新型コロナウイルス感染症の危機下でインテグリティの文化を維持する方法

新型コロナウイルス感染症の危機下でインテグリティの文化を維持する方法


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により不正や非倫理的行動などのリスクが高まっています。こうした混乱期において、インテグリティを維持するために組織にできることは何でしょうか。

私たちは、世界経済がこれまでに経験したことのないスピードで進む変革の渦中にいます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、数百万⼈が失業の危機に直⾯しており、各国政府は財政・医療両⾯での⽀援を提供するために昼夜を問わず働いています。これはまた、組織の機能にとって非常に困難で試練の時でもあります。

世界各地の企業では、従業員たちがリモートワークという環境の中でも生産性を維持し、業務を遂行しようと努力しています。経営側は、従業員の健康と安全はもちろん、組織が存続できるかどうかについても不安を抱えています。こうした状況下、企業は新型コロナウイルス感染症がもたらす新たな現実に適応するために、統制、システム、ガバナンス、適切な⽂化を犠牲にするという誘惑を退ける必要があります。

危機下で不正リスク要因が増えるのは、企業や個⼈が財務的・⾦銭的プレッシャーに、より⼀層直⾯するためです。また、主要な内部統制が弱体化することで⼈々が⾃らの⾏動を簡単に正当化できるようになったときに、不正の機会は増加します。全ての不正には「機会」「プレッシャー(動機)」「正当化」という3つの要素が付きまといます。これは「不正のトライアングル」として知られています。ところが、新型コロナウイルス感染症危機下では、これら3つの要素だけにとどまりません。

今回のパンデミックは、効果的なコンプライアンスの監視、管理、監督を⾏う企業の能⼒を損ない、犯罪的、⾮倫理的⾏動の可能性を広げるものと考えられます。いくつもの段階にわたるガバナンスプロセス、従来効果的だった統制、従業員と経営陣の⾏動の監視が、事業継続性の名⽬でそれぞれ緩和されているところに落とし⽳があります。同時に、組織のより広範なインテグリティの⽂化が脅威にさらされており、⽬的のために⼿段が正当化されているのです。




企業は新型コロナウイルス感染症がもたらす新たな現実に適応するために、統制、システム、ガバナンス、適切な⽂化を犠牲にするという誘惑を退ける必要があります。




政府の財政的⽀援と不正

数百万⼈が仕事を失い、深刻な景気後退が発⽣している現在の環境では、従来は考えられなかったような⾏動が明らかに正当化されたり、そうした⾏動を取らせる圧力が生じたりする可能性があります。⼀⽅、各国政府が企業や個⼈に対して空前の規模で打ち出そうとしている財政的⽀援は、先例のない⼿順で短期間に進められており、新たな不正や横領を⼤量に呼び込む恐れがあります。

あらゆる業界が「バーチャル(仮想)」ビジネスとしてリモートワークに移⾏している中、 サイバー犯罪のリスクもまた増大しています。実際には存在しない検疫の罰⾦の⽀払いを求めるなどの詐欺⼿⼝によるフィッシング攻撃について、気がかりな事態がすでに報告されています。経理部や財務部、またはリーダーをかたって請求書、仕訳⼊⼒やその他の取引の承認を求める不正な要求もこれに含まれます。

これらは「新しい形式」をまとった古き詐欺⼿⼝である⼀⽅、在宅者を欺く巧妙な新⼿法も⽣み出されています。ハッカーたちは重要情報や政府のウェブサイトへのリンクを添付したメッセージを送信してきますが、そうしたメッセージに実際に込められているのは強い悪意です(クリックベイト)。より⾼度な攻撃では、こうした情報を産業スパイ活動に利⽤しようとしたり、従業員が遠隔でログインしている状態で情報セキュリティへの侵⼊を試みたりするものがあります。

とはいえ、科学者や各国政府が事態の「正常化」までには何カ⽉もかかるかもしれないと指摘している環境下であっても、事業を継続する企業にとってビジネスを停⽌させることは不可能です。リモートワークが広まる中で、ビジネスの過程で必要な変更や調整をいかに⾏うかが新たな課題となっています。

企業にとっては、レジリエンスプロセス(英語版のみ)を通じて、株主はじめ顧客、サプライヤー、融資者、従業員に⾃社の⻑期的な将来への信頼感を提供できることが重要です。

