニタリング手法、また、契約上の法的観点からもEYのようなスペシャリスト集団のより詳しい専門家にご相談いただくのがよろしいのでは、と思います。官民連携にかじ切る場合は、事業開始後すぐは、引き継ぎを行う中で、行政の予算上の仕組みや地域の特性などを理解する上で、どうしても協議の場が多くなります。十分すぎるほどの情報共有に努め、パートナーとして市民の方を向いて業務に当たる環境づくりが大切だと思います。

――荒尾市では、かつて三池炭鉱を運営していた三井鉱山が敷いた民間の水道があり、炭鉱閉鎖後は、最終的に市の水道と一元化した経緯がありますね。

民間の水道については約5,000世帯、当時の市では全体の6分の1の世帯が使っていたことになります。使用料も安価で一元化に対しては反対意見もありました。しかし、平成31年までに終了し、隣の大牟田市と共に広域で連携を図り、一元化することになったのです。

その意味では、包括委託においても、民間事業者を活用することに市民の抵抗感はありませんでした。今は民間の力を借りながら、市がきちんとグリップを利かして運営していることを市民の方々も理解していると思います。私たちの包括委託がうまくいっているのは、民間事業者が地元企業を活用しながら、地域貢献もしっかりされているからです。今後の取り組みについても、地元の事情をすくい上げ、計画にきちんとつなげていくことが大切だと考えています。地域と地元企業をまとめ上げていくことが官民連携には欠かせないのです。

――本日は大変ありがとうございました。最後に、本事業にかける思いなどをお聞かせください。

将来にわたって、水道を安心して利用できることが私たち水道事業者の責務だと思っています。そのために導入した包括委託の意義をしっかりと継承し、官民で信頼を深めたパートナーとして、これからも安全で強靭、持続できる水道事業を目指していきます。

現在は、老朽化や耐震化工事が急務であり、そのための財源が必要となっています。中小自治体にとっては、人口減少などによる給水収益の減少が進み、経営は厳しい状況にあります。これは国への要望となりますが、交付金活用において、施設の老朽化・耐震化対策での条件緩和・拡充など財政面での寛大なるご支援をお願いできればと思っています。

また、包括委託などの官民連携手法においても、事業者選定や契約方法の基準確立などをご相談できたらと思っております。私たちが掲げる水道ビジョン「あらおの水 蛇口から出る安心をこれからも」の基本理念は、子供や孫の世代の利用者との大切な約束です。荒尾市水道事業は、今後も包括委託での運営に努め、官民で協力してこの約束を守っていきたいと考えています。

人口減少や施設の老朽化。苦難に立ち向かう水道事業。市民に安全な水を届けるための官民連携のサステナブルなあり方とは?

終わりに

本稿では、最先端の包括委託を導入した荒尾市企業管理者にお話を伺いました。広範な業務を民間に任せる本市の包括委託は、民間の活力を生かすことで技術の継承や事業の効率化を実現してきました。しかし、それを実現できたのは、単に包括委託を導入したからではありません。市と民間の間の絶え間ない改善や、各ステージでの制度面での仕組みづくりがあったからこそではないでしょうか。

官民連携を実りのあるものとするためには、官と民の間の絶え間ない努力、またそれを実現するための制度的な仕組みも重要なのです。