2. 産業政策リスク
各国政府は、戦略的テクノロジーの自給率の向上に産業政策を用いることが増えており、地政学的競争の激化を引き起こしています。例えば、米国ジョー・バイデン大統領は、デジタル技術に不可欠な大容量バッテリー、半導体、鉱物原料などの国内生産の拡大とサプライチェーンのレジリエンス(回復力)の向上に力を入れています。中国政府も、主要なテクノロジーの内製化に優先的に取り組み、半導体の国内生産に奨励策を講じています。またEUでは、域内のデジタルトランスフォーメーションの強化を図ることを目的に、新たな半導体の生産目標を設定し、2025年までに世界初の量子コンピューターを開発する計画と、5Gインフラの拡充への支援とを決めました。
各国政府は⼀部の産業については国内市場への外国企業の進出を阻む措置を講じており、企業はこれに対処する必要があるかもしれません。また、5Gやインターネット、その他のテクノロジーの規格を巡って競合が激化し、このために経済の細分化とネットワーク化が進み、グローバルなデジタル経済を実現できなってしまう恐れがあります。
企業は、このようなさまざまなネットワークをまたいでも事業を問題なく運営する能⼒が求められると同時に、CEOは、テクノロジーの規格の違いにより生ずる競争により、業務コストが上昇することをあらかじめ想定しておかなければなりません。
3. テクノロジーに対する規制の変更
テクノロジーセクターでは新たな規制などが各国政府から課されていますが、オーストラリアでは最近、ニュースサービスなどを提供するデジタルプラットフォーム企業に対してニュースコンテンツを提供する企業に代⾦を⽀払うことを義務付ける法案が可決され、中国では規制当局が⼤⼿フィンテック企業への圧⼒を強めています。また、EU政府は追加のデータ保護規則の策定を検討しているほか、独占禁⽌法に違反した⼤⼿テクノロジー企業に引き続き制裁を科しており、⽶国では、デジタルテクノロジー企業のさらなる企業統合の抑制を⽬的とした、独占禁⽌法案が複数提出されました。他に、経済協⼒開発機構(OECD)が主導する国際租税改⾰を巡る機運も⾼まっており、この改⾰では、デジタル課税の新たな規則の調整も行われる見通しです。
経営層も、少なからずこうしたリスクを認識しており、回答者の46%は、データプライバシーとデータローカライゼーションに関する規制が今後12カ⽉間の最⼤の懸念事項であると回答しました。さまざまな国や地域でデータローカライゼーションとデータプライバシーに関する規則が導⼊された場合、多くの企業では国境を超えたデータの移動や共有がこれまで以上に難しくなるでしょう。個⼈情報や消費者情報など、データを幅広く利⽤する分野の多国籍企業のCEOは、これらの規制により特に影響を受けることを意識しなければなりません。
4. 地政学的戦略上の競争の激化
最後に、テクノロジー企業であれ、⾮テクノロジー企業であれ、テクノロジーが⽶中間における地政学戦略上の競争の中⼼にあることを、CEOは念頭に置いておかなければなりません。⽶国は戦略的テクノロジーに対する輸出規制を拡⼤し、通信業と半導体産業において中国企業の⽶国市場への参⼊を制限しています。また、バイデン政権はこのような中国との戦略的競争を利⽤して、⽶国が後れを取っているとみられる分野でのイノベーション推進のための投資を促進しており、その最も顕著な例が、5G無線ネットワーク、AI、クリーンエネルギーです。
テクノロジーセクターにおける政治リスクが⾼まっているにもかかわらず、テクノロジー企業のCEOたちの間では、⾃社の事業にとって地政学的情勢がどれほど重要な意味を持つかが十分に認識されていないのではないかと危惧されます。なぜなら、今後5年以上にわたり⾃社が成⻑し続けるためには、地政学的リスクに対して初めて注意を向ける、もしくはさらなる注意を払うべきと回答したCEOが最も少なかったのがテクノロジーセクターであるからです。エネルギーセクターや製造業セクターと比較すると、地政学的情勢が及ぼす影響が重要と答えたテクノロジーセクターの経営層はわずかでした。
テクノロジー企業のCEOは、他セクターの地政学的リスクの経験や対応を参考にし、政治リスクイベントが事業運営とクライアントに及ぼす影響を低減させる方法を検討する必要があります。ここで⾔うクライアントとは、あらゆるセクターの企業が該当します。