このため、サプライチェーンにおける従来のような対⾯での検証ができない状態が続く場合には、電⼦プロセスやデジタルプロセスへの依存度が⼀段と⾼まったり、現地の請負業者を頼ったりすることになるでしょう。現在の危機においては、インテグリティの⽂化を持って⾏動することの重要性がかつてないほど⾼まっています。




インテグリティを主導する企業は、以前は⾒られなかった形で差別化を達成する⼀⽅で、そうでない企業は、この危機が過ぎ去った後に、説明責任を問われる可能性があります。




差別化要因としてのインテグリティの重要性

今はインテグリティを重視する時期ではなく、ビジネスの存続と経済の回復のために企業は「アニマルスピリッツ」にもっと注⼒する必要があると主張する⼈もいるでしょう。しかし実際のところ、危機がもたらすストレスは⼤きく、経済の回復は不均⼀でジグザグ型となる可能性が⾼いことから、企業のビジネス関係を⽀えリスクを管理する上でインテグリティの重要性は強調されることになるでしょう。
 

インテグリティを主導する企業は、以前は⾒られなかった形で差別化を達成する⼀⽅で、そうでない企業は、この危機が過ぎ去った後、期待に対する裏切りを許容しない利害関係者から説明責任を問われる可能性があります。
 

このため、ビジネスリーダーは⾃らの組織におけるインテグリティ・アジェンダの策定と維持について、 4つの側⾯(ガバナンス、⽂化、統制・⼿順、データに基づくインサイト)から慎重に検討する必要があります。その時必要となるのが、以下の⼀連の重要な問い掛けです。


  1. 適切な⾏動に関するガイダンスは、明確で⼀貫性があり適切に伝達されているか
  2. 経営トップの適切な姿勢を組織内で促進させるためにこれ以上できることはないか
  3. 雇⽤が喪失している中、職務分掌は依然として有効か。また、経営陣はこの状況において管理とチェックを強化する必要性を理解しているか
  4. 会計上の⾒積もりにおける経営陣の先⼊観が⼀線を越えて不適切な会計となる事態を識別するために、どのようなプロセスがあるか
  5. 財務制限条項違反のリスクを管理するためにはどんなプロセスがあるか
  6. 利益⽬標を達成できない可能性が⾼い場合、次に挙げる点を確保するために必要なプロセスとは何か。「未実現収益を計上しない」「経費を適切に集計する」「次期以降の⽬標達成に向けて引当⾦や未払費⽤を過大計上しない」
  7. 今回の危機の下、経済⾯または倫理⾯の新たなジレンマに直⾯した場合、従業員に「正しいことをする」よう促す最善の⽅法は何か
     

現在、監査委員会は不正リスクの⾼まりに特に注意を払う必要があります。監査委員会は社内外の監査⼈と話し合い、不正、贈収賄、汚職、マネーロンダリングや、より広範な経済犯罪のリスクを軽減するため、監査⼿続の拡⼤が必要か否かを検討する必要があります。


 

成⻑回復に向けた準備

この危機もいつか終息する時が来ます。企業の⼤半は、直⾯する課題に適切かつ公正に対処し、顧客、サプライヤー、従業員を尊重してきました。しかしながら、企業は対岸で何が起きているのか常に⽬配りし、現在のみならずその先においても、⾼いレベルのインテグリティを⽰し続ける必要があります。
 

緊急⽀援策が徐々に緩和され、競争が再び活発になるにつれて、責任あるビジネスに対する社会の関⼼はかつてないほど⾼まっていきます。前出の問い掛けに効果的に対処しない限り、この⾮常な時期においてインテグリティの⽂化を維持することは困難でしょう。危険なのは、この先3カ⽉、6カ⽉または12カ⽉の間に不正(および倫理的)問題が顕在化するということです。
 

今こそ、リソースを注ぎ込んで⾼い基準を維持し、現状が⽣み出している潜在的な新しい倫理的脅威を認識して、適切なインテグリティの⽂化に根差した新たなビジネス成⻑の基盤を準備する時です。



サマリー

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、効果的なコンプライアンスの監視、管理、監督を⾏う企業の能⼒を損ない、経済犯罪やその他の⾮倫理的な⾏動の可能性を広げるものと考えられます。EY Global Forensic & Integrity ServicesのリーダーであるAndrew Gordonは、新型コロナウイルス感染症がもたらす新たな現実に適応するために、統制、システム、ガバナンスおよび適切な⽂化を犠牲にする誘惑を退けるよう企業に呼び掛けています。こうした困難な時代にインテグリティの⽂化を確実に維持するため、企業が⾃ら問うべき7つの問い掛けを提⽰しています。


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