IFRS導入でも業界のパイオニアに
山野:国内生保のIFRS導入は「前例がない、コストも時間も人手もかかる、また、経営・財務戦略などへの影響があるかもしれない」という不透明さがあります。どのように社内のコンセンサスを得ていったのでしょうか。
河﨑 氏:システム改修なども含めると相応の投資になりますが、IFRSを導入するメリットは定量的に測れません。正直なところ、企業や事業の実態が変わるわけでもなく、「会計の見せ方だけの話ではないか」といった意見もありました。しかし、日本会計基準では当社の業績が不利な見え方になっているという問題意識は共有されていたと思います。
また、当社は国内の事業に特化しているものの、保険業界全体がグローバル化していく流れの中で国際比較の観点からもIFRSという物差しに合わせることは重要です。「正直に、わかりやすく、安くて、便利に。」という当社のマニフェストと照らし合わせても、当社の実態を表しにくい日本会計基準からIFRSに移行した方が、投資家をはじめとするステークホルダーに有用であるという判断もありました。
山野:ライフネット生命の企業風土がIFRSの導入を後押しした面もありそうですね。
河﨑 氏:それも大きいと思います。当社は、付加保険料と純保険料の比率を開示するなど、保険業界の長い歴史の中で、常に新たな挑戦によって価値を創造してきました。チャレンジを推奨する企業風土は創業以来のもので、IFRSの導入についても、「前例はなくても、ポジティブな可能性があるならしっかりと検討しよう」、「やるからにはIFRS第17号適用開始年度(2023年度)からの導入を目指そう」、というコンセンサスが形成されていきました。
山野:そういえば、プロジェクトが始動して間もない頃、御社でIFRSの勉強会を開催した際に、最前列に座っていた方からご質問をたくさんいただきました。「ずいぶん熱心だけど経理の方かな?」と思っていたのですが、実はライフネット生命で代表取締役社長を務められている森亮介氏だったということがありました(笑)。勉強会の最前列に社長がいらっしゃるというのが、御社の社風を表していますよね。
河﨑 氏:その光景が目に浮かびますね(笑)。「やろう」となったら全社一丸となって動けるのは強みだと思います